2007-10

小説

イジメの話/美術室にて

絵の具を乗せた筆が、画用紙の白に鮮やかな青空を描いてゆく。 あと二週間に迫った美術コンクールに向けて、一之瀬マナは丁寧にデッサンした画用紙に向かい、一心不乱に筆を動かし続けていた。 今日は日曜日。本当なら学校もお休みなのだが、美術部を始めと...
小説

運動会のお話。

たっ、たっ、たっ、たっ、たっ…… 運動靴の底がリズムを刻む。わずかに荒くなった息と、汗で湿って首筋に張りついた短めの髪。体操服の胸には和泉小学校5年4組の所属を示すゼッケンと、3位入賞の緑のリボン。 見学の父兄と、応援席のクラスメイトでごっ...
WetMarchen

第5夜 鶴の恩返し

おつうは本当に良く働きました。 与ひょうよりも先に起きていてご飯の支度をし、与ひょうが寝るよりも遅くまで起きていて繕いものに精を出しています。一体いつ眠っているのだろうと思うほどでした。それだけではありません。おつうはご飯もあまり多くは食べ...
WetMarchen

第4夜 ひらけゴマ

ある日、悪戯好きのアリィがいつものように商売の売り上げを数えていた姉のカシィのところにやってきました。 アリィは女の子のくせにとてもわんぱくで、いつもあちこちを走り回って冒険しています。お姉さんのカシィはことあるごとにアリィに『アンタはもっ...
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第3夜 ヘンゼルとグレーテル

「うぅ……っく……」「ど、どうしようっ……お姉ちゃぁんっ……」「あ、あたしに聞かないでよっ…!!」 ヘンゼルとグレーテルは脚の間をぎゅっと握り締めながら小刻みに膝を揺らしていた。双子の少女達を襲う尿意はどんどん激しくなり、おしっこの出口がじ...
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第2夜 北風と太陽

ある日、北風と太陽がケンカをしました。 理由はつまらないことでした。春をつれてくる太陽と冬を呼ぶ北風、いったいどちらが偉いのかという言い争いです。「俺さまの方が偉いのさ。俺さまが風をひと吹きすれば森の木は倒れて、家はばらばらに吹き飛んで、人...
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第1夜 シンデレラ

お城はいつになく華やかに賑わっていた。いつもは限られた一部の王族達がささやかな宴に興じる大広間も、今日は特別に招待された大勢の人々で埋め尽くされている。普段は王様にお目通りもかなわない商人や位の低い貴族、それに国の外れの村長まで。お城でめっ...
小説

子供たちとバスの中のお話。

バスの中に元気な声がこだまする。綾瀬市雨音小学校、泉会の皆は今日も元気いっぱいだった。「ねえおねえちゃん、おねえちゃんのばんだよっ」「ほらほら、はやくはやくーっ」 薄い空色に、緑の縁取り。揃いのエプロンを付けた母親達は大忙しで子供達の世話を...
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シズク忍法帖・その弐

「まったく……もう少し辛抱しなさいと言ったでしょう」「ひゃんっ……す、すみません……カスミ姉さま……ゆ、許してくださいませ…」 湯気の立ちこめる風呂場に、少女達の声が響く。 綾瀬の里にある温泉街は、多くの旅人を泊める旅籠が多い。ここもまたそ...
小説

シズク忍法帖・その壱

陽は天頂に近付き、夏の陽射しで山の緑を照らしている。 綾瀬の国より篠付の国へ。ここから道は山を越え、これまでの平坦な道とは些か赴きを変えるものの、天下の険に大戸川の雄大な流れを越えて西海道を旅してきた者にはさほどの障害とは映らぬだろう。 と...