小説 春休みの話 暦の上では春とは言っても、まだ幾分寒さの残る風が吹き付け、商店街を行く人々の間を駆け抜けて行く。あいにくと曇り空の下、雨の気配を感じた店の人が傘立てや雨除けを引き出し、夕方からの下り坂の天気に備えていた。 そんな雑踏の中を進む、ポニーテール... 2009.03.25 小説
小説 倉庫とビニール袋の話・4 「まだなの……!? もうっ……どこ、行っちゃったのよぉ……っ」 苛立ちながら、美智佳は赤くなった顔をごしごしと擦る。 少年が立ち去ってから、どれくらい経ったのだろう。もう何時間も前のように感じられていたが、相変わらず日は高く、地面に落ちる影... 2009.03.25 小説
小説 倉庫とビニール袋の話・3 とうとう、倉庫の真ん中で我慢しきれずにおしっこをしてしまい、美智佳はその事実にすっかり打ちのめされてしまった。 女の子としてありえない行いに、美智佳は情けなさと恥かしさでばらばらになりそうで、唇をぎゅっと噛み締めて涙をこらえる。 と、不意に... 2009.03.25 小説
小説 倉庫とビニール袋の話・2 (はぁ……っ) アキの足音が遠く響く子供達の喧騒に紛れて聞こえなくなり、美智佳は大きく息を吐く。 一時はどうなることかと思っていたおチビリはどうにか止まっていた。……いや、あるいは我慢できない分を、全部漏らしてしまったのかもしれない。オモラ... 2009.03.25 小説
小説 倉庫とビニール袋の話・1 「もーぉいーぃかーいっ!?」「まーだだよぉーっ!!」 はしゃぐ子供達の小さな声が、窓の向こうへ遠ざかってゆく。汗ばんだTシャツの裾をつまんでぱたぱたと風を送りながら、美智佳はぽすんと積み重ねられた園芸肥料の袋の上に腰掛ける。 目鼻立ちの整っ... 2009.03.25 小説
永久我慢 永久我慢の狂想曲 CASE:浅川静菜10 チャイムが鳴った。 二つ目の授業が終わり、休み時間の始まりとなる。 時刻は10時過ぎ――静菜が登校して2時間が経過していた。 教師がドアを閉め退室すると、教室は一気に騒がしくなる。持ってきた雑誌を広げて放課後の予定を立てる者、携帯を広げてメ... 2009.03.15 永久我慢
小説 公爵令嬢のお話・4 (が、我慢――がまん、しなきゃ――) 御者の青年に従いながら、もどかしい足取りでよちよちと歩く公爵令嬢が抱えていたのは、哀れにも、悲壮な決意だった。 見えない敵から、乙女の貞操を守るために、緊張に強張る足は大きく内股となり、腰はアヒルのよう... 2009.03.15 小説
小説 公爵令嬢のお話・3 (な――なに、これ) 呆然と、リミエルは声にならない声でつぶやく。 そこは、おおよそリミエルの考えられ得るどんな汚い場所よりも、醜悪に汚れていた。 四方を粗末な板で囲まれ、藁をふいただけの屋根の下は、恐ろしいほどの悪臭に満ちていた。地面はむ... 2009.03.15 小説
小説 公爵令嬢のお話・2 ふらふらと当てもなくさ迷っていたリミエルが、森の中に小さな広場を見つけたのはそのすぐ後だった。力の入らない足を引きずって馬車に戻ろうとしていたとき、少女の耳は調子はずれな歌を聞きつけたのである。「あ、あれは……?」 そこは、木々を切り倒して... 2009.03.15 小説