dans la prairie 04

 さっそく主題を取り違えてる気がしないではない。


「あった……!」
 広い公園の片隅に目的の建物を見つけ、観冬はぱあっと顔をほころばせる。スキップ混じりの小走りで向かう『そこ』は、素っ気ない灰色のコンクリート剥き出しで、面白い事など何もないですよと言わんばかりの飾り気のない外観をしていた。
 市民公園の片隅に、うち捨てられたようにぽつんと建つ公衆トイレ――それが、観冬の『お花畑』である。
 近々リニューアルを控えている予定の市民公園は、一般の公園にはちょっと見当たらない遊具やアスレチックが設けられており、クラスメイト達たちは皆そっちに夢中になっている。けれど観冬が今日の遠足で一番楽しみにしていたのは、間違いなくこのトイレにやってくることだったのだ。
 足音を潜め、入り口からそっと中の様子を窺う。
 公園の喧騒を余所に、公衆トイレの中は静寂に満ちていた。
 がらんとした室内に人の姿はなく、個室は景気良くドアを開け放ち、和式と洋式の便器までもが丸見えだ。
(…………)
 期待に膨らむ胸が高鳴る鼓動を刻む。バスに乗っている間からずっと待ちわびていたのだ。きゅんきゅんと下腹で疼く欲求はもう待ち切れないと限界を訴えていた。念入りに何度も周りを見回し、あたりに人の気配がないことを確認してから、観冬は慎重に観冬は慎重に、青いタイル張りの床へと足を踏み入れた。
「ん……」
 ぞわりと腰裏から背筋を撫でる尿意に、脚がすくむ。靴底が小さく砂を踏む音を立て、観冬は背筋を竦ませた。
 家を出る前からずっと我慢を続けていたせいでパンパンに張り詰め、硬く膨らんだ下腹部をさすりながら、緊張に強張る喉に、こくりっ、と唾を飲み込んだ。
「……オシッコ…っ…」
 ようやくトイレに入ることができたためか、じんじんと脚の付け根に疼く尿意が、いっそう膨らむのを感じる。最後の最後まで気を抜かないように、観冬はスカートの裾を押さえながらそろそろと脚を進めてゆく。
 そうして観冬が向かったのは、個室ではなく――
 その向かいの壁に据え付けられた、小用便器だった。
 観冬が入っているのは薄いピンク色のタイルが彩る婦人用のトイレではない。
 そのすぐ隣、水色のタイルが敷き詰められた、紳士用のトイレだった。
(わ、わたし、男の人の方のおトイレ、入っちゃった……)
 女の子の自分が入ってはいけない場所。その事実をはっきりと自覚しながら、観冬は火照った頬をごしごしと擦り、緊張に溜まった口の中の唾をもう一度飲み込んで、一歩を踏み出す。
 こくりと動く喉と共に、水分を感知したおなかが連動して、足の付け根のダムが水面を揺らす。たぷんと音を立てる乙女の貯水池は、危険水位を越えるぎりぎりのラインだ。少しでも波立てばそのまま溢れだしてしまいそうだった。
(あっ………)
 壁にある白い陶製の器具を前に、ぶる、と背中が震えた。突き出し気味に前屈みになった腰がくねくねと揺すられる。男性用の小便器――普通の女の子であれば一生縁の無いはずの器具に、観冬は魅入られたように吸い寄せられてゆく。
 男性用小便器。『オシッコをしてはいけない場所』という意味では、少女にとってこれ以上禁忌となる場所は無いだろう。まさにその禁忌の場所で、オシッコをするという行為は、どうしようもないほどに観冬の心を昂ぶらせるのだ。
 俯いた顔を真っ赤にしながら、観冬はそっとスカートの中に手を差し入れ、下着を下ろしてゆく。子供っぽい綿の下着から片足が抜かれ、足首にくるんと絡められた。
(…………っ)
 恥骨のあたりを刺激する尿意に身をよじりながら、観冬は大きくスカートの前を持ち上げた。腰上どころかおへそが見えてしまいそうなほどに捲りあげられたスカートの裾の下から、無防備な『おんなのこ』がのぞく。
 およそ、トイレの個室の中でも見せないような――無防備な姿。下半身をほとんど丸出しに、我慢したオシッコでぽこりと膨らんだおなかも覗かせて、観冬はほとんどトイレの中で裸になっているのに近い状態だ。
 ひやりとお尻を、ふくらはぎを撫でる冷たい風に、観冬はますます熱い刺激を足の付け根に感じ、もじもじと腰を揺すってしまう。
 熱の出たようにぼーっと霞む思考はなおぐつぐつと煮立ち、イケナイことへの期待に震える。。覚束ない足取りのまま、観冬は前に出た。足を肩幅よりも大きめに開き、背中を反らせ、前に突き出した腰を小用便器の中に押し込むように押し出す。
 慎ましやかに隠されていた『おんなのこ』が無防備に小さな蕾をほころばせる。
 男性用の小用便器――古めかしい呼び名で『朝顔』などと呼ばれるそれが、観冬にとってのオシッコの場所、『お花畑』である。
 慣れた様子で立ったままのオシッコの準備を整えると、観冬はそっと脚の付け根の力を抜いた。
「あ……っ」
 しゅっ、と、狭い出口を擦る水流の音が聞こえた思うと、勢いよく噴射されたおしっこが、便器の中を力強く叩く。少女の脚の付け根から噴き出す水流は、じゅじゅじゅぅうとはしたない音をトイレの中に響かせた。
「……ぁ……はぁあ……っ」
 ずっと我慢を重ねていた状況からの解放感が、とろけるような心地よさとなって観冬を迎える。激しい水流が白い陶器の中に思い切り跳ね、じょばじょばと大胆な音を響かせる。およそオシッコの勢いと噴射力で比べれば、女の子のオシッコは男の子のものよりもはるかに強力で、猛烈なのだ。
(お、男の子の、トイレなのに……わたし……ぉ、オシッコ……しちゃってるよぉ……っ!! ……こんなところで、た、立ったまま……っ、オシッコ……っ)
 ここは公園の公衆トイレだ。誰が来るかもわからない上に、それはクラスメイトの男子や、先生かもしれない。しかも観冬の服の胸元には、しっかりと学校名とクラス、名前を記した名札がある。。誰かに見咎められたら、まず言い訳はきかないだろう。
 そんなあり得ない背徳の状況に、観冬の胸はますます高ぶってしまう。それは同時に、少女の排泄をさらに大胆に、激しいものへと変えていく。
(すごい……いっぱい、出る……っ)
 張り詰めていた下腹部がみるみる萎み、噴き出す水流の勢いはいよいよ最高潮に達していた。股間の先端で飛沫を跳ねさせ、飛び散る水流は陶器の中を直撃し、じゅごおおと音を響かせ、白い泡を立てる。跳び切らないオシッコの雫は太腿を伝い、おしりへと伝いぽたぽたと水滴を散らす。
 あり得ない場所でのオシッコ――『お花畑』での少女の心を揺らす倒錯した歓びは、まだ幼い少女の性感を強く昂ぶらせてゆく。尿意からの解放と共に、背中を続々と突き上げる甘い疼き。まだ恋を知らない少女にとって、男子用トイレでのオシッコこそが、異性との心の繋がりを得られる場所である。
 刺激の強過ぎる快感は、心をとらえて離さない強い誘惑を伴うものだった。
 (初出:書き下ろし)

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