小ネタ

バスから路上にいたる話。

(あっ……ぁ、あっ、だめ、っ) 交差点の中央、右折の信号待ちをするバスの中。 エコドライブ宣言もどこへやら、まばらに席を埋める乗客の中、不規則に暖房を効かせる後部座席の傍で、日野森花梨は唇をかみしめる。(ど、どうしよう、漏れちゃうよっ……)...
小説

冬の授業の話。

ワックスの剥げかけた床を、椅子の脚が小さく軋ませる。 制服の上下だけでは肌寒さを覚える教室は、インフルエンザの猛威によって机のあちこちに空席が目立ち、いつもよりも生徒数の少ない分だけ一層冷え込んでいるようだった。 窓を揺らす北風は日に日に強...
WetMarchen

第13夜 白雪姫

「――大変だ、スノウの様子がおかしいよ!」「どうしたんだいスノウ、息も荒いし、顔も真っ赤じゃないか!!」 小人たちの声が、森の中に響き渡ります。 ここは、お城からも離れた森の奥深く。七人の小人と白雪姫が仲良く暮らす、小さな小さな一軒家です。...
小説

エレベーターの話。

楽しかった夏休みもあっという間に過ぎた。陽射しはまだまだ熱いものの、ヒグラシの鳴き声が増えはじめた9月のある日。デパートの買出しを終えたユミは、大きなエコバッグを肩に下げてマンションへの帰途についていた。「ふー、重かったぁ。ちょっと買いすぎ...
小説

プール帰りのお話。

突き抜けるような青空、じわじわと照りつける太陽が、アスファルトを焦がす。 やかましいセミの鳴き声は絶えることなく響き、梅雨の名残を吹き飛ばす真夏の日差しは、濡れた髪を麦藁帽子の上からもちりちりと乾かしているかのようだ。「んくっ、んっ、んっっ...
WetMarchen

第12夜 ウサギとカメ

むかしむかし、あるところにウサギが住んでいました。 ウサギはとても足が速いのが自慢でした。力じまんのクマも、気難しくて嫌われ者のオオカミも、立派な王様のライオンでさえも、かけっこで勝負をすればウサギにはかなわなかったのです。 今日もウサギは...
小説

夏祭りのお話・後編

現在、七時五十五分。 トイレに直行した二人だが、千佳には大変な誤算があった。 今日のお祭りの人出はいつもの比ではない。普段はガラガラの公衆トイレは、その入り口から伸びる長蛇の列で封鎖されていた。もともとそんなに大人数をさばけるような場所では...
小説

夏祭りのお話・前編

「ほら千佳、もうお姉ちゃんたち出かけるわよ。着替えなさい」「あ、待ってよおかあさんっ」 うだるような暑さが、夕焼け空とともにわずかに弱まり、入れ替わりに蝉の声が強くなって、それに重なるように小さな花火の音。 ベッドに寝そべってお財布をひっく...
小ネタ

部活のイジメの話

「お、お願い!! トイレ!! トイレ行かせてっ!!」 ついになりふり構わずマキは懇願してしまう。 背中にガムテープで固定された両手は自由にならず、腰はジャージで椅子に縛り付けられたまま。上は半袖のトレーニングウェア、下にはスパッツだけという...
WetMarchen

第12.9夜 白雪姫

魔女の性格が突如ここで、千夜一夜の多倉見悦子シリーズをパクリインスパイア。 ここまでのは原作に忠実に最初から書いてたらまとまりきらなかったので、適当に区切って特区用に新しいのを書き直した結果。「うふふ……あっははははは!!」 再びお城に帰っ...