シズク忍法帖・その参

「……シズク。やはり貴方は少しばかり修行が足りませんね。今日は少し、特訓をしなければいけないようです」
「えっ……」
 湯船から上がろうとした妹分を呼びとめて、カスミは厳かにそう告げた。
 え、と首を傾げるシズクを捕まえ、岩の洗い場の上に腰を下ろし、脚を拡げさせる。しゃがみ込むのと似た姿勢に危険を感じたのか、案の定シズクは途端に反応をはじめる。
 もじもじと腰を揺すり始めた妹にのしかかるように前から覆い被さり、カスミはそっとシズクの腹を撫でた。今度は遠慮せず、はっきりとその奥に蓄えられた熱いものの存在を感じとらせるように。
「ぁ、や、やんっ、駄目、駄目です、姉さまぁ……!!」
「――なんです、この程度で音をあげて。だらしないですよ」
 ほんの少し、かるく下腹部を撫で上げただけで甘い悲鳴を上げるシズクに、カスミはやや声を鋭くして叱咤する。
「ぁ、だ、だって……こ、こんなに、辛抱して……るんですからっ……」
「泣き言を言わないの。まだ全然膨らんでもいないではないですか。……ほら、脚を動かしては駄目」
 カスミは大胆に、しかしシズクに決定的な刺激を与えぬよう繊細な力加減を見極めてやわやわと下腹部の控えめな膨らみを揉みほぐしてゆく。
「や、駄目、ぇ……姉さま、そんなに強くしちゃ……で、出ちゃう……せ、せっかく、すこしだけ落ちついたのにっ……」
「シズク」
 聞き分けの無い妹に諭すように、カスミはその耳元に唇を寄せる。何をされるのかとびくりと身体を竦めるシズク。
「貴方もいずれは流水の里の忍びとして、厳しいお役目を果たさなければなりません。……今更言うまでも無いことでしょうが、私たちくのいちは、必要とあらば娘として殿方に触れねばならぬ時があります」
「……?」
 いつもとは違う真剣な口調に気付いたのだろう。手を止めぬカスミに、時折びくっとその身体を竦ませながらも、シズクは暴れるのをやめ、大人しくカスミの言葉に耳を傾ける。
「世の中の殿御の中には、いわゆる――その、男女の交わりについて、あまり“まとも”ではない趣味をお持ちの方もいます。特に私たちのようなくのいちが近付かなければならない身分の高い殿方は、ひととおり普通の男女の交わりというものを知り尽くし、飽きた方が多いのです。そうした方はまず、“まとも”ではないやりかたを好むのです」
「まとも、では、ない……?」
「ええ。中には、このように――」
「ひゃんっ!? ね、姉さま!?」
 ぎゅ、とこれまでより強く下腹部を圧迫され、シズクが可愛らしい悲鳴を上げる。突然の狼藉に恨みがましい目で睨んでくる妹分をさらりと受け流し、カスミはシズクの身体をそっと自分の方へと抱き寄せた。
「あ……」
「んッ……」
 形良く膨らんだ腹のふくらみが、シズクの身体に押し付けられる。大きさの違うふたつの下腹の膨らみが押しあわされ、やわらかく形を変えた。触れ合う肌の心地よさ、暖かな妹の体温。そして何よりもじんと背筋に響くむず痒さを飲み込んで、カスミは言葉を継ぐ。
「このように、孕み娘を好んで褥に招く方も、多くいるのです」
「え、ええ……っ!?」
 シズクには、いくらか想像の埒外のことだったらしい。そうだろう、綾瀬大社に始まり、ここ天津の国では赤子を宿した娘は神の身子を授かったという意味で敬われ、尊ばれる。そんな孕み娘を好んで犯すなど、常軌を逸した行いだ。
「まことのことです。……あ、あまり考えたくは無いことですが、たとえば、他の殿方との愛しい子を、陵辱し蹂躙することに昏い歓びを見出すのかもしれません。中にはそうした相手でなければ男の滾りを覚えない方もいるとか。
 ……私もなんどか、そのような嗜好の方にお会いしたこともあります。そのような殿方に近付くためには、秘水の堰はとても都合が良いのですよ。まさか気に入られるために本当に赤子を孕むわけにもいかないのですから」
 流水の里に限らず、くのいちは任務として身体を使った色事を試みることもある。まさか、そのたびにいちいち赤子を孕んでいたらとてもではないが身が持たない。カスミもシズクも、月の触りが来るようになってからは里の薬師が造った秘薬を服用し、子を孕まぬように心掛けている。
「考えて御覧なさい。そのような時は、今よりも大きなおなかを膨らませたまま、そこを揉まれ、触られ、押しこまれ――そうしてさらに殿御の猛りをこの胎(はら)の奥に受け入れなければならないのですよ。……はちきれそうなお腹のなかを掻き回され、うつ伏せにのしかかられ――どれほど辛いか想像できますか?」
「ぅ……」
 シズクがぶるっっ、と背中を震わせたのは、単に尿意からだけではないだろう。
 固く張り詰めた妹の下腹部をそっと包み込み、カスミはやわらかくシズクの耳たぶを噛んだ。
「ぁ、ひぅっ!?」
「そして、私達には想像すべくも無い、百戦錬磨の手練手管で、天にも昇る心持ちの歓びを与えられ――何度も絶頂へと突き上げられ、それでもなお、秘術を解く事を許されない。……そうした過酷なことも、いくらでもあるのです」
「は、ぁ、や、……ねぇ…さまぁ……」
 尿意の辛さとその解放への誘惑。同時に甘く蕩けるようなくのいちの手練手管。シズクはたちまちのうちに幸苦の入り混じった渾然一体の感覚の虜となっていた。
 四肢をひくつかせ、息を荒くしながらも、言い付けだけは護って股間だけは緩ませぬように懸命に耐える妹。カスミもいつしか、そんなシズクの姿がたまらなくいとおしくなってきている。
 くのいちは、かりそめの伴侶を相手にしても身も心も相手に捧げねばならぬときもある。こうして、目の前の少女を――そう、たとえ同じ女であっても、必要とあらば心から惚れる事ができるように育てられているのだ。
「ね、ねえ様も……そんな風に……?」
「いえ、私もまだそこまではしたことがありません。せいぜいが天井裏で、声も出せず身動きも許されぬまま、堪えきれなくなった小水を辛抱させられて、二刻余りも指やら舌やらで責め続けられたくらいです。……イズミさまや、ツユハ姉さま、アマネ姉さまに」
 自分を仕込んでくれた里の姉達の名を挙げながら、カスミはシズクの淡い秘裂へと指を伸ばした。湯ではないぬめりに覆われたそこは、すでにいくらか辛抱できず漏れ出した乙女の秘水が湿らせているのかもしれない。
 そこを撫でると、シズクは甘く小さな叫びを上げる。
「ッあ……ぅ」
「皆さん、とても厳しい方達ばかりでしたよ。私のように甘くはありません」
「っく…ね、姉さまより厳しいなんて……そんな、想像も付かないです……」
「……貴方を甘やかしすぎたのですかね、私は」
 年上の姉達は、修行と称しながらもまるで底意地の悪すぎるほどに意地悪く、カスミを弄んだ。下腹部を小水でいっぱいにして、どうすることもできずに震えるカスミに徹底的に排泄衝動を制御できるように仕込んだのだ。中でも一番辛かったのが、丸四日にも渡って小水を禁じ、辛抱も限界の状態で無理矢理厠へ連れていくという荒行だ。
 この時、カスミの股間には排泄を禁じた符が張られている。墨で丹念にびっしりと暗号文を書かれたこの符を、きちんと読めるままに保つというのが修行の内容だった。符の文字は少しでも水に濡れるとたちまち滲み、読めなくなるという工夫がされている。
 そうして、カスミはこの符を股間に張り付けたまま服を脱ぎ、厠にしゃがみ込んで、煙草を一服吹かすばかりの間じっとしていなければならない。まさに小水を迸らせる格好をさせておきながら、一滴も排泄を許さないまま、ちょうど用を済ませたように振舞わせて服を整え、外に出てゆかせるというものだ。
 無論、用を足す事は許されない。
 もし堪えを無くしてわずかばかりでも小水を漏らそうものなら、たちまち股間に張られた符が文字を滲ませ読めなくなる。厠の入り口で待ち構えている姉に符を調べられ、ごく一部でも文字が読めなくなっていれば、罰として椀に一杯の水を飲まされる。
 この間、いつものように普段通りの鍛錬も並行して続けられた。
 小水を堪えているということを口にするのも許されず、まるで素人娘のように泣きじゃくって本来の力を出せない惨めさ、情け無さ。まるでが狂わんばかりの厳しい修行に、カスミは何度も姉達を恨みもしたが、そうした姉達の徹底した躾によって、若くして里でも一番の素質と呼ばれるまでにカスミは成長した。 
 だからこそ――カスミは自分が姉となって一番始めに教えたシズクが、このようにおちこぼれているのがどうしても許容できないのだった。
「ほら、そのように腰を動かすのはお止めなさい。もっときつくしますよ」
「ね、ねえ様っ」
「力を抜いて。脚をもっと広げなさい」
「だ、だめ、でっ、出ちゃうぅ……」
 首を振っていやいやをするシズクに厳しく言い聞かせ、カスミはきゅ、と強めにその下腹を押しこんだ。
「手や足を使ってはなりません。おなかに力を入れて、深く呼吸(いき)をなさい。ここの力だけで耐えるのです」
「あ、あ、ああ!!」
 排泄孔のすぐちかくを指で圧し、その感覚を教えるカスミ。
 いつもならこうしてカスミに攻め寄られると、たちまり我慢をなくしてしまうシズクなのだが、今日は少しばかり様子が違っていた。堪えている様子ははっきりと露にしてしまっているが、それでもなおふるふると、健気に決壊を耐え続けている。
 それを見て、カスミはそっとシズクの耳元に唇を寄せた。
「ぁ……ねえ、さま?」
「ふふ……そう。ちゃんと堪えていなさいね。いまから始めますから」
「え……っ?」
 怪訝に眉を寄せるシズクの耳にそっと息を吹きかける。一瞬身体を竦ませたシズクを椅子の上に引き寄せて抱え上げ、ひときわ大きく足を左右に押し開く。秘所をはっきりさらけ出すようなあられもない様は、まるで幼い子の用足しを手伝っているような格好だ。
「ぁあっ!?」
「しー、しー……」
「え、……あ、や、やだぁっ」
 それは、まさしく幼子に排泄を促す言葉。天津に生まれたならばどんな者でも知っているだろう共通語。そして、今まさに吹き出さんばかりの小水を腹に溜めこんでいる少女には、あまりにも甘美で切ない誘惑の言葉だった。
 優しげに語りかけるカスミの声は、まるで我が子を慈しむ母のよう。
「しー、しー……しー、しー……」
「か、カスミ、ねえ様っ……だめ、それ、駄目ぇ・・…っ!!」
 そして事実、シズクは脚を大きく広げさせられ、まさに秘められた乙女の部位から小水を迸らせんばかりの姿を強制されていた。小刻みに震える内腿の間で、ほんのりと色づいた花園がぷくりと膨らむ。
「ぁくぅ……、あ、はぁっ……」
 一度は落ちつきかけた尿意が、凄じい勢いで再燃してきたのだろう。逃れようと暴れ出すシズクをがっちりと押さえ付けたまま、カスミは悪辣な囁きを続ける。
「ほら……しー、しー……しー…なさい? 我慢していては身体に毒よ」
「ぁ、あく……だ、駄目ぇ……」
 カスミが敢えて声色を変えているのは、これが訓練であるということを忘れさせないため。本来はそのままの声で囁くのだが、シズクのことだ、ある程度念を入れていないと本当に漏らしかねないとカスミは一応の配慮をしていた。
「しー、しー……いいのよ。ゆっくりと力を抜いて、ここで全部出してしまいなさい」
「ぅ、あっ……っだ、で、ちゃう……ぅ」
 言葉遣いまで幼くして、シズクがいやいやと首を振る。排泄を命じる言葉が直接幼い妹を従えてゆく。次第にシズクが排泄の体勢を取りつつあるのを、カスミは感じていた。
「しー、しー……ふふ……ああ、そう、すこしずつ出てきたわ……しー、しー……ちょろちょろと音を立てているの、解る?」
「っ、……くぅう……」
「ほら……シズク? しー、しー……」
「っ…………!!」
 排泄を促す言葉に、目を閉じ歯を食いしばって、それでもシズクは耐えようとしていた。ぴく、ぴく、と膨らんでいた乙女の花園が、内側からきゅぅと引き絞られ、裏返りそうになっていた排泄孔がゆっくりと元の淑やかな形を取り戻す。
 いったいそれを成すのはどれほどの精神力だろうか。姉として慕う愛しい相手に、身体をまさぐられ優しく囁かれ、それでもシズクは幼い身体を奮い立たせて誘惑を断ちきろうとしていた。
「ぁ、ち、ちが……っ、で、出てませんっ……まだ、も、漏らしてないです…っ…!!
 ねえ様…っ、わ、わたくし……もっと精進、いたします……が、がんばります、からっ……き、厳しく、されてもっ……けして、負けません、からっ……」
 切なげに目元を潤めながらも、シズクはカスミを見つめ、固い決意を口にする。
「今は、足手まといでも……姉さまと、同じように……姉さまのように、なりたい……ですからっ……うくぅ……っ」
 なおも数度、尿意の余韻に背筋を震わせながらも、ちろり、とほんのひとしずくだけ琥珀色の雫をこぼしただけでシズクは耐え切った。腹の中が泡立つかのような猛烈な尿意を下腹部の筋肉だけで押さえこみ、シズクはぜえぜえと大きく肩を上下させる。
 まさにその腹の中は煮え滾る湯釜の中のような、地獄の有様だろう。
「良く辛抱しましたね、シズク」
「ねえ様……」
 憔悴しきった表情で姉に応えるシズク。カスミはそっとその頭を撫でてやった。シズクは普段の緊張した様子からもさらにほぐれた、年齢相応のあどけない笑顔を覗かせる。
「ふふ、ご褒美に今夜は少し遊んであげましょうか? いつも一人では寂しいでしょう?」
「っ……」
 姉妹の絆を深めるための閨の誘いに、羞恥に顔を染めるシズク。
「どうしたの? 嬉しくないのですか?」
「ぅ……うれしい、ですけれど……、ま、また、弄られたら……すぐに、辛抱できなくなってしまいます……」
「なんです。本気にしたのですか?」
「――ひ、酷いですっ、姉さまっ!?」
 そう答える妹分に、どこか愛おしさを覚えながら、カスミは笑顔で答えるのだった。
 (初出:書き下ろし 2008/01/12)

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