お姉さまと一緒のお話。

 
「夢みたいです……お姉さまの別荘にお招きいただけるなんて……」
「ふふ。有難う、結衣。……お食事はお気に召したかしら?」
「はいっ……とっても、美味しかったです……」
 お姉さまとふたりきりで夜をすごせるなんて、それだけでももう死んでしまっても構わないくらいだ。
 シルクのローブに身を包んだお姉さまのお姿は、思わず溜息が出てしまうほどお綺麗だった。
「結衣、申し訳ないのだけれど、ここにはベッドがひとつしかないの。わたしと一緒で構わないかしら? サイズは随分大きいから、並んで寝ても窮屈ではないと思うのだけど」
「そ、そんなっ……お姉さまとご一緒できるなんて……こ、光栄ですっ……」
 本当に、夢なんじゃないだろうか。
 まさか、お姉さまと……一緒にっ。
 感動に打ち震える私の鼻先を、ふわり、と百合の香りがかすめる。それだけでもう、わたしの頭はゆっくりと蕩けてしまいそうだった。
「そう。有難う。嫌だったら言って頂戴。すぐに用意させるから」
「い、いいえっ、大丈夫ですっ。もちろん、そんなっ」
 ぶんぶんと首を振るわたしに、お姉さまはくすくすとお笑いになった。
「ふふ。……楽しみね。結衣の寝顔が見れるなんて」
「っ……お姉さまっ」
 思わず真っ赤になってしまった顔を覆う。
 ああ。ドキドキが全然おさまらない。眠気なんてどこかに吹き飛んでしまったみたいだ。
 ……けれど、そんな素敵な時間を過ごしながらもわたしはいつしか、おなかの下の方に、違和感を覚え始めていた。
 いや、じつを言うともう、かなりずっと前から、切羽詰っていたのだけど。お姉さまの前でそんなことを口に出せるわけもなく、ずっと我慢していたのだ。
 ――お手洗いに、行きたい。
 お姉さまとの大切な時間と、そろそろごまかしの効かなくなってきた下腹部を天秤にかけ、わたしの心はゆらゆらと揺れ動いていた。
「ふふ。どうしたの? 結衣」
「い、いえ。そのっ……」
 まさか気付かれてしまったのだろうか。わたしはお姉さまの顔を見ることができず、さっと顔を伏せてしまう。
 お喋りをしながらずっと我慢していたなんて、恥かしい子だと思われてしまう。きちんとお手洗いにもいけない子だって……
 不意に、お姉さまの表情がふっと緩む。
 呆気に取られるわたしの前で、お姉さまはまるで小さな子のように屈託なくくすくすとお笑いになった。
「お姉さま……?」
 意外なことに驚いて思わず聞いてしまう。お姉さまの優しい手のひらが、そっとわたしの髪を撫でる。大切なものを慈しむかのように。
「どう、なさったんですか……?」
「ふふ。……そうね」
 もう一度くすくすとお笑いになって、お姉さまはぎゅっとわたしを抱き締めた。
「え……っ!?」
 突然のことに頭が真っ白になる。やわらかな香りが全身を包み込み、バスローブ一枚だけを隔ててお姉さまの身体が密着した。全身の血が顔に集まったみたいに頬が熱く弾け、心臓が急回転をはじめる。
「お、おお、お姉さまっ!?」
 ああ、ぜんぜんまったくこれっぽっちも余裕がない。いつもの百面相で大慌てのわたしに、おねえさまはきゅぅと身体を寄せてくる。とてもとても楽しそうだ。
 でも、わたしはもう混乱の頂点で、いったいもう何が何やら――!!
 そんなわたしに顔を寄せ、お姉さまはそっと囁いてくださった。
 そう。とんでもない、ことを。
「ふふ……御免なさいね。勝手に笑ってばかりで。
 だって結衣がお手洗いを我慢しているの、とても可愛いんですもの」
「え、えええっ……」
 シーツの中で、わたしは思わずぎゅっと脚を閉じてしまった。意識すまいと思っていた部分に感覚が集中し、かなり切羽詰っていたおしっこがたぷっと揺れるのが分かる。
「始業式の時もそうだったわね。隠そうと必死だったようだけれど……私にお手洗いの場所を聞こうとしていたんでしょう?」
「お、お姉さま……ご存知だったんですか……っ!?」
「結衣は隠し事が下手なのだもの」
 あぁ……まさか、お姉さまに見られてしまっていたなんて。
 前の日にお祝いに、と食べた四川料理がとても辛くて、ついつい何杯もお水をお代わりしてしまったのだ。おまけにちょこっとだけ飲んだお酒のせいもあってわたしはすっかり寝坊してしまいもう少しのところで入学式にも遅刻してしまうところだった。勝手のわからない学院生活初日、もちろん緊張と不慣れのせいでトイレの場所も探すことができず、ぱんぱんに張り詰めたおなかを抱えたまま2時間にも及ぶ入学式に参加することになってしまった。
 途中何度も訪れた絶体絶命の危機を乗り越え、クラスメイトになった天崎さんに聞いてどうにかトイレに駆け込み、個室に辿り着いたのは限界ぎりぎりのほんの数秒前だった。
 あの時、椅子を軋ませおしりをもぞもぞと動かし、膝をくっつけ合わせて必死に我慢していた姿。とても綾桜学院の生徒には相応しくないはしたない格好。それをずっとずっと、お姉さまはご存知だったんだ。
「ふふ。ずっとあそこを押さえてもじもじしていたわよね。すぐに分かったわ。坂道でぶつかった子があんなことをしているのですもの。いろいろ想像してしまいたくなったの。いつから我慢していたのかしら、とか。私とぶつかった時ももうしたくてたまらなかったのかしら、とかね……」
「ぁ……や、やだっ……」
 お姉さまの顔を見ていられなくなって、わたしは俯いてしまう。
 ただでさえ出会いはとても最悪だったのだ。あの交差点での出来事がなければ確かに、こうしてお姉さまと親しくさせていただくこともなかっただろうけど、それでも……あんな、あんな恥かしい、女の子として失格なところを見られてしまったなんて・・…っ!!
 けれど、お姉さまはわたしの顎にそっと指をかけ、緩やかになぞりあげるように持ち上げてくださる。気付けば、お姉さまの顔がわたしのすぐ目の前に。
 そう、とてもとても、楽しそうに。
「ねえ、結衣。言って御覧なさい? どうしたいのかしら?」
「お、お姉さまっ……」
 そんな事を聞かれても、答えなんてひとつだけだ。
 なんとか察してくれないものかと視線で訴えるけれども、お姉さまはそれくらいのことで容赦してはくれなかった。
 こんな時のお姉さまはとても、とても、意地悪だ。
「だめ。きちんと言ってくれなければ、わからないわ?」
「あ、ああっ……」
 わたしは手持ち無沙汰な手でぎゅっと自分のバスローブの裾を握り締め、小さくかぶりを振る。だって、そんな恥かしいコト、ずっとずっと小さな時ならまだしも、今はたとえお父さんやお母さんの前でも口にできない。
 なのに、お姉さまはそれをわたしに言わせようとしていた。
「ねえ、結衣、どうしたの? ちゃんと教えて頂戴。結衣はどうしたいのかしら?」
 お姉さまの手がわたしの手をつかむ。
 ぎゅっとローブを握る手のひらを。もっともっと下の方に伸びていきそうになる手のひらを、それ以上、はしたないことをしてはいけないと咎めるように。
 ぞく、と腰のあたりをむず痒い感覚が伝わってゆく。
「ぁ、……っ」
 毛布の下でもぞもぞと動き始めた脚を、お姉さまは見逃してはくださらない。
 どうしよう、このままじゃ、本当に……
 最悪の想像が頭をよぎる。決してあってはならない結末。お姉さまのご好意を全て踏みにじってしまうような、最低の状況が。
 わたしは、意を決して、
「ぉ……」
 それを、口にする覚悟を決める。
「お、お手洗いに……」
 まるで消え入るみたいなか細い声。もう何年も前から、こんなにもはっきりと、そのコトを口にした記憶はない。慎み深く、清楚に、可憐に。はしたないと咎められるよりも前から、わたしはそうすることなどないように教えられてきた。
 それはお姉さまも、他の大勢のクラスメイト達も同じだ。綾桜の生徒なら決してそんな事は人前で口にしない。
 死んでしまいたくなるほどの恥かしさが込み上げてくる。真っ赤な顔がさらに真っ赤になって、とても目を開けていられない。そんな顔をお姉さまに見られているのだ。でも、でも、とにかくちゃんと言った。これで、お姉さまも許してくださる。この苦しみから解放される。そう思った。
 けれど。
 お姉さまの反応はわたしの想像をはるかにはるかに越えていたのだ。
「お手洗い? ……そんなに手が汚れているのが気になるのかしら?」
「お姉さまっ……!!」
 非難してしまうかのような悲鳴が勝手に口から飛び出す。けれど――お姉さまはさっきからの笑顔を崩さないまま、くすくすとお笑いになっていた。
 そして、ぁあ、と大きく頷く。
「……そうね、寝る前にお菓子を食べてしまうのはお行儀が悪かったかも知れないわね。気持ちが悪いのかしら。お絞りでも持ってこさせようかしら。それでいい? 結衣」
「お、お姉さま……意地悪なさらないでくださいっ……」
「ふふ。私はそんなつもりはないのだけど? 結衣がちゃんと言ってくれないからいけないのよ」
 わたしは悟った。
 お姉さまはわたしに、もっともっと、恥かしいことを言わせようとしていらっしゃるのだ、と。『お手洗い』で通じないのなら、もっとわかりやすい言葉があるでしょう、と。
 そんな。そんな。
 まさか、まさか。お姉さまは、本当にわたしにそんなことをさせるおつもりなのだろうか。必死に打ち消そうとしても、いちど抱いてしまった疑念はどんどんとふくらんでゆく。
 お姉さまは黙ってわたしを見つめている。わたしが次に何を口にするのかを楽しむように。
 だから、わたしは――やめるわけには、いかない。
「と……」
 その単語、を口にしようとするだけで、身体の中心に熱い疼きが走る。
「ぉ…トイレに……いきたい、……ですっ」
 そんな風にはっきりと口に出したのなんて、もう何年振りだろう。本当の本当に小さい頃ならまだしも、学校に入ってからは絶対に口にした事はない単語。
 人前では絶対に知られてはいけない、恥かしいことを――我慢しているのを、はっきりと知らせてしまう単語。
 わたしは、お姉さまにはっきりと知らせてしまったのだ。はしたないことをずっとずっと我慢していて、もう、我慢ができないということを。
「お姉さま……申し訳ありません……その、もう……我慢、できないんですっ……お願い、します……その、ぉ、……おトイレ、に……っ」
 頭がくらくらする。恥かしすぎて死んでしまいそう。
 けれどおなかの中で暴れる秘密のティーポットがわたしを急かす。急がないと、急がないと、本当にいけないことになってしまうから。
 けれど、
 お姉さまのお答は、もっともっと、わたしの予想を越えていたのだ。
「ふふ。そんなに我慢しているの?」
「は、はいっ……」
 もう頷くしかない。わたしのおなかがどんなコトになっているのか、お姉さまに知られてしまった以上、隠してもしかたのないことだった。
 お姉さまはさらににこりと素敵な笑顔を見せて、囁くようにお話しになる。まるで――恋を伝えるかのように、密やかに、艶かしく。
「……ねえ、結衣? そんなになにを我慢しているのかしら? 
 教えて頂戴? あなたはおトイレで、なにがしたいの?」
「っ……」
 一瞬、何を言われたのかわからなかった。
 けれどお姉さまは、変わらずわたしをじっと見つめてくださっている。それは冗談でも悪ふざけでもなく、はっきりとした答えをわたしにお求めになっている証拠だった。
「お、お姉さまっ……そんな、そんなっ」
「ほら、教えて御覧なさい? 」
 信じられなかった。
 本当に、本当に、そんなことを口にしなければならないのだろうか。だって、だってお姉さまは本当にお綺麗で、学年を越えて大勢の生徒に慕われていて、もちろんわたしも憧れのかたで、そんなコトを決して口にしないはずの素敵なかたなのに。
「お姉さまっ、……い、意地悪はやめてください……っ」
「意地悪ではないわ。はっきり聞きたいだけよ。……結衣はどうしたいの? ほら、ちゃんと言って御覧なさい。そうでないとわからないわ」
 焦らすようにゆっくりと、お姉さまはわたしに問いかける。
 間近で感じるお姉さまの体温、息遣い、鼓動。そんな至福の状況にありながら、わたしはどんどん追い詰められていく。
 絶対に、
 ぜったいに、あってはならないことを――要求されて。
「……っ、」
 きゅっと唇を噛む。
 ローブに食い込んだ指がしんしんと痛む。
「ぁ、……」
 くちびるがぱくぱくと空をなぞる。お姉さまはわたしから視線を外してはくださらない。その瞬間を見逃すまいとでもするかのよう。
 だから、
 覚悟を決めるしか、なかった。
「ぉ……おしっこ、したい、です……っ」
 その、言葉を口にした瞬間。
 わたしはぎゅっ、と抱き締められていた。これまでの優しいものとは違う、愛しい相手を逃さないようにするための力強く荒々しい抱擁。
 心臓が口から飛び出しそうになる。
 けれど、もっと危険なことに――わたしのおなかはぎゅっと圧迫されて、猛烈な勢いで暴れ出す恥かしい衝動に悲鳴を上げそうになる。
「可愛いわ……あなたの小さな唇が、そんな恥かしいことを口にするなんて。素敵」
「お姉さまが……そうさせてらっしゃるんですっ……」
 もう、叫び出さないだけで精一杯だった。お姉さまに抱き締めてもらっている嬉しさと、本当の本当に切羽詰ってきたおなかの中身で頭がいっぱいに。
 じんっ、と疼くむず痒さが、次第におなかの奥から股間の先端へと進んでゆく。
 ちりちりと震える先端は今にも爆発してしまいそう。なのに……お姉さまを突き飛ばしてお手洗いに立てるわけもない。
「お願いです……っ、お、お姉さま……っ」
 喉がからからだった。身体じゅうの水分が絞り上げられて、脚の間に集まってゆくみたい。押さえなきゃと思っても、腰が勝手にくねくねと動いてしまう。おなかの中で溢れそうな恥ずかしいお湯がこぽこぽ沸騰していた。
「…お姉さまぁ……っ……!!」
「ふふ。まるで小さな子みたいね? 結衣は幼稚園からやり直したほうがいいのではなくて?」
「や、お姉さまっ……」
 お姉さまのてのひらがそっと私のおなかを撫でて、つぅ、と下のほうに降りてゆく。
 ……あああっ、だめ、っ、そこはっ!!
「ふふ。……こんなに硬くなって……石のようね。いっぱい我慢しているのね? 結衣」
 わたしのおなかの中が、どんな風になっているのか。お姉さまにすっかり知られてしまった。頬が真っ赤になるのがわかる。
「あ、ああ……お許しください、お姉さまっ……」
「駄目よ。まだまだ大丈夫」
 根拠のない自信をお示しになって、お姉さまはきゅ、と私の手を握ってくださった。
「私が撫でてあげる。寄りかかっていいわ。楽になるわよ」
「は、はいっ……」
 少しでも油断すれば、お姉さまのベッドの上に世界地図を描いてしまう。それだけはなんとしても避けなければならなかった。
 お姉さまがお許しになるまで、なんとしても耐えなければいけない。
「ほら、だいじょうぶ……吸って……吐いて……楽にしなさい」
「はぁ……ふぅ……っ」
 お姉さまのあたたかい手のひらが、じんわりとおなかを暖めてゆく。
「……どうかしら?」
「……す、すこしだけ……楽になりました……っ」
 でも、そんなのほとんど気のせい。お姉さまの前ではしたなくおしっこを我慢しているのだから、余裕なんか全然ない。それに、さっきからどんどんおなかが張り詰めてくるのが分かる。
「あ、あの……も、もう平気です……ですから、そのっ……」
「ふふ。そうね、もう随分遅いものね。結衣、あなたも疲れたでしょう。いつでも寝てしまっていいわ」
「お、お姉さまっ……」
 お姉さまは、どうしても……わたしを許してくださるつもりはないらしい。
 わたしに、その、お、……お粗相、をさせる……おつもりなのだ。
「眠っているうちに終わってしまうものね。恥かしがる結衣の顔が見られなのは残念だけど……ふふ。今日は初めてですもの。それくらいは赦してあげるわ」
「そんなぁ……む、無理ですっ……」
 だって、いま、その……寝てしまったら、きっと。……ううん。たぶん間違いなく。
 第一、こんな状態で眠れるわけがない。どういうおつもりなのかは分からないけれど、お姉さまはどうあってもわたしをお手洗いには生かせてくださらないようだった。
 でも、どうして? ……ひょっとして、気付かないうちにとても失礼なことをしてしまったんだろうか。だから、お姉さまはこうしてお怒りになって、わたしにお仕置きのためにこんなことを――
 ぐるぐると考えが巡る。でもそれも全て、おなかのなかにおしっこをとどめておこうとするだけで吹き飛んでしまいそうになる。
 きゅん、とおなかの中が疼いた。
「あ、はぁああっ……」
 わたしは恥ずかしい声を上げて、ぎゅっ、とパジャマの前を押さえて、『く』の字型に体を折り曲げてしまう。
 も、もう。本当に……我慢、できないっ…!!
「お、お姉さまっ……!!」
 たとえ、はしたない子だって嫌われたっていい。お手洗いにいこう。だって、このままじゃ、本当にお姉さまの前で……お、おもらし、を……しちゃうっ!!
 けれど、お姉さまはそっとわたしの顔に手を添えて、微笑んでくださった。
「いいのよ?」
「え……?」
「我慢できないなら、してしまってもいいの。……結衣がこのままおしっこするところ、見てみたいわ」
 頭が、
 ハンマーで殴られたみたいな衝撃だった。
 どういうこと? お姉さまが……学院のみんなが憧れるお姉さまが、そんな、そんな恥ずかしい、へ、変態、みたいなことを……っ!?
 頭が真っ白になりそうだ。心臓がドキドキ跳ねあがって、口から飛びだしてしまうのを押さえるので精一杯。
「そんなっ……お許しくださいっ……お姉さまっ」
 どれだけ憧れていたって、どれだけ好きだって。見せたくない姿だ。
「ふふ……あなたが、ずっとずっと我慢していたもので、ここをぐしゃぐしゃに濡らしてしまうところが見たいわ」
 お姉さまの指先が、まあるくいけないところをなぞる。
 その衝撃にびくびくとはしたなく身体をよじってしまうわたし。
「は…ぁあっ! やぁ……っ!!」
「可愛い声……もう出してしまいたくれたまらないのかしら? ……いいのよ? してしまっても」
 お姉さまの甘い囁きが耳元でわたしを誘惑する。おなかの奥がきゅんきゅんと疼いて、恥ずかしい場所が勝手に緩んでしまいそう。
 で、でも、そんなことっ……できるわけっ……!!
「だ、だめ……ですっ、こ、このままじゃっ、お、お姉さまの、お洋服もっ」
「ふふ。いいわよ? 結衣のおしっこで濡れてしまうのも。暖かくなりそうね?」
「や、やぁっ……」
 自分の出した恥かしい雫で、お姉さまの身体を汚してしまう――そんな想像に背筋が震える。
 けれどそれは、単純に怯えだけが原因だっただろうか。
 胸がぎゅうっと締め付けられる。じんじんと頭の新が痺れて、うまく言葉がまとまらない。……な、なんでお姉さまは、そんなことを……っ!!
「いけない子ね。そんなにおしりをもじもじさせて……」
「お、お姉さまっ……お許しください……っ」
 思わずぎゅっとシーツを握り締めてしまうわたし。けれどいくら押さえ付けようとしても、脚は勝手にもじもじと寄せ合わされてしまう。
 それを見て、お姉さまはまたふふ、とお笑いになった。
「ああ……なんだかもじもじしている結衣を見ていたら、私も行きたくなってしまったわ。……すぐに戻ってくるから、お行儀良くして待っていなさいね?」
「え。ええっ!?」
 わたしの前でためらうことなくお手洗いに行くコトを告げられて、お姉さまはベッドから出てゆく。
 取り残されたわたしは、たまらずぎゅうううーーーーーっと前を押さえてしまった。
「あ、はぁっ……だめ、……ふあぁうっ…くぅ……」
 もう、恥ずかしい場所が爆発してしまいそう。おなかの中でティーポットがぐらぐら沸騰しているみたい。
(……っ)
 ちらり、と視線を動かすと、廊下に続く半分開いたドアが見える。
(あの向こうで、お姉さまはいま――っ、……ぉ、しっこ……を……)
 するり、とネグリジェのしたをたくし上げて、暖かな便座に腰掛けて。我慢していたものを解き放つ。精一杯おしとやかにしようとしても、それはきっとどうしようもないほど激しくて、乙女にあるまじき勢いで、水面を直撃して大きな音を響かせて、止めたくても止まらない――
 そんな恥ずかしい想像もいまは止められない。おなかの中で暴れ回るはしたない衝動が、はやくお姉さまと同じ事がしたいと叫んでいる。
 ベッドの中で、お手洗いにも行けず我慢を続けているわたし。最悪の事態を回避するためにも。、いますぐ跳ね起きて、別のお手洗いまで走らなくちゃいけなかった。例えお姉さまの言い付けを破る事になっても。
 でも、
「…んぁんっ!!」
 もう、普通に立ちあがるのも難しいくらいだ。ぐらぐら沸騰するおなかの中のホットレモンティーがこぼれそうで、腰が勝手に動いて、シーツに皺を寄せてしまう。
 このままじゃ、本当に遠からず、お姉さまのベッドを汚してしまう。
 そのコトを想像するたびに頭が真っ白になりそうだった。
「ふ……あふ……っ、くっ、くううぅっ……」
(やだっ、恥ずかしいよぉ……でちゃう、もう出ちゃうぅぅ~~っ……)
 お姉さまのベッドでくねくねとおしりを揺するわたし。そんなコトしたくはないのに、我慢できないオシッコは全然収まってくれない。
 随分長い間そうしていたような気もしたけれど、多分5分もかかっていない。
 再びドアを閉める音がして、お姉さまはお部屋に戻っていらっしゃった。
「お、おねえ、さまっ……」
 救いを求めるようにお姉さまを見てしまう。途切れ途切れの声が裏返って、もううまく言葉も喋れない。じわっ、と視界が歪んだ。わたしの身体は出す事を許されない水分を少しでも減らそうともがいている。
 お姉さまはやさしく微笑んで、そっとわたしの隣に腰掛けた。
 白魚のような細い指が、息を荒げ顔を真っ赤にしているわたしの頬をぬぐって、涙の跡を消してゆく。
「ふふ……素敵。本当に素敵よ、結衣」
 お姉さまの顔がそっと近付き、わたしのくちびるに濡れた柔らかい感触が触れる。
 わたしは――お姉さまにキスされていた。
「ぁ……」
「可愛いわ……そんなにもじもじして、おしっこを我慢している結衣」
「や、や……お姉さまっ……」
 甘くとろけるような感触が、あとから頭の中にいっぱいにひろがってゆく。
 顔がたちまち真っ赤になり。わたしはその衝撃で決壊してしまいそうになる下半身をぎゅっと押さえるのに精一杯だった。
(そ、そんな――、え、いまの、いまのっ!?)
 初めての、キス。
 何度確かめても間違いない。恥ずかしい熱湯を限界まで詰めこんで、ぱんぱんに膨れ上がってずきずきと震える下腹部が、これが夢なんかじゃないということを痛いくらいに教えてくれている。
 お姉さまは、わたしに――キスをしてくださったんだ。
「ぁ……」 
 胸が震える。せっかく拭ってくださった頬をまた涙が伝う。胸に広がる熱いものが、ほんの一瞬だけとんでもないことになっている下半身のことを忘れさせた。
 まさか、お姉さまに……ほんとうに、はじめてを差し上げることができるなんて。感動で胸が一杯になるわたしは、まるっきりなにも出来ないまま、ぽろぽろ涙をこぼしてお姉さまにしがみついていた。
「結衣。大好きよ。……あなたのことが。とても、とても素敵」
「あ……っ」
 ぞくり、と背中が震える。オシッコだけじゃない。おなかの奥がじんわりと湿ってゆく。頬の熱は背骨を伝ってわたしの身体の芯まで広がりだしていた。心臓の鼓動はさっきにも倍する勢いで、いまにも口から飛び出してしまいそう。
 お姉さまはわたしに覆い被さるようにして、ぎゅっと背中を抱いてくださった。やさしく力強いお姉さまの甘い匂いに包まれて、なにも考えられなくなってしまう。
 そんなわたしに、お姉さまはさらに驚愕の告白を続ける。
「初めて会った時から、見たいと思っていたのよ。そして、独り締めしたいと思っていたの。結衣がおしっこを我慢しているところを、ぎゅぅっと、この可愛い手脚の間を押さえて、お漏らしをしてしまうところをね」
 囁くお姉さまの瞳は、怪しい輝きに濡れていらっしゃった。わたしはその深い色に思わず見蕩れてしまいそうになる。
 でも、でも。
「軽蔑したかしら? でもね、私はそういう人間なのよ。あなたみたいな可愛い子がおしっこを我慢しているのを見るのが大好きなの。ふふふ……」
「っ……」
「だから、心配せずに思いきって、なさいな? 気持ちいいわよ……」
 甘い誘惑の言葉がわたしの理性を揺らす。お姉さまのくちびるが耳を噛む。ぞくんと背中が反り返った。そんな身体の動き一つでも辛くなるくらいに、わたしの我慢は余裕がなくなっている。
「結衣がオシッコするところが、見たいわ」
「駄目です……本当に、ほんとうに……し……しちゃいますっ…からぁっ」
「ふふ。……そんなはしたないことを口にするなんて……結衣は悪い子ね。
 でももう駄目。ずっと黙っていようと思ったけれど、こんなに素敵な姿を見せられていたら我慢できないわ。ねえ結衣。もっと良く見せて?」
「そ、そんなぁ……っ」
 お姉さまの告白は、確かにとんでもなく嬉しいけれど。
 そ、その、ぉ、……おもっ、……お漏らし…だなんて――だめ、絶対にダメっ!! お姉さまのお気持ちには答えたいけどっ、そんなの、そんなに恥ずかしいコト、いくらなんでもっ!!
 おなかがぴくぴくと引きつり始めている。ぎゅっと閉じられたダムはもう鉄壁ではなく、ヒビだらけのぼろぼろ。一度決壊したらもうあとは大洪水だ。そうなったら、わたし、わたしは……っ!!
「ぉ、お姉さまっ、お願いします……一生のお願いですっ、その、お姉さまのお気持ちはとても嬉しいですけど、でもっ、そ、そんな……お姉さまの前でなんて、できませんっ!! も、もう本当に、本当にっ…………っ!! で、ですから……お手洗いに……お手洗いに行かせて、くださいっ……」
「ふふ、そうね……このまま朝まで我慢できたら、行かせてあげるわ」
「そんなあ……む、無理、ぜったい無理ですっ……」
 窓の外はまだ真っ暗だ。いったいあと何時間、我慢しつづければいいんだろう。ううん、もう1時間だって無理。それどころか30分だって、15分だって……
 1分1秒でもはやくお手洗いに行きたいのにっ……!!
「ああ……可愛いわ……可愛いわ、結衣」
「んむっ……んふぅうっっ!?」
 気付いた時には、お姉さまに無理矢理、くちびるを塞がれていた。熱い舌がその隙間から滑りこんでくる。あたまを痺れさせるような、セカンド・キスの甘い感触に、わたしは夢中になってお姉さまの舌を吸った。
 おなかの奥がじんじんと響く。
 本当は別のもののはずの、オシッコがしたいのと、嬉しくてたまらない気持ちがゆっくり溶け合って、びくびくと脚の間で暴れる。
「ん……んふっ…あ…は……ちゅむ……っ」
「んんっ、ふぅっ……ふ、ぁ……」
 お姉さまの指が、そっと下腹部に伸びて、ぱんぱんに膨れたおなかを撫でる。たちまち尿意が何倍にも膨れ上がってわたしは脚をばたばたを暴れさせた。それなのにお姉さまはやめてくれない。緩急をつけながらおなかを撫で、軽く押しこみ、いけないところをなぞり上げ、わたしが必死に閉じ込めようとしているものを出させようとしてくる。
 ぴりぴりと弾ける衝撃が、腰に響きじんじんと背骨を伝って頭にまで昇ってくる。
 何がなんだか、解らなくなっていた。
 ただ、
(おしっこ、オシッコ漏れちゃうぅ……漏れちゃううっ、やだ、っ、やだああっ!!)
 それだけがどんどん強くなる。
 わたしがお姉さまと出会う前も、お姉さまは何人もの……恋人を持たれていたのだと聞いていた。だからわたしは、今日の今日まで、お姉さまがわたしを心の底から必要としてくださっているのではないと思っていた。
 お姉さまがこうしてわたしをお呼びになってくださったのも、そうした感情の上のことではなく……単にわたしに興味があっただけのことだと思っていた。綾桜には珍しいタイプの生徒だから、好奇心の延長のことでしかないと。
 でも、お姉さまはおっしゃった。
『オシッコを我慢しているのを見るのが、大好きなの』
 と。
 その、他の誰か、も。
 ここでこうして、お姉さまといっしょに横になって……誰にも見せたことのない恥ずかしい姿を見せたのだろうか。
「ふふっ……」
「あぁあああああああぅぅっ!?」
 不意に。ぎゅぅっと脚の間を握り締められて、わたしは悲鳴を上げてしまった。恥ずかしさからそこに触れられないわたしの代わりに、お姉さまの手のひらがそこをぎゅうぅうぅぅーーーーーっ、と押さえてくれている。
 でも、でも、それは。
 もうすぐ始まる大崩壊を、ほんの少しだけ先延ばしにするだけのことでしかない。
「もう駄目なのね……こんなにここを熱くさせて。いけない子ね……ふふ」
「は、はいっ……はいぃっ……」
 必死で頷く私。今すぐ自分でも股間を押さえたかったけれど、お姉さまがそうして触れている以上それもできず、ぎゅっと枕に爪を立てた。長い我慢の果てに次々襲ってくる大波に晒されて、ダムはとっくに疲労困憊。せめて何かを握り締めていないと、もう踏ん張りがきかない。
「ふふ……じゃあ、こうして私が代わりに押さえていてあげる。どう?」
「あ、あああっ、お、おねえ、さまっ」
 お姉さまの押さえ方は、とんでもないくらいに上手だった。あとすこし、あとほんのすこしで始まってしまいそうになるのを、外と内側の綱引きを保つように、絶妙の力加減で封じている。
 出したいのに、出せそうにない。そんな錯覚すらしてしまうくらい。
 お姉さまの手が、するりと動いておしりの方へ。そこに篭る熱気を撫でて、お姉さまはくすりと微笑む。
「あら、もう湿ってるのね? 我慢できなかったのかしら」
「ち、違いますっ、あ、汗ですっ」
 本当にそうなのかどうかの自信はない。ずっと我慢を続けていたそこは、もうとっくに感覚がなくなっている。またまた高まってきた尿意にわたしははしたなく叫んでしまう。お姉さまに、おなかの中でのオシッコの事を知らせるように。
「ああ、駄目……駄目ぇっ……」
「大丈夫よ。結衣、ゆっくりおなかの力を抜いて、深呼吸して御覧なさい」
「は、はぁーっ……ふぅうーっ……はぁああーっ……」
 一息ごとにおなかがきゅんとなって、熱い疼きが高まる。まるで、そう、まるで、赤ちゃんを産んでいる時みたいな気がした。
「ふふ……結衣はここに、いっぱいおしっこを我慢しているのね……」
「あ、ああっ……押しちゃダメですっ……お姉さま、ぁ……」
 そうして、何度目かに悲鳴を上げた時。
 不意に、お姉さまはおっしゃった。
「ふふ、……ねえ結衣。喉が渇かない?」
「え……」
 呆気にとられるわたしをよそに、お姉さまはサイドボードにある水差しを手にとって、ハーブの効いた冷水を口にお含みになった。
「結衣」
「は、はいっ……んっ」
 まるで命令。逆らえないわたしを押さえつけるようにして、お姉さまはまたくちづけをしてくださる。それと同時にくちびるの隙間から流れこんでくる冷たい感触。
「ん……んぅ……っくんっ」
 口移しで流しこまれる水が、あっという間に口の中いっぱいに。こくりこくりと喉を動かして、わたしはそれを飲み下してゆく。
「ふふふ……もうおなか一杯、って顔ね?」
「あ、ああ……駄目です、駄目です、お姉さま……」
 これ以上飲まされてしまったら、出てしまう量ももっと増えてしまう。
「でも駄目よ。……ちゃんと飲みなさい?」
「……ぁ、あああっ……」
 んむっ、と口が塞がれて、もう一度。わたしは何度も何度もお姉さまから口移しでお水を飲まされてしまう。おなかの中で冷えたお水が、じんわりと身体の奥に拡がっていく。
「ねえ、結衣……最後におねしょをしたのは、いつかしら」
「っ……」
「恥かしがらなくていいわ。誰でもあることですもの。……教えて御覧なさい?」
「……ぁ、っ」
 ぎゅっと唇を噛んで、わたしはお姉さまにお答えする。
「初等部の……3年生の、とき、です……」
「ふふ。3年生ね。……随分大きくなってからも、お粗相してしまっていたのね? どうして失敗してしまったの?」
「て、テレビで……怖い映画をしてて、……夜中に目が覚めたんですけど、お、お手洗いにいけなくてっ……」
「ふふ。じゃあ結衣はこれから、5年ぶりにお漏らしをしてしまうのね?」
「っ……」
 その言葉が、引き金のように頭の中に衝撃を叩きこむ。
 お漏らし。
 お姉さまの目の前で。おしっこを、我慢できずに。
(ぁ……っっっ!!)
 じんわりと緩みそうになっていた足の間の筋肉に全身の力を込める。ぎゅっと閉じ合わせた脚は、もう動かす事もできない。
「は……はぁ…っ、はーっ……ふうぅーーっ……」
 危なかった。
 もう少しで、あとほんの少しで取り返しのつかない事になるところだったけど。
 なんとか、ぎりぎりのところでその誘惑を断ちきった。
 じくん、じくんと引きつる股間を感じながら、わたしは大きく息をつく。
「あら……残念。あとすこしだったのに我慢できてしまったのね」
「お姉さまっ……」
 でも、これもほんの一時。わずかな間だけのこと。
 だっておなかの中で暴れる恥ずかしい熱湯は、少しも、全然収まってくれない。
「駄目よ。お手洗いには行かせてあげないわ」
 それに、お姉さまのお許しがなければ、わたしはお手洗いにいくことはできないのだ。込み上げてくる切なさに耐えきれず、わたしは思わず吐息をこぼしてしまう。
「ふふ。結衣がいけないのよ? そんな風に可愛い顔をするから……少し、虐めてあげたくなってしまったじゃない」
 きゅっ、きゅっ、といけないリズムでおなかを圧迫する。
 わたしのおなかの奥のティーポットがそれに反応して、切なげに身震いした。
「やっ、だめ、駄目えっ……で、でちゃうっ……出ちゃうぅっ」
「ふふ。凄いわ……結衣のここ、石みたいに硬くなっているのね……どれだけ溜まっているのかしら?」
 そっと脚の間をなで上げられ、わたしは我慢できずにぎゅっとお姉さまのバスローブに爪を立ててしまう。
「可愛いわ……もう、本当に出てしまいそうなのね……ふふ。我慢できないのかしら?」
「あ、ああっ、駄目、駄目ですっ……お姉さまっ」
「結衣のはずかしいところ……とっても熱くなって……」
 お姉さまは、そのままぐっと身体を下ろし――
 わたしのおなかに、体重を乗せた。
「あ、あああっ……!!」
 股間で熱い風船が弾けたように、張りつめていた理性の糸が途切れる。
 ぷしゅっ、という飛沫が脚を伝い、我慢に我慢を重ねていたものが一気に溢れ出した。
 足ががくがくと震え、腰が持ち上がって、背骨がたわむ。止まらない。ぜんぜん止まらない。熱い何かが、激しい勢いでおなかの中から抜け出してゆく。
「ふふふっ……凄いわ。結衣……とっても熱くて……凄い勢いね……」
「や、やだっ……お姉さまっ……離れて……離れてくださいっ……出ちゃう、ぜんぶ出ちゃいますっ……ぁあああああっ!!」
 ぐいぐいと、お姉さまの腰がわたしのおなかのいけないところを圧迫する。
 止まらない熱い奔流をおなかで受けとめながら、お姉さまはぎゅっとわたしを抱いてくださった。
「ふふ。まだ出ているのね……よく我慢したわ、結衣……素敵。とても素敵よ……可愛いわ」
「おねぇしゃまぁっ……」
 じんじんと痺れる頭のせいで、呂律もうまく回らなかった。
 重なった唇のあいだで、くちゅりと舌が絡み合う。
 びっしょりと濡れたパジャマが張りついて、濡れた布地越しにお姉さまとわたしのおなかが触れ合う。熱い奔流をほとばしらせながら、わたしの意識はお姉さまの中に溶け込んでゆく。
「もう我慢しなくていいの……いっぱい、残らず出してしまいなさい……」
「あ、ああああ……はうぅっ……」
 だらしない股間は歯止めを知らなかった。ぐしゅぐしゅと擦れ合うパジャマの布地ごしに、シーツに盛大に恥かしい噴水を噴きこぼし、大きな大きな染みを広げてゆく。おなかの中にある全てのものを吐きだしてしまうかのような錯覚が、身体の中心に甘い痺れを広げてゆく。
 お姉さまのキスを受けても、わたしの股間はおしっこを止めない。
 まるで、いつまでもいつまでも、快楽の泉をあふれさせるように。
 そうして、とうとうお姉さまの前でおもらしをしてしまうなんてとんでもないことを経験した、わたしにとって恐らく一生忘れられない日になった、その夜から一夜を開けて。
 ようやく起き上がったわたしの前で、お姉さまは素敵な笑顔を見せてわたしに仰る。
「ふふ。結衣。……今日はそれを飲みなさい。特製のお茶よ。……とても効き目が強いから、昨日よりもっと素敵になれるわよ」
「……はい……」
 おなかの奥に、じんっと痺れる感覚を覚えながら、
 わたしはの目の前に置かれた大きな陶器のティーポットを見つめ、こくり、と喉を鳴らしてしまう。
 それがもたらした快楽と、解放感。今まで味わったことのなかった最高の瞬間の記憶が、まだ余韻の残る身体の芯にじわぁっと拡がってゆく。
「今日は……お外にいきましょうか」
 お姉さまの言葉に、わたしはこくりと頷いて答え――
 ティーカップに注がれた暖かなお茶に、ゆっくりと唇をつけたのだった。
(初出:旧ブログ書き下ろし 2007/02/01)
 

タイトルとURLをコピーしました