2009-08

小説

プール帰りのお話。

突き抜けるような青空、じわじわと照りつける太陽が、アスファルトを焦がす。 やかましいセミの鳴き声は絶えることなく響き、梅雨の名残を吹き飛ばす真夏の日差しは、濡れた髪を麦藁帽子の上からもちりちりと乾かしているかのようだ。「んくっ、んっ、んっっ...
WetMarchen

第12夜 ウサギとカメ

むかしむかし、あるところにウサギが住んでいました。 ウサギはとても足が速いのが自慢でした。力じまんのクマも、気難しくて嫌われ者のオオカミも、立派な王様のライオンでさえも、かけっこで勝負をすればウサギにはかなわなかったのです。 今日もウサギは...
小説

夏祭りのお話・後編

現在、七時五十五分。 トイレに直行した二人だが、千佳には大変な誤算があった。 今日のお祭りの人出はいつもの比ではない。普段はガラガラの公衆トイレは、その入り口から伸びる長蛇の列で封鎖されていた。もともとそんなに大人数をさばけるような場所では...
小説

夏祭りのお話・前編

「ほら千佳、もうお姉ちゃんたち出かけるわよ。着替えなさい」「あ、待ってよおかあさんっ」 うだるような暑さが、夕焼け空とともにわずかに弱まり、入れ替わりに蝉の声が強くなって、それに重なるように小さな花火の音。 ベッドに寝そべってお財布をひっく...
小ネタ

部活のイジメの話

「お、お願い!! トイレ!! トイレ行かせてっ!!」 ついになりふり構わずマキは懇願してしまう。 背中にガムテープで固定された両手は自由にならず、腰はジャージで椅子に縛り付けられたまま。上は半袖のトレーニングウェア、下にはスパッツだけという...
WetMarchen

第12.9夜 白雪姫

魔女の性格が突如ここで、千夜一夜の多倉見悦子シリーズをパクリインスパイア。 ここまでのは原作に忠実に最初から書いてたらまとまりきらなかったので、適当に区切って特区用に新しいのを書き直した結果。「うふふ……あっははははは!!」 再びお城に帰っ...
WetMarchen

第12.6夜 白雪姫

「ふふふ……うふふふふ……あははははっ!! 翌日――魔女はこみ上げてくる笑いを抑えきれずにいました。秘密の部屋に向かう足取りも軽く、鼻歌まで飛び出します。 なんといっても、白雪姫を二度と出てくることのできない深い森の奥に置き去りにしてやった...
WetMarchen

第12.3夜 白雪姫

その部屋は、お城の中でも一番高い塔にある秘密の場所でした。滅多に人の立ち入ることのないそこに、小さな足音が響いていきます。「……さあ。……鏡よ、鏡」 こつ、こつ、こつ、と石畳の床を鳴らして響く、かかとの高い靴の足音。それに答えるように、部屋...
小説

雨の日のバスの話

降り続く雨は、このまま夜まで止みそうにない。 薄黄色のレインコートの裾を揺らし、長靴がちゃぷ、と脚元の水たまりを跳ねさせ、結局憂鬱なお天気のまま終わってしまった日曜日に、茜は小さく口を尖らせる。手にぶら下がった傘はデパートを出てきたときのま...