「っ、つ、次は……っ」
白くて大きな袋が、雪の積もった煙突からにゅいっと突き出した。深い夜空の下に、白い息がほうっと吐き出され、続いてほんのり赤く染まったほっぺたの少女が屋根の上に姿を現す。
屋根の上の新雪を踏みながら、赤と白の衣装をまとった金髪の少女は額に浮かんだ汗を拭う。
「ああもう、急いでサニー!! だいぶ遅れてるよぉ、はやくはしなきゃ朝になっちゃうってば!!」
「わ、わかってるわよぉ!!」
急かす声に答えて、サニーは足元の大きな荷物をえいやっと背負う。一抱えではすまない大きな白い袋は、いまなお詰め込まれたプレゼントでぱんぱんに膨らんでいた。小柄なサニーでは、まるでいまにも荷物に押し潰されそうな有様だ。
「ほら早くってば、サニー!!」
屋根の端では、ソリを引く赤鼻のトナカイのニコが蹄を鳴らしてサニーを急かす。荒い息をつきながら、あぶなっかしい足取りでふらふらと屋根を伝って、サニーはどうにかそこまでたどり着くと、背中の荷物をどずん、とそりに載せた。
「はぁっ……」
膝に手を乗せて大きく意気を吐くサニーに、ニコはぶるぶると角を振って言う。
「ひと休みしてる暇なんかないよサニー!! まだまだたくさん回る家が残ってるんだから!! ほら、次の家は4丁目の角だ!!」
「あ、ちょ、ちょっと待ってよっ!!」
主人の了解も待たずにいきなり走り出したニコに、サニーはびっくりしてソリにしがみ付く。サニーが腰を下ろすと同時、魔法のソリはしゃんしゃんと鈴を鳴らし、光の尾を引いてふわりと夜空に舞い上がった。
「もぉ、いったいどうしたのさ。他の子はみんなとっくにここらの家にはプレゼント配り終えるよ。サニーだけそんなに遅れちゃって……」
真っ赤な鼻で行く手を照らしながら、ソリをびゅんびゅんと加速させるニコ。金の鈴もうるさいくらいに鳴り響く安全運転とはいいがたい速度に、ソリはがだごとと揺れ大きく跳ねた。サニーは慌てて脚に力を込め、ソリの手摺にしがみ付いた。
「ニコ、ちょっと……は、早すぎるってば!! スピード違反だよっ」
「そんなこと言ってる場合じゃないよ!? 見てみなよその袋、あとどれだけプレゼント残ってるかわかってるの!?」
ただでさえ遅れているスケジュールに加え、屋根の上で延々と待たされ続けたニコはだいぶいらいらしているようだった。それに関しては全くサニーのせいなので、文句の言いようはない。
(でもっ……)
口にできないもどかしさに、サニーは唇を噛んでそっとスカートを握り締める。
ニコの苛立ちもしかたのないことだ。サニーのプレゼントの袋はまだ見上げるほどに大きく、配るべきプレゼントはぎっしりと中に詰まっている。予定の半分どころか4分の1も終わっていないのだ。
「もう12時も過ぎてるんだよ? もっと急がなきゃ今夜じゅうに終わらないよ!! サンタクロースがクリスマスにプレゼントを配りきれないなんて、前代未聞じゃないか!!」
「う、うん……」
まくし立てるニコに曖昧に頷きながら、サニーは冷たいソリの上でもぞもぞとおしりの位置を直した。サンタクロースの正装と決まっている赤白の制服は、この時期には防寒対策をしても少々寒さを感じるもので、スカートとタイツの布地を通して天板の冷たさがじんわりとおしりに染み込んでくるのだ。
女の子のサニーには少々どころか、かなり辛い。
まして――いまのサニーは、それよりもさらに切迫した理由がある。
「とにかく、僕もできる限り急ぐから、サニーもぐずぐずしないでぱぱっと配っちゃってね!! ここが終わったら次の街もこれから回らなきゃいけないんだから!!」
「ね、ねえ、ニコ、あのさ」
「なに? ……お喋りなら後にしてよ。ほら、次の子のところについた。行ってきて!!」
言いかけたサニーの言葉は、ブレーキをかけたソリによって掻き消されてしまう。次の家の屋根の上に到着したのだ。
座っていたサニーはスカートを握っていた手を離し、ソリから立ち上がった。
「プレゼントは持った? ここの子はクマのぬいぐるみだから、間違いないでね!?」
「う、うん」
サニーはソリの荷台から、プレゼントの入った袋を持ち上げる。サニーの小さな身体の倍もあるような袋は、もちろん魔法の袋で、サンタクロースが世界中の子供たちに一晩で配るプレゼントを詰め込んだものだ。
子供達の寝ている部屋に行って、サンタクロースがこの袋の中に手を入れると、子供たちがお願いしているプレゼントが自動的に出てくるようになっているのだ。
クリスマスの魔法で小柄なサニーにもどうにか持てるようになってはいるが、それでも世界中の子供たちのためのプレゼントがぎっしり入っているのである。大きな袋を両手で背負い、サニーはふらふらと倒れそうになるのを頑張って堪えるので精一杯だ。
(ぁう……っ)
しかし、サニーの足元がおぼつかないのは、単に屋根の上に積もった雪やプレゼントの重さだけが理由ではない。
「ほら、サニー早く!!」
「――ああもうっ!! わかってるってば、ニコっ!!」
意を決してサニーは煙突から家の中に飛び込んだ。煤だらけの煙突はとても人が通れるほどに広くもないのだが、サンタクロースのサニーはもちろんそんなことで汚れたりしないし、大きなプレゼントの袋がひっかかることもない。
するんと煙突を通り抜け、すとんと暖炉の中に着地したサニーはまだ暖かい薪の間から顔を出して、ゆっくりと立ち上がる。
(んぅっ……)
暖炉のある部屋はかなり広く、パーティーの後のようで、片付け切れていないクラッカーのリボンや七面鳥の食べ残し、グラスに半分だけ残ったワインなんかも並んでいた。
ソファーの上では、子供たちが眠ったあともおおはしゃぎだったらしい大人たちが三角帽子を被ったまま毛布に包まって、思い思いのかっこうですうすうと寝息を立てている。中にはワインの瓶を抱きしめて眠っている赤ら顔のおじいさんの姿まであった。
(ぁ……ぅ……)
部屋の中の全員が深く眠りに落ち、誰も見ているものがいないことを確認すると、サニーは袋を下ろし、小さく胸を撫で下ろした。
同時に、彼女の爪先が小刻みにステップを踏み始める。
ぴったりと寄せ合わされたタイツの膝。ぐっと前屈みの前傾姿勢。それが今のサニーの一番楽な格好だ。
(――……っ、と、トイレ……っ)
きゅうんっ、と少女のおなかのなかを占領している熱い液体が、切なく下腹部を疼かせる。
サニーがさっきから落ち着きがないのも、いつもはサンタクロースたちの中でも一番のスピードを誇るサニーが、今日に限ってえらくもたもたしている理由も、全てはこれが理由だった。
身体をあっためようとして、みんなに隠れてこっそりと拝借したホットワインをついつい飲みすぎたのが原因だったのだろう。ホワイトクリスマスの街を彩る雪に、真冬の夜風はソリの上のサニーの身体を冷やし、あっという間に飲んだ分をそっくりそのままオシッコに変えてしまった。
サニーはずっと、トイレに行きたいのを必死に我慢したままプレゼントを配り続けているのだった。
(やだ、もうだめ、でちゃうっ……オシッコしたいよぉ……っ)
間断なくこみ上げてくる尿意の波は休まることなくサニーを苦しめ続け、少女は今にも音を上げそうになってしまう。
サニーのおなかの中はプレゼントの袋なんか問題じゃないくらいにぱんぱんで、今すぐにトイレに駆け込まなければならないほどに切羽詰っている。
しかし、サニーはサンタクロースなのだ。普通の家でトイレを借りるわけにはいかないのである。そんな事をすれば、クリスマスの魔法が解けてしまい、世界中のサンタクロース全員にも迷惑がかかってしまうのだ。
“サンタクロースはいる”そう信じている子供たちが起こす聖なる夜の魔法は、サニーたちを一晩だけ、絵本の中の本物のサンタクロースにしてくれる。ニコのソリが空を飛べるのも、サニーが煙突から出入りできるのも、何もしなくても枕元に靴下の用意された部屋の場所がわかるのも、全部クリスマスの魔法のおかげなのだ。
(もぉ……やだぁ……っ と、トイレぇ……)
泣き出しそうになったサニーのぷるぷるとタイツの膝が震える。
クリスマスの魔法によって、サンタクロースのいる家では子供たちは絶対に目を覚まさない。誰もいないのをいいことに、サニーは人前ではとてもできないような恥ずかしい格好で我慢をしてしまう。
スカートの上から脚の間をぎゅうぎゅうと押さえる片方の手は、はっきりと下着のうえからあそこを握り締めてしまうほど。脚の付け根にぐっと力を込めて、ちょこんとお尻を後ろに突き出したアヒルみたいな格好で、サニーはそろそろとダイニングを出てゆく。
(すぐそこに、トイレ……あるのにぃっ……!!)
小さなドアを目の前にして、一層股間を握り締める手のひらに力が篭ってしまう。待望のトイレを目の前にしながら、サニーはそこに駆け込むことを許されなかった。
クリスマスの魔法が効いているのは、サンタクロースたちがちゃんと仕事をしている間だけなのだ。それ以外のことをすれば、魔法はすぐに解けてしまう。
だって、サンタクロースが家にオシッコがしたくてトイレを借りに来るなんて思っている子供は誰もいないからだ。
(ふぅんんっ……っ)
きゅきゅっと脚を踏み鳴らし、もじもじとお尻を揺する。重い足を引きずってトイレの誘惑を振り切り、廊下の反対側の階段を登り始めるサニー。目指す子供部屋はこの上にある。
(や、やぁ、やだっ……)
が、立て続けに押し寄せるオシッコの猛威に、サニーは階段の踊り場でとうとう動けなくなってしまった。
「サニー!? ねえ、どうしたのさ!! 早くしてよ!! さっきから急いでって言ってるじゃないか!!」
いつまでも戻ってこないサニーを見かねて、ニコが煙突の上から叫ぶ。
「っ、わ、わかってるってばぁ……っ」
「ぐずぐずしないで!! まだ沢山プレゼント、あるんだよ!?」
(ば、馬鹿ぁ……そんなのほっぽって、早く帰りたいわよぉっ……そ、それで、はやく、オシッコ……トイレぇ……っ!!)
今この瞬間、サニーが願えるものなら、ありったけの一生のお願いを使ってクリスマスのプレゼントにトイレをお願いしたいくらいだ。
サニーの身体はすっかり冷え、おなかの中ででたぷたぷと揺れるオシッコを堪えるので精一杯だった。ぎゅっと脚の付け根を押さえる手は磁石でそこに張り付いたように、ぴったりとくっついて離れない。片方の手はプレゼントの袋で塞がり、もう片方の手はスカートの前を押さえるので精一杯。もうこれ以上、オシッコを我慢するためにできることはないのである。
不恰好なアヒルの姿勢とおぼつかない足取りでは、階段を登りきるのに何分もかかってしまう有様だった。
「サニー!?」
「う、うるさいっ、ちゃんとやってるからぁ!!」
ニコに怒鳴られながら、ようやく到着した二階の子供部屋では、長い髪の女の子がすうすうと寝息を立てていた。あまり寝相はよろしくなく、ふかふかの羽根布団は跳ね除けられて、薄い綿毛布だけが辛うじておなかを覆っている。このままでは風邪を引いてしまうのではないかと心配になる格好だった。
ベッドの枕元には紅白ストライプの靴下と、サンタさんに宛てたらしき手紙もある。
けれど、サニーはそんなものを他所に、プレゼントの袋も放り出して、両手でぎゅううっ、とタイツの上から直接脚の間を押さえはじめてしまった。
焦る視線がきょろきょろと部屋の中をさまよう。
(お、オシッコ……っ)
しかし、子供部屋のどこを探してもトイレなんかがあるはずもない。
サニーにできる一番の方法は、
この子のプレゼントを配ったら、全速力の大急ぎで階段を駆け下り、ダイニングをまっすぐに突っ切って、できるだけ早く煙突を登って、死にたいほど恥ずかしいのを我慢しながら、ニコにオシッコが我慢できないことを説明して、トイレに行きたいとお願いをして、どこか近くの茂みか森の中に降りてもらって、タイツと下着を足首まで下ろし、お尻を丸出しにしてしゃがみ込んで、そこでこっそりとオシッコを済ませることだった。
だが。
(む、無理っ……!! ムリムリ、ぜったいそんなの無理っ……!! ま、間に合うわけないよぉ……っ!! ま、またお外に出て我慢なんて、ぜったいにオモラシしちゃうっ……!!)
くじけそうになった心が呼び水になったのか、サニーが押さえる指の下で、勝手に水門が開き出してしまう。
タイツの上から脚の付け根を握り締めた指の隙間で、じゅわっという熱い感触と水音が響く。
「ぁ、や、あぁあっ」
じょわ、じゅわっ、じゅぅうっ。
ダムを乗り越えた熱い雫が、下着にじわじわとあふれ出してゆく。タイツの上まで一気に染み出したオシッコが、サニーの脚の間に滲んだ。
「や、やだっ、止まって、止まってぇ……っ!!」
こんなトコロでオモラシなんて。
なんとか両手を使っておチビリを止めようとするサニーだが、もう身体のほうは勝手にオシッコの準備を完了し、どんどん水門を開いてしまっている。タイツの腿にひとすじふたすじと水流が流れ、サンタクロースの衣装の下半身に濃い染みが広がってゆく。
「サニーっ!!」
「ひぅっ!?」
唐突に、ニコが怒る声がさっきよりもずっと強く大きく響いた。いい加減に待ちくたびれたニコは、ソリと一緒に子供部屋のベランダに回りこんでいたのだ。
驚いたサニーは反射的にあそこを押さえる手を離し、床の袋を掴んで女の子のベッドの側に駆け寄ってしまった。
両手の助けまで借りてやっと押さえ込んでいた放水を、疲れきった括約筋の力だけでは押しとどめられるわけもない。必死の締め付けも空しく、とうとうサニーのお股の間のところ、オシッコの出口のすぐ下でしゅる、しゅるうっ、じゅわぁああっ、とイケナイ音が立て続けに響く。
(だ、だめえ――っ!!)
声にならない叫びをあげ、タイツの上から下着を掴んで引っ張り上げるサニーだが、もう遅い。
下着の股布に広がる熱い感触はあっという間に広がり、湯気を立てるほどの熱水が脚の間からおしりへと広がってゆく。閉ざされるべき小さな孔がぷくりとふくらみ、じゅう、じゅうとパンツに飛沫を吹き付けるのがはっきりと感じられてしまう。
同時にサニーの脚から力が抜け、腰がふわりと軽くなった。
「きゃぁっ……!?」
サニーはそのままころんとベッドの上に倒れこんでしまった。めくれあがった羽毛布団が上半身を受け止めてくれたものの、女の子の上にどしんと圧し掛かってしまった格好である。
「あ、や、……~~っ!!」
衝突の衝撃がぱんぱんの下腹部を圧迫し、限界の出口を突き破る。まるで水風船が破裂するように、サニーの太腿に大量の水流がはじけた。ぐしょ濡れで肌に張り付いた布地の中を、噴出す水流が蛇のようにのたうつ。
狭い布地の隙間をいっぱいに浸し、そのままあふれ出したオシッコはタイツの大半を淡い黄色に染めて、めくれたスカートの下からしょろしょろと流れ出た。雪の積もった寒さの中、しんと冷え切った部屋の中でも、サニーのオシッコは湯気を立てるほどに熱い。
「やだ、だめぇ、だめぇえっ……」
見知らぬ少女のベッドを汚してしまうという最悪の事態に、サニーはすっかりパニックだった。
両膝を突いた姿勢で腰を振りたてオシッコを止めようとするが、我慢に我慢を重ねたオモラシは途方もない威力で、おなかのなかをすっかり空っぽにするまではおさまるとも思えなかった。
じんわりとおしりや股間に広がってゆく熱い雫の感覚と共に、身体からはすっかり熱が抜け落ちてゆく。崩壊のショックと我慢からの解放感で、サニーはそこからベッドの上で動けなくなってしまっていた。
すうすうと寝息を立てたままの女の子のちょうど腰の上。ベッドどころか直接、女の子の下半身をサニーのオシッコが濡らしてゆく。
「ぁ、は……ふぅっ……」
じぃーんと腰に響く甘い感触に、サニーは目を閉じて、ぶるりと背中を震わせた。
じゅじゅじゅっ、じゅううう、じょわあぁああ……
すうすうと寝息を立てる女の子の真上で、サニーの漏らしたオシッコがタイツの太腿を伝い、激しく飛び散り、こぼれ落ちてゆく。いまやベッドの上は大洪水、世界地図どころか七つの海が出来上がっているほどだ。
なんとたっぷり1分以上も、サニーのオモラシは続いた。
おなかをぱんぱんに膨らませ占領していた熱がごっそりと抜け落ち、ぐしゃぐしゃに濡れぼそったスカートと下着が股間に張り付く。
だんだんと冷たくなってゆく下半身に、ようやくサニーの頭が晴れてゆく。
(っ……!!)
べちゃっ、と脚に張り付いたスカートは、オモラシの最中も身体の前のほうでぎゅうっと握り締められていため、大きくおしりのほうでまくれ上がり、可愛い下着をのぞかせていた。
そのパンツも水浸しになって、タイツの上から半分透け、サニーのまるくてちっちゃな白いおしりを覗かせていた。
そして足元には大きなオシッコの湖ができあがり、その上でパジャマのままの女の子は相変わらずすうすうと眠っている。暢気なものだとも思うが、サンタクロースがいる間はこの子は目を覚まさないのだから、しょうがないといえばしょうがない。
(や、やだ……やっちゃったぁ……)
ようやく戻ってきた現実感と共に、オモラシのショックがサニーを襲った。
(ひ、人の家なのに……ううん、こ、この子の上でっ……お、オシッコ……オモラシ……しちゃったっ…!! ……わ、私、サンタクロース、なのにっ……!!)
あろうことか、サニーはプレゼントを配る相手の真上で、残らずオシッコを漏らしてしまったのだ。まるで女の子自身が盛大にオネショをやらかしたかのように、ベッドは惨憺たる有様になっている。
この一年、がんばっていい子にしていたはずのアカリに対して、プレゼントを届けるはずのサニーが、あまりにも酷い仕打ちをしてしまったのである。
(っ……)
「ぅん…?」
サニー同様下半身をずぶぬれにして、ころん、と寝返りをうつ少女に、サニーは口元まで出そうになった悲鳴を飲み込んで飛び上がった。
少し考えれば、サンタクロースの前で子供が目を覚ますわけはないのだが、オモラシのショックで動揺しているサニーがそのことに思い至るわけもない。
サニーは汚れたままの手でプレゼントの袋を掴むと、女の子の分のプレゼントを配るのも忘れたまま、一目散に子供部屋を飛び出していた。全速力で階段を駆け下り、逃げるように暖炉に飛び込む。
その間にも、サニーのびしょぬれのタイツはびちゃびちゃと音を立て、廊下や絨毯にたくさんのオシッコの痕を残してしまう。
「――もお、遅いってば!! サニーってばなにやってたのさ……」
「っ……!!」
煙突を駆け上がったその先の屋根上で、待ちぼうけをくわされたニコが文句を言おうと口を尖らせる。
「あ、あれ? サニー? そ、それどうしたの……?」
「ぅ、ぁ、っッ……!!」
しかし――下半身をあきれるくらいずぶ濡れにし、涙を浮かべ、真っ赤になって戻ってきたサニーを見て、ニコもおもわず言葉を失ってしまった。
ニコの視線が再度濡れた足元とスカートへ向かうのを見て、サニーの頬へとうとう堪えていたものがあふれ出した。
「っ……えぐっ……ひうっ……ぅわぁーーーんんっ……」
夜空に響く大きな泣き声。屋根の上で泣き崩れてしまうサニーを前に、ニコはどうしていいかわからずに、ただうろたえるばかりだった。
――翌朝。
クリスマスの朝にアカリを起こしにきたアカリのお母さんは、アカリがいつもよりもさらに盛大におしりの下と脚の間に、特大の世界地図を描いてしまっていることを知って、大きく眉を吊り上げた。
『なんですか、アカリ!! いい歳して、またオネショしちゃったの!?』
3年生にもなってオネショが直らないアカリは、よくそうやってお母さんに怒られてしまう。けれどその日のアカリは『ごめんなさい』の代わりに小さく首を振って、訳を話すことにした。
『あのねママ、ちっちゃな女の子のサンタさんが来てたの。それで、その子、ずっとプレゼント配る間もいっしょうけんめいオシッコをガマンしてて、でも我慢できなくて、オモラシしちゃったの。だから……』
アカリのたどたどしい説明を聞くと、お母さんは呆れたようにしながらも言い訳しないのという言葉を飲み込んで、それ以上怒るのをやめてくれた。
『はぁ……もういいわ。クリスマスだもの、特別よ。……そのサンタさんにお礼を言いなさいね。オモラシしちゃくらいいっしょうけんめいプレゼント、配ってたんだものね』
早くお風呂に入るように言うお母さんにうなずいて、濡れたパジャマを着替えながら、アカリは窓の外を見て心の中で三回、ありがとうとごめんなさいを言いました。
『……だいじょうぶだったかな、サンタさん。……サンタさんのママに怒られたりしてないかな……』
アカリの一番欲しかったプレゼントは、実はお父さんにお願いしていたクマのぬいぐるみではない。いまだに直らないオモラシを直す方法だった。
アカリのオネショは正確にはオネショではない。夜になるとどうしてもオシッコに行きたくなるのに、なぜだかはっきり目が覚めないで、そのままウトウトしているうちに、身体が勝手にオシッコを出し始めてしまうのである。
――プレゼントはいりませんから、どうかそれを直してください。
アカリはそうサンタクロースにお願いしていた。
そして迎えたクリスマスイブの昨日も、トイレに行きたいのにどうしてもベッドから出ることができずにいたところに――あの可愛いサンタさんがやってきたのだ。
サンタさんがとうとうガマンできなくて、アカリのベッドの上で顔を真っ赤にしてオモラシを始めてしまったとき、アカリの身体も一瞬だけ遅れてオシッコを出しはじめてしまっていた。
あのサンタさんのおかげで、アカリのオネショはお母さんには気付かれなかったのである。
サニーは知る由もないが、あの場でサニーがオモラシをはじめてしまったのも当然だったのだ。アカリが一番欲しかったのは、自分のオモラシをごまかしてくれる誰かだったのだから。
だから――サニーのおなかをぱんぱんに膨らませていたあのオシッコは、部アカリへのクリスマスプレゼントだったのだ。
(初出:書き下ろし 2008/12/25 2008/12/301改訂)
サンタクロースの話。
