地下スレにて書き込まれた、BBクイーンズ=Bursting Bladder Queensという発想のネタをに触発されて書いたもの。
“B・B・クィーンズ”
この国の芸能界の歴史を語る中で決して外せない存在として、その名前は燦然と光り輝いている。その活動期間はデビューからわずか3年。多くのスターが現れては消えてゆくブラウン管の向こうの理想郷を、彼女達は文字通りの全身全霊を掛けて駆け抜けていった。
今もなお根強いファンを残し、また同時に多くの謎も囁かれる彼女たちについて、当時の熱狂に浮かされていた一人のファンとして、拙いながらもここにその記録を残しておこうと思う。
ネットの一隅でしかないこの場所で語るには彼女たちの存在はあまりに大きく、また私の知識はあまりに中途半端だ。当然ながら誤解や私見も多く混ざっていることと思う。
けれど、情報格差が失われ、多くの情報が溢れつつあるこの時代に、いつか彼女たちの名前が忘れ去られてしまわないようにと――いまはただそれを願う。
B u r s t i n g B l a d d e r Q u e e n s
膀胱が破裂しそうなほどオシッコを我慢する少女たち――
オシッコを我慢しながらステージに登るアイドルグループ。
その前代未聞のコンセプトに、世間は騒然となった。そりゃあそうだろう、華も恥らう十代の女の子たちが、異性の前でオシッコを我慢しているということをはっきり口にするだけでもちょっとした一大イベントなのに、まして全国中継のステージの上でいきなりそんな大告白ときた。
その筋の人々が狂気乱舞し、かじりつくように中継に飛びついて、その熱気に後押しされるように『オシッコ我慢』に興味の無い人達まで巻き込んだ結果、彼女達の初の大舞台は過去に例を見ない視聴率が記録された。
彼女たちこそがB・B・クィーンズ。
後に『我慢系』と呼ばれる一大ムーヴメントを巻き起こす、アイドルグループの元祖にしてカリスマの少女達である。
氷室彩音、六辻舞、峰月藤乃、皆瀬透子。
それぞれにタイプの違う4人の女の子が、ぎゅっと膝をくっつけ股間に手を寄せて、ぷるぷると震えながら演奏し、歌うステージは、たちまちのうちに多くの人を虜にした。
そんな状況にありながら彼女達の演奏技術は決して拙いものではなかったことも、ブレイクの一員だっただろう。どちらかと言えば、技術や能力はあれど本物のカリスマ、いわゆる『スター性』には欠ける少女達が、逆転の発想でそのスター性を手に入れたという方が近いかもしれない。
――皆さんは、いつも……その、オシッコを我慢して本番に臨んでいるんですか?
は、はい。『限界寸前』があたしたちのモットーですから。ステージ以外の時も、カメラの前ではできるだけそうするようにしてます
――そうすると、ひょっとして今もですか?
はい。今朝からずっと我慢してました。
――それは皆さん。全員が?
(一同、そろってうなずく)
――えー、とてもユニークなポリシーだと思いますが、どうしてまたそんなことを? よろしければ教えていただけますか?
あ、あたし達、女の子が一番可愛く見えるときはどういう時かって考えてたんです。いろいろアイディアがあったんですけど、やっぱり一番可愛いのは、オシッコを我慢してるときなんじゃないかって。
――そ、そうなんですか?
はい、真っ赤になって、ぎゅっと俯きかげんで、控えめで……そう言うの、萌えるひとって多いですよね? でも演技じゃなくて、本当にそういうふうに振舞うには、オシッコを我慢してるのが一番いいんです。
――なるほど。……た、確かに。
彼女達のステージは破廉恥であり教育によろしくないとして自称『良識ある大人達』からたちまち批判の嵐を巻き起こした。同時に女性の権利を訴える団体にも、年端もいかない少女達が性的なものを売り物にしていると次々に厳しい批評を発表。
しかし、この国はかつてドラッグの名前を堂々と冠した10代前半の少女達が、明らかにセックスを思わせる内容をはつらつと歌って大人気を博した歴史がある。彼女達の姿には、昨今ほとんど見られなくなった、画面の向こう側の観客達に訴えかける強いメッセージを持っていた。
つまりは――もうトイレに行かせて、オシッコさせて、という強いメッセージ。
それが少女達の歌に彩りを添え、強いインパクトを与えていたのだ。
失敗すればするほど辛くなるリテイク。録画だからという心の緩みを制して、一回の舞台を失敗せず演じきる強い意志と情熱。
そして、なにより彼女達は望んでオシッコを我慢し、覚悟して舞台に臨んでいる。急なハプニングでトイレに行きたくなってしまったのとは違い、『適当に終わらせて早くトイレに行っちゃおう』という妥協はないのだ。
あくまでまっすぐに、最高のショーを一発で実現し、一刻も早くオシッコをしたいという強い創造性を生んでいた。
――なにか、メッセージがあるということですが。
はじめに言っておきたいことなんです。あたしたちの――活動に付いて。
――ほほう。先ほどからお話をお伺いしていると、なにかの明確なメッセージがあるということでしょうか?
はい。んっ……その、あたしたちは、一生を賭けるつもりでBBクイーンズを結成しました。だから、半端な覚悟じゃないって事を知っていて欲しいんです。
(彩音、メンバーに視線を向ける。)
(残る3人、はっきり頷く。)
あたしたち、一度でもオモラシを……オシッコを漏らしちゃったりしたら、即刻、この世界を引退します。
――……な、なんと。これは驚きです。……ほ、本当ですか?
は、はい。オシッコは漏らしちゃうことじゃなくて、我慢することの方が重要ですから。やらせじゃないって事も証明したいですし。も、もし舞台の途中であたしたちがオモラシしちゃったって気付いた人がいたら、すぐに連絡ください。それで本当に本当だったら、すぐに解散します。
――これはまた、すごい爆弾発言が飛び出しました。では、皆さんには我慢を続けてもらって……CMのあとにまたたくさんお話をうかがいましょう。
氷室彩音。
グループのリーダー。ボーカル&ギター担当。明るくはきはきとした受け答えが人気の14歳。スカートは嫌いで、どっちかというとズボンやキュロットが好き。いつも皆の気持ちを代弁し、一番前に出ているために我慢のとき足を組んだりかかとであそこを押さえたりするのに問題がないようにしているためらしい。
六辻舞。
キーボード担当。グループの中でも引っ込み思案で口数も少ない。縁ナシの眼鏡がトレードマークで、いわゆる一番の“萌え要素”の塊。13歳。あざといという批判もありつつも、無口な彼女が健気に腰を揺すって俯いているのはそれだけで画面栄えがするのも事実。
峰月藤乃。
ベース担当。吊り目気味のショートカットで、八重歯がチャームポイント。最年少の12歳。普段は彩音と同じくらいお喋り好きで、歯に衣着せぬ物言いが一部のファンに大人気。しかしオシッコを我慢している舞台の上ではその強気な態度もやや影を潜め気味。なにしろ彼女、グループの中でも一番オシッコが近いらしく、他の子がまだなんとか余裕があるときでももう完全に限界ギリギリなのだそう。
皆瀬透子。
ドラム担当で、一番お姉さんの15歳。落ち付いた物腰でいつも皆の心の支えになっているとか。一度比べっこをした時、一番長い時間我慢したうえに一番たくさんオシッコを出したのも彼女だという話。実は趣味もオシッコ我慢で、BBクイーンズ結成の原因となったのは彼女の発言であるとかないとか。
彼女達を一躍スターダムにのし上げた6月6日のスプラッシュ・インパクトから一夜開け、『お願い、アナタのドアを開けて』は脅威的な売り上げを記録。その週のオリコンチャートで4位を記録した。しかしこの順位は、それまでの知名度の低さゆえもともと品薄傾向であったCDが各店舗で供給が追い付かず、売り切れが続出したためであって、市場の動向としては品物さえ十分に揃っていれば、ダブルスコアで2位をぶっちぎっていたであろうと予測されている。
その後、翌々週に増販された分と、これを待っていたかのようにリリースされた新譜の『もぉ我慢できないッ♪』はさらに爆発的な売り上げを記録。チャートの1、2位を独占する。そして、デビュー当時に販売されていたふたつのアルバム、『レイニー・タイニー』と『急いで☆間に合わない!!』までもが大人気を博した。
この機会を逃すまいかとするように、翌月末にはさらに新作アルバム『すぷらっしゅ!?』も発表。彼女達は一躍時の人となった。
その冬には彼女達を主演に抜擢した映画、『君と雨音を聞きながら』がクランクイン。殺人的なスケジュールの合間を縫って、公言通りオシッコを我慢し続けたまま半年間に渡る撮影を追えた彼女達は、そのメイキングを逐一放映するという新手法によって銀幕のスターとなり、落ち込み気味だった邦画の人気回復に一役買うことになった。
クラックアップ後、ようやく解禁されたトイレが個室ひとつしかなく、オシッコを済ませる順番を巡って4人が競争になり、一番最初に駆け込んだ藤乃以外の3人があえなくオモラシをしてしまうという事態が発生。この事件も彼女達のポリシーが本物であることを再確認させるに至った。
オシッコを我慢に我慢しての熱演は、彼女達がただの偶像ではなく、実力を伴ったグループであることも証明し、特に普段とはまるきり違う役柄に挑戦した舞の演技は大好評、国内アカデミーの助演女優賞に選ばれる。授賞式での舞のコメント、『いっぱい大変なことがあって、たくさんハンカチも濡らしちゃったけど、パンツは濡らしてません』はその年の流行語大賞にも選ばれた。
好悪は世の常、人気が出れば、当然それに対する批判も起こる。彼女達に対する風当たりは決して弱くなかった。オシッコ我慢というものが性的なものであり、みだらな行ないであるため、大衆の前でそれを強制するなんて言語道断という主張は根強く残り、子供の人権を護る某団体の顧問弁護士は何度となくテレビに出演しBBクイーンズの批判を行なった。
また、急に人気を得た彼女達に対し、先輩アイドル達が他人は他人、自分は自分と割り切れず、いい感情を持たなかったことも確かである。あまり好ましいとは言えない陰湿なイジメのようなものも、BBクイーンズの少女達に向けられた。
しかし、もともとその性格的に“自分の立場をわからせ”、“恥をかかせる”ことを主目的に行なわれる先輩後輩の人間関係を基にしたイジメは、そもそもオシッコを我慢し続けるという羞恥に常に晒されている彼女達にとって、あまり苦にはならないものだった。体に傷をつけず苦しめることができ、簡単に実行が可能なことから最も行われやすい『トイレに行かせない』という手段は、彼女達に限ればそもそもまるで意味をなさない。
他の手段も似たり寄ったりで、スタジオでも常にぎゅっと脚の付け根を押さえ、くねくねと腰をヒクつかせてオシッコ我慢を貫く彼女達にとって、それ以上の恥をかかせるのは意外に困難なのだった。
スキャンダルの問題も、彼女達は無難に乗り越えた。人気が出たことによる交遊関係の広がりから、少女にあるまじき男性関係の問題が懸念されたが、オシッコ我慢と未発達な性欲が密接に結び付いた少女にとって、カメラの前の緊張と震える下腹部のふくらみは何よりも換えがたいストレスの解放であり、芸能界の有形無形の圧力によって圧迫された鬱憤を張らすのにアルコールやドラッグに手を出したり、異性関係の問題に発展することはなかった。むしろお互いに悩みを分かち合えるグループ内や、同じように我慢を打ち出して売り出したアイドルグループの少女達と仲良くなり、時には必要以上に濃厚なスキンシップをすることもあったという。とは言え、それは程良い部分に抑えられ、新たな層の女性ファンの一部を開拓、新規獲得するにいたった。これはある種のイメージ戦略でもあったとされている。
しかし、なんの問題もなかったわけではない。デート現場や熱愛報道こそなかったものの、バラエティーのロケ撮影中にこっそり彩音が現場を抜け出し、茂みでオシッコを済ませたという場面がスクープされ大騒ぎとなった。彩音は即座に謝罪し、解散――あるいは脱退をを申し出たが、大きな反対の声があがり、さらに現場を捕らえた別のカメラが、その後彩音がオシッコを思い止まって再びロケ現場に戻っていく一部始終を撮影していたことが明らかになり、彼女は引退の危機を免れる。
グループの歴史を語る上で外せないのが、もはや夏の定番となりつつある24時間テレビへの出演だろう。異例の抜擢で総合司会のサポートと言う地位に選ばれた彼女達は、年齢のハンデを感じさせない大活躍をみせた。
折りしも、番組のひとつの目玉企画だった24時間貧乏生活がやらせなのではないかという騒ぎがあり、完全ネット公開やそれに伴う自称『監視役』の出現も手伝って、彼女達が本当にトイレに行かないのかという検証までされていた。
24時間。もうひとつの方はともかくも、オシッコをせずに過ごすにはあまりにも途方もない時間である。しかし彼女達は立派にそれを貫き――その頃には一番の年少だった藤乃もすっかりスターとして『成長』しているところを見せたのだった。
そして――激動の芸能界で、常にあらたな話題を提供し続けた彼女達BBクイーンズは、デビューから3年と4ヶ月、ブレイクから2年半を経て、3度目の全国ツアーの最終日、いまだ人気の絶頂にありながら解散、引退を宣言する。
その理由は定かではないが、もともと4人の間ではずっと前から決められていたことだったのだという噂がある。
その日――
「こっ、ここで、……だ、出しても、いいですか……っ!?」
全ての演目を終えたステージの上、いつまでも終わらないアンコールの大合唱の中、健気に寄り添い、彼女達はとうとう限界を迎え、股間から激しくも美しい水流を迸らせた。太股を、舞台を、純白のステージ衣装を、幾筋ものオシッコの跡でぐしゃぐしゃに濡らしてゆく少女達のその姿は、今もなおこの国のスターの歴史に燦然と輝く1ページである。
ついにはステージを全て覆い尽くすほどまでに達した大きな大きな水たまりは、まるで彼女達がそれまでの3年間、本当に一度もトイレに行かずオシッコを我慢し続けたかのようだった。ステージライトが照らし出す水鏡の上に、涙の跡を残した頬を紅く染め、上気したまま穏やかな微笑を浮かべる少女達。
その姿は誰よりも美しく、そして素晴らしいスターの姿であった。
(初出:4twt45ujrt 200-227 2007/09/06)