(はぁ……っ)
アキの足音が遠く響く子供達の喧騒に紛れて聞こえなくなり、美智佳は大きく息を吐く。
一時はどうなることかと思っていたおチビリはどうにか止まっていた。……いや、あるいは我慢できない分を、全部漏らしてしまったのかもしれない。オモラシの余韻でじんわりと痺れた股間は、まだはっきりとした感覚がない。
事実、いまや美智佳の下着は甚大な被害を被っていた。股布どころかお尻まで布地はぐちゅりと濡れぼそり、オシッコに透けて少女の肌に張り付いている。
サンダルの足元も美智香自身が排泄した雫に濡れてきらきらと輝き、倉庫の床にはぽたぽたと雫が飛び散っていた。
(……っ)
いくらか楽になった脚の付け根を握り締めながら、なかば放心状態のまま、美智香は頭が真っ白になってゆくのを感じていた。
指と手のひらを汚すぬるぬるとした感覚。ずっしりと重くなった下着。冷たくなった手のひらに、いっそ心地よいほどの熱い奔流がぶつかる余韻。下腹部をびりびりと走り抜ける甘い痺れ。我慢に我慢を重ねていたものが、大切な場所から勢いよく吹き出す瞬間の開放感。
その全てが、今は激しい罪悪感に化けている。
(も、漏らしちゃった……っ、こんなに……っ)
再度、下半身の惨状を確認し、美智佳は悲痛な呻きを飲み込んだ。
『オモラシ』の衝撃は、少女の羞恥心を無慈悲に蹂躙してゆく。
もう立派なお姉さんなのに、トイレを我慢できなかったことは、繊細な乙女心には耐え難い屈辱だ。
「ぅあ……」
身じろぎした下半身が、じゅくっと濡れた感触を響かせる。お尻を包み込む暖かい液体の感触は、ずっとずっと昔に卒業した懐かしいオネショの時にそっくりだ。
蝉の鳴き声が、代わらず響いている。
美智香がしゃがみこんでしまえば、他にはほとんど人が入るようなスペースもない小さな小部屋。まるで本当にトイレの個室にも似たそこは、しかし決してオシッコを済ませるための場所などではない。
「ぁうっ……」
時間の経過と共に、冷たくなり始めたパンツがおしりに張り付いて、ぐちゅりと音を立てる。股間からおしりの後ろまでを濡らすオモラシの不快な感触が、美智香の幼い羞恥心をざくざくと切り刻んでいた。
美智佳にとって、オシッコがうまくできないなんていうのは、小さな、それこそアキよりも小さな子供にしか許されないことだ。美智佳が最後にオネショをしたのだってもう何年も昔のことだ。とっくに卒業したはずのオモラシの再体験は、知らず潔癖に育った美智香の心に深く根付いたかつてのトラウマを呼び起こしてしまっていた。
(キモチ悪い……よぉ……)
ぐす、とこみ上げてくる涙を啜り、美智佳はのろのろと動き始める。
こんな格好、誰かに見られたら死んでしまうに違いない。
(このままじゃスカートも汚れちゃう……ぬ、脱がなきゃ……っ)
そもそも、オシッコで汚れ、ぐしゃぐしゃになった下着なんて、気持ち悪くてこれ以上濡れたままの下着を穿いていられそうにもなかった。なんだか今もまだ、オシッコが出続けているような錯覚さえ感じてしまう。
ぐちゅりと音を立て、脚の間にべったりと貼りついた下着の股布部分を指で引っ張り、美智香は脚を大きく開いて腰を突き出したガニ股の格好で、ふらふらと倉庫の隅にある棚に寄りかかる。内腿を伝って落ちるオシッコの筋が、これ以上スカートを汚さないように中腰の姿勢をとる。
「アキちゃんが、誰か呼んでくる前に……なんとかしなきゃ……」
幸いなことに、と言うべきか。漏らしてしまったオシッコの大半は下着に吸収されたため、ワンピースには甚大な被害はない。それでも小さくはない染みがついているが、誤魔化しきれないことはないかもしれない。
しかし、このままの状態で家まで帰ることはまず不可能にも思われた。
ゆっくりと慎重に、美智佳は下着を足元へ引きおろしてゆく。
「ぅう……っ」
ぐしゅ、と音を立てる下着に、罪悪感と嫌悪感がこみ上げてくる。誰も見ていないとはいえ、家でもなんでもない場所で下着を脱ぐのは強い抵抗があった。
ワンピースのスカートが触れないようにおなかの上まで引っ張りあげて口で端をつまみ、ぐっしょりと湿った下着を、注意しながらゆっくりと引き下ろしてゆく。美智香のオシッコをたっぷり含んだ小さな布地はぽたぽたと黄色い雫をこぼし、倉庫の床に点々と水滴を落とした。
その痕跡をサンダルの爪先でぐりぐりとこすり付けて誤魔化しながら、美智香は慎重にゆっくり下着を脚から抜く。むき出しになった股間は、まだ乾いていないせいでひんやりとした感覚を覚える。
「ぐすっ……」
オシッコまみれになった下着は、我慢の最中に無理矢理引っ張り続けられたせいで大きく伸び、形が崩れてしまっていた。お気に入りのパンツを台無しにしてしまった絶望感に、美智香は小さくしゃくりあげた。
このまま捨ててしまいたい気分にも駆られたが、パンツをなくしたまま家に帰ってもお母さんに説明できない。美智佳は濡れた指で下着をつまんだまま、倉庫の中を見回す。
(…………うぅ…っ。嫌だけど、し、しかたないよね……)
少なからぬ躊躇を飲み込んで、美智佳は近くにあった水泳バッグを引き寄せた。水中眼鏡やキャップといった水泳の道具と一緒に、バッグには濡れたままの学校指定の水着も中に入っている。
バッグを開いて、美智香はそこから使用済みの水着を詰め込んであるビニール袋を取り出して広げる。
オモラシぱんつを水着と一緒にするのは嫌でたまらなかったが、ほかにどうしようもない。まさかこのまま帰るわけにいかないのだ。
「…………っ」
濡れたスクール水着の傍に、美智佳は躊躇いながら別の水分で濡れたパンツをくるんと丸めて押し込んだ。
中身が出てこないように厳重にビニール袋の口を結んで、一仕事を終える。すうすうと落ち着かない下半身の上をスカートで押さえながら、美智佳は重い気分で溜息をついた。
「はぁっ……」
これでなんとか、外に出たときにオモラシしたことは悟られずに済むだろう。
タオルの端でこっそりと手を拭いて、そろそろとスカートの裾を気にしながらくるりとその場で一回転して、被害がないかを確認する。夏場のワンピースのスカートは大胆の膝の上に切り上げられていて、ちょっとしたことでめくれてしまわないかと気が気ではなかった。
まだ湿っている剥き出しの股間はすぅすぅと風に触れる。激しい動作をしなければ下着を付けていないことがわかるような短さではないはずだが、大切な場所をまるで隠すことができていない美智香の心理状態ではほんの少しスカートが揺れるだけでも息を飲むほどのショックだ。
「っ……」
後始末が一段落すると、再びつぅん、と鼻に熱いものが染みる。
まさか、この年齢になってオモラシをしてしまうなんて、ぜったいに絶対にありえなかった。もうとっくの昔に卒業したはずの、脚の間を汚す不快感。おしりを包み込む暖かさ。忘れていたい小さいころの『失敗』の数々が美智香の脳裏をよぎる。
また泣き出してしまいそうになるのを必死にこらえながら、美智香はじっと、開かない倉庫のドアを睨みつけた。
どれくらい時間が過ぎたのだろう。
ほんの数分、ということはないはずだった。小刻みに脚を踏み鳴らしながら、美智香は次第に焦れてくる心を必死になだめ続けている。
スカートの下、オシッコで汚れたままの内腿は、うっすらと薄赤く染まっている。長い我慢とオモラシの十分な後始末ができなかったせいで、少しむず痒い。長い我慢に握り締められた股間は布地にこすれて、ますます少女の下腹部を敏感なものにしていた。
(ぁ……やだっ……)
だから、はじめはそれも乾きかけたオシッコの跡のせいだと決めつけていた。
「ふぁ……んっ」
鼻にかかった甘い声と共に、少女の腰が小さくくねる。交差された脚は、さっきまでと同じようにきゅっと寄せ合わせれ、脚の付け根にある大切な場所をガードしていた。
気のせいだ。ちょっと痒いだけ。
そう心の中で繰り返して否定しても、どんどんと高まる下腹部の違和感はたちまちのうちに膨れあがり、美智香を飲み込んでしまう。
(ま、また……したくなってきちゃったっ……)
おヘソの裏側にある、少女のヒミツのティーポットがくつくつと沸騰する。
あれだけパンツをびちゃびちゃに汚してしまったのに、ほとんど間もおかないうちに猛烈な尿意が美智佳を責め苛んでいた。
(さ、さっきあんなにしちゃったのに……なんで? こんな、お、オシッコ……っ!?)
実のところ、さっきのオモラシでは美智佳の膀胱は完全に空っぽになったわけではない。必死になってオシッコの出口を圧迫した結果、排泄が中途半端な形で中断されただけだ。
プールの中で半日ちかくをすごし、美智香の小さなおなかの中は、濃縮された色も匂いも特濃のオシッコに完全に占領されてしまっている。一旦はオモラシと言う形でいくらかの量を処分したものの、時間の経過と共に尿意は再び活性化し、少女の排泄器官は膀胱をぱんぱんに膨らませる不要な水分を絞り出そうと、一層激しい生理現象を訴えていた。
「はっ……はぁっ……」
美智香のこめかみをつぅ、と汗が伝う。
じわじわとこみ上げるオシッコの圧迫感は、いつしかさっきのオモラシの時に迫りつつあった。
とどまるところのない尿意を堪え、美智香は倉庫の壁に爪を立てて、ぎゅっと力を込める。
無慈悲にも、少女の代謝機能は乙女の繊細な羞恥心など省みることもなく、下腹部に溜まった老廃物の排泄を要求していた。だがそれを口にできるわけがない。たとえ訴えたところで、故障が直るわけではないのだ。
(や、やだ、オシッコ、オシッコしたいっ……トイレっ、トイレぇ……!!)
もはや偽ることなく切なる願いを心の中で叫びながら、美智香はくねくねもじもじと身をよじる。
(い、いちどオモラシしちゃってるのに……っ、ま、また、出ちゃうっ……やだっ、やだぁ……っ)
身体のあちこちから、小さな小さな入れ物に次々と送り込まれるオシッコに、恥ずかしい所の奥にある水風船はいまやパンク寸前になって、些細な刺激ですら破裂してしまいそうだ。切羽詰った尿意を悟られないよう、脚をぐっと交差させ前かがみになった姿勢で壁に寄りかかる。少しでも楽な姿勢を探して、美智香は落ち着きなくからだをくねらせる。
狭い園芸倉庫のなかは、まるでトイレの個室にも見えてしまう。
「っは、っくぅぅっ……」
とうとう辛抱できなくなって、美智香はその場で脚踏みを始めてしまう。まるで幼稚園の子のような、みっともない格好だ。ぎしっぎしっと倉庫の床が軋み、音を立てる。少しでも尿意が紛れればと思っての行為だが、さっきまでとは違いほとんどその効果はなかった。
(っ……ぅ)
股間を押さえてトイレのことを強く想像しても、じんじんと疼く下腹部は少しもおさまってくれない。波のような尿意はいつしかさらに水位を増し、高潮のように間断なく高まり続けていた。
一時の激しい尿意の最大値こそさっきよりもおとなしいものの、弱まることなくじりじりと高まり続けるオシッコの圧力が、脆い脆い排泄孔を押し破ろうとしてくる。
「っは、ぁふ、っくぅぅ……っ」
見えない机の門に股間を押しつけるように、腰を前後に揺する。美智香の下腹部を占領したオシッコがたぷたぷと揺れているようだった。
いまだ、ドアの向こうに誰かがやってくる気配はない。アキは一体どこまで行ってしまったのだろう。
(ひょっとして、私、ずっとこのまま……なの?)
恐ろしい想像にますます身体が萎縮し、おなかをぱんぱんに膨らませているオシッコが暴れ出す。美智香の孤独な我慢の戦いは終わる気配を見せなかった。
「うぁ、だめぇ、えっ」
再度込み上げてきた熱い感触をぐっと脚の付け根の奥に押し返し、美智香は倉庫のドアを恨めしげに見つめる。
「ね、ねえ、アキちゃん、いないの? まだ? 誰でもいいから、ねえ、開けてよっ……はやく、はやくここから出してよっ……」
とうとう声を上げ、拳を握りドアを叩く美智佳だが、硬く閉ざされたドアは、無常にも少女の懇願を固く弾き返す。いても経ってもいられずにドアの隙間に爪を立てて力を篭めるが、少女の腕力では到底こじ開けることなど不可能なのは明白だった。
それなのにオシッコは今にも出てしまいそうで、じっとしていられることができず、美智香はエレベーターの中をぐるぐると回り始めてしまう。
(はやく、早く、トイレぇ……っ!!)
がんがんとドアを叩き、体育祭の入場行進のような大げさな足踏みを繰り返す美智香。膝を上げて、おなかの中のオシッコをたぷんと押し上げようとするかのよう。
「アキちゃんってばっ、ど、どこ行っちゃったのよぉ……ほ、ほんとに、間に合わなくなっちゃうからぁっ……は、早くして……お願いっ!!」
涙の混じった声での懇願が狭い倉庫に響く間にも、美智佳の下半身はオシッコのできる場所を渇望し、トイレを切に求める訴えを繰りかえす。
確かに、厳密な定義で言うならば着衣や下着に被害がなければオモラシとは言えないかも知れない。このまましゃがみ込んでスカートをたくし上げれば、オシッコをしてもワンピースに被害は出ないだろう。
しかし、それはきちんと出てしまったオシッコの始末ができていればの話である。いまの美智香に言わせれば、正しくない場所でオシッコをしてしまったら、それはオモラシと変わらない。
ここは閉ざされた園芸倉庫と言う密室の中で、美智香が一旦出してしまったが最後、オシッコは全部床の上にびちゃびちゃとこぼれてしまうのだ。自分のオシッコが倉庫のそこらじゅうに広がって大きな水溜りをつくり、匂いを立ち込めさせるその光景は、美智香の羞恥心を激しく揺さぶってしまう。
もし、ここから出られたとしても、その瞬間――その場に居合わせた人たちに、トイレを我慢できず、ここでオシッコをしてしまったこと――それがどれくらいの勢いで、量で、音で、匂いで――そのすべてを知られてしまうに違いないのだ。
しかし、いくら我慢を続けても事態が動き出す気配はなかった。
一度も尿意は弱まらないまま、少女の秘密のダムは危険水域を突破してしまった。縁のぎりぎりまで注ぎ込まれた恥ずかしい熱湯が表面張力で盛り上がり、限界を超えてじわじわと溢れ出してくる。
(っ、……っ、ダメ、ぇ……っ!!)
もはや一切の躊躇は許されなかった。女の子としての最大の恥辱、『オモラシ』を回避するため、美智香は必死になって身体をよじり、今にも緩みそうになるオシッコの出口を握り締めた。
(で、出ちゃうっ、出ちゃうでちゃうオシッコ出ちゃう……ッッ!!)
全身全霊の我慢をしてなお、押し寄せるオシッコの波は押さえ込めない。ぎゅうっと強く引っ張られたスカートの下で、しゅる、じゅっ、と女の子の股間がみっともない音を響かせ、美智香の内腿の隙間を熱い雫が満たす。ぽた、ちょろっ、ちょろろっ、と吹き出したオシッコはくねくねと揺すられる少女の脚元、倉庫の床に雫を垂らしてゆく。
(や、だめ、ダメぇ……!!!)
オモラシ。
オシッコ。
床を濡らさないために――美智香の身体は最後の力を振り絞って、最悪の事態を回避するための行動に出ていた。
ほとんど真っ白になった頭での、反射的な行動だった。
美智香は床に落ちていた水泳バッグを掴み、もう二度と使うまいと思っていた水着入れのビニール袋を引っ張り出す。
この間にも、溢れそうなオシッコを塞き止めるため、美智佳の脚はひっきりなしにその場足踏みを繰り返していた。
閉じた口の結び目を、焦りながら震える手でもどかしく解き、大きくビニール袋の口を広げる。
「っふぅあ……!!」
脚の付け根で、排泄孔がぷくっと膨らむ。美智佳はスカートもたくし上げられず、ビニール袋を跨ぐように“がばっ”と足を広げ、むき出しの股間にきつくビニール袋の口を押し付けた。
ほとんど間をおかず、、制御をなくした排泄孔がオシッコを出し始める。美智香の脚の付け根から激しい水流が吹き出して、あてがわれたビニール袋の内側に叩き付けられた。
じょっ、じょぼっ、じょぼぼぼぼぼぼぼぉおーーーっ!!!
まるでホースの先端を潰して庭に水を撒いているかのような、激しい激しい水流だった。
堰を切ったように溢れ出す激しい水流が、半透明の袋の内側にぶつかって、雨が傘にぶつかるようなばらばらという激しい飛沫を飛ばした。美智香が我慢に我慢を重ね続けて溜め込んだオシッコの大放流は、倉庫の床を汚す代わりに、簡易トイレと化したビニール袋の中に注ぎ込まれていく。
「ぁ、あっ、あっ」
激しいのは音だけではない。長い間の我慢で濃縮されたオシッコは、色も匂いも強く、熱気の篭った2m四方の密室のなかに濃い匂いを立ち込めさせてゆく。
激しい水流を受け止めるビニール袋の中では、少女の身体に不要な成分をたっぷりと含み、ちくちくと鋭い尿意をもたらしていた特濃のオシッコが、中身をびちゃびちゃに浸していた。美智香がついさっきまで穿いていた下着も、紺の水着も、薄黄色の暖かい液体の中に沈んで行くのだ。
「ぁ……はぁっ……」
しかし、そんなビニール袋の中の惨状には気付けないまま、美智香は恥ずかしさも忘れて、我慢の局地に達していた尿意からの解放感に夢中になっていた。少女の唇は薄く開き、まるで喘ぎにも似た声をこぼす。
焼けた砂を飲み込んでいたようにきつい尿意を訴え、ぱんぱんに膨らんでいた膀胱が、緊張から弛緩へと変化する括約筋とともに中身を空っぽにしてゆく。
おなかの中を占領していた熱がごっそりと抜け落ち、背筋が震える。苦痛からの解放はいっそ快感にも近いほどだった。耐えに耐えたオシッコを思う存分出しきる快感に、ビニール袋を支える手の指にぎゅっと力が篭り、美智香の腰がぶるぶると震える。
「ふぁ……ぅ」
美智佳のオシッコは長く続いた。それは本来、少女の繊細な羞恥心によって隠され、他人の視線には決して触れることのない秘密の行為のはずだ。女子トイレという禁域の、秘密の個室の中でだけ、少女はオシッコをすることが許されている。
美智佳はそれを、おそよトイレとは無関係の場所でしているのだった。中腰になってスカートの下にビニール袋をあてがうという、およそありえない姿で。しかもあろうことか、そのオシッコの注がれる先は、便器でもなく、彼女自身の下着を詰め込んだ安っぽいレジ袋の中である。
美智香は今、自分の着ていた水着と下着を、自分自身のオシッコで取り返しのつかないほどに汚しているのだった。考え方を変えればこれはもはやオモラシとまったく変わらない。
「ぁふっ……ぅあぁ……」
ビニール袋の中に響くくぐもった水音が、次第にゆるやかなものに変わってゆく。時間にして数えれば実に1分近い放出は、どれだけ美智香が我慢を続けていたのかを示すに十分なものだ。
そして勢いもまたそれに比例して激しかった。しっかりとビニール袋をあてがっていたにもかかわらず、入りきらなかったオシッコは倉庫の床に小さな飛沫を撒き散らしている。
ちょろ、ちょろろ……ちょろっ、ぴちょ……
水流が雫に変わり、水滴の音で締めくくられる。ちいさくいきむと同時に、残っていた水滴がちょろろっとこぼれてビニール袋の水面を揺らす。
とうとうおなかの中が空っぽになるまで、美智香は溜まっていたオシッコを全部ビニール袋の中に出してしまった。
「……で、ちゃった……」
そして、猛烈な尿意が去ると共に、徐々に美智佳の頭にも冷静な自分が戻ってくる。
自分がどこで何をしてしまったのかは、ずっしりと重いビニール袋が教えてくれた。美智佳が小さなおなかの中に抱え込んでいた恥ずかしい液体で水浸しとなったビニール袋の熱さと重さが、美智佳の羞恥心をざくざくと切り刻む。
(こんなところで……お、オシッコしちゃった……っ……ビニール袋なんかに、オシッコ、しちゃったっ……!! ……水着も、パンツも入ってたのに……あんなにしちゃって、もう着れないよぅ……)
すん、とすすり上げると、狭い倉庫の中いっぱいに満ちたオシッコの匂いがはっきりと感じられた。蒸し暑い気候にくわえ、密閉されて空気の澱んだ園芸倉庫の中ではより一層、自分の匂いが強調されているような気までしてくる。
美智香の目元にじわっと涙が滲んだ。
「ぐすっ……」
オシッコでいっぱいになったビニール袋をぶらさげたっまま、しゃくりあげながら、熱い目元をこする。美智香はあとからあとからこぼれそうになる涙をぬぐうので精一杯だった。
(っ、どうしよう……お母さんに、ぉ、怒られちゃう……っ)
大切な水泳道具を入れた袋を、トイレの代わりに使ってしまったことへの途方もない罪悪感が少女を責めたてる。自分のオシッコで水浸しになったビニール袋を抱え、美智佳は途方にくれてしまう。
女の子として絶対にあってはならないことを、してしまった。飲み込んだ嗚咽と共に、じっとりと湿った空気が、美智香のおしっこの匂いと一緒になって鼻奥をつんと刺激した。
まるで、倉庫の中全部が、自分のオシッコでいっぱいになってしまったんじゃないか――そんな風に美智香には感じられた。
(初出:書き下ろし)
倉庫とビニール袋の話・2
