永久我慢の狂想曲 CASE:浅川静菜1

 永久我慢の輪舞曲スレに投下したネタの改訂版。
 ある種やりすぎなくらいに恐ろしく長い我慢モノ。かなり続く。


「――でね? そうしたら先輩がさぁ」
「ホント? 凄いねー。三島先生怒ってたんじゃないの?」
「あっははっ、言えてるかもー」
 ファミリーレストランの禁煙席でかしましくお喋りの声が響く。冷房の効いたレストランのボックス席でドリンクバーのグラスを重ねる少女達は、遅い梅雨明けの後に訪れた週末の解放感を全身で謳歌していた。
 楽しげに交わされる笑い声の中、一番奥まった席に付いている少女の表情だけがわずかに翳っている。良く見れば少女の膝はきゅっと寄せ合わされ、かかとは小刻みに震えていた。
「よし、おかわりしてこよ」
「あ、あたしもお願い」
「わたしもー」
「……静菜ちゃんは?」
「あ、……う、うん」
 不意に声を掛けられ、静菜はふと顔を上げた。ちらり、とまだ半分ほど残ったグラスの中身を眺め、小さく頷いた。全員のグラスを持ってドリンクバーに向かう友人達を見送りながら、静菜は席に残った隣の友人に小声で話しかける。
「ねえ」
「なに? 静菜ちゃん。なにか頼むの?」
「そうじゃなくてさ……ゴメンね――私、その、『おトイレ』行きたいんだけど」
「あ……ごめんっ」
 友人は――先ほどから小さく脚を擦り合わせていた静菜の様子を見て、慌てたように大きく椅子を引いてくれた。ようやく席から立てるスペースが解放され、静菜は大急ぎで席を立つ。
「ありがと……ちょっと行ってくるね」
「うん、いってらっしゃい」
 友人の声を背中に、静菜は混雑する店内を横切って、真っ直ぐに『おトイレ』を目指す。
(ぅあ……ちょ、ちょっと……マズイ、かもっ)
 先刻から静菜の下腹部を占領していた重苦しい圧迫感は、立ち上がると同時に鈍い疼きに変わり、すぐさま股間へと伝播していった。むず痒いようなつんとした感覚があっという間に下半身を占領し、少女の排泄器官を刺激する。
(ぁあ……だめ、来ちゃう……っ!!)
 できるだけ平静を装おうと努力はしていたものの、込み上げてくる尿意の波は静菜の予想を大きく上回っていた。とうとう早足では耐え切れなくなり、静菜はせわしなく入り口のドアを揺らし、小走りに『おトイレ』へと駆け込んでゆく。
(は、はやくっ……はやくしなきゃっ……『おトイレ』……間に合わないよっ!)
 クリーム色のタイル張りのトイレには、鍵のかかっていない個室が二つ並んでいた。幸いなことに塞がっているのは一つだけ。
 心の中で幸運に感謝しながら、焦る心を沸き立つ下腹部と一緒になんとか抑えつけ、静菜は一番手近な個室に飛びこんだ。鍵をかけるのももどかしく、ジーンズのベルトに手をかける。
(っ、……!!)
 疼く下腹部と尿意の波にこぼれそうになった悲鳴をおしとどめ、きつく腹部を固定していたベルトを緩めて、続けてズボンの前を止めているボタンも外し、脚の間に手のひらを滑りこませる。
 そのままノンストップで便座の上に腰を下ろす。都合2秒ほどの『おトイレ』のための動作を早業で終え、静菜は大きく息をついた。
「はああぁ……」
 狭い個室にゆっくりと響く安堵の声。
(ま、間に合ったぁ……)
 ゆっくりと詰めていた息を吐きながら、静菜の体が脱力する。
 強張っていた下半身の緊張が解け、張り詰めていた尿意がじんわりと拡散してゆく。どうにか免れたオモラシの危機と、尿意からの解放に、静菜はこくり、と口の中にたまっていた唾を飲み込む。
(も、もうちょっとでホントに出ちゃうトコだったかも……『おトイレ』、我慢できてよかったぁ……)
 きしきし、と身体を前後させながら、静菜はそっと下腹部を撫でさする。
 ――もし、ドアの外に順番を待つ誰かがいれば、もしかすると異常に気付いたかもしれない。
 あれだけ切羽詰って『おトイレ』を渇望し、ぎりぎりのところで駆け込んだ静菜だというのに、一向に尿意の解放を示す水音も、それを隠蔽する音消しの洗浄音も聞こえてこないことに。
「はぁ……」
 狭い個室の、様式便器の上。慎重に深呼吸を繰り返す静菜の股間。そこには彼女の両手が差し込まれ、下着の上から石のように硬くなった下腹部をゆっくりと前後に揉みぼぐしている。
 下着。……そう、下着だ。
 静菜は淡い水色の下着をしっかりと穿いたまま、便座に腰を下ろしているのだった。少女の股間を覆い保護するはずの薄い布地は、うっすらと下腹部に食い込み、まるで少女の排泄器官を拘束するかのように、確固としてそこに留まっていた。
「……んっ、…んぅっ……」
 時折響く鼻にかかった声は、少女の尿意の波を知らせるバロメータ。ぎゅぎゅっと自分のリズムに合わせて股間をマッサージし、静菜は下腹部をゆっくりと揉み解してゆく。手慣れた指先の動きには、そうすることで少しでも長く尿意をやり過ごそうとする意図がはっきり見受けられた。
(はぁ……『おトイレ』、キモチいい…。……ずっと我慢してたもんね……)
 もう何時間も前から我慢していた“前押さえ”と“股間を握り締め”る解放感が、徐々に股間の緊張をほぐし尿意を和らげて行く。その安心感に身を委ね、静菜はまるでオシッコを済ませたかのような安堵の吐息をこぼした。
 なんとも奇矯なことに。
 友人に『おトイレ』と告げ、個室に限界に近い尿意を堪えたまま駆け込んでおきながら、静菜はかたくなに、この排泄のための場所で、膀胱を占領し続けるオシッコを出そうとはしていなかったのだった。
「はぁ……ふぅ……」
 深呼吸と共に、震えていた膝がゆっくりと落ちつきを取り戻し、引けていた腰も脱力を始める。やや内股の脚だけはまだいくらか尿意の余韻を残していたが、さっきまでの切羽詰った状況は大分緩和されていた。
「ふぅ……すっきりしたぁ……」
 しかし、その言葉とは裏腹に。ベルトとズボンに抑えつけられていた下腹部は、その跡を薄赤くくっきり残したまま、ぱんぱんになった膀胱の形そのままになだらかに膨らんでいる。
 少女のしなやかな体型をいびつに歪めてしまうほどに、静菜の尿意がすさまじいものになっていることは傍目にもはっきりと窺えるのだった。そうして激しい尿意に現在進行形で苛まれながらも、静菜はかたくなにトイレを使おうとはしない。
 ――いや、
(うぅ……急にくるんだもんなぁ……ちょっと油断してジュース飲みすぎちゃったかも……。
 だいじょうぶ、我慢、我慢……ちゃんと『おトイレ』したんだし、ね)
 正確には使いたくとも、使えないといったほうが正しい。
 静菜にとって、ここは『おトイレ』をする場所であって、決して本来の意味のトイレ――オシッコを済ませるための場所ではない。暖かな色合いのクリーム色のタイル張りの壁も、十分なスペースを取って堅固に区切られた個室も、清潔に整えられ、温水洗浄と保温便座を備えた便器も、たっぷり準備された上等なトイレットペーパーも、全て飾りでしかない。
 排泄を済ませるための設備をこれ以上ないほど完璧に整えていながら、ここで静菜はオシッコをすることは許されなかった。
 だから、ここで静菜ができるのは、オシッコではなく『おトイレ』。
 つまり、今も彼女が続けている、限界近くなった尿意を堪えるための『前押さえ』と『我慢の仕草』なのだった。
 ……それがいつのことだったか、静菜はもうはっきりと覚えていない。
 静菜がずっとずっと小さかった頃だ。たしか、日曜日だかのお休みの日の日、両親が揃って用事で出かけ、静菜は当時はまだ一緒に暮らしていた祖母とデパートにお出かけをした。
 その時、どういう具合か静菜はどうしてもオシッコが我慢できなくなってしまった。原因は前の日に飲みすぎたジュースか、祖母にねだったソフトクリームか、定かではない。とにかく、まだ小さな静菜にとってそれは人生最大のピンチだった。
 祖母は優しいけれど礼儀に厳しい人で、静菜が行儀の悪いことをしているとすぐに怖い顔でお説教をした。だから静菜は必死になって気付かれないように我慢をし、精一杯普通に振舞った。
 けれど、小さな女の子がそんな簡単にオシッコがしたいのを隠しきれるはずがない。とうとう祖母には気付かれてしまい、静菜はデパートに行く途中の商店街のまんなかでお説教されながらオモラシをしてしまったのだった。
『この子ったら!! いくつになるの!? まだお手洗いのしつけもできてないなんて、なんて恥ずかしい子かしら!!』
『まだオムツも卒業できてないなんて、恥ずかしい……!!』
『これじゃあみっともなくて、表も歩けないじゃないの!!』
 大切なお出かけの日に、多くの人の前で恥も外聞もなくトイレを我慢し、ついにはオモラシという大失態を犯してしまうという前代未聞の出来事に、祖母は激しく怒りをぶつけた。お仕置きという名目で、静菜を着替えさせないまま……オモラシのまま濡れたスカートと靴を履かせたまま、家まで連れ返ったのだ。
 絶えることない周囲の視線は、まだ幼い静菜の心を激しく苛んだ。泣きじゃくる静菜をよそに、祖母はオモラシがどれだけみっともないことなのか、女の子が人前でトイレを我慢するなんてあってはならないことか。そして外でオシッコをするなんてとんでもないことだと繰り返し言い聞かせたのだった。
 いささか潔癖すぎるそんな道徳観を、祖母はまだ片手にも満たない年齢の幼い静菜に押しつけた。それは、ミッション系の教師を勤め多くの生徒をどこに出しても恥ずかしくない良家の令嬢として世に送り出してきた祖母なりの矜持だったのかもしれない。
 しかし、静菜はその教えをまっすぐ受けとめるにはあまりに幼かった。羞恥と共に刻み込まれた言葉は、呪縛のように静菜にひとつの恐怖感を植え付けてしまったのである。
 仕事で忙しい静菜の両親は祖母に娘を任せきりで、その『異常』を見過ごしてしまっていた。
 彼等が注意深く娘の様子に気を配っていれば、いつしか、静菜が家以外の場所でトイレに入ることがなくなったことに気付いただろう。
 ……それでもまだ、静菜が十分に幼く、生活の場が家を中心にしている間はそれほどの問題が生じることはなかった。
 だが、やがて祖母が他界し、静菜は学校に上がることになる。
 そこで静菜は初めて、自身の身体に起きた異常を自覚したのだった。
 ――自分が、家以外のトイレではオシッコをできなくなってしまっているという事実に。

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