我慢RPG没ネタ供養・2

 ずっと以前にRPGツクールで作成しようとして頓挫した、「我慢系RPG」のイベント案を小説風にリメイクしたもの。
 一部つながりがあるもの以外、時系列などはバラバラで順不同。


■隣の家イベント
※隣の家の前でおばさんに話しかけると発生
※トイレ修理イベントに派生する
 家を閉め出された明日香が次に向かったのは、隣の家の玄関だった。
 隣家とはもう10年以上、家ぐるみでの近所づきあいがあり、登下校のときなどに挨拶をするような間柄である。困った時にお世話になることは、これまでも何度かあったことだ。
(……ちょっと恥ずかしいけど、知らない人に言う訳じゃないし……)
 わずかな躊躇いはあったものの、自分に言い聞かせるように頷いてインターホンを押すと、すぐに返事がありドアが開く。
「あら、明日香ちゃん? どうしたの?」
「こ、こんにちは……」
 顔をのぞかせた隣家のおばさんに、ぺこりと頭を下げる。
 明日香は出て来たのがご主人のおじさん――昨年定年を迎えたばかり――ではなかったことに少しだけ安堵して胸をなでおろす。余裕がないとはいえ、やはりこんなことは女の人でなければ話しにくいものだ。
 油断するともじついてしまいそうな脚をきゅっと寄せ合わせ、居住まいを正して、明日香は話を切り出した。
「その……ちょっとした行き違いで、家から閉め出されちゃって……お、お手洗い、借りても……いいですか……?」
 お手洗い、という単語を口に出した瞬間、わずかに足元がふらついてしまう。結果的にもじもじと腰を揺すり、我慢している様子を見せてしまって、明日香の頬は熱くなった。
 いい歳をしてはっきりと『トイレを我慢しています』と訴えるのには勇気がいる。まして、自分の家ではなく他の家のトイレを借りようというのだからなおさらだ。
(でも、このまま遠くまで行くのも……大変だし。ちょっとくらい甘えちゃってもいい……よね?)
 本当の本音は胸の内に隠して、明日香は軽く頬を赤くしながら、トイレを借りたい旨を訴えた。
 明日香の様子を見て状況を理解したのだろう。おばさんは、あらあら、と目を丸くしつつ、しかし頬に手を添えて困ったように眉を寄せる。
「……その、ごめんなさい? ちょっとねえ、朝から下水の調子が良くないのよ。……それで、さっき修理をお願いしたんだけど……」
(えっ!?)
 『いいわよ。どうぞ』そんな返事を期待していた明日香は、肩透かしを食らって目を丸くした。
 にわかに雲行きが怪しくなる。
「そのねぇ、工事の人がまだ来てくれないのよ。……午前中には間に合うって話だったんだけど……」
(ええっ!?)
 明日香の困惑は表情にも出ていたのだろう。おばさんは済まなそうに何度もうなずいて、御免なさいね、と決定的な一言を告げた。
「だから、今はうちのトイレも使えないのよねえ……」
(ええええーっ!?)
「御免なさいね。申し訳ないんだけど……」
 やんわりと、しかしはっきりした拒絶。
 故障中とはいえ、最悪使うことはできるんじゃないか――と、甘いことを考えていた明日香の期待は、完膚なきまでに打ち砕かれる。
「……そ、そんなぁ……」
 まさか断られるとは思っておらず、明日香はついに声を上げてしまう。
 またもトイレの直前で期待を裏切られたことに、明日香の排泄器官は抗議するようにきゅうっと収縮し、こぽりっと排泄欲求を湧きあがらせ。強まる尿意に乙女のダムの水面が波打つように揺れ、明日香は慌てて脚をぐっと交差させた。
 折角の解決策も全く役に立たず。明日香は回れ右を余儀なくされたのだった。


■ビルのトイレイベント
※大通りのビルのトイレ前で発生
『清掃中』
「うそっ……!!」
 明日香は呆然と、ビルのトイレの入り口で立ち尽くしていた。
 大きく遠回りをしてまでようやく辿り着いた婦人用トイレには、無情にもそんなプレートが設置されていたのだ。ご丁寧に、その横には『別のトイレをご利用ください』とまで注意書きが加えられている。
「………そんなぁ……」
 まっすぐデパートへ向かえばいいものを、わざわざ余計な苦労まで背負い込んでやってきただけに、失望感もひとしおだった。床に設置されたプレートの前で明日香はがっくりと肩を落としてしまう。
(ここまで我慢すれば大丈夫だと思ったのに……!!)
 明日香の身体はすっかりここでオシッコができるつもりで、準備を進めていたのだ。またも『お預け』を食らい、少女の下半身に、堪えていた分の尿意が一気に押し寄せてくる。下半身を飲み込みそうな強い波に、脚の付け根がじんっ、と痺れを走らせる。
 思わず明日香はスカートの裾を掴んでしまった。
 小さく足踏みをしながら、明日香はしばし、じっと入り口のプレートを睨みつけた。
(ううぅ……っ)
 清そのまましばらくトイレの前をうろうろと歩き、そっと、プレートの奥を覗き込む。
 トイレの中では、マスクに作業着姿のおばさん達が、何かの薬剤を撒いて床や壁の清掃を始めていた。ちょっと簡単な掃除、といった雰囲気ではなく、徹底的な洗浄・改修作業のようだった。
 ただの水洗いなら中に入ることは簡単なのだが、そんな様子でもないらしい。
「あのー……」
「はい?」
 それでも――一縷の望みにすがるように、きゅっ、と太腿を寄せ合いながら、明日香は掃除中のおばさんに声をかける。
「あ、あの、ここ……使えないんですか?」
「……使いたいの? うーん……ごめんなさいねぇ。いつもなら大丈夫なんだけど、今日はちょっと……無理かもねぇ」
 おばさんの説明によると、今日は半年に一度行われる本格的な清掃作業とのことで、いつもなら深夜におこわれるはずの作業が、テナントの事情で営業時間中にずれ込んでしまったらしい。
 先に婦人用のトイレ、そのあとに紳士用のトイレと、一日がかりの作業になるという説明を受けて、明日香は背筋を震わせてしまう。
「そ、その、あと……どれくらいかかりますか?」
「そうねえ、……まだ2時間くらいはかかっちゃうかしら」
「そんなにっ!?」
 たまらず声を上げてしまった明日香に、清掃のおばさんはすまなそうに眉を下げる。
「本当にごめんなさいねぇ。どうしても我慢できないなら、隣、使ってもらっちゃってもいいわよ。あっちはまだ作業してないから」
「隣? 隣って……」
「男子トイレよ」
 さらりと言われ、明日香はたちまち赤くなってしまった。……確かに、緊急避難としてはまあ、ありえない選択肢ではないが。
 ちらりと視線を向けた先、廊下の反対側にある青いマークの入り口に、タイミングを計ったように背広姿の男の人が入っていく。トイレの前で前かがみになっている自分を見られてしまった気がして、明日香は頬をますます赤くする。
「大丈夫よ、こっちが使えないんだから、説明すれば……。なんだったら……」
「あ、あはは、いいですいいです。すみません!! お仕事中に、お邪魔しましたーーっ!!」
 放っておくとおばさんが紳士用トイレまで案内付いてきそうな気配を感じ、明日香は慌てて踵を返していた。
 しばらく離れてから、ちらり、と背中越しに紳士用トイレのほうを眺め、明日香は苦笑した。
(いや……その、うん……確かにそうだけど、さあ……それはやっぱ、女の子として……どうかなぁ……)
 そんな事を考えている余裕が、まだあっただけ。この時の明日香はマシだったのだ。


■喫茶店&先輩コーヒーイベント
※アイテム:コーヒーの使用法について説明する
※強制尿意上昇イベント
※先輩はコーヒーを使用するまで解放してくれない
「あはは。そんなに汗かいちゃって。暑かったの? 遠慮しなくていいよぉ、明日香ちゃん」
「は、はい……」
 冷えたグラスは汗をかき、ストローが傾いてからんと小さく氷の音をたてる。秋とは言えまだまだ日差しは強く、外で運動すれば汗ばむくらいだ。考えてみればずっと歩き通しで、渇いた喉は確かに水分を欲している。
 けれど、目の前のアイスコーヒーには手をつけられないまま、明日香は曖昧に頷くばかりだった。
(……うぅ……っ)
 ウェイトレスの制服に身を包んだ先輩の“好意”の笑顔が、あまりにも心苦しい。
「どしたの? 飲まないの? 喉乾いてんじゃなかった?」
「そ、そうなんですけど……」
 後輩思いではあるが、良くも悪くも上下関係を強く重んじる先輩だ。あまり会いたくないタイプなのだが、まさかこんな場所でバイトをしてるなんて完全に予想外だった。
 困惑を隠しきれずに、明日香はじっと、コップになみなみと注がれたアイスコーヒーを見下ろした。
(こんなの飲んだら、もっと……トイレ、行きたくなっちゃう……!!)
 ただでさえ利尿効果の強いコーヒー、それがしっかりと冷えているのだ。恐らく、乾いた身体には効果覿面だろう。
 トイレを借りるために慣れない喫茶店に入ったところで、偶然部活の先輩に出くわしてしまったのは、不幸としか言いようがないことだった。決して嫌いな先輩ではないのだが、今日ばかりはそれが恨めしい。
 しかもこの喫茶店は集合店舗であるため店内にトイレはなく、いったん店を出てビルのトイレを使うことになっているのだという。それが最初からわかっていれば、明日香もわざわざ立ち寄ることもなかったはずだ。
 しかも具合の悪いことに、店内はがらがらで、カウンターの奥にいる店長はバイト中であるはずの先輩が明日香と話し込んでいるところを咎めようともしない。すぐ隣にじっと陣取られていては、席を立って『その前にトイレに』とも言い出しにくかった。
「……い、いただきます」 
 せっかくの好意を断ることもできず、誤魔化すこともできないまま、明日香は覚悟を決めてストローに口をつけた。喉が渇いていないと言えば嘘にはなる。我慢を続けているせいか口の中はカラカラで、舌がうまく動かないほどだ。
 吸い上げたアイスコーヒーは、きんと頭を冷やしながら喉を滑り、おなかの中へと流れ落ちてゆく。
「ん……っ」
 喉の奥へ流れ落ちてゆく冷たさは、おなかの奥まできんと響くようだった。同時に下腹部も敏感にそれを察知し、脚の付け根の痺れがじんと強さを増す。
 冷えた利尿作用の強いコーヒーは、まるで、そのまま膀胱の中へと注ぎ込まれていくようで、明日香は何度も座る位置をずさりながら、カウンターの下ではしたなく交差させた脚をしきりに組み換えてしまう。
(うぅ……タイミング、悪すぎだよ……)
 トイレを借りるつもりでやってきたのに、オシッコができないばかりかますますオシッコの素になるようなものを飲まされるなんてついていないにも程がある。
「どう? 結構いけてると思うんだけど、なんでかお客サン少ないんだよねー。場所も悪くないし、もっと流行ってもいいよねえ。明日香ちゃんもそう思わない?」
 がらがらの店内がよほど退屈だったのか、先輩はさっきから明日香の前を離れようとしない。
(と、とにかく、早く飲んで……外、出ようっ)
 緊張する喉を震わせ、再度ストローに口をつける明日香だが、きんきんに冷えたアイスコーヒーは、舌や喉を痺れさせるほどで、いくら飲んでも減る様子がない。
 時間をかければかけるほど氷が溶けて、飲む量も増えてしまうのだ。少しでもはやく飲み終えてしまいたい。そう思うのは当然の心理だった。
 目をつぶって、一息にストローを啜る。
(……っ)
 半分近く残っていたコーヒーが、一気に明日香のおなかの中へと消え、ストローがずずずっと音をたてた。おなかの奥が今飲んだ分だけ水位を増し、たぷんっと揺れるような錯覚を覚えながら、明日香は空になったグラスをテーブルに戻す。
「おー。いい飲みっぷり。さすがだねっ」
 嬉しそうな先輩はそう言うと、小さく拍手をして、
「おかわり、いる?」
 さらに嬉しそうにそんなことを言ってきた。


■茂みの奥で
※公園の少女イベントから派生
※河原に近づくと発生。
※以後、少女の居た位置は野ションスポットに変化する。
(あれ? あの子……)
 河沿いのサイクリングロードを急いでいた明日香が、落ち着かない足元を紛らわせようとふと視線をめぐらせた先に、見覚えのある色合いのリボンを見つける。
 河原に生えた茂みの中を、先ほど公園で見かけた女の子が小走りに走っていく。
「……さっきの子、だよね?」
 見間違いかとも思うが、公園で忙しそうにしていた少女に間違いない。
 どうしてこんな所という疑問を抱く明日香をよそに、少女は落ち付きなく周りを見回しながら、河原の隅、コンクリートでできた塀の方へと走り寄ってゆく。
 姿勢は背中を丸めて前かがみ。その左右の手のひらは、しっかりと重ねられ、デニムのスカートの上から脚の付け根に押し当てられていた。
(あ……!!)
 彼女が何をしようとしているのか、明日香はようやく理解する。
 公園のトイレは工事中だったのだ。立ち入ることができない以上、トイレを催したのなら、どこかほかの場所でオシッコを済ませなければいけなくなる。
 ぎゅうっと股間を握りしめた前押さえの恰好のまま、コンクリート塀の側に辿り着いた少女は、不安げに何度も周りを見回した。ちょうど明日香のいる位置はその真上であり、彼女もまさか、上から自分を見ている誰かがいるとは思っていないらしい。
 手のひらは脚の間に深くまで差し込まれ、ちょうど身体の前から股間部分を抱え込むようにそて前屈み。激しくバタバタと足踏みをしながら、ぎゅうぎゅうと腰をよじらせる。
 周囲に視線もないためか、少女の我慢の仕草はかなり大胆なものだった。それだけ尿意が切羽詰まっているのだろう。必死に我慢をしている姿につられて、明日香の下腹部もきゅんと切なく疼く。
 少女はもう一度回りを見回すと、デニムのスカートに手を突っ込んで勢いよく下着を下ろし、橋のたもとのコンクリートの壁に向かってしゃがみ込んだ。
「あっ……」
 小さな、鈴を鳴らすような可愛らしい声。同時に、少女の脚の付け根から凄まじい勢いで放たれた水流が、コンクリートの上を直撃した。
 サイクリングロードまで音が聞こえてきそうな、豪快なオシッコ。
 ずっと我慢していたのだろう。小さな身体とは不似合いなほどに勢いよく、まるでホースを使って水をまくような激しい水流が、コンクリートの地面に噴射されてゆく。
 噴き上がる水流はみるみる地面の色を変え、白い泡を立てながら傾いたコンクリートの上を滑り、河原の方へと流れてゆく。
「ふぁあああ……」
 放尿を続ける少女が、ゆっくりと安堵の溜息を吐いた。長い我慢から解放された少女の表情はふわふわに蕩け、目は潤み、唇はわずかに開いて甘い喘ぎをこぼす。
(い、いいな……あの子、……あんなに、気持ちよさそうに……)
 たまらず大きく揺れ動き、わたしも、わたしも、と。我慢の限界を訴える下半身。もちろん、あんなところでオシッコなんで、まだ小さな女の子だから許されることであって、明日香にはできるはずもないのだが――
(私も、はやくオシッコ……したいよぉ……っ)
 目の毒と分かっていながらも、明日香はしばし、その光景から目を離せずにいた。
 とてつもなく気持ちよさそうにおしっこをするその姿を見せつけられては、明日香の腰の揺れがおさまるわけもない。それどころか、今すぐあそこに駆け寄って、一緒にオシッコを済ませてしまいたいとまで考えてしまう。
(っ……ば、馬鹿!! 何考えてるのよわたしってば…っ)
 明日香は慌てて首を振る。あんな丸見えの場所でトイレなんて、あのくらい小さな子ならまだしも、明日香にできるはずがない。
 後ろ髪を引かれるのを無理やり振り切って、明日香は足早にサイクリングロードを走り去ってゆく。
 (初出:書き下ろし)

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