倉庫とビニール袋の話・4

 
「まだなの……!? もうっ……どこ、行っちゃったのよぉ……っ」
 苛立ちながら、美智佳は赤くなった顔をごしごしと擦る。
 少年が立ち去ってから、どれくらい経ったのだろう。もう何時間も前のように感じられていたが、相変わらず日は高く、地面に落ちる影の位置もそう動いていない。実際は30分と過ぎていないだろう。
「す、すぐに戻るって、行ってたのにぃっ……」
 それでも、閉じ込められたまま待ち続ける美知佳には途方もない時間だった。ぎゅっと握られた拳がぽすん、と袋詰めの園芸土を叩く。
 アキたちも一向に戻る様子がない。いったいひょっとして、表では彼らを邪魔するナニモノかがみんなを捕まえたりしてるんじゃないだろうか、とまで不安になってしまう。もしそんなことがあれば、それは美智佳の責任なんだろうか。
 おとなしく、もういちど大人の人を呼んでもらえばよかったのかも……なんて後悔もしてみるが、後の祭りだ。
 そして、美智佳の焦りは、単なる苛立ちだけにとどまらない。
「っ、っふ、くぅっ……」
 ぎし、ぎし、ぎっ、と軋む音が、小さな密室に響いている。
 座り込んだままもぞもぞとお尻を動かし、身体を左右に小刻みに倒して、美智香はせわしなく倉庫の天井を見つめていた。
「ぅっ、く、ぁあっ……」
 鈍く痺れる腰骨から、恥骨の上でじんじんと熱い衝撃が伝わってくる。
 ワンピースのスカートの太腿はじっとりと汗をかいて、布地に複雑なしわを寄せ、その間に挟まれた細い腕をぎゅっと締め付けていた。
 脚の付け根に重ねて当てられた両手が、もどかしげに股間を握り、ねじり、押さえつける。
(や、やだぁ……な、なんでよぉ…っ!?)
 ありえない、と思っていた。だから何度も何度も違うのだと思いこもうとした。
 だって、ついさっき、あんなにいっぱい出したのに。
(なんで、こんな、また――おしっこ、したくなっちゃうのよぉっ……!?)
 嘘だと思い、気のせいだと言い聞かせ、何度首を振ってみても、身体のうちから沸き上がってくる鋭く激しい尿意は和らいでくれない。決して錯覚ではありえなかった。わずか数十分で、美智香の尿意は再びトップギアに入る勢いで加速している。
 胃の中がたぽたぽと揺れるのが解るくらいの勢いで、一気に空にした500mlペットボトルまるまる一本分の清涼飲料は、一適残らず乾いていた身体に吸収され、いまは別の場所――少女の膀胱をたぷたぷと揺らしている。
「うぁああ……ぅっ、で、ちゃうぅ……っ!!」
 きゅんっ、と疼く下半身に、美智香は小さく悲鳴を上げてしまう。
 ぎゅっとスカートの前を押さえる手のひらは、しゃがみ込んで停止したまま動かなかった。執拗に繰り返されるオシッコの波は怒涛のように激しく、一時たりとて気を抜けそうにない。
 おしっこの出口を締め付ける括約筋はすっかり弱って、我慢を続けるためには両手の協力が欠かせない状況である。
「っ、やだぁ……」
 美智佳のじわ、と潤む視界は、縋るように倉庫の中を巡った。しかし、無論ながらそこに突如としてトイレが出現するはずもない。蒸し蒸しと汗を呼ぶ倉庫の中には変わらず、尿意を和らげるためのものなど何も見つかりはしない。
 そして美智佳の視線は、必然的に隅に放置されていたビニール袋へと向かう。ほんの数十分前にトイレの代わりになって、美智香のおしっこをたっぷり受け止め、すっかり重くなっている半透明の袋は、初夏の熱気に晒されていまにも破裂しそうなくらいに膨らんで見えた。
「も、もう嫌……っ、なんで、こんなに、おしっこ、くぅう、……し、したくなっちゃうのよぉおっ……!?」
 最初のオモラシと合わせれば、おしっこが我慢できなくなったのはこれで3回目だ。こんなにわずかな時間に、何度も何度もオモラシをしそうになる恥ずかしい身体を、美智香は激しく恨んだ。
 しかし、そんなことで今の窮状が変わるわけではない。
 膨らむ膀胱は激しく収縮し、大自然の摂理のまま、溜まった中身を絞り出そうとしている。じっとりと身体を湿らせる汗と、繰り返されたおチビリに濡れたスカートがぐちゅっと音を立てて美智香のお尻にへばりつき、不快な感触をさらに加速させる。狭い倉庫の中は、いまなお美智香自身のおしっこの匂いに満ちていて、まるで本当のトイレの個室のようだった。
(っ、だめ、ぇ……!!)
 急激に、凄まじいまでもの加速度で尿意は膨れ上がる。喩えるなら洪水か鉄砲水か。少女の下半身は自然の摂理に従って不要な水分を排出せんと収縮し、ぱんぱんに膨らんだ水風船を圧迫する。
「うう、ふぅう、はああっ、…っく、あ、あと少し、少しだけ……がまん、あとちょっとだけ我慢……っあとちょっとで、出られるんだから……」
 なんとか心を奮い立たせようと、そう口にしてみるが、あまりにも空虚な自分の言葉に、かえって心は萎んでしまうばかりだ。
(少しって、いつまで……? やだ、もうやだよぉ……ホントにもう、出ちゃいそうなのにっ……!!)
 焦りと怒りが失望に混じり、一瞬、美智香の目の前が暗くなる。一秒でも早くここから出て、トイレまで猛ダッシュをしなければいけない事態なのに、その目処すら立たない。
 いちど出口を覚えたおしっこは、容赦なく美智佳に二度目の屈辱を要求する。さっき激しい水流を迸らせたばかりの排泄孔が、切なく疼きぷくりと膨もうとする。ほんのひと撫でではしたなくも熱い雫を吹き上げんばかりに、少女の下腹部は我慢のきかない状態になっていた。
(あ、あたしのおしっこの出るところ、こ、壊れちゃったのかも……っ)
 こんなにも我慢がきかないなんて、想像すらしたことがなかった。よっぽど小さかった時はさておき、これまで、美智佳はどれだけオシッコがしたくてもちゃんとトイレまで我慢のできる、おトイレの優等生だったのだ。
 それなのに、この小さな倉庫の中で、美智佳はとうとう人生3回目の、トイレ以外でのおしっこを始めさせられようとしている。
「ね、ねえ、誰かっ、誰かいないの……っ!?」
 美智佳は、掠れた声で助けを呼んだ。
 この密室を押し開き、こじ開けて、美智佳をトイレへと連れて行ってくれる誰かを求めて、か細い声で懸命に呼びかける。
「ねえ、お願い、開けてよ、ここ開けてよぉっ……もう嫌なの、もう、こんなところでおしっこなんか嫌なのぉっ……お願い、お願いっ……!!」
 力ない拳がドアを叩き、堅い鍵をかちゃかちゃと揺する。
 それをあと千回繰り返せば閉じられたドアが開くというなら、美智佳は迷わずそうしたかもしれない。
 美智香の目元を熱い雫がこぼれる。
 こんな場所で、二度とするまいと思っていたおしっこを――またも強いられたことに。少女の羞恥心は激しく傷ついていた。あのビニール袋を、おトイレの代わりするのは、もう嫌だった。
「お、オシッコでちゃうのっ……お、おトイレ、おトイレ行かせてよぉ……ちゃんとしたおトイレでなきゃ、いやなのっ……」
 さっきの一回で、一生分の恥は使い尽くしたと思っていたのに。わずか数十分で、また同じ事をさせられるなんて、思いもしなかった。
 だが、無常にも、涙にかすれた美智佳の呼びかけに答えるものはない。
 閉ざされたままのドアの奥で、美智佳はまたも、屈辱を強いられるしか道はなかったのだ。
「ぅ……くぅ……っ」
 もはやためらっている暇はなかった。美智香はずっしりと重いビニール袋を再び引き寄せ、汗ばんだスカートと下着をまとめて引きずり下ろす。
 もう二度とすることはないと思っていた、死にそうに恥ずかしい行為――このビニール袋の中へ、下着と水着を一緒に詰め込んだ入れ物に、さらにもう一度オシッコをすることを決意したのだ。
 1度目の排泄で水を吸っている袋の中身は、もはやありったけの布地を動員しても全ての水分を吸収してはくれないだろう。今度の美智佳のオシッコによって、はっきり分かるほどビニール袋の水位は上昇し、内側に水面が見えるほどになるだろうことは想像に難くなかった。
 そうなれば、もう二度と言い訳の聞かない状況になることも承知の上である。それほどに美智佳の尿意は凄まじいものだった。
 最初のオモラシをあわせ、都合3回分のオシッコを受け止めることを強いられたビニール袋。それを前にして、美智佳はいまにも泣き叫びたい気持ちだった。
(もうやだよぉ……っ……もうやだ、もうおしっこなんかしたくないのにぃ……っ)
 それが偽らざる美智香の本心でもあった。
 床を汚し、ビニール袋には溢れんばかりの、黄色い水。
 事情を知らない人が見れば、美智佳がこのビニール袋に収まりきらないくらいの量のオシッコを一度に出してしまったのだと思われるかもしれない。
 もっとも、たとえ本当のことを言ったとしても、美智香がこの倉庫の中に閉じ込められていた数時間あまりの間に、3回もオシッコをしてしまったことは事実なのだ。
 だがもはや思案の時ではない。行動の時だ。美智佳はビニール袋の口を開けるべく結び目に指をかけるが――
「あ、あれ……?」
 さっき、嫌悪感に駆られながらあまりに強く力を入れて結んだためか、結び目は硬く縛られたまま、びくともしない。いくら爪を立ててみても石のように堅い結び口は、美智佳の手を拒んだ。
「や、やだっ、嘘でしょ……!?」
 ここにオシッコができなければ、一体どうすればいいのか。焦る美智佳は再度結び目を引っ張るが、どこをどう絡まったものか、まったく結び目は動かない。それはまるで、ビニール袋自体がその内側に溜め込んだ美智佳のオシッコを一滴も漏らすまいとかたく口を閉ざしているかのようだった。
「な、なんで開かないのっ……と、トイレっ、だめ……出ちゃうのにっ、もう出ちゃうのにぃっ……!?」
 スカートと下着は足首まで降りて、すでにオシッコの準備は万端整っている。それなのにオシッコを受け止めるビニール袋だけがそれを拒んでいるのだ。
 ビニール袋の中にするのは、嫌で嫌でたまらなかったけれど。
 それでも、倉庫の床におしっこをびちゃびちゃに撒き散らしてしまうことと、比べるなんてできない。だってそれは、オモラシなんかよりももっともっと下品でみっともない、最悪の行為だ。
 もしも万に一つでもそんなことが美智佳にできたなら、そもそもタオルや水着、パンツの入ったビニール袋をつかって、オシッコなんかしない。
「あ、やッ……!?」
 きゅうんと疼く股間に、美智佳はたまらず片手をむき出しの脚の付け根に押し当てた。今にも開きそうになる排泄孔を、直接指で押さえてぐぐっと放水を押しとどめる。そうしておいて、なんとかビニール袋の口を開けようとする美智佳だが――しかし、両手でも解けなかったビニール袋の結び目が、片手だけで開くはずもない。
 がくがくっと突き出されたおしりが上下し、いまにもスプリンクラーのようにオシッコを撒き散らそうとする。おなかの中で暴れ回る猛烈な尿意の大渦に、美智佳はぎゅうぎゅうと声を絞り出してしまう。
「で、でちゃうでちゃうでちゃううぅ……!! やだぁ、トイレ、オシッコぉ……っ!?」
 トイレの代わり。オシッコのできる場所。おなかをパンパンに膨らませる、オシッコを注いでおけるもの。パニックに陥った美智佳の視線が、ついさっき放り投げたペットボトルを、土嚢の影に発見する。 そう、いま美智佳を苦しめているオシッコは、元はと言えばこのペットボトルの中身の液体が原因なのだ。
(っ――あ、あっ、あっあ、!!)
 ほとんど反射的にペットボトルの蓋を開け、美智佳はしゃがみ込んだ股間にそれをあてがう。
 だが、震える手と限界の尿意が噴き出す排泄孔が、おとなしくそれを許すわけもない。美智佳の股間から、思いもよらぬ勢いと角度で水流が吹き出し、ばちゃばちゃばちゃぁっと床に飛び散った。 小さくひしゃげた排泄孔から、ホースの先をつぶして庭に水でも撒くような勢いでおしっこを撒き散らす。水筒の口の縁にぶつかって熱い奔流があちこちに飛び散り、飛び散り、美智香の手までを汚した。
「だ、ダメぇえ……っ!!」
 反射的に下腹部に力を込め、排泄を塞き止めようとする美智佳だが、一度出口をみつけ、出始めたオシッコは完全にはとまらず、じゅじゅる、ぶしゅっ、と間断的に吹き出し続ける。
 美智佳がむりやり押し付けた飲み口から大きくそれたおしっこは、透明な入れ物とはまるで見当違いの方向へ飛び散った。
 じゅる、ぶしゅっ、じゅじゅっ、びちゃびちゃっ!!
「や、だぁっ……!!」
 再び。調節しようと思ったオシッコが、地面にたぱたぱと散る。
 なおも吹き出すオシッコは、ペットボトルにはほとんど入らずに凄まじい勢いで当たりに飛び散った。短時間に何回もおしっこをして、すっかり出口を覚えた下半身は、容赦なく激しい圧力で膀胱の中身を絞り出す。
「あ、、あっあっあ、あっ」
 ぷしゅるるる、びちゅ、ぱちゃちゃっ!!
 ペットボトルがオシッコを受け止める役に立たないことを悟った美智佳は、そのまま藁にも縋る思いでビニール袋に手を伸ばした。
 だが、自分をほったらかしてペットボトルに浮気をしようとしたことを責めるかのように、固く口の結ばれたビニール袋はおしっこで汚れた美智佳の指の間からするりと逃げ出してしまう。
「う、あ、あっあ、あっ」
 美智佳が呻きながら、ぎゅうっと手のひらを挟み込んだまま足を閉じあわせ、ひくっと喉に息を詰まらせたまさにそのときだ。
「おい美智佳、だいじょうぶか?」
「おねーちゃん、ダイゴ連れてきたよ!!」
(えっ……!!)
 まるで悲鳴を上げた自分の声にかぶさるように、聞き覚えのある声が響く。さっきの少年と、アキたちが、連れ立って倉庫のそばにやってきていたのだ。
「爺ちゃんがすっげーヘンなとこに鍵しまっててさ、探すのに時間かかっちまった。今すぐ開けてやるからな。待ってろ!!」
「おねえちゃん良かったね!! 出られるよ!!」
「ちょ、ちょっと、え、待って……」
 突然のことに、美智佳は頭が真っ白になる。
 スカートをまくり、パンツも穿かず、床にびちゃびちゃとおしっこを撒き散らし、それでも飽き足らずに、ビニール袋かペットボトルの中に、3回目のおしっこを始めようとしている、まさにその目の前で。
 少年――ダイゴは、倉庫の鍵を開けようとしている。
「や、やだあ待って!! やめて!! 開けないで、開けないでぇ!!」
「何言ってんだっての、ほらお前ら、離せってば、鍵開けらんねーだろ。そのまま閉じこもってたら、トイレとかどーすんだよ」
「っ………!!」
 ダイゴの言葉は美智香をおもいやってのものなのだろうが、我慢しきれずに倉庫の中でオシッコをしてしまった少女にはあまりにも残酷な言葉だった、じわ、と喉の奥が涙の味に塞がれて、美智香の声は出なくなってしまう。
 そうしている間にも、美智佳の下腹部はおしっこを絞り出そうと激しく収縮を繰り返した。切なくも腰を揺すり、掠れた声を張り上げ、なんとか崩壊を耐え抜こうとする美智佳。
「う、うそ、や、ま、待って……だめえ……!!」
 ペットボトルも、ビニール袋にも、おしっこを受け止めることを拒否されて。もう美知佳には縋るものがない。
 後に残されたのは、そのまま倉庫の床の上に、おしっこを撒き散らすことだけだ。
「おい、どうした? 美智佳? 美智佳ってば!!」
 ダイゴが声を荒げる。 
 すると、それに応じた声があった。
「あー、あのねえ、美智佳おねーちゃん、おしっこがまんしてるの!! おトイレ行きたいんだって!!」
「や、やあ、やめてぇ!!」
 金切り声で、美智佳は叫んだ。あろうことか、アキは美智佳が絶対に隠しておかなければならなかったことを、あっさりと暴露する。
「ちょ、おい、マジか?」
「うん。だっておねえちゃん、もうおしっこがまんできないって言ってたよ。もうオモラシしちゃうかも!!」
 ええー!? と子供達の間から驚きの声が上がる。それはそうだ、美智佳のように年上のおねえちゃんが、オモラシなんて、彼らにしてみればありえない。
「おいおい美智佳、やめとけよ、漏らすなよ? 今出してやるからトイレまで我慢しろよ?!」
「や、ち、違うの、違うのぉ……」
 ダイゴが鍵を弄り、声を荒げる。
 美智佳は力なく首を左右に振るが、か細い否定の声は、子供達の騒ぎにまぎれて聞こえない。おしっこ? おねえちゃんオモラシしちゃうの? おねえちゃんおしっこ? 幼いゆえの残酷さで容赦なく叩き付けられる小さな子供達の声に、美智佳の羞恥心は致命傷を埋め込まれてゆくばかりだ。
 かすれた声を上げながら、美智佳は股間を激しく握り締め、雑巾を絞るようにして排泄孔を塞ごうとする。
(っ、違うの、違うのにぃ……)
 何も違いはしない。
 美智佳は今、中腰で、スカートも大きくまくり上げて、その姿勢から動くこともできず、倉庫の床の真ん中で、じゅじゅ、じゅるるるぅ、と股間から断続的にオシッコを迸らせているまさにその真っ最中なのだ。
(と、止めなきゃっ、お、オシッコ、見られ……ちゃうっ)
 しかし、満水のダムから放水される水流は、蓋をしようとする手を押し破らんばかりに凄まじい圧力だった。腹圧に反応して、身をよじる美智佳の脚の付け根から吹き出して、股間を押さえ込む手のひらを激しく汚す。
 がちゃ、がちゃ、がちゃっ、鍵が軋む。
「……あれ? くそ、なんだこれ、鍵開かねーっ……? おい、お前らこれなに入れたんだよ? 鍵穴詰まっちまってるじゃねえか!!」
 ダイゴが舌打ちをして叫ぶ。
 美智佳は、もうそれを聞いている余裕もない。
「おい美智佳、ちょっと待ってろ? もう少しだからな!! あとちょっとだけだからな!!」
 呼びかける声。
 だがもう、美智佳はこの目の前のドアが開いて欲しいのか、開いて欲しくないのかわからなかった。とうとう倉庫を囲む全員に、おしっこを我慢し続けていることがバレ、オモラシのことまで気付かれ、突然の事態に混乱し、長い長い我慢の繰り返しに擦り切れた思考は、今なお激しい尿意にすっかり占領されている。
「は、くぅ、ぅうう……」
 美智佳は掠れた声で、本当の勢いで出始めるおしっこを押さえ込み、無我夢中で――倉庫の床を這う。少しでも見られないように、奥に逃げようと、ドアに背中を向けて。
「あ、あ、ぅあ、っあ、あっあ」
 手を付いて、動物のように四つんばいになった美智佳の、片手が押さえ込んだ足の間から、激しい水流が迸る。足の間に飛び散り、ワンピースのスカートにぶつかったおしっこは、あっという間に美智佳の服をびしょぬれに変えていった。
 ぶしゅうううううううっ……じゅぶ、じゅぼぼぼぼぅ……
「ぁふぅッ……、あ、あっあ、あっ」
 猛烈な勢いでほとばしるオシッコは、もはや遮るものがない倉庫の中に激しく広がって行く。3度目のおしっこだとは思えないほどの途方もない量で、床にはみるみるうちに湖が出現した。
 激しい水流を受け止めた倉庫の床上の水面が、氾濫する川のように広がって行く。倉庫の床一面を覆いつくさんばかりの量だった。このまま出し続ければひょっとして、倉庫からも溢れてしまうのではないだろうかと思わせるほどだ。
 そのすぐそばには、2回のオモラシを受け止めたビニール袋まである。
 自分の身体が作りだしたあまりにも大量の、黄色い汚水に、美智香は心臓を握り潰されそうになる。
「美智佳っ!?」
 がらぁ、と倉庫の壁が開く。
 ちょうど、美智佳は床にはいつくばったまま、ダイゴやアキたちに背中を向ける格好だった。おしりをちょこんと突き上げ、ワンピースのスカートは背中に大きく捲れ上がり、何も穿いていない足は太腿からおしり、爪先まで完全に丸出しだ。
 その付け根を、ぎゅうっと手のひらで隠し、おしっこの出口を塞ごうとしているのまで、すっかり――まるで見せ付けるような有様だった。
「っ、いや、いやぁあ……」
 掠れ声で悲鳴を上げた美智佳の下腹部が、感情の高ぶりにしたがって伸縮する。
 激しく撒き散らされた3回目のオモラシの上に、さらに追加で激しく熱い水流を叩き付けながら、美智香は泣き叫んでいた。
「違うの、違うのぉ……っ、こんなにしないの、いつもこんなにオシッコ出たりしないのっ!! わたし、こんなにオシッコしないんだからぁ……っ」
 ビニールバッグをぱんぱんに膨らませるオシッコと、その床に大きく大きく広がるオシッコの海。
 もはや、倉庫の中はどんなトイレよりも酷く、オシッコで汚れていた。
 トイレではない場所を、3回もオシッコのために使い、なおもまだオモラシを続ける恥かしい女の子。美智佳はいまやそんな存在だった。
 そして、いまなお広がり続ける大きなオシッコの海の、その水源であるオモラシの大滝をつくりだす、美智佳の股間。
 美智佳の身体じゅうを巡ってやってきた水分は、その小さなお腹の膀胱を溢れ、なおも小さな割れ目を押し広げて、おなかの中で暖められた熱い雫を、水鉄砲のように吹き上げた。
 自分の身体の下、水浸しになった倉庫の床の上に、広がったオシッコの海に涙までこぼして。
 美智佳は、もう二度と起き上がれなかった。
 (初出:書き下ろし)
 

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