大混雑の仮設トイレは、男子トイレの一部を女子用に開放してもますます順番待ちの列を伸ばし、故障の続く個室は次々とタンクを一杯にして汚水を溢れさせて使用不能。せっかく並び続けた列から弾き出られた少女の中には、我慢に耐えかねてそのままその場でオモラシを始めてしまう者も少なくない。
会場外最寄りのトイレまではどんなに急いでも15分。しかも尿意の大波を乗り越えるので精いっぱいの少女達の足取りは重く、とてもそんな距離を歩くこともできない。挙句、そのトイレすらも詰めかけた少女達で少なくない順番待ちの行列ができている。
事務棟横のトイレすら、低学年の少女達を受け入れるのだけで処理能力の限界を越えつつあり、詰めかける順番待ちのせいで個室のドアは閉じられる余裕すらなく、少女達は個室のドアを開けたまま、丸見えの状態で洋式便器に腰かけて、オシッコを済ませると言う事態に陥っていた。
朝から我慢を強いられた選手たちも次々と限界を迎え、トイレを求める少女達の数は増える一方だ。午前中に運よくトイレに入ることができた少女達も、時間の経過と共に再びその乙女のダムの貯水量は増してゆく。健康的な少女の循環器は、通常ならば3時間ほどの経過で、尿意を覚えるのに十分な量のオシッコを膀胱に注ぎ込み、一度はからっぽにした筈の乙女の水風船を、再び大きく膨らませてしまう。
昼休憩のお弁当に合わせたお茶や、競技参加後に摂取したスポーツドリンクなどによって、その増加量はさらに増し、はやばやと激しく腰をモジ付かせてしまう者も出始めていた。
一度は尿意から解放された彼女達までもが二回目の排泄を訴え、再びオシッコのできる場所を探してあちこちを彷徨う『おトイレ難民』の列に加わってゆく。
もはや、河川敷のグラウンドを舞台とした町内会の運動会は、末期的な状況となりつつあることは明白だった。
しかし、それに対する具体的、画期的な解決策は、ついぞ運営側から示されることはなく、事態は終局に向けてますます混迷を極め、渾沌と煮詰まってゆくことになる。
本来、昼休憩をはさんで午後の山場となるはずだった障害物競走の決勝戦が、実質『オシッコ我慢競走』となってしまた事からもその一端がうかがえるだろう。
競技は第1から第8までのレーンに、各グループに分かれた走者が並んで行われた。走者は第1からやはり第8までであり、参加者は合計64名となる。
後に判明することとなり、事態に疎かった関係者を驚かせたのだが――この参加者64名のうち、競技以前に一度でもトイレを済ませてからスタートラインに立った少女はわずか2人だけだった。
この2名すら、トイレに入ったのは朝の9時と10時半。競技の行われた午後2時40分と言う時間から見れば、二度目の尿意を催してもまったくおかしくない時間が経過している。
競技の直前、選手たちから運営スタッフに対してトイレの訴えがあった事は、複数の証言で確認されているが、運営側はプログラムの遅れを理由にこれを拒否。かくして走者のほとんどが、ほぼ限界に近い状態の尿意を感じたまま競技に臨み、競技は開始された。
プログラムは既にこの時点で1時間弱の遅れを見せており、運営としても無視できないものだったようだが――いかなる理由があったとしても、擁護は難しいだろう。後の反省会では『どうせ漏らしてしまうなら、この時点で延期していても一緒だ』という暴論極まりないコメントが苦し紛れの運営側から出され、物議をかもした。
――話を戻そう。
ともかくも、少女達が耐え難い尿意に身をよじる中、競技は開始される。
それでも始めのうち、混乱はあれども競技は進んでいった。第1、第2走者の中にはゴール直後、うずくまって脚の付け根を押さえ込んだり、座り込んだ踵を股間に押し付けてぐりぐりと身をよじり始めてしまう選手が出るほど。
中にはスパッツを薄く黄色に染めてしまうほどの大胆な『おチビり』――もはやオモラシと呼んだ方が早いような粗相をしてしまう少女もいたが――それらの出来事は、その後に起きた衝撃的な光景から比べれば、まだまだ何も起きていないに等しい程度のものだ。
しかし第3走者のグループでは早々と、コースの前半のネットくぐりの際に屈んだまま、オモラシを始めてしまう少女が出てしまった。
ちょうど四つん這いになってネットを潜る姿勢は、我慢の限界状態においてはあまりにも『イケナイ』刺激を、少女の股間部分に与えたのだろう。
ブルマを勢いよく突き抜けさせた水流がコースを直撃し、大きな水たまりを広げていく様は、少女の悲痛な叫びと共に、屈辱と絶望に彩られた瞬間となった。幸いにして、オモラシの瞬間そのもの当事者の少女と、すぐ隣を走っていた選手以外には気付かれなかったのだが――それが却ってあとの悲劇を生んでしまう。
続く第4走者、第5走者にも、レース中にオモラシを始めてしまうものが出た。直接的な原因は競技のいくつかが下腹部に負担のかかる動作を強いるものだったことが挙げられるが、その多くが第3走者の少女のオモラシ現場のすぐ近くで頻発した事はただの偶然では片付けられない。
特設グラウンドを大きく一周する、コースの中央にできた水たまり。
それが何なのか、運営スタッフや観客たちのいる場所からでは分からずとも、選手として競技に参加し、近くを通ればその匂いや、泡立った水たまりの縁や、深くえぐられた地面の泥が、嫌でもその水たまりの『正体』を囁いてくる。
はち切れんばかりの尿意を恥骨上のダムに抱え込み、体操服の下腹部をみっともなくせり出させて懸命に競技を続けようとする少女たちにとって、直径1m近い水たまりは、なにものにも勝る強大な『障害物』だったに違いないのだ。
『そこ』で誰かがオシッコをした証拠は、限界ギリギリのところで耐え続けてきた少女達の我慢を容易く突き崩し、崩壊へと導いた。
『他の子もしてるんだし、私もここで……』そんな些細な誘惑。普段の状況なら、考える事もなく思考の端をかすめるだけの想像も、膨大な『おトイレ難民』に溢れる河川敷のグラウンドにおいては、十分以上に、耐え難い誘惑となって少女達を襲ったのだ。
こうまでも少女達の我慢の崩壊、オモラシが続いたのは、この障害物競走自体が予定よりも遥かに進行が遅れた事も原因の一端である。すでに限界寸前のオシッコ我慢の状態にある少女たちが、飛ぶようにコースを駆け抜け、素早く障害物をくぐり抜けてゴールできるはずもなく、レースごとのタイムは予定の3倍以上を要した。
最下位の選手に至っては、わずか一周400mのグラウンドを走り切ることができずにリタイアした者や、ゴール手前で我慢できずコースを大きく外れて、記録所の機材の物陰で下着を下ろし、オシッコを始めようとする少女まで出る始末だったのである。
そんな有様では、ただでさえ激しい我慢を続けている後ろの走者の選手たちが、ますます下腹部の切なる訴えに晒されるのは当然であり、彼女達を襲う凶暴な尿意は、もはや拷問と言っていいレベルにまで達していた。
さらに走者があとに下ると、コースの途中で深く座り込んでしまい、みるみる大きな水たまりを広げたその中心で動けなくなる者、がくがくと腰を揺すり、内股になった脚をくねくねと擦り合わせながらも懸命に進もうとして、前屈みのまま剥き出しの脚に水流を溢れさせてしまう者。ゴールを見据えながらも前のめりに倒れ込んでしまい、足元に猛烈な勢いで羞恥の熱水を噴射させてしまう者。
次々と繰り広げられる我慢と限界の綱引きの果ての、盛大なオシッコの排泄シーンは、まるでこの競技がもともとそういう類の、オシッコ我慢力を競うためのものだったのかと錯覚させるほどだった。
第6走者グループでの、跳び箱上・着地直後での3連続連鎖オモラシ・スプラッシュ。
第7走者グループでの、スタート地点での4人による同時限界オモラシ・“ジェットションベン”(命名:○○小学校△年×組男子生徒)でのスタートライン大洪水事故と、圧巻のシーンが続く中、何よりも衝撃的な展開となったのは最終、第8走者のグループだった。
それまでの競技中の連続オモラシによって、少女達のオシッコによってびしょ濡れになったコースを前に、参加した選手8人は、明らかに『誘われて』おり、一目見て限界と分かるほどに激しく我慢をしているのが明白な状況だった。
身体を折り曲げ、両手を揃えて股間に押し当てがっちりとブルマを掴み上げている者、まるで行進のように高く脚を上げてその場足踏みを繰り返す者、背中に回した手をぎゅっとお尻の方から脚の付け根に押し当て、爪先立ちで小刻みに震えている者、しゃがみ込んだ踵を股間に押し付け、ひっきりなしに身体を揺すっている者、レース前からその異常さは際立ち、レースに臨む全員が第7走者のように、スタートの号砲とともにその場にオシッコを出し始めてしまってもおかしくない状況に思われた。
しかし、そんな周囲の予想を裏切って、第8走者の少女達は懸命に走った。もはや歩いているよりも遅いほどののろのろ歩きで、前屈みになった亀のような進みで、形振り構わず股間を握り締め、内股の脚を動かし、太腿を擦り合わせ、何度もしゃがみ込んでは腰をよじり、ぴょんぴょんっと飛び跳ね――全身を強張らせて硬直し、猛烈な尿意の波に耐えながら。
それでも彼女達は、幾多の障害物を踏破し、進んだのだ。
そのときの彼女達の胸中は窺うべくもない。乙女のプライド、繊細な羞恥心のなせる偉業。あるいは、せめて自分たちだけは我慢しようという、競技に惨敗して無残な姿を晒した同じ選手同士の連帯感のようなものか。
たとえゴールしたその先に、トイレはなく。
そこからさらに、延々と――長蛇の列に並ばなければならないのだと分かっていても。彼女達は視力を尽くして耐え、また走った。
四つん這いになって進まねばならないネットくぐりも、着地の衝撃で膨らみ切った膀胱を激しく掻き回される跳び箱も、もろく引きつった排泄孔に猛烈な水圧を感じさせられたタイヤ運びも――恐らく最大の障害であった、コース中央にできたオモラシ水たまりの誘惑にも耐えきって。
最後の競技者となった8人の走者は、ほとんど差もないまま、ほぼ同時にラストの難関である平均台へとさしかかる。
そして、そこがこの競技のクライマックスとなった。
まっすぐ立つ事も難しいほどの猛烈な尿意、手を離していては勝手に開き始めてしまいそうな、体操服の奥の排泄孔。そんな状況で、8人の選手たちはそれでも懸命に平均台を渡ろうと足を踏み出し――その中央で、一斉に限界を迎えたのだ。
幅15センチの平均台の上では、倒れないように前屈みの姿勢を正し、脚を真っ直ぐに踏み出し、太腿を寄せ合ったり膝を擦り合わせたりすることは不可能だ。さらに、バランスをとるため左右の手を大きく広げなければならず、脚の付け根を押さえる事もできない。真っ直ぐ歩く事は難しく、視線も大きく前を見て。
まるで、聖女が磔にされるかのごとく。
手を大きく十字架のように広げ、ゴールを見据えて――
それでも、そこに真の意味での救いがないことは、競技場の端まで伸び切った仮設トイレ順番待ちの大行列が、ちょうどゴールテープの向こうに見えていることで明らかだった。
そんな、苦境に殉教するかのごとく。
長い長い果てしない、平均台の道を進み続ける少女達の股間から、隠す事もできないほどの猛烈な水流が、四方に滝のように噴き出した。
股間を握り押さえていればそこにぶつかって勢いを殺され、しゅうしゅうと脚を伝い落ちるだろう羞恥の噴出は、しかしなにも遮ることができない競技場のコースの上、競技に殉ずる乙女たちの下半身を凄まじい勢いで吹き上がり、一瞬で下半身をずぶ濡れにして、平均台の上にコースの上に迸った。
もはやなすすべなく、羞恥と屈辱に顔をゆがませ、耳まで赤く染めて。それでも俯く事は許されず。
競技の最中、何百という視線の晒し物にされたまま、羞恥のオモラシで下半身をびしょびしょにし、なおも激しくオシッコを迸らせ続ける8人の少女たちの姿は、観衆の中にも深く、深く刻み込まれていったのである。
(初出:書き下ろし)
河川敷の運動会・7
