WetMarchen

第1夜 シンデレラ

お城はいつになく華やかに賑わっていた。いつもは限られた一部の王族達がささやかな宴に興じる大広間も、今日は特別に招待された大勢の人々で埋め尽くされている。普段は王様にお目通りもかなわない商人や位の低い貴族、それに国の外れの村長まで。お城でめっ...
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子供たちとバスの中のお話。

バスの中に元気な声がこだまする。綾瀬市雨音小学校、泉会の皆は今日も元気いっぱいだった。「ねえおねえちゃん、おねえちゃんのばんだよっ」「ほらほら、はやくはやくーっ」 薄い空色に、緑の縁取り。揃いのエプロンを付けた母親達は大忙しで子供達の世話を...
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シズク忍法帖・その弐

「まったく……もう少し辛抱しなさいと言ったでしょう」「ひゃんっ……す、すみません……カスミ姉さま……ゆ、許してくださいませ…」 湯気の立ちこめる風呂場に、少女達の声が響く。 綾瀬の里にある温泉街は、多くの旅人を泊める旅籠が多い。ここもまたそ...
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シズク忍法帖・その壱

陽は天頂に近付き、夏の陽射しで山の緑を照らしている。 綾瀬の国より篠付の国へ。ここから道は山を越え、これまでの平坦な道とは些か赴きを変えるものの、天下の険に大戸川の雄大な流れを越えて西海道を旅してきた者にはさほどの障害とは映らぬだろう。 と...
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お姉さまと一緒のお話。

「夢みたいです……お姉さまの別荘にお招きいただけるなんて……」「ふふ。有難う、結衣。……お食事はお気に召したかしら?」「はいっ……とっても、美味しかったです……」 お姉さまとふたりきりで夜をすごせるなんて、それだけでももう死んでしまっても構...
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遠い異国でのお話。

「あ、あのっ……すいませんっ」「■@■*$×●?」「っ、……そ、その、お、お手洗い……どこにありますかっ……?」「*#▼@&、%■&#!」「ぁ、ぁあぅっ……くうぅうっ……」 東欧のとある小国。中世の趣を残す風光明媚な往来で腰をクネらせ、こつ...
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電話ボックスを巡るお話。

「ぁぅうっ……出ちゃううっ」 少女の眉が切なげによじられ、唇がきつくかみしめられる。 ニーソックスに包まれた足がひょこんと跳ねるたびに、野次馬たちのざわめきが高まった。 電話ボックスに閉じ込められ、衆人環視の中迫りくる尿意と必死に戦う少女。...
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魔法学校のお話。

くす。部屋をうろうろ、もじもじそわそわ、エリザちゃんの足は小刻みに震えて落ち着きがない。いつもはさっそうと箒を乗りこなす脚も、いまはせわしなくステップを踏み続ける。 だんだん『おしっこなんてしたくないですっ』って態度が辛くなってきたみたい。...
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全校放送のお話。

「ねえ、まだやってるの? 今日の放送、坂崎さんの番でしょ?」「あ、は、はいっ……」 同じ放送委員の加奈が、口を尖らせて理穂を睨んだ。黒板いっぱいに書かれていた板書をやっと写し終えると、理穂は慌てて席を立つ。もうすっかり給食の準備は終わってお...
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犬と飼い主のお話。

遠く、チャイムの音が聞こえてくる。 ゆるやかに傾いたお日様が窓から差し込み、少し湿った風が吹き込んで机の上で開きっぱなしの算数のノートをぱらぱらとめくった。 リビングからは5時のニュースを読み上げるアナウンサーの声。 鬱陶しい空が久しぶりに...