プールを巡るお話。

 
 燦々と日の照らすプールサイド。まだ少し肌寒い風は残るが、プール開きとしては絶好の日和である。けれどその中でたった一人、須崎未果は楽しげにはしゃぐ6年3組34人から離れ、ひとりプールサイドに座って体を小刻みに震わせていた。
 調子が悪くて見学している生徒。傍からはそう映るかもしれない。
 だが、彼女は今、強烈な尿意と必死に戦っているのだった。
(どうしようっ……お…トイレ……っ)
 ぐっと奥歯を噛み締め、全身の力を総動員して、身体の底から湧き上がってくる衝動に耐える。
 未果の右手はきつく握り締められ、左手は体育座りのスクール水着の股間に当てられている。時折、水着の股布の上から強く股間を押さえこむその姿は、彼女の限界がかなり近い状態であることを示していた。
(……あ、あと何分?)
 浅く息を繰り返しながら、未果は校舎の壁に取り付けられた大時計を見上げる。授業終了まであと25分。
 限界まで膨らみ、恥ずかしい水を一杯に溜め込んだ未果の膀胱には永遠に思えるほどの長さであった。
 なにより、これまで耐えてきた地獄のような時間がまだほんの10分そこらであることが未果を失望させる。
(だ、だめっ……絶っっ対、無理だよぅ……最後までなんてガマンできない……っ、おもらししちゃうよぉっ……)
 そう考えた途端、お腹の中がぶるっと震える。
 きゅうっ、と高まった下腹を貫くような尿意に、未果は慌てて股布を押さえる手に力を込めた。きつく目を閉じ、足を突っ張らせて発作に耐える。伸びた足の指が、かりっ、と灼けたコンクリートに擦れる。
(んんんんっ、くふぅ……ぁんっ、はぁうっ……)
 今にも吹き出しそうな熱いほとばしり。その予兆が、未果のか弱い水門を打ち破ろうと荒れ狂っている。一晩かけて濃縮され、蓄えられたおしっこが内圧を高めて、未果に尿意を堪える羞恥のポーズを取らせようとしてくる。
 けれど、ここはトイレの個室でもなければ一人の部屋でもない。大勢のクラスメイトと先生のいるプールサイドだ。女の子がおしっこを我慢する姿なんて、見せられるわけがない。
 股間を押さえる手にぎゅうぎゅうと力を込め、顔だけは『なんでもないですよ?』というように平静を保つ。
 未果の首筋を、嫌な汗が流れ落ちてゆく。
 準備運動の体操を乗り切り、プールに入ってから、未果はずっとこれを繰り返してきた。間隔は事件の経過と共に短くなってきて、今ではもう十秒単位だ。
 一言、『トイレに行きたい』と、教師に告げればいいことかもしれない。しかし、そうなってプールを上がり、尿意を堪えたふらふらとした足取りで皆の前を歩くのは未果にとって想像を絶するほど恥ずかしいことだった。
 来年は中学生になる子がお漏らししそうになるくらい、おしっこを我慢しているなんて。ましてそれを、人に分かるようにくねくねと身体をよじらせて我慢するなんて。それはとても恥ずかしいことであり、はしたない事である。未果は厳格だった祖母にそう教えられて育ったのだ。
(どうしよう……どうしよう…っ)
 だから、
 じくん、じくん、と段階的に強まる尿意に、未果はなすすべを持たなかった。
 恥骨を刺激する尿意に耐えかねて、腰を浮かせようとするが、
(ぁ!! や、だめぇ、立ったら……出ちゃうぅっ……!!)
 ふくらはぎがぶるぶると震えて、膝が笑っている。見学のためにとっている体育座りだが、和式便器にしゃがみ込んだ女の子の排泄の体勢である。おしっこをするのに一番都合よく筋肉が緩む姿勢で尿意を堪えるのは、地獄にも等しい苦しみだった。
 気分が悪いと言って水から上がったのは良かったが、最早動くこともままならない。そうこうしているうちに、濡れた身体が冷えることでますます尿意は強まってしまった。
 わずかな身じろぎでも容赦なく下腹部から背中を駆け抜ける衝撃に耐え、未果は今もなお、泣きそうになりながらそ勝ち目のない戦いを続けている。
 きゅうううううんっ、びくっ!
(いやぁっっ……また、また、きちゃううっ……)
 波のように押しては返す尿意が、未果を責め苛む。紺色の布地に包まれた少女の膀胱には、いったいどれだけのおしっこが詰め込まれているのだろうか。もしここでお漏らしをはじめてしまえば、それは隠しようのないほど大きな流れになって排水溝までたどり着き、クラスメイト達の好奇の視線を集めることになるだろう。
(はやく……はやく、プールなんて、終わってよぉ……)
 未果は、無力にもそう願うことしかできなかった。
 じわり。
 おしりに感じた暑さは、最初、日に灼けたコンクリートの熱さだと思った。
 けれど、その感触が自分の体の奥からのものだと気付いた瞬間。未果の顔が蒼白になる。
(ああああっ……)
 高まる尿意、ずっと引き締められ、疲れ始めた括約筋。かちりと進んだ時計の長針。様々な要因が重なり、ほんのわずか緩んでしまった排出孔から滲むおしっこが、水着の股布越しに溢れ出す。
 しゅしゅ、じゅぅ。
 未果の股間をぬらす、明らかに水とは違う温度と感触。
(ひぅっ、くっっ―――――!!)
 口から飛び出しそうになる悲鳴をこらえ、未果はぎゅうぎゅう両手を股間に押し当てた。そのまま結界へと至りそうなダムを必死に押ししとどめ、そろそろと教師の方に視線を遣る。
(先生、こっち見ないで、気付かないでぇっ……)
 だが、
「…………? おい」
「っっ!!」
 最悪なことに、教師は気分の悪いと申し出た未果の様子を気にしていたようだった。すぐに異常に気付いた彼は、監視台を降りて未果の隣にやってくる。
 わずかに息を切らせた教師が、ぎゅうっと足を抱える未果を見下ろして告げる。
「どうした、須崎。大丈夫か?」
「そっ、その、……先生っ……」
 平気だ、なんて嘘をついても、すぐにばれてしまうだろう。必死に頭を動かして、未果は言い訳を探す。
 頭の中は、もうおしっことトイレの事でいっぱいだ。
「……き、気分、悪くなっちゃって……保健室、行っても、いい、ですかっ……」
 がくがく震える膝を必死で誤魔化しながら、未果はどうにかそれだけを口に出した。尿意を堪えている未果にとってそれは仮病でしかなかったのだが、明らかに只事ではない様子を見て、教師は一も二もなく頷く。
「ああ、そうしなさい。保険委員は――」
「い、いいですっ、一人で行けますからっ」
「あ、おい、須崎」
 焦るあまり、未果は自分の置かれた状況も考えず立ち上がっていた。
 しゅしゅしゅ……しゅるるるるっ……ぱたっ、ぱたたっ
(やっ……やだぁっ……でちゃやだよぉっ!!)
 不用意に立ち上がったので、お腹に圧力がかかってしまったのだろう。未果はさらにお漏らしをしてしまった。今度はほんの少しとは言えない。水着から不自然に滴るおしっこが、内股に何本も筋を作って流れ落ちる。
 我慢に我慢を重ねていたおしっこが排泄される快感に、思わずしゃがみ込みそうになる。
(だめ、だめえっ……トイレ、おトイレ、いかなきゃっ……)
「須崎、平気か?」
「は、はい。ひとりで……大丈夫、ですっ……」
(おしっこ、漏れちゃうよぉーーーーっ!!!!)
 精一杯の表情を繕って、身体を不自然でない程度に捻り、足を伝うおしっこを隠す。幸いにも、今年最初のプールに夢中になっているクラスメイト達は、誰も彼女を見ている様子はない。心の中で溜め息を付くと、未果はそろそろと校舎に通じる更衣室に向かった。プールに隣接するトイレにはここを通らなければならないのだ。
 きゅぅうううんっ。
 お腹の中で、膀胱が未果の体に不必要な水分を搾り出そうと収縮を繰り返す。少しでも大きく足を開けば、未果は今も自分を苦しめている尿意の衝動のままに排泄を始めてしまうだろう。
(も……もし、ここで……はじまっちゃったら……)
 立ったまま、水着の隙間から吹き出すおしっこ。
 布地一枚など意味もないほどに、我慢に我慢を重ねてきたおしっこが噴き出して、ばしゃばしゃとはしたない音を立ててまき散らされ、床に大きな水溜まりを作る。
 そんな光景を、みんなに見られでもしたら。
 ただでさえ気の弱い未果は、その場で死んでしまうかもしれないとまで思えた。
「だ、大丈夫、ですっ」
 教師にもう一度言うと、未果はそろそろと歩き出した。できるだけ慎重に、膀胱に刺激を与えないように。
 幸いな事に、プールの方で調子に乗った男子たちが派手に追いかけっこを始めてくれ、教師の注意もそちらを向く。
 その間に未果はプールサイドを横切り、更衣室へ続く短い階段を昇る。
 襲い来る尿意を堪え、今にも崩壊しそうな膀胱を必死でなだめながら。
 ……きぃ、ばたん。
 しゅるっ、しゅしゅるるる……
 更衣室に入った途端、辛抱をなくした未果の股間は暴走を始めた。
「ぁ、あああっ」
 突然洩れ始めたおしっこに、たまらず未果はしゃがみこんだ。朝から(正確には昨夜から)一度も排泄を許されず、耐えに耐えつづけたものの決壊は、快感となって美香の腰を砕く。
 濡れた水着の下で、少女のスリットからはだらしなく隙間を広げ、ちろちろと熱い雫が漏れ出す。
 きゅうぅんと切なげに収縮を繰り返す幼い排泄孔から、じゅじゅっと音を立てておしっこが噴き出した。垂れ落ちる水滴が徐々に激しく、量を増してゆく。
「ぁ……はぁ…んっ」
 十分にプールの水を吸っていた水着の股布は、わずかでもそれを吸い取ってくれることはなかった。素通しになった少女のおしっこが、ぱしゃしゃと濡れたタイルに落ちてゆく。
「だめっ、だめぇっ!! 出ちゃう、出ちゃううっ……」
 しゅるしゅる、じゅじゅじゅうぅぅ
 しゃがんだまま、未果は腰を揺すって、なんとか決壊をくいとめようと括約筋に渾身の力をこめ、排泄孔を塞ごうとする。
「だめだよぉ……ちゃんと、ちゃんとおトイレで、しなきゃ……っ
 がまん、がまんっ、がまんだ……っ」
 潔癖な少女の性格が、本来するべきではない場所での排泄を押しとどめる。ぐぐぐぎゅぎゅうと立てたかかとに股間を押し付けて、未果はぎりぎりのところでおしっこの反乱に勝利した。それでも、タイルの上にははっきり水をこぼしたような水たまりが広がっていく。
 自分のしてしまった“お漏らし”に、未果は耳まで赤くなる。
 水たまりは少し傾斜の付いたタイルの上を進んで、小さな排水溝に流れ込んでいった。
 ちょろろ、と水音を立てて排水溝に吸い込まれてゆくおしっこに思わず目を奪われてしまい、未果の下腹部できゅうんっ、と膀胱が切なげに収縮する。
(おしっこ……このまましちゃったら、気持ちいいんだろうな……ぷしゅーって……我慢、してたから、すっごくいっぱい……) 再び緩み始めた水門と、高まる気配を覗かせる尿意。
 自分がとても恥ずかしい事を考えていたことに気付いて、未果は慌てて首を振る。
(ダメ!! そんなの……いけないよ。いけないコトだよっ。考えちゃだめっ)
 おしっこは恥ずかしいことだから、誰にも見られないようにこっそりおトイレで済ますもの。小さいころからそうしつけられた未果には、トイレ以外での場所で放尿した経験などない。
 11歳の生涯の中で、どれだけ差し迫ったピンチの時でも、茂みや草むらにしゃがみこむ事などせず、前を押さえて下着をひっぱり上げ、足をばたばたと踏み鳴らしてトイレが開くのを待ってきたのだ。
 ……ほんの少しだけ失敗して、下着に染みを作ってしまうことも何度もあったのだが。
 けれど、今日はもう限界だった。
 今まで、こんなにおしっこを我慢し続けたことはない。こんなにおしっこを漏らしてしまったこともない。それでも膀胱のなかに蓄えられたおしっこの量からすれば、まだまだちょっとこぼしたくらいのものだ。固く石のようにパンパンに張り詰めた下腹部は、わずかな刺激に反応して未果に恥ずかしい排泄の姿勢を要求し続ける。
 みんなの声は遠い。まだ授業の時間は残っているし、一番近いトイレまでだってまだ30mはある。
「…………」
 荒くなった息が、更衣室の中に満ちてゆく。おしっこに急き立てられ、ぼうっとなった頭で、未果は11年の生涯の中で最も恥ずかしくイケナイ決心をしようとしていた。
 つまり、
 おなかの中いっぱいに詰まったおしっこを我慢して、未果はしゃがみ込んだ姿勢のまま歩きだす。あひるのようによちよちとタイルの上を進む。一歩ごとに脚がじんじん痺れ、これから未果のしようとしている事を喜ぶように、きゅうんっと膀胱が収縮する。
 もじもじと膝をこすり合わせ、耳まで真っ赤になりながら、彼女は網のかかった排水溝の上にゆっくりと腰を下ろしていった。
(……おしっこ、するんだ……。みんなが着替えるところで、これからあたし、おしっこしちゃうんんだ……やっぱり、やだよぅ……恥ずかしいよおっ……
 ……匂いとか、音とか……聞こえちゃうかも……っ。
 でも、もうだめ、ガマンできない……っ。おしっこ、でちゃうっ……着替えるのにも時間かかるし……急がないと……ほかに誰か、来ちゃうからっ)
 それは、潔癖な未果がはじめてトイレではない場所で排泄をするための、精一杯の言い訳だった。 そっと水着の股布に指を掛けると、ぐいっと引っ張って横にずらす。
 あらわになった未果の女の子。まだつるつるですべすべの、細い縦筋一本のあそこが、ひくひくと恥ずかしいガマンの欲求の動きをして排泄を促す。
(し、ちゃうんだっ。あたし、おしっこ……こんな、とこで……
 でもしょうがない…よね……もう、ガマンしたくても……勝手に…でちゃうんだもんっ……)
 言い訳を繰り返しながら、水着の股布をずらし、誰にも見せたことのない場所を空気に晒して、未果は最後の時に備えて準備をはじめる。
 ぷくぅ、と高まる内圧が未果のスリットを内側から押しあげる。
 体の奥で熱い奔流が震え、きゅうっと膀胱が縮まって未果に激しく尿意を訴える。
 長い間無理に我慢していたせいか、じくんと排泄孔に痛みが滲んだ。未果は大きく息を吐き、お腹にぐっと力を入れて腰を前に突き出す。
 一気に整った排泄の体勢。じゅんっ、と一気におしっこが出口に向かって殺到する。
 じゅぅっ、しゅるしゅるしゅるるっ
 女の子の短い尿道を突き抜けて、未果のおしっこが恥ずかしい音を立て始めた。
 我慢に我慢を重ね、朝から一度もトイレにいかず耐え続けていた未果の膀胱。限界まで溜め込まれていた、未果の熱いほとばしりが殺到してぢくっとした痛みがおしっこの穴に走る。
 ちょろちょろ、と吹き出していたおしっこが、本格的な排泄に変わろうとした、まさにその瞬間。
「あー、漏れちゃうっ、早くはやくっ!!」
「待ってよー」
(!!!)
 どやどやと更衣室に入ってくるクラスメート達の声に、未果は飛び上がりそうになった。
 激しく心臓が鼓動を打ち鳴らし、たった今まで自分のしようとしていた事を未果に思い出させる。羞恥に耳まで赤くなりながら、未果は慌てて水着の股布を離し、立ち上がった。
(あっだめぇえっ)
 けれど、外側だけ取り繕っても、女の子の身体はおしっこを容易く途中で止められるようには出来ていない。いきなり排泄を中断されて、行き場をなくしてしまったおしっこは未果の意思に反してじゅじゅじゅじゅと洩れて、水着の内側で跳ね返って音を立てる。おしっこの重みが、未果の抵抗もむなしく水着の外側に浸透してゆく。
(やぁあっ!! 止まって、止まってぇぇっ!!)
 クラスメイトの前でおしっこをお漏らししながら、未果はパニックになって両手で水着の股間を握り締めた。
 じゅわっと広がった熱い雫が指の間からぽたぽたとこぼれ、床に滴る。
 バレる。気付かれる。おしっこで両手を汚しながら、未果は必死で足を擦り合わせ、つま先でタイルを叩きながらも『別になんでもないよ』を装おうとした。
 きぃ、とドアが開き、更衣室に入ってきたクラスメイト達は、みんな制服を着ていた。
 今日は女の子の理由でプールには入れなかった子達だ。
「あ、未果ちゃん。どうしたの?」
「え、えっと、」
 もじもじと足踏みを繰り返し、身体をくねくねとよじり、おしっこガマンのダンスを踊りながら、未果は言い訳を考える。
 もし、更衣室でおしっこをしていたなんて、知られでもしたら。
(そんなの、わたし……死んじゃう……っ)
「あー、未果ちゃんもトイレ?」
「ちっちがうよっ」
 トイレ。おしっこ。その単語に反応して、無意識に腰が震える。気付かれたかもしれない、という意識も今は未果の思考の十分の一も占めていない。漏れ続けるおしっこを我慢するのだけで精一杯だ。
 また、じゅじゅじゅ、と溢れ出したおしっこが未果の足を伝って落ちてゆく。
「違うよ。さっき須崎さん保健室行くって言ってたもん」
「えー、大丈夫?」
「う、うん」
 蒼白になりながらクラスメイトと受け答えをし、未果は胸中で絶叫していた。
(でちゃうっ!! おしっこでちゃうよぉっ!!!)
 未果の膀胱は限界近くまで膨れ上がり、幼い下腹部は触れられただけではじけてしまいそうなほどだ。
 身悶えする少女の唇は小さく開閉し、水着に食い込む指がおしっこに汚れる。その刺激も尿意を高め、熱い奔流が出口を求め、未果のお腹の中で暴れ回る。
 小さなスリットから少しずつこぼれ出している熱い滴が、否が応でも未果にお漏らしの屈辱感を実感させた。
 きゅううううんっ……
 重苦しいような、股間を貫く鈍い痛み。
 怒涛の尿意の大波に、未果はしゃがみ込んでしまった。腰が引けているのとは違い、抑えるもののなくなった尿道口に再び熱い滴が流れ込む。
「はぅっ……!!」
 みんなの見ている前で放尿――いや、『オモラシ』してしまう恐怖に、未果は目の前が真っ白になった。
 我慢できずに噴き出すおしっこは、まるで滝のように迸り、床に飛び散ってその色と匂いですぐに未果を恥辱の底に叩き込むだろう。そんな光景すら、ほんの気の緩みで実際のものとなるのだ。
 さっきから立ったりしゃがんだりを繰り返す未果の様子が気になったのか、表に向かっていたクラスメイトの一人が足を止め、声を掛けてくる。
「どうしたの?」
「べ……別になんでもないよ……。
 ちょっと、足が痛いかなって……」
 必死に言い訳を繰り返す未果。タイルにはもうごまかしのきかないくらいに水滴が滴っている。匂いに気付かれたらそれでおしまいだ。
「だいじょうぶ? 先生呼んでこようか?」
 その言葉に、未果は凍り付いた。
 ここでバレるのでも死んでしまいたく成る程なのに、もし先生に見られたら。さっきからずうっと、未果がずっとおしっこを我慢していたことが分かってしまうだろう。
 もしそうでなくても、これ以上トイレに行けなかったら、絶対に我慢できない。
「平気……だよっ」
 がくがくと震える膝をかばい、起き上がって、未果は言ってみせた。笑顔の表情が引き攣り、不自然に歪む。
 クラスメイトはなおもしばらく不安げな顔をしていたが、やがて彼女の方でも我慢ができなくなったのか、
「ん、じゃあねっ」
 と手を上げて、外に駆け出していった。
 安堵の息と共に、未果は両手で股間をこね回す。幼稚園の子だってしないような、『まま、おしっこー』のポーズだ。
(あああぁ……わたしもおしっこしたいぃ……)
 けれど、どんなに気が逸っても今の未果には走る余裕すら残されていない。そんな事をしたら、三歩も持たず地面をびしゃびしゃに汚してしまうだろう。
 焦る気持ちを抑えて、壁に手をついて、そろそろと更衣室の外に向かおうとした所で。
 未果は、そのことに気付いてしまった。
「ねー、早く変わってよーっ」
「仕方ないじゃん、工事中なんだからさー」
「あー、もうあたしガマンできないかもー」
「ちょっと、漏らさないでよ? あはは」
 表で続けられるクラスメイトのたちの会話。
(え……)
 それは、あまりに残酷な宣誓だった。
 プール横のトイレは、改装工事の為に個室一つを除いて使用禁止になっていたのである。
 つまり、彼女達は今、トイレの前で並んで順番待ちをしている。
 そして未果は今、『おしっこなんていきたくない』と、彼女達の前で言ってしまっているのだ。
(うそ……おしっこ、できない……の?)
 女の子のトイレは長いし、『女の子の日』なのだ。彼女達が順番に用を足して戻ってくるまで、何分もかかるだろう。今の切羽詰ったお腹ではそれまで待っていることなんてとてもできそうになかったし、もし我慢できたとしても、ずっとここにいた事で、様子がおかしかったのはおしっこを我慢していたからだと気付かれてしまうだろう。
 訳を話せば、順番待ちなどしないでも先に入れてくれるかもしれない。
 けれど、調子の悪いプールのトイレで、外には4人のクラスメイト。ドア一枚隔てても未果ががまんしていたおしっこは便器にぶつかって立てる激しい音が聞こえてしまうに違いない。未果にとって、小さな身体で懸命に我慢してきた大量のおしっこの音を聞かれてしまうのは、死にそうになるほど恥ずかしいことだった。
 女の子がおしっこを我慢しているなんてことは、とっても恥ずかしいことなのだ。
 まして、トイレの調子が悪いから、音消しもできないかもしれない。
 未果の目の前が真っ暗になった。
(そんなっ……トイレ……おトイレ、そこに、あるのにぃっ)
 もう更衣室の排水溝に排泄をするという考えも、吹き飛んでしまっていた。一度はした決心も、他のクラスメイトの歩く場所でおしっこをするなんてことは、決してしてはならないという厳格なモラルに打ちのめされてしまっている。
 そうなると、一番近いトイレは校舎の中だ。行くには、どうしても校庭を横切って階段を昇らなければいけない。
 さっきのみんなは制服を着ていたからいいけれど、未果はまだ水着のままだった。このまま廊下や校庭を歩いたら、どんなことになるか。
 ――そもそも、プールのトイレが壊れていて、そこを切羽詰った様子で未果が水着のまま歩いたりすれば、それは全身で『わたしはトイレに行きたいんですっ』と主張しているようなものだ。
(き、着替えなきゃ……っ)
 それは、とてつもなく悲壮な決意だった。
 排泄を途中で止めた事で、膀胱は収縮を始めおしっこは以前にも増して激しく暴れまわっている。わずかに足を動かすだけでも辛いのに、水着を脱いで股間の圧迫を失ってしまったら。ぱんつを穿くのに、スカートを穿くのに、足を大きく上げなければならない。
 けれど、
 未果は、ぐっと奥歯を噛み締めて水着の肩紐に手をかける。
 尿意を我慢したまま、水に濡れた水着を脱ぐのは至難の技だった。下腹部に圧力をかけないよう、そっと、慎重に体から布地をはがしてゆく。
(あぁぁ……おしっこ……おしっこしたいっ……!!
 がまんっ……がまんっ……)
 ぶるっ、と足が震え、またわずかに未果はお漏らしをしてしまった。もう何度目になるのだろう。ずいぶんオモラシを繰り返したはずなのに、尿意は収まるどころか高まる一方だ。
 水を吸い切った水着は余分な水を吸収してはくれず、水滴は筋になって足を伝う。
 また大きな波を乗り切った未果は、足に絡み付く水着を下半身から抜き取った。股布を失い、迫り来る尿意に今にも屈しそうになる未果の股間がむき出しになる。
「あ……は…ぅ……っ」
(でちゃうっ……でちゃううぅっ……!!)
 ぷしゅるっ。
 一切の拘束を失った股間は、あっという間に尿意に占領された。
 再び小さな排泄が起こり、未果の足元にぽたぽたと雫が落ちる。我慢しているのに、これ異常ないくらい必死になって苦しんでいるのに、未果の排泄孔はおしっこを撒き散らしている。
 それがどうしようもなく惨めで、情けなくて、死んでしまいそうに恥ずかしい。
 しゅしゅしゅっ。しゅううう……
「……だ……めぇ……」
 必死に腰を揺すり、こぼれ落ちるおしっこを止めようとする未果。
 涙ぐましいほどの努力で、最後の時をほんの少しだけ先延ばしにする。どうにかダムの決壊は免れ、未果は震える手で慎重に慎重にタオルで身体を拭い、着替えを進めてゆく。
 制服のブラウスに袖を通して、もどかしいままにボタンを止めてゆく。
(ぱんつ、どうしよう……)
 もう、おしっこを完全に止めておくのは無理だと未果にも理解できていた。
 ちょっとずつ漏らしながらでも、ガマンを続けるしか方法はない。そうなるとぱんつを穿いてもすぐにオモラシになってしまう。
(あ、あ、あ、だ、ダメっ)
 きゅうんっ、とおしっこが出口に殺到する。
 まだ着替えは全然途中。下半身は丸裸だ。スカートを穿くには足を上げなければならない。
 それがもう、無理だった。
 足を開いたら、おしっこははじまってしまう。何秒に一回のペースで迫ってくる尿意に悶えながら、未果は剥き出しのおしりをぎゅうっとおさえた。
 来年は中学生にもなる女の子が、頭の中をおしっこのことで一杯にして、足を小刻みにく震わせている。
「どうしようっ……おしっこ、したいっ。したいよぉ……ぁあっ、おしっこ、おしっこぉ……っ」
 普段口にすることなど絶対にない恥かしい単語が、小さなつぶやきになって未果の唇から漏れる。
 ぷしゅっ、ぱたぱたたっ
 過剰に摂りすぎた水分は外に出される……それは生命活動の基本である。
 だと言うのに未果のしているのは、まったく不自然極まりないことだった。
 どれだけ我慢をしても、膀胱の中を満たすおしっこはなくなってはくれない。むしろ未果の尿意に引かれ、その量はどんどんと増していく。
 しゅるる、しゅうう、しょしょしょ……
 その間にも、未果が摂った水分は、体中を巡る長い旅を終えて未果の膀胱に帰ってくる。
 小さな体がぷるぷると震える。熱い雫をしたたらせる丸いおしりは、内側からあふれ出しそうになるおしっこに耐え切れずにひくひくと何度も地面に押し付けられた。
 完全な決壊だけは避けると、未果は歯を食いしばってまたそろそろろと脚を動かし始めた。
 その小さな体で、未果は次々と襲い来る欲求に必死になって耐えている。彼女の膀胱には、普通では考えられないほどのおしっこが今にもあふれそうにぱんぱんに詰まっているというのに。
 ちゅるっ、ちゅるるるっ。
「あぅっ、またっ……」
 じんわりと股間に暖かいものが広がる。
 まだ年端も行かない少女に排泄を途中で止めることはほぼ不可能であったし、今日の冷え込んだ曇り空、しかもプールで冷えた身体という悪条件は未果の体の中の水分をどんどんと一ヵ所に集めてしまう。
 おなかの奥で作られたおしっこは、もう満杯の膀胱に容赦なく詰め込まれていく。
「お願いっ……もう、っ、でないで、もうでないでぇっ」
 涙声での懇願。しかし彼女の肉体は、本人の意思を無視し始めていた。強烈な尿意が立て続けにむき出しの股間を襲う。スカートを放り出して股間を握り締めた未果の両手の指の間から、ちろちろと熱い雫がにじみ始めている。
 今の未果にとって、おしっこが一気に噴出しないための努力以外は、何の意味もないものだった。
 両手の指がしきりに小さなスリットをもみしだく。
 ぷしゅっ。ぷしゅうっ、ぴちゃぴちゃぴちゃ……
 未果の足の間に、熱い飛沫が舞い上がる。
「や……ダメ……だめっ……」
(でないで……でないでぇっ……!!)
 悲鳴を上げる未果。けれど一度排泄を始めてしまった肉体はもはや制動の利くものではなかった。
 半日以上かけて、未果が我慢に我慢を重ねてきた成果が崩壊してゆく。
 ぷしゅうっ……ぷしゅっ……しょろろろろろっ
(こ……こんなとこで……はじまっちゃうっ……イヤぁっ!!)
 未果は気力を振り絞って立ち上がった。
 下半身丸出しのまま、最後の数歩を、遥か遠いトイレに向かって全力疾走。
 それは、地獄への行進だった。
 ぶしゅるるるるっ、ぶしゅうぅ、ちゃばちゃばちゃばばっっ
「っっ!!」
 更衣室の出口を飛び出した瞬間、今度こそはっきりと、おしっこが吹き出すのが解る。もう言い逃れのない、小学五年生の女の子の放尿が始まっていた。
 乾いた地面に激しく黒い染みがぶちまけられ、ホースで水を撒いたような音が響く。
 最後の放尿から約12時間。未果の体内で余った水分を閉じ込め切れなくなった膀胱が収縮を始め、おしっこが吹き出してゆく。
(ダメ、だめでちゃダメダメおしっこおしっこトイレおしっこガマンガマンだおしっこっおしっこ、おといれぇえっっ!!)
 股間を握り締め、未果はよろよろと走る。吹き出したおしっこが手のひらではじけ、足元をばしゃばしゃと濡らしてゆく。
「あー、お姉ちゃんおしっこもらしてるー!!」
 どこかで、小さな下級生の声が聞こえた。
 限界の限界、おなかをぱんぱんにしてガマンしていた、お腹いっぱいの恥ずかしい水が恐ろしい勢いで飛び出す。
「やだ、違う、ちがうのっ、おしっこ、おといれっ……」
 ぶしゅっ!! ぶしゅーーーーーーーーーーーっ!!!!
 じゃばじゃばば、じゅじゅじゅしゅるしゅるるるううっ!!
 滝のように、ほとんど色もないおしっこが未果の股間から吹き出した。
 足とお尻をつたって、今までの我慢の証がこぼれ落ちる。パニックのなっておしっこを押さえ込もうとぎゅっと股間を握り締めた未果の指の間から、噴水のように四方八方に飛び散ってゆく。
 少女の悲鳴はなおも続き、
 校庭に、黒い染みが広がっていった……
(初出:学校で、おしっこ我慢のいじめ 18-26 2004/03/07)

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