明日開催のしーむす8に参加しようと思って用意した話。
もろもろの事情で申込みできなくなったのでこちらに。
「ま、待って……お願い、待って、茜…っ」
おぼつかない足元、ほんのりと赤くなった頬。
荒くなった息に交えながら、途切れ途切れに少女が切なげな声を振り絞って懇願する。
あたりは夕闇。人気のすくない公園の中を、少女は哀れなかすれ声を振り絞り、ふらふらと頼りない歩みで、先を行く影に追い縋っていた。
「そんなに、先、行かないで……っ、お願いぃ……」
そんな少女の姿は、この季節にはあまりにも似合わないものだった。
まず目を引くのが、下半身を覆う衣服は見えないこと。そして、上半身に纏っているのも、飾り気のない白い半袖のシャツ一枚だけという事実だ。
真夏の公園の水辺で、幼児がしているならともかくも、思春期のただ中にあると思われる少女が、往来を歩く姿としてはあまりにも相応しくない。
少女は少しでも肌を隠そうと精一杯シャツの裾を引っ張っているのだが、シャツの丈はあまりに短く、ギリギリのところで足の付け根を隠す程度。そんなきわどい丈のシャツの裾から、剥き出しの太腿が伸びている様は、嫌でも注目を集めるものだ。
ただでさえ肌寒いこの季節だ。夕暮れの公園にはひゅうひゅうと風が容赦なく吹き付け、そのたびに少女の身体は小刻みに震える。
「……お願い、許して……っ、だ、誰か来たら、み、見られちゃうよぉ……っ!!」
掠れた声で、先を行く影に訴え続け、少女はぎゅうっとシャツの前を握り締める。しかしぎりぎりの長さの裾でそんな事をすれば、身体の後ろ側、お尻のほうの裾が大きくめくれ上がってしまう。
そこに覗くものも、また少女の年齢には見合わないものだった。
はしたなく見えた少女の形の良いお尻――その下半身を辛うじて『お情け』のように覆い隠すのは、どうみても少女の年齢には見あわない、幼稚園の子供が身に付けるような『おこさまぱんつ』である。
もこもこのコットンの布地には、ご丁寧にデフォルメされたクマの絵までプリントされている。少女の両手がぎゅっと重ねられ、震えるようにシャツの前を引き絞っているため、短いシャツの裾は大きく背中まで捲れ上がり、クマのバックプリントが完全に丸見えになってしまっている。
そのことに少女自身も気づいているのだろう、しかしだからと言ってどうすることもできず、羞恥も露わに腰を激しくくねらせながら、少女は必死に脚を動かし、声を振り絞る。
「あ、…茜、おねがいっ……」
少女――野上秋穂は耐えがたい羞恥に耳まで赤くなりながら懸命に、先をゆく相手に呼びかける。
しかし、対する反応は冷ややかなものだ。
「お姉ちゃんが遅いだけじゃん。嫌なら早くきなよ」
「そ、そんな……だって……っ」
「ホントのことでしょ? それに、そんなカッコしてるお姉ちゃんと一緒に歩いてたりしたら恥ずかしいし」
そう言って、秋穂の1歳違いの妹、茜は目蓋を半分引き下ろした軽蔑の視線で、姉の醜態をじろじろと見回す。口元を嗜虐的な笑みに歪めながらの無遠慮な視線は、同性の――しかも妹のものであるにも関わらず、秋穂の羞恥心を激しくかきたてる類のものだった。
「っ、違うもん……ぜ、全部、茜がさせてるんじゃない……!!」
「えー? なになに? わたしのせいにするんだ? お姉ちゃんってばひどいなぁ。泣いちゃうよー?」
必死になって訴える秋穂をからかうように、茜は目に手を当て、あからさまな泣きまねをしてみせる。くすくす、と忍び笑いまで漏らす妹に耐えきれなくなって、秋穂は思わず涙ぐみ、鼻を詰まらせて俯いてしまった。
「っ、もう…やめてよ……こ、こんなの、知ってる人に見られたら……明日から、外、歩けないっ……」
「えー? なーに言ってるのかなぁお姉ちゃんてば。だ・か・らぁ、わざわざこぉんな遠くの公園まで来たんじゃない。お姉ちゃんがそうしたいって言うからさぁ。お姉ちゃんが恥ずかしいカッコしてるとこ、知らない人たちにいっぱい見てもらいたいんでしょ?」
「ちがうっ、そんなこと、言ってないよっ……」
秋穂はただ、家の近所でそんなことができるわけないと言っただけだ。
だがその言葉をわざと曲解した茜は、姉をわざわざ駅まで呼び出し、電車に乗って20分の駅まで無理矢理連れて来たのである。
降車駅のトイレでこの格好に着替えさせられたのもその時だ。それから午後いっぱい、ブラを付けることも許されず、Tシャツにパンツ一枚、あとは素足にスニーカーという破廉恥な姿で、秋穂はずっと見知らぬ街のあちこちを連れ回されていた。
知らない街とはいえ――いや、知らない街だからこそ、季節を無視したTシャツ一枚に下着だけというあられもない姿で歩かされる秋穂には、すれ違う人々の奇異の視線がざくざくと突き刺さり、少女の繊細な心はもう再起不能に近いほどに痛めつけられている。
「ふふ。でもさっきから通りかかった人みんーな、ヘンな顔してお姉ちゃんのこと見てたよねー。あれ、絶っっ対気付かれちゃってるよ? お姉ちゃんがいま『ナニ』したいのか。ねー? あはっ♪」
「っ……やめて……よぉ。ち、違う、違うんだからっ……」
ぶり返す羞恥に耐えかねるように、シャツの前を強く引き絞り秋穂はいやいやと首を振る。
出来れば二度と思い出したくない光景だった。もう何年も前の事にすら思えるが、あれはほんの1時間前の出来事なのである。
「あはっ、バレバレだってばお姉ちゃん。……ほぉら」
くすり、と笑みを浮かべ、茜はそんな姉のもとに歩み寄る。シャツの後ろから飛び出した、クマのバックプリントを覗かせる下着をさげすむように見下ろして、震えるその腰の後ろをぺしん、と軽くはたく。
「ぁは、あぁああ……ッ や、やだっ、やだぁ!!!」
途端、びく、と全身を硬直させた秋穂は、掠れた叫びを上げ、恥も外聞もかなぐり捨てて足の付け根に両手をあてがった。くしゃくしゃになったシャツの上から、女児用パンツの股間部分を思い切り握り締め、前屈みになって腰を左右にくねらせ始める。
「や、ぁあ、あっ……で、でちゃ……ぅぅぅ……ッ!!」
膝を交差させ、ぎゅうぎゅうと身をよじり、足を踏み鳴らす。まるで幼稚園の子がするような、人目もはばからぬ猛烈な羞恥のダンスをはじめてしまう。
前押さえだけでは飽きたらず、秋穂の手のひらはTシャツの裾から覗く下着の股布を押さえ込み、太腿に挟まれた指がぎゅうぎゅうと脚の付け根を揉みしだく。突き出されたお尻ではクマのバックプリントが引っ張られて皺になり、無残に姿を変えてゆく。
「んんっ……、ぁ、あっ、はぁ、ぁっ」
スニーカーの爪先がぐりぐりと地面をねじり、鳥肌の浮いたふくらはぎが交互に擦り合わされる。ぴったりと寄せ合わされた太腿は激しく上下し、秋穂の荒い吐息に合わせて腰が激しく揺り動かされる。
短いシャツを引き千切らんばかりに絞り、もこもことした布地の『おこさまぱんつ』の股間を激しく握り締めるみっともない姿で、秋穂は吐息の合間に、茜に抗議の声を上げた。
「あ、茜、やめて、……やめてよぉ…ッ」
「えー? どうして?」
苦しげな息を吐く姉の下腹部に手を添えたまま、茜がくすくすと笑う。
やめるどころか、茜はさらに秋穂のそばにぴたりと身体を寄せると、無防備なシャツの上から姉の下腹部に手を伸ばした。
下腹部からおヘソの下へと、巧みな指使いで妹の手のひらが茜の敏感な部分をなぞりあげてゆく。硬く張りつめた『そこ』を確かめるように撫でさすられ、茜は再び悲鳴を上げてしまった。
「んふぁあああ……っ!? …だめッ、だめやめてぇ!! や、やだっ、やだぁ!! そこ、そこダメぇ!! やめて茜ぃっ…!!」
「ほらぁお姉ちゃん、どうしたの? そんなクネクネしちゃって、恥ずかしいなぁ」
「っ、いや、いやあぁ……ッ」
茜はなおもとぼけながら、身悶えする姉の耳元に囁きかける。今度は撫でるように優しく、シャツの上から秋穂の腰骨に指を這わせ、子供ぱんつに包まれた丸みを帯びたお尻から背筋にかけてを、たっぷりと時間をかけて愛撫する。
がくがくと腰を上下させながら、秋穂は堪え切れないというように、脚の付け根に押し付けた指を深く、乙女の中心へと食い込ませた。
じん、と甘く痺れる誘惑が、腰骨から背筋へと走り、少女の喉が反り返る。
「あは……恥ずかしいなあ、お姉ちゃん。こんなに、ここ膨らませちゃって」
薄いシャツ一枚の布地の上、下着のゴムを食い込ませてせり出す下腹部の膨らみを、探り当てるように優しく撫でて。耐え難い感覚を与えながらも、決して絶頂は迎えぬように絶妙な力加減で、茜は姉の身体を弄んだ。
「だ、だめ……ぇ!! やめ、て……やめてっ!! お願い、お願い茜、もうやめて……っ、でちゃう、でちゃうよぉ……ッ!!」
もはやまっすぐ立っている事もできない秋穂は、妹の肩に寄り掛かるように体重を預け、きつく目をつぶって喉を震わせた。
「ぉ、おしっこ、おしっこ出ちゃうぅ……っ!!」
とうとう堪えきれず、秋穂ははっきりと、己を苛む尿意を口にしてしまった。
少女の限界を訴えるように、秋穂の下半身が強張り、内腿がびくっと張り詰める。きつく交叉された膝がぐいぐいとねじられ、スニーカーのかかとが地面をえぐる。
秋穂はもう何時間も前から、ずっとトイレを我慢させられていた。
着替えてから一度もトイレに行くことも許されず、耐え続けてきた尿意はすでに限界に近い。わずかな刺激ですら猛烈な大波となって脚の付け根へと押し寄せ、懸命に閉じている乙女の水門を、凄まじい水圧で打ち破ろうとしてくる。
「ぁ、あっあ、あっ、あッ……」
空腰を使うように腰をくねらせ、秋穂は下半身を激しく揺り動かした。少女の身体を覆うのは、ちいさな布地一枚のみ。秋も深まったこの季節の寒さをしのぐにはあまりにも頼りない。
長い我慢を強いられた膀胱は、羞恥の熱水を限界まで詰め込まれ、はち切れんばかりに膨らんでいる。薄いシャツ一枚の下、貯水量の限界に達しつつある乙女のダムは、秋穂の下腹部を緩やかな球形に膨らませ、身体の外へとせり出しているのだ。
「っ……お願い、茜……もう許してぇ……っ!!」
きつく寄せ合わせた太腿の奥に、じわりと熱い感覚。渾身の力を込めて締め付ける排泄孔が、内側からの水圧に耐えかねてひくひくと震える。いまにも『ぷくっ』と膨らみそうになる排泄孔を、両の手指で押しこねながら、秋穂は必死に妹に訴えた。
「茜、お願いっ……もう、ホントに、本当に……が、がまん、できないのっ……!! 出ちゃう、から……お願いっ、トイレ……っ、おトイレ、いかせて…ぇ!!」
クマさんのバックプリントぱんつを左右に振り立て、何度も何度も限界を叫ぶ。
まるで幼児のような、思春期の少女が口にするには、あまりにもはしたない懇願。しかもそれは実の妹に対するものだ。
もはやそこに年長者――姉の威厳などと言うものは残されていない。
「んもぅ、情けないなぁ。……ちゃんと我慢しなよ、お姉ちゃんなんだからさぁ」
「っ、だ、だって、きょ、今日、っ朝から一度も、トイレ……行って、ないのにっ……!! も、もう無理、っ、もう…が、ガマンできないっ……!!」
「だーめ。朝ちゃんと行かせてあげたじゃない。その時にちゃんと約束したでしょ? トイレは1日1回までって。忘れたの、お姉ちゃん?」
「だ、だって、だってぇ……!!」
いやいやをするように秋穂は首を振った。
茜の言葉は真実だ。しかし、そもそも朝のトイレだって、昨晩からずっと我慢させられていたオシッコを許されただけなのだ。
トイレは一日一回。秋穂が妹に強いられている、あまりにも理不尽なルールの一つ。
秋穂は昨日も同じように妹にトイレを禁じられ、夕食の時から延々と尿意を弄ばれ続けた。我慢に我慢を重ね、耐え抜いて、どうにかトイレに駆け込んだのが日付を越えたばかりの午前1時少し前。
確かにその時も、茜はからかうように、秋穂に言った。
『ホントにいいのかなあ? 今日、もうこの後、オシッコできないよ?』
それを突き飛ばすように頷き、妹の腕を振り切って、秋穂はトイレに突進していた。
一日にたった一回だけ許された権利を、日を越えてすぐに使いきってしまうことへの躊躇いなどは、まったくなかった。まる一日分のオシッコを、猛烈な勢いで陶器の中へと叩きつける解放感のなかでは、それから先の事なんて考えている余裕はまったくなかったのだ。
その結果が、今の秋穂の醜態なのである。
「言っとくけど、オモラシしちゃっても着替えなんかないからねー、お姉ちゃん? そのまま電車乗ってお家まで帰るんだから。くすくす。オモラシクマさんぱんつ、みんなに見られたいんなら勝手にすれば?」
「っ、やだ、ぁ!! 茜、お願い、お願いぃ!! と、トイレぇ……!!」
言いながらも、茜は秋穂の腕に手を絡め、まるで恋人が抱きつくように胸元に引き寄せる。とうとう自由に我慢する事すら遮られて、秋穂は悲痛な呻きを喉奥で唸らせる。
『今日』はまだあと6時間以上も残っている。もはや一刻の猶予もない秋穂の下半身が、それだけの時間我慢を続けていられるわけがないのは、誰の目にも明白だった。
「もう、だらしないなぁお姉ちゃん。ちゃんとトイレのしつけもできてないんだから。妹として恥ずかしいよ。ホント、わたしの身にもなって欲しいなあ。あはは♪」
「っ、ぁ、ああっ」
妹の嘲りにも、思うように答える事ができない。限界寸前の尿意は、鈍い痛みを伴ってずきずきと膀胱を疼かせ、執拗に秋穂の排泄器官をなぶり続ける。
薄い布地の内側で長時間のガマンを強いられた排泄孔は、酷使された括約筋と共にうっすらと熱を帯び、じんじんと脈動を始めていた。
社交的で良く出来た妹と、大人しい性格の引っ込み思案な姉。
理不尽を受けても引っ込んでしまう姉を庇うように、前に出る強気な妹――年が離れていないことと、秋穂が年齢の割に小柄であるせいもあって、秋穂と茜は幼いころから姉と妹を取り違えられるとこも少なくなかった。
それでも多少のアンバランスさはあれども、長年続いていた良好な姉妹関係が崩壊したのは、今年の夏休みに入る前のことだ
進学に伴い、春から秋穂と同じ学校に通うようになった茜は、社交的な性格と整った顔立ちで、すぐに学年でも人気者となった。部活や委員会からも勧誘がくるほどの引く手数多で、教師からも覚えがいいらしい。秋穂も決してそんな茜を羨むことなく、自分には似合わないくらいに良く出来た妹だと、そう思っていた。
しかし。中間試験も終わってすぐ、秋穂が3年の生徒会長から告白されたことで、事態は急変する。
入学から数カ月で既に10回近くも告白を受けていたという茜は、同学年の男子達をことごとく袖にしながら、その実ひっそりと生徒会長の事を狙っていたのだ。茜が1年にして生徒会に顔を出し、雑用を積極的に手伝うなどして役員とも顔馴染みになっていたのもそれが理由だったと秋穂が知ったのは、随分後になってからのことだ。
実際、秋穂にしても会長からの告白はあまりにも寝耳に水の出来事だった。間違いなく夢か性質の悪い悪戯だと疑い、信じるまでに1週間近くかかったほどである。
なんでも、いつも図書室に篭って本を読んでいる秋穂に、生徒会長はずっと想いを募らせていたのだそうで。一体どこが気に入られたのかも、実のところ秋穂にはよく解らない。
ただ、不幸なのは、茜の告白と、会長が秋穂に当てて送った恋文の時期がほとんど重なってしまったこと。
いくつかの擦れ違いが決定的な誤解となり、姉妹の間には修復不可能な亀裂が入ってしまった。
茜は、姉を理由に自分が振られたと思い込み、秋穂に対して深い憎しみを抱いたのである。 それまでも、姉妹二人だけの時には我が儘を言う事もあった茜だが、この事件以来その態度は決定的に変わってしまった。言葉の端々に生徒会長との関係を持ち出し、秋穂に理不尽な要求を繰り返すようになったのだ。
『いいなあ、お姉ちゃんは。先に生まれたからってだけで、わたしの分まで横取りしちゃうんだもんね』
事情を知るに至って秋穂も罪悪感を覚えていたこともあり、最初の内はつい妹の要求を受け入れてしまったことで、事態に更なる拍車をかけた。茜の要求は日々エスカレートし、ついには理由なく、姉にイジメ同然の理不尽な行為を繰り返すようになったのである。
そうなってからは、もう秋穂の抗議など受け入れられない。茜は姉が自分より優れているところがないのを確認するかのように、殊更に秋穂を貶めるような物言いを繰り返すようになった。
そんな事が続いて、秋穂の心は知らず疲れきって、摩耗してしまっていたのかもしれない。
ある日、秋穂は家のトイレの眼の前で間に合わずに『失敗』してしまうという事件が起きた。
なんとも運の巡り合わせが悪かったとしか言いようがない。その日に限ってまるで図ったように様々な邪魔が入り、秋穂は放課後になってもトイレに入ることができないまま、家路につくことになった。途中のコンビニにも入りそこね、公園の公衆トイレはあろうことか故障中。家までもたないと、遠回りになるのを承知で飛び込んだデパートは、大売り出しで大行列。
4時間以上も下腹部で暴れまわった尿意を必死になだめ、だましだましなんとか帰り着いた家で――悲劇は起きた。
玄関に靴を脱ぎ棄て駆け込もうとしたトイレから、ちょうど茜が出てきたところだった。廊下で妹とはち合わせ、すれ違う――時間にしてもほんの数秒にも満たないわずかなロス。けれど、秒刻みのスケジュールで解放のカウントダウンを刻んでいた秋穂の下半身は突如の予定変更に対応しきれなかった。
あとほんの数歩。トイレの目前、ドアノブを握りスカートの上から下着を押さえ込んだ状態、秋穂は我慢の限界を迎え、そのまま盛大に廊下を水浸しにしてしまったのである。
茜はとても信じられないというように、冷たい目で秋穂を蔑み、後始末をしている姉を散々に罵った。いい歳をしての『おもらし』は、出来の悪い姉を疎む妹にとって、格好の攻撃材料だったのだ。
そして目下、茜は秋穂の『トイレのしつけ』と称して、秋穂にトイレに行く事を禁止し、嫌がる姉をあちこち引き回す事を繰り返していた。
「ねえお姉ちゃん、せっかくお散歩にきたんだから、ぐずぐずしてないでちゃんと歩きなよ?」
「っ、あ、やだ、ひ、引っ張らないでっ……!! が、我慢できなくなっちゃうぅ…!!」
「あは。だから言ったじゃん。ねえ? そんなんで本当に夜まで我慢できるのって。これじゃ心配だなあ。明日から学校だよ? ちゃんと授業中も我慢できるのかなあ?」
くすくすと、口の端を歪めて笑い、茜は秋穂を引きずるように歩き始める。もはや立っている事も難しい秋穂は、脚を動かすこともできず、ずりずりと地面を引きずられ、公園の土の上にはスニーカーの痕が延びてゆくばかりだ。
茜は、明日からもこの『訓練』を続けるつもりらしい。いったいどうやって? どんな格好で? どんな無茶な事を? そんな想像は既に秋穂の思考の及ぶ範囲ではない。たった二日でもう憔悴しきってしまった秋穂は、なお高まり続ける尿意に耐えることで身体のほとんどの機能を使い果たし、既に力なく首を振るので精いっぱいだ。
「お姉ちゃん、会長さんの前でもそんなカッコでいるつもり? お姉ちゃんが恥ずかしい女の子なのは今に始まったことじゃないけどさ、そんなんじゃわたしまで恥かくんだよ? なんだったら会長さんにこのカッコ、写メっちゃおうか? うちのお姉ちゃんはこんなカッコでお外歩くのが大好きです♪ ってさ」
「…………っ」
秋穂から取り上げた携帯をちらつかせ、囁く茜。
そんなことできるわけがない、と思う一方で、茜ならやるかもしれないという恐怖はぬぐえない。妹が本気になった時、自分が抵抗する事など出来ないのを、秋穂は痛いほどに身をもって知っている。
トイレの前でスカートの前を押さえて足踏みをしている写真(顔だけは写されずに済んだ)を送られた時には心臓が止まるかと思ったし、その後の弁解は生きた心地もしなかった。
「ねえ、聞いてる? お姉ちゃん。ちゃんとおうちまで我慢しなきゃ。……できないんなら『罰ゲーム』だよ?」
「んっ、んぅっ、くぅぅっ……」
妹に囁かれ、秋穂は顔を赤くしながらばたばたと脚踏みを繰り返し、膝を交差させてなんとか崩壊寸前のダムを押しとどめようとする。
しかしそんな行為すら、茜にしてみればルール違反だと言うのだった。
「ほらあ、クネクネするの禁止って言ったじゃない!! ちゃんとまっすぐ背伸ばして! 恥ずかしいトコ押さえるのもダメだからね!! ……はい、あと十秒ね! やめなかったら『罰ゲーム』追加だからね!」
「んっ、ぁ、ま、待って、っ、茜っ……」
「ふふっ……じゅう、きゅう、はーち、なーな、」
理不尽にルールが変更される。慌てて反駁しようとする秋穂だが、無常にもカウントダウンは始まっていた。もはや二人の姉妹の間に対等な会話などない。秋穂は小さな暴君に振り回される、哀れな奴隷だった。
――『罰ゲーム』。
その言葉に茜はおなかの奥に冷たいものを飲み込んだような怖気を感じる。
(っ……も、もう嫌!! い、今、あんなコトさせられたら……ほ、っ、本当に……あ、あれだけは、もう絶対に嫌っ……!!)
いじらしくも妹の命令に従い、秋穂は茜の言う『ちゃんとした我慢』を実行しようと試みる。しかし、どれだけ頑張ったところで、秋穂の下腹部をぱんぱんに張り詰めさせた恥ずかしい液体がそれを許さない。すでに全身を使って我慢しなければ、耐える事も難しいほどの尿意なのだ。ゆっくりと様子を見ながら脚の付け根から手を離し、足踏みを止め、腰を伸ばしてまっすぐ立つ――それだけのことが、絶望的に難しい。
はち切れんばかりに膨らんだ膀胱は、熱く焼けた砂を詰め込まれたようにずしりと重く、重力に引かれるままに乙女のダムの底に空いた穴から噴き出しそうになっている。圧迫された下腹部では猛烈な水圧が激しく渦巻き、絶えず波のように秋穂の『女の子』に襲いかかる。
尿意の波を堪えようとオシッコの出口に力を籠めるたび、そこは鈍い痛みすら伴ってじんじんと痺れるほどだ。
「んぁあ……っ」
我慢の辛さに一瞬気が緩み、それと同時に排泄孔が緩みかける。じゅじゅっ、と恥ずかしい音を響かせそうになる股間を思わず押さえてしまい、秋穂はさらに激しく身体をよじり合わせた。こんな有様で、動かずにじっと立っているなんてことができるはずもない。
「ろーく、ごーぉ、よーん……」
「ぁ、っあ、っ……ふ…ぁッ」
手を離すどころか、脚の付け根に突っ込んだ両手の力を借りて、おしっこの出口を塞ぎ続けていなければならない。淡い色合いの下着はますます無残に引き延ばされ、クマのバックプリントは大きく皺を寄せて秋穂の太腿に食い込む。
「さぁーん、にぃーーーい、いぃーーーーーーち、」
姉の様子を楽しむようにカウントダウンを引き伸ばし、茜は最後に、ぱん、と両手を打ち合わせた。
まるで手品の掛け声のよう。しかし、マジックのようにその一言で、秋穂の尿意が嘘のように消え去るなんて事は、勿論ない。
「……ぜろ。あーあ、ダメじゃんお姉ちゃん。全然ちゃんとできてないよぉー? みっともないなあ、ちゃんとトイレのしつけもできてないお姉ちゃんがいて、恥ずかしーの私なんだからね?」
滑稽な姉の姿を前に、茜は苦笑を隠そうともしなかった。そもそもわずか10回のカウントで、限界寸前の尿意の波を押さえ込むことなど出来る筈がないのだ。慎重に慎重に時間を費やし、タイミングを見極めて、数秒じっとしているのだけが精一杯。ましてこの寒空の下、シャツ1枚と下着だけの薄着では不可能でしかない。
「ふふっ」
「や、やだ、やめて!! 撮らないでぇっ」
携帯のカメラを向けてシャッターを切る茜に、秋穂はかぼそい悲鳴を絞り出す。
動揺は更なる尿意を誘う。カウントダウンが始まった時よりも激しく腰をくねらせ、足踏みを繰り返す秋穂の顔を、茜は口元を緩ませて覗き込む。
「あっれー? お姉ちゃん、ひょっとしてもうチビっちゃった? うふふっ」
「っ、そんな、こと、ないっ……」
「そぉかなー? さっきからすっごくオシッコしたそうだけど? 言ったよね? 漏らしちゃったらその格好で家まで帰るからね? あ、罰ゲームももちろんだよ?」
「で、出て、っ、でてないっ、ないから、ぁっ!! ちゃ、ちゃんと、我慢できてるもんっ」
万が一にも、そんな事はあってはならなかった。ぶるぶると強く首を振り、秋穂は答える。少しでも気を抜いたら妹の言葉が真実になってしまう事は明白で、だからこそ、秋穂はそれだけは全力で回避しなければならない。
唇をきつくかみしめ、秋穂は再度、妹にアピールする。
まだ、漏らしていないから――トイレに行きたい、と。
「えー? ホント? お姉ちゃん嘘つきだもんなあ。信用できないなー」
「っ……そんな、嘘、なんか、じゃっ…」
「ふふっ、じゃあお姉ちゃん、見せて? いつもの確認ポーズ!!」
「ぁ、っ……」
かあ、と秋穂の顔が赤くなる。こんな往来でそんな事を要求するなんて――妹の悪意に背筋が震える。が、ここで茜の了解を得なければ、遠からず押し寄せる尿意の前に屈してしまうのは明らかである。それはもはや時間の問題だった。
「……っ」
羞恥を飲み込んで、秋穂は周囲を素早く確認し、シャツを掴んで持ち上げた。薄い布地がおヘソの下が辛うじて覗くくらいの位置になり、小刻みに震える秋穂の白いおなかが覗く。
「た、確かめて、ください、……で、出てないです、ぉ、オシッコして……して、ないです!! ぱ。ぱんつ、真っ白、です……!!」
心持ち開き気味にしたクマさんパンツの股間を、示すように前に突き出す。
妹に『オモラシしてないです』と示すための、定番のポーズだった。
尿意に耐えかねて必死の行為とはいえ、秋穂自身も信じられないほどのみっともない姿だ。少しでも頭の中に冷静な部分が残っていたら、今すぐこの場で舌を噛んで死んでしまいたくなるほどに。
「ふーん……なんかよく見えないなあ。このへん濡れてる気もするし」
「っ……あ、汗だもんっ!! ……お、オモラシなんか、してないっ、ちゃ、ちゃんと、ガマンでき、てるっ……からっ!!」
いつ誰が通りかかるとも知れない公園で、死にも勝る屈辱を強いられ、秋穂の羞恥心はズタズタだ。それでも一刻も早く許しを得るために。秋穂は茜に、下着を汚していないことを全力でアピールしなければならなかった。
「だ、だから、うく、ぅっ……お願い、お願い茜、お、おしっこさせて……!! ちゃ、ちゃんと、言われた通り、がまん、っ、してる……ううぅ……っ、はあはあ……っ、ちゃんと、茜の言うこと、聞くから、……お、おねがい、もうだめ、出ちゃうの、ぅあ……も、もう我慢できないからぁ……っ!! んぁあっ…・・今度こそ、ちゃ、ちゃんと、おしっこ…くぅ…おしっこ…させてよぉっ!!」
鬼気迫る形相で訴える秋穂の切実な叫びが響く。
「…………」
「っ…………あ、茜。ッ」
しかし、茜がしばしの沈黙の後に見せたのは、醜悪に唇を歪めた笑顔だった。
「ぷっ、あっはははは!! ひっどーい!! あっははははは!!」
おなかを抱えて笑いだす茜に、秋穂はもはや言葉もない。
「あーっ、おっかしい!! ねえ、ねえねえ、お姉ちゃん、やめてよねーもう。お姉ちゃんてば今いくつなの? そんなクマさんパンツ見せてさ、『おしっこさせてー!!』って、本気で言ってるの? ちゃんと我慢もできないんだ? ほんとさあ、幼稚園じゃないんだからさあ……やめてよね、恥ずかしーなぁ」
「あ、茜……うぅっ!!」
恥を忍んでの必死の訴えすら、茜にとっては姉をいたぶるための材料でしかない。しかしその妹に赦しを請わなければ、秋穂には排泄の自由すらないのだ。
(んぁあっ、でちゃう……でちゃううっ……!!)
もはや確認ポーズもとっていられなくなり、いまにも限界を迎えそうな下腹部のダムをきつく押さえつけ、腰を揺すって、秋穂は懇願を繰り返す。
「ぉ、お願いっ……茜……ぉ、おし、おしっこ……っ」
「えー? ちょっとー、おうちまで我慢するって約束したでしょ? ホントにだらしないなあ、お姉ちゃんてば」
「っ……」
脚の付け根から手を離す事もできず、秋穂は前屈みのまま縋りつくような上目遣いで、妹の顔を覗き込む。
茜は口元を嗜虐的に歪ませると、くすくす微笑んだ。
「そうだなー……ど・う・し・よぉっかなー?」
「あ、あき、ほっ……」
もったいぶって考え込むふりをする妹の言葉を、秋穂はただじっと待ち続けるほかない。じりじりと時間だけが過ぎてゆく。きゅうんっ、と張り詰めた下腹部が収縮し、ぱんぱんに膨らんだ膀胱の中身がたぷんっと揺れ動く。
「ねえ、お姉ちゃん、もうホントに我慢できないの?」
「っ、う、うんっ……」
「ホントにホント?」
「ほ、本当、っ、んあ……だ、だからっ……は、はやくっ……!!」
妹の言葉に赦免の気配を感じ取り、秋穂は何度も、勢い込んで頷く。しかし、そんな秋穂を見下ろして、茜はさらに意地の悪い笑みを覗かせた。
「あ、ねえお姉ちゃん? 今さ、ひょっとしてオシッコできるって思った?」
「え……?」
いきなり尋ねられ、秋穂は目を瞬かせる。
「だからさ、お姉ちゃん、いま、わたしが『オシッコしていいよ』って言ったらどうするつもりだったの?」
「ど、どうするっ、て、……っ、そ、そんなの決まって……」
「あーあー、ほらぁお姉ちゃん、恥ずかしいなあ。ちゃんと周り見なってば? ねえ、わかってる? この近くに、どっこにもトイレなんかないんだよ? それなのにさ、なんでこんなところでオシッコさせて欲しいなんて言っちゃうのかなぁー?」
「…………っ、そ、それ、は……っ」
ようやく気付いた秋穂の顔は、耳まで朱に染まる。
そう。茜の言葉の通り、この付近には一切、トイレ――オシッコのための設備など存在しないのだ。
しかし暴虐に暴れ回る尿意に振り回され続け、『おしっこができる』という誘惑に支配されていた秋穂に、そんなことまで考えている余裕は残されていなかったのだ。茜が意図して、会話の流れをずらし、秋穂の要求を『トイレに行きたい』から『オシッコさせてほしい』にすり替えていたことにも、秋穂は気付けていなかった。
「ほら、教えてよ? お姉ちゃん、『どう』するつもりだったのかなー?」
答えなど決まっている。が、とても思春期の少女が口にできるわけがなかった。秋穂は答えられずに、ますます顔を赤くして俯いてしまう。
「なに? ひょっとして考えてなかったのー? お姉ちゃんってば、そんなにオシッコしたかったんだ? ねえ? それともさ、オシッコできればどこでもよかったのかなあ? こんな誰かに見られちゃうようなトコロでも関係なかったの? お姉ちゃんだって、女の子でしょ? ひょっとしてさ、わたしがオッケーって言ったら、ここで、そのままパンツ脱いでオシッコ始めちゃう気だったの?」
「っ……やめっ、違うのっ……」
「えー? 違うの? 本当に? じゃあじゃあ、どうするつもりだったの? 教えてよぉ」
「っっ……」
これが妹の手管なのだ。
秋穂だって具体的にこの場で野外排泄を――野ションを始めてしまうつもりだった訳ではない。意識がわずかでも無かったかと言えば嘘になるかもしれないが、そんな事を考える余裕すらなかったというのが実際のところだ。
その、わずかな罪悪感を茜は見逃さない。言葉尻を捕え、羞恥を煽り、あらゆる言葉に悪意をたっぷり塗して歪めてしまう。
茜の容赦ない言葉に突き刺されるかのように、秋穂の下腹部は苦悶を叫ぶ。天性の素質とも言える嗜虐的な言葉が、膀胱を直接刺激されるような羞恥を呼び起こし、ますます秋穂の羞恥の源たる激しい尿意をなお一層沸騰させる。
言いかえすこともできず、溢れ出しそうなオシッコを懸命に堪え、小刻みに脚を震わせながら身悶えする秋穂を、茜は嗜虐的な笑顔で見下ろしていた。
「ふふっ、黙ってるってことは図星なんだ? 一応言っておくけどさ、ダメだよぉ。お姉ちゃん。お姉ちゃんは分からないかもしれないけどさ、普通に考えて、女の子がこんな道端でおしっこなんて、許されるわけないじゃない? ……犬とか猫じゃないんだからさぁ。そんなこと、考えちゃうだけでもヘンタイだよね? ねえ、それくらい分かってよね? お姉ちゃんは私より『お姉ちゃん』なんだから。……せっかくわたしがお姉ちゃんの『トイレのしつけ』してあげてるんだからさあ」
そうだ。秋穂は茜に隠し事などできるわけないのだ。
姉妹ゆえか、秋穂の浅はかな考えなどなにもかも茜にはお見通しだった。一方の秋穂には、妹がその笑顔の奥でなにを企んでいるのかなどまるで見当もつかない。不公平極まる差別を産まれながらに強いた神様を秋穂は恨む。
「ねえ、それとも、お姉ちゃんはこんな誰かに見られちゃうようなトコロでオシッコしたいの? ひょっとして、シてるところいろんな人に見られたかったんだぁ? そう言えば、前に路地裏でオモラシした時も、すっごいいっぱいオシッコ出してたよねえ? 音で気づかれちゃうよって言ったのに全然止められないしさ。……あははっ、そっかぁ、お姉ちゃんってホントにヘンタイなんだねぇ」
「ち、違うわ、そんなのちがうっ……!!」
そう言わなければ、この妹は本気で、雑踏溢れる往来、公衆の面前で秋穂に放尿を命じかねない。恐ろしい想像はなまじ杞憂とも言いきれず、秋穂は背筋に怖気を感じながら、声を荒げて言い返した。
「ふうぅん……じゃあさ、お姉ちゃん、別にいまここでオシッコしなくても平気なら、ちゃんと我慢できるよね? そんな、みっともない格好でモジモジしなくてもさ?」
「っ、で、でも、そ、それ、ぁ、あぁ、っ……」
途切れることのない尿意はもはや全身を使った我慢でなければ耐えきれないほどに高まり続けている。いつ下着の奥に漏れ出した熱い雫がはしたない水音を響かせてもおかしくないほどだ。何かで股間を押さえておかなければダムの崩壊は確実で、何でもない風を装うことなど出来る筈がない。
「ほら、どうしたの? お姉ちゃん、できるよね?」
「っ…………」
「うふふ。ねえお姉ちゃん、知ってる? お姉ちゃんって実はひそかに人気あるんだよ? 会長さんのほかにも、わたしのクラスにも、お姉ちゃんのこと好きだって子、けっこうたくさん居るんだから。それなのに、実はお姉ちゃんって『トイレのしつけ』もできてない恥ずかしい子なんだよね」
「っ、や、やめ、……もうやめて、もう、赦して……っ」
涙を滲ませ、首を振る秋穂。もはや全身に力が入らず、襲い来る尿意の前に身を丸めて息を殺すことしか出来ない。
しかし茜は容赦なく、そんな姉に処刑の決定を下したのだった。
「はーい、じゃあそんな恥ずかしいお姉ちゃんには追加で『罰ゲーム』けってーい」
「っ、そんな、嫌……やめてぇ……」
茜の言う『罰ゲーム』とは、秋穂が我慢を続けているこの状況で、さらなる水分の摂取を強制さられせることだった。しかも、飲まされるのは特に利尿効果の強いお茶やコーヒーに限られる。
その量は茜の気紛れで変わるが、500mlよりも少なくなることはまずなかった。
秋穂はお茶やコーヒーに含まれるカフェインにことさら敏感な体質だった。元々利尿作用のある物質だが、秋穂の場合はひとくち口にするだけで10分後には途端にトイレに行きたくなるような有様である。すでに我慢の限界に達しつつある状況で、秋穂にとってはほとんど利尿剤に等しいようなものを無理矢理、大量に飲まされるのだから、その効果は想像を絶する。
今、まさに現在進行形で、すでに女の子のプライドをなかば犠牲にして激しい尿意を我慢し続けている秋穂にとって、猛烈な利尿作用と水分の摂取を命じる『罰ゲーム』は何よりも避けなければならないことだった。
「だーめ。あんまり聞き分けのないお姉ちゃんには、追加でもう1回『罰ゲーム』してもらうよ?」
「や、やだ……やだよぉ…っ」
シャツの前を絞るように握り締め、秋穂は懇願する。2時間前にスポーツドリンクを飲まされただけでこの有様なのだ。この状況で紅茶やコーヒーなんか飲まされてしまったら、身体がそのままその場にしゃがみ込んでオシッコを始めてしまうかもしれない。
茜に縋り付こうとする秋穂だが、おしっこを堪えたまま、太腿をくっつけ脚を交差させたへっぴり腰のよちよち歩きでは茜に付いてゆくのがやっとだ。
その間にも腕組みをした茜はきょろきょろと周囲を確認し、思案を巡らせる。
前回は、学校の水飲み場まで連れていかれて、無理やり蛇口に顔を押し付けられた。着せられていた体操服がびしょ濡れになるまで水を飲まされ、そのまま校内を歩きまわらされたのだ。肌寒い季節に濡れた服のままでの引き回しは、凄まじい速度で秋穂の膀胱に追加分のオシッコを注ぎ込んでいった。
また今回も同じようなことをさせられるのか――もはや恐怖に声も出ない。
やがて公園の一角に目を止めた茜は、これだとばかりに目を輝かせた。
「じゃあ、これにしよう、お姉ちゃん」
「え……?」
茜が足を止めて指差したのは、路上の自動販売機だった。商品の入れ替えが進んでいないのか、もう回りは冬と言っていい季節だというのに、いまだに半分近くが「COLD」表示のドリンクが並んでいる。
「ほら。今日の『罰ゲーム』だよ。でも今回は特別にどれでもいいから好きなの選ばせてあげる」
「い、いいの……?」
「うんっ」
予想外の言葉に、秋穂は恐る恐る聞き返してしまう。いつもなら茜は間違いなく一番量が多く、利尿作用の強い500mlの緑茶か紅茶、コーヒー飲料のペットボトルを問答無用で指定してくるのだ。
だが、今日はそれを秋穂自身が選んでいいという。
秋穂は思わぬ采配に胸中で喝采を上げていた。一番小さな缶飲料なら、容量はペットボトルの半分以下だ。しかも直接おなかを冷やす原因となって響かないだろう『HOT』を選べば、いくらか尿意を和らげることができるかもしれない。可能なら、水分も少なそうな――ココアかポタージュのような食品に近いものであれば――
「はい! 今日はさらに大サービス!! 特典で、全部飲んだらおしっこしてもいいよ?」
「ほ、本当っ!?」
「あはっ。……なぁにその嬉しそうな顔? やっぱりそんなにオシッコ出したかったんだ? もぉ、さっきからオシッコのことだけしか考えてないんだね? ヘンタイお・ね・え・ちゃ・ん?」
一瞬の油断に緩んだ秋穂の警戒を潜って、茜の言葉が深々と心に突き刺さる。
ことさら年上であることを強調するように呼びかける茜に、秋穂は繊細な羞恥心を踏みにじられてゆく。だが、それでも今は、『罰ゲーム』の恐怖から逃れられたことへの安堵の方が大きかった。
茜の煽りに耐えながらも、秋穂の視線は自販機の右下、『HOT』表示のココアに釘付けになっていた。
「ふふっ……もぉ、しょーがないなぁ、お姉ちゃんは。おトイレのしつけもできてないんだから。……でもいいよ、わたしとっても優しいから、許してあげる。ほらお姉ちゃん、『罰ゲーム』選んだらオシッコしてもいいよ?」
「っ……じゃ、じゃあ……っ」
「た・だ・し!」
赦免の気配に自販機に飛び付きそうになった秋穂の鼻先に、茜はピンと立てた指を押し付けた。
「ご褒美のオシッコも、それにするコト。いい?」
「え……?」
妹の言葉の意味が分からず、秋穂はぽかんと口をあけ、思わず聞き返してしまう。
「え、っと……そ、それって……」
茜はそんな姉の呆けた表情がたまらなく可笑しいようで、くすくすと笑って、自販機を軽く叩いた。
「だからあ、お姉ちゃんが飲んで空っぽにしたジュースの入れ物が、お姉ちゃんの『専用トイレ』ってこと!! ちゃんと飲んだ分だけおしっこ出していいよって言ってるの!! ふふ、簡単だよね? まさか、お姉ちゃんって、飲んだジュースの分よりもいっぱいオシッコ出しちゃうなんてこと、ないもんねえ?」
悪魔のような宣言だった。
「あ、もちろん私の見てる前でおしっこするんだよ? わたしがちゃんと見張ってないと、お姉ちゃんズルするかもしれないからね♪」
「っ………」
喉が嫌な音を立てて引きつるのを、秋穂は自覚していた。もはや言葉も出てこない。妹の底知れない悪意は、すでに秋穂の想像をはるかに超えていた。
「それと、今特別におしっこさせてあげるんだから、これが済んだらもう明日までトイレは禁止だよ? お姉ちゃんのおトイレって一日一回って決まってるもんね。2回目なんだから当然だよね? あー、私ってば優しいなあ」
残酷な言葉で、茜は巧みに、姉の逃げ場を封じてゆく。
動けなくなってしまった秋穂を見下ろし、茜はくすりと口元を歪め、
「ほら、どれがイイの? お姉ちゃん? はやく選んで?」
「っ……」
「ほらあ、どうしたの? はやくトイレしたいんでしょ? あはははっ」
自販機に並ぶ飲料を前に、茜は黙りこくってしまった姉に意地悪く問いかける。ずき、と鈍く下腹部が重い痛みを繰り返し、硬く閉ざした出口がひくひくと収縮を始める。
(っ、あ、あっあ……っ)
乙女のダムの崩壊の予兆が始まっていた。もう一歩も動けないまま、秋穂は自販機を睨み付ける。
――飲んでしまったあとのことを考えれば、一番小さな150ml缶を選ぶのが一番だ。まだ今日は6時間以上残っている上、明日も同じように、トイレを自由にさせてはもらえないことは確実だった。
だからこれ以上下腹部に負担を駆けるわけにはいかず、少しでも摂取する水分は少ない方がいい。それは秋穂も理解している。
しかし、同時に秋穂が選んだ『罰ゲーム』の飲料は、そのまま秋穂の出せるおしっこの量に繋がるのだ。
本来、普通に考えて、茜の迫っているのは選択肢になりえない選択だ。どんなことがあろうと、こんな場所で――飲料の入れ物にオシッコを済ませるなんて、女の子としてあり得ない。一番小さな缶飲料を選んで飲み、あとはなんとか、トイレを我慢するしかない。
だが、半日以上にも及ぶ言葉責めと羞恥の中で限界まで追い込まれた少女は、乙女の羞恥などを度外視して、荒れ狂う排泄欲求のままに従う選択を強いられていた。今すぐ出したい。おしっこがしたい。本能のもたらす欲求が、少女の決断を躊躇わせ、目の前の誘惑を振りきれない。
(んぁあ……っ)
秋穂はそっと下腹に手をやって、おなかの張り具合を確かめる。
少女としてのプライドは否定するものの、常識的に考えれば朝からずっとガマンさせられ続けたおしっこが、あのHOTの小さな缶に全部おさまるとはとても思えない。
「…っ……こ、これ……っ」
長い、長い、長い逡巡の末、秋穂はずらっと並ぶペットボトルの一番右上、夏の名残りのままであろう「増量中・600ml」と書かれたペットボトルのミネラルウォーターを指差した。
指差さずには、居られなかったのだ。
「へぇ……お姉ちゃん、これでいいの? こんなに?」
「っ……ち、違うの、言わないでっ」
赤くなった顔を伏せ、必死にかぶりを振る秋穂に、茜はぴたりと身体を寄せてくる。
「あは。ねえ? お姉ちゃん、こんなにいっぱいおしっこ出したいの? 600mlだよ? ろっぴゃくみりりっとる。1Lの半分よりも多いんだよ? そんなにおしっこしたいの? ねえ、そんなにいっぱい、おしっこおなかのナカに溜めちゃって、恥ずかしくないの?」
「や、やめ、触っちゃダメぇ!!!」
やわやわと、妹の手が秋穂の下腹部へと伸びた。必死にシャツの上から股間を押さえる秋穂の腕の隙間を抜け、妹の手のひらがか細い抵抗の上から秋穂の下腹部を押し込む。
「ふぁああ!?」
やわやわと、絶妙な力加減で下腹部を揉みほぐされ、秋穂は悲鳴を上げてしまった。緊張と水分で張り詰め、伸び切った膀胱を直接刺激され、身体の一番底の水門が高まる水圧に押し開かれようとしてしまう。
「ぅあ……っあくっ、あ、っ、あッ……」
だらしなく開いた口ではあはあと息を荒げ、背中を丸め、脚の付け根に挟んだ両の掌を思い切り持ち上げて、股間の前からお尻の後ろまでを引っ張り上げる。シャツが引き伸ばされ、お尻は丸見え、引き伸ばされた下着の股布が少女の股間に食い込んで、きわどい位置まで見えそうになる。
何を選んだところで――こんな風に羞恥をえぐられる言葉をぶつけられるのは決まっていたのだ。もし小さなコーヒー缶を選択していても、利尿作用のある物を飲んで、すぐにお漏らししたいのかなどと無茶苦茶な理屈をぶつけられていたに違いない。
しかし、更なる理不尽を強いられることを承知で、秋穂は懇願を繰り返すしかなかった。
「お、おねがい、はや、く……っ」
「はやく? 『はやく』どうしたいの? ねえ、お姉ちゃん、はやく『ナニを』したいの? ねえ、わたし馬鹿だから、ちゃんと言ってくれないとわかんないなぁ♪」
「っ……おね、がい……茜……!! オシッコ、したいの、は、はやく、それ……飲ませて……っ」
「あはははっ……お姉ちゃん、サイッテーだね。オシッコしたいからこれ買うんだ? これに、600mlもオシッコしたいから、このミネラルウォーター買っちゃうんだ? ふふ、ジュース会社の人とか聞いたら怒るだろうなあ♪」
「あ、茜ぇッ……」
「うふふっ、わかったよぉ」
茜はちろと舌を出して見せると、ポケットの財布から硬貨を取り出し、自販機のボタンを押しこむ。
がこん、と重い音を立てて落ちてきたペットボトル。内容量600ml、この時期にありえないくらいにきんきんに冷えたミネラルウォーターを、秋穂はひったくるようにして奪い取り、蓋をあけると一気に口を付けて飲み始めた。
「んんっ、んぅ、っっ………」
がぼがぼと、まるで水責めにあっているかのように――飲み口を咥えこんだ唇から、ミネラルウォーターがこぼれおちる。Tシャツの胸元にジワリと染みが広がり、少女の肌を濡れ透けさせる。
それでも、恐ろしいまでの勢いで大量の水分があっというまに秋穂の喉奥に流し込まれてゆく。
喉が渇いているのは嘘ではない。延々責め嬲られていたせいで、口の中はカラカラだった。冷たいミネラルウォーターが、火照った喉を胃の奥を冷やしてゆく。
飲料ではなくミネラルウォーターを指定したのは、少しでも利尿作用のないものを選ぶことで、飲んだ分がおしっこに変わらないようにという、いじましい考えだ。たとえ飲む量が同じだとしても、膀胱に負担がかからないほうを選ばなければいけなかった。
「っ……は、っ、はぁ、はあっ」
「わー……すごーい」
秋穂の形相にしばらく呆気にとられていた茜が、目を丸くして賞賛の声を上げる。
それも道理で、夏にマラソンをした直後でも、こんな勢いでは飲めないかもしれない。咳き込みながらもあっという間にペットボトルを空にした秋穂を、ぱちぱち、と妹が拍手で出迎えてくれた。
「お姉ちゃんそんなに喉渇いてたんだ? ふふ、じゃあもう一本くらい飲めちゃうよね?」
「ま、待って!! いいから、だ、大丈夫、だからっ!!」
茜が自販機のボタンに手を伸ばそうとするのを、秋穂は慌てて制止した。
妹はえぇーーっと口を尖らせる。
じんじんと鈍いほどに痛む下腹部の尿意が、これ以上水分を口に入れてはならないと警告している。必死になって食い下がる秋穂に、茜はなおにやにやと意地の悪い笑顔を崩さない。
そう。本番は、これからなのだ。
「うふふ、お姉ちゃん凄いなあ。こんなにいっぱい、これからオシッコ出しちゃうんでしょ?」
空っぽになったペットボトルを示し、茜がくすくすと笑みをこぼす。600mlの内容量は、普通に考えて十分すぎるほどの『大容量』だ。しかし――本当にこれに全部、秋穂が我慢しているオシッコが納まるのか。
いくら否定しようと不安になってしまうほど、秋穂の尿意は壮絶だ。
(ち、違うもん、い、いくらなんでも、こんなにいっぱい、オシッコなんかしない……っ)
精一杯の否定も、どこか空々しいものだ。
ペットボトルにオシッコを済ませる――およそ、思春期の少女に許されるような行いではない。秋穂も携帯トイレというものの存在こそ知っていたが、これまでに使った経験などないし、これからもまず使うことはないだろうと思っていた。
多くの少女がそうと認めるように、秋穂にとっても、オシッコというのはきちんと整備されたトイレ――オシッコのための便器と、トイレットペーパーと、周囲の視線を隠す個室の壁や、鍵のかかるドア。その他もろもろの設備をひっくるめて、オシッコのための設備でこそ、なされるべきであり。
断じて、こんなものに済ませるようなものではないのである。
「あははっ、お姉ちゃん、ほら、おなかぱんぱんだね? これ全部オシッコなの? 恥ずかしーなあ、こんなにオシッコ我慢しちゃってさあ」
自分でさせておきながら、茜はそれがまるで女の子失格であるかのように秋穂をなじる。理不尽極まりないいちゃもんだが、秋穂にはそれに抗う余裕がないのだ。
秋穂が身につけているのは、上は薄いTシャツ1枚、下はクマさんプリントの子供ぱんつである。ただ下着を下ろすだけで、排泄の準備は全て整う。
そのギリギリの状況で、薄いたった1枚の布地が、秋穂の少女としてプライドを辛うじて繋ぎ止める命綱だった。秋穂のオシッコはこの薄い股布一枚で塞き止められていると言っても過言ではない。
「うふふっ、ほら……お姉ちゃん、我慢しないでいっぱい出してイイんだよ?」
「あっ、ダメ、ダメぇえ……!!」
「なんで? オシッコしたいんでしょ? ほら、出していいよ? 私、ちゃんといいって言ったもんね。私はさ、お姉ちゃんとし違ってちゃんと約束は守るよ? ね? ほらあ、お姉ちゃん?」
「だっ、だめ!! やめてえ!! っああ、こ、こんなトコでっ……で、できなっ……はあはあ……ちゃ、ちゃんと、おトイレ……トイレっ、ここじゃ、嫌なのぉ」
「うふふ。もうとっくに漏れてると思うけどなぁ?」
既に秋穂の心は擦り切れる寸前で、冷静な判断力など残っていない。まともに歩くこともできないのは十分すぎるくらいに理解していた。けれども。
どんなに許可をされたからって、どれだけ余裕がなくたって、身を隠す物陰すらない、公園のど真ん中で――こんな四方八方から丸見えの場所で、脚の付け根に直接、ペットボトルの飲み口を当てがってオシッコをするなんて、できるわけがない。
「お、おねがい、……秋穂っ、と、トイレ……おトイレ……!!」
「えー? さっきここでもいいって言ってたじゃない? ほら、おねえちゃんだってそんな所にしゃがんじゃってさ、そこでしちゃいなよ? お姉ちゃんが公園の真ん中でオシッコするとこ、いーーーっぱい撮ってあげるから」
「言ってな……ぁあああっ……んぅ、ぁあっ……やめ、ひゃめて、ぇ……ッ、」
否定の言葉も喘ぎにまみれ、体を成さなかった。一時も収まらない猛烈な排泄衝動に屈しかけた膝は折れ、欲望に正直な少女の身体は、立てた靴のかかとに下着の股間を直接押し付け、体重をかけぐりぐりと水門を押し当てて、必死の抵抗を繰り返す。しかしそんな秋穂の涙ぐましい努力も虚しく、既に下着の股布部分には、じわりじわりと湿り気が滲みだしているようだった。
そんな秋穂を見降ろして、茜は唇に指を添え、くすくすと笑う。
「ふふっ、ずーっとオアズケされちゃって、すっごい辛そうだね……ねえ、お姉ちゃん?」
「っ、おねがい、お願いっ、あ、茜、っ、はやく、はやく、トイレぇ……っ」
「あっははは。ふふ、……そうだよねえ、いいかげん我慢させつづけてかわいそうだし」
くすり。茜は秋穂の手を掴むと強引に引っ張り上げた。全身全霊で尿意我慢の体勢に入り、オシッコを堰きとめていた状態を崩されて秋穂はあああっと悲鳴を上げるが、茜はまるで意に介さない。
「あ、茜っ……も、もっとゆっくりっ」
「うるさいなあ。ちゃんと付いてきなよ」
姉妹とは思えぬ力で秋穂の手を引っ張り、茜はどんどん歩きはじめる。覚束ない足取りの秋穂ではそれについていくことは不可能だった。残ったもう一方の手で下着の前を掴み、ぐいいいいっと思い切り引っ張り上げ、引きずられるようにしながら後を付いてゆく。もはやオシッコを我慢する以外に役に立たない脚、ぴったりと隙間なく寄せ合わされた太腿の奥に、靴底が地面を滑る衝撃が走る。
じゅっ、じゅぅっ、と麻痺しかけた脚の付け根の水門で断続的に恥ずかしい水音が繰り返され、きつく引っ張り上げた股布にじわりじわりと染みが拡がってゆく。
「ぅあ、くぅあうぅっっ。……ッ」
水門が緩むたびに途方もない解放感が背筋をはいのぼり、じんじんと甘い痺れが恥骨の上を走り抜ける。長時間の我慢で酷使された括約筋が、果てしない労役からの解放に完成を上げ、内部からの水圧にぷくりぷくりと膨らみ押しあがる排泄孔が激しくヒク付いた。
もはや理性でもプライドでもなく、少女の本能で、秋穂はまなじりを下げ、歯を食いしばって耐える。最後の崩壊だけは少しでも先延ばししようと、健気に無謀な我慢を続ける姉に、時折振り返る茜は、秋穂の醜態を見て満足そうに口の端を持ち上げていた。
「はい、到着っ」
永遠にも思える時間の後、不意に手を引く秋穂の足が止まる。
――脚が痺れ、指先の感覚が無くなり、頭が白く、思考が飛び飛びに――太腿に伝う水流は幾筋にも増え、下着の大半、お尻のクマさんバックプリントまで黄色く染まり始めたあられもない姿。
気付けば秋穂の前には、小さなレンガ造りの建物があった。
見間違えようはずもない。二つ並んだ入り口には、赤と青で女性と男性を示すマークが配置されている。
公衆トイレ――
秋穂が切望し、訴え続けた場所、地獄の責め苦のような尿意から解放を許される楽園が、目の前にあった。
「あ、茜……っ」
「もお、お姉ちゃんがトイレトイレってうるさいから、連れてきてあげたんだよ? 感謝して欲しいなあ。……あのままじゃあそこで動けなくなって、オモラシしちゃってたでしょ?」
少し拗ねたような茜の声。妹がついに絆されて、許してくれたのだ――秋穂はそう思い、茜の方を振り返る。
しかし、茜の顔には、これまで見たこともないような、極上の笑顔が貼り付けられていた。
「はい、じゃあお姉ちゃん、いってらっしゃい」
茜は秋穂の背中に回り込み、レンガ造りの入り口へとぐいぐいとその身体を押してゆく。しかし――
「え、あ、茜、っ、ちが――っ」
「違わないよ、お姉ちゃん」
茜が秋穂の背中を押し向かう先は、女性用のトイレの隣。青いマークを記された入り口だ。
「このトイレなら使ってもいいって言ってるんだよ♪」
「え……」
あまりの事に一瞬、思考が理解を拒む。
男性用トイレ――茜は、秋穂をそこへ押し込めようとしているのだった。事情を察知し、秋穂は悲鳴を上げた。
「や、やだっ、ち、ちがう!! わ、私は隣……っ」
「ほらあ、おねえちゃん、トイレ行ってイイんだよ? スキなだけオシッコしてきて?」
「んぅ、ふぁぁあああ!?」
踏ん張ろうとした脚が、思わずもつれる。茜が背中から回した手でぐいぐいと秋穂の下腹部を押し揉んだのだ。猛烈な尿意の波が押し寄せ、秋穂は抵抗すらできなくなった。じゅじゅじゅうっ、とこれまでにない激しい水漏れが起き、少女のクマさんパンツが無惨に色を変えてゆく。
「どうしたの? せっかく私がトイレ行ってイイよって言ってるのに。お姉ちゃん、オシッコしたくなくなったの?」
「っあ、ち、ちが、っや、やだ、こっち、男のヒトのッ……!! み、見られちゃ、ッ……、そ、それに、あんなところで、ぉ、オシッコなんか、できなぃよぉ……!!」
男性用トイレの入り口が迫る。幸いにしてまだ人影は見当たらなかったが――壁に並んだ小用便器が眼に入り、秋穂は反射的に拒絶を叫んでいた。
意地悪く微笑む茜に、秋穂は混乱の中、腰をくねらせ激しく暴れた。だが秋穂が必死に足掻こうとも、疲労困憊の少女の身体では全ての動作は弱々しく、茜の前では成す術をもたない。
「えー? うっそだあ。お姉ちゃん、あっちだってちゃんとオシッコできるでしょお? ほら、この前だってちゃんと、立ったままオシッコ出来たじゃない。うふふっ」
残酷な茜の宣言と共に、市民温水プールのシャワールームに連れ込まれて立ったまま放尿を強制されたトラウマが蘇る。水着を裸に剥かれ、左右に利用者が居るにもかかわらず、茜に下腹部をいじくられ、排水口のある壁めがけ猛烈な羞恥の噴水を噴射させてしまったのは、秋穂にとって深層心理まで刻まれた悪夢のような現実だった。
「や、やだああ!! やだ、っやだあ!!」
男子トイレの入り口に捕まって、秋穂は最後の抵抗をする。Tシャツに下着一枚で、異性のトイレの入り口で暴れること自体が、即座に注視の的となり、場合によっては人を呼ばれてしまいかねない異様なものであったが――それはもはや、絶体絶命の秋穂にとってどうでもいいことだった。秋穂の望みはただただ、ちゃんとオシッコがしたい、それだけだ。
その必死の足掻きにぐいと押し戻され、茜ははあーと大げさに溜息をついてみせた。
「ホンっトーに我がままばっかりだよねえ、お姉ちゃんはさ。アレも嫌これも嫌って、じゃあどうするの? もういいからそこでそのままオモラシしなよ」
「っ、やあ、やああ!! やめて!! やめてお願い、撮らないでっ、おねがいい!!」
男性用トイレの前でしゃがみ込んでしまった秋穂に、無情にも携帯のレンズが向けられる。フラッシュと共に数枚シャッターが切られた。
生徒会長へのメールアドレスは短縮に登録済みだ。いつこの姿が転送されてしまってもおかしくない。じゅっ。じゅううぅと脚の付け根に新しく水流が溢れ、駄々っ子のように首を振り、秋穂は声を絞り出した。茜はなおも携帯を操作し、秋穂の痴態を携帯のカメラに収めてゆく。
「あっあ……っ」
脚は力を失い、がくがくと震え、立ち上がることもままならない。身体の内外から激しい尿意と羞恥に延々と嬲られ続け、すぐ隣にあるはずの女性用トイレの個室まで駆け込む余裕もなく、秋穂は身動き一つ取れない状態だった。
もはや希望の欠片すら残されていないそんな彼女の手に、ぐい、と空のペットボトルが押し付けられる。見ればさっき中身を飲みほしたばかりの600mlのボトルだ。
「じゃ、ちゃんと『罰ゲーム』ね。いい?」
「っ……」
「分かったの、お姉ちゃん?」
出来の悪い小さな子に言い聞かせるかのように、強く叱責され――秋穂はがくがくと首肯した。
「わ、わかっ、わかりましたっ……だ、だから、お願い、撮らないで、っ、お願いっ」
「ふふ。どうしよっかなあ? 会長さんだってコイビトに隠し事されちゃうの、嫌だよねえ。それに、お姉ちゃんがこんなカッコしてるの見たら、興奮しちゃうかもよ?」
「あ、茜えっ!!」
この期に及んで絶妙に乙女の羞恥を探り出し、辛辣な言葉で嬲ろうとする妹に、秋穂は涙を滲ませて哀れに懇願する。姉の威厳どころか、少女としての尊厳すら許されない姿だった。
「わかったよ。写真は止めてあげる。……ちゃんとココにオシッコ、するんだよ? これがお姉ちゃんの専用のおトイレなんだから。お粗相しちゃったらまた『罰ゲーム』だからね?」
「っ……」
茜は念入りに言い聞かせるように囁き、秋穂の手に握らせたペットボトルの飲み口を握り、次いで湿った下着の股布に指を引っ掛け、『ぐいっ』と真横にずらす。
秘めやかに隠されているべき乙女の秘所と共に、秋穂の排泄孔があらわになった。長い長いガマンを強いられ、さらになんどもなんどもおチビリを強いられて、秋穂のそこはお世辞にも慎ましやかとは呼べない有様になっていた。
これまで辛うじて、脚の付け根を覆ってくれていた布を失い、もはや秋穂の排泄孔を何も遮るものは無くなった。わずかな布一枚、けれど頑強で強靭な堰を失って、少女の身体は瞬く間に激しい水圧を湧き上がらせる。
「ぉ、お願いッ、ぁ、あっはやく、早くそれ、それにさせて、オシッコさせてぇ!!」
さっきの『罰ゲーム』からおおよそ10分余り。限界寸前の尿意と、鋭敏に高められた排泄器官は摂取した水分に過剰反応し、少女の下腹部でぱんぱんに伸び切った膀胱が激しく震え、収縮をぜんと脈動した。おなかの中を直接絞り上げられるような猛烈な尿意が一気に押し寄せる。
少女の股はぷちゅ、ぷちゅる、と断続的にオシッコを滴らせ、剥き出しになった排泄孔がぷくりと大きくヒク付く。脚の付け根をねじ込むように抑え腰を振りたてながら、秋穂は茜にねだった。
「ふふ、じゃあどうぞ、お姉ちゃん」
茜はぱっと手を離し、秋穂の手を解放した。秋穂はもはや躊躇うことなく、ペットボトルの口をそっと秋穂の股間に押し当てる。
丸い小さな飲み口が、排泄孔にぴったりと押し当てられるのとほぼ同時途端、少女の股間が爆発したように凄まじい水流を噴き上げた。水を詰め込んだ風船を破裂させたかのように、激しい水音が弾け、秋穂のオシッコが始まる。
小さな飲み口には収まりきるとも思えない、野太く猛烈な噴出――ペットボトルの内側を直撃する黄色い水流が、激しい泡をたてて透明な容器の底に溜まってゆく――
その、直後。
「――あ、お姉ちゃん。トイレ、誰か出てくるよ?」
あっけらかんと、茜が背後を指差して告げた致命的な一言に、秋穂は背筋を凍りつかせた。全身に緊張を漲らせ、泡立つ背中がびきりと硬直する。慌てて後ろを見ようとするが、足がもつれ上手くいかない。
「う、嘘っ、だ、誰も居ないって言ってっ……」
「ごめーん、見落としちゃったのかなあ」
くすくすと笑う茜。目の前で痴態を繰り広げているのは実の姉だというのに、まるで関係なしとばかりの他人事だ。
「あは。見られちゃうねえ。お姉ちゃんこんな所で、ペットボトルにオシッコしてるトコ」
秋穂のすぐ背後で、物音が響いた。個室のドアを開け、水を流し、洗面台に寄って外に出てこようとする、大きな革靴の足音。
或いは――それはすべて、限界寸前からの尿意から解放され、耳鳴り激しい秋穂の幻聴だったかもしれない。だがそれらの真偽を確認している事などできなかった。
(み、見ら、れ、ちゃ)
逃げなければ。秋穂は反射的に行動を起こしていた。しゃがみ込んだ姿勢のまま、ずりずりと脚を引きずって、懸命に公衆トイレの建物を回り込み、入り口から視覚になる場所へ――身体を引っ張り込む。クマさんパンツの股布を真横にずらし、そこに600mlのペットボトルを押し当てて、ガニ股姿勢で必死に急ぐ秋穂の股間から、ぶじゅじゅじゅううっと猛烈なオシッコは噴き出し続けていた。無理な体制でそれらが全部ペットボトルの小さな飲み口に納まる筈もなく、あふれたオシッコは秋穂の手にぶつかり、地面に飛び散り、撒き散らされ、公衆トイレ前の床のコンクリートを、むき出しの地面を激しく濡らす。
「っ、は、はあっ、はあっ」
オシッコをペットボトルに排泄しながらの旅路はおおよそ10m弱ほど。がくがくと腰を震わせ、回り込んだ公衆トイレの壁に背中を預け、秋穂は激しく息を荒げた。
もはや手指に感覚は無く、透明な容器の飲み口に押し当てられた排泄孔が噴き上げる猛烈な水流がボトルの中に注ぎ込まれる。たった10分前までは清涼なミネラルウォーターに満たされていたペットボトルは、泡立つ黄色いオシッコでみるみる一杯になってゆく。
秋穂の意識は薄れ、周りの何もかもがぼんやりと遠い。何もかも忘れて思いっきりオシッコをしたい――その望みのまま、乙女のダムは水門を全開にして放水を続ける。トイレのすぐ横で、本来はちゃんと個室の、白い陶器の中へと注がれるべきはずの乙女の恥水は、600mlの妖忌の中へと噴き出し、水面を激しく叩いて暴れ、少女の指にずしりと重く圧し掛かる。
恥ずかしいオシッコがペットボトルの壁に跳ね、自分自身の作りだした水面を叩いて響かせる音だけが秋穂の意識を埋め尽くしてゆく。
「あははっ、…ほら、もういっぱいになっちゃうよ?」
くすり、茜の声に秋穂は顔を上げ――凍りついた。
茜はじっと、携帯カメラを構え、こちらに――ペットボトルにオシッコをしている自分を余すところなく捕えんばかりに、レンズを向けているのだ。
「お姉ちゃん、さっき飲んじゃった分までぜんぶおしっこにしちゃってるんじゃない? お姉ちゃんってば恥ずかしいなぁ。こんなにいっぱいオシッコ出しちゃうなんて、みっともないカラダしてるんだねえ♪」
「や、あ、茜っ、しゃ、写真、とらないってっ……、や、約束した、のにッ!!」
「えー?」
惚ける茜に、秋穂はせめて視界だけは遮ろうとシャツを引っ張ろうとした。しゅうしゅうと激しく止まらないおしっこは小さな口にはおさまりきらず、秋穂のおしりを回ってぽたぽたとこぼれる。飛沫は容赦なく秋穂の肌を、白いシャツをも汚してゆく。
そんな中。茜はくすりと微笑む。
「やだなあお姉ちゃん、嘘なんかついてないよ。これ、動画だから」
「――――ッッ!?」
慌てて身をよじろうとする秋穂だが、茜は巧みのその先を回り込み、秋穂が飲み口に押し付けたオシッコの出口を、ほんのりと色付いた女の子の大事な場所を、慎ましやかな秋穂の肢体とは対照的に、豪快に猛烈なオシッコを噴き出させるその瞬間をレンズに収めていた。
絶対に露わにしてはならないはずの乙女の部位を、カメラに収められる恐怖に、羞恥に、秋穂は気が遠くなる。
「や、やだっ、やだあ!! だ、め、撮らないで、撮らないでええ!!」
身悶えしながらわめく秋穂だが、茜のレンズから逃れることはできない。カメラ越しにじっと姉の痴態を見降ろし、「いいよいいよー」と監督気取りだ。無機質な携帯のレンズが、得体の知れない大勢の視線に見え、秋穂は強張った顎で歯を軋らせる。
妹の手で羞恥の姿を暴かれ、秋穂は絶望の中、最後に残された、たったひとつだけ出来る抵抗を試みる。
「ふぅぅ、ぅ、くあぁあっあ……んぁう……ッ」
苦悶の声。激しい喘ぎ。ぶしゅぶしゅと吹き上がる水流に躊躇い無く手を押し当て、ぐいっと握り締め――太腿を震わせ、腰をくねらせ、ありったけの力を振り絞って、女の子の部位に力を込め、括約筋を引き絞る。
そう。
出始めたオシッコを、途中で止めたのだ。
「ぅ、く、あぁああ……っ」
尋常ではない精神力で、秋穂はそれを実行した。
排泄は、不随意筋である腹筋の一部に起因する膀胱の収縮による圧力で行われる。要するにぱんぱんに膨らんだ風船と同じだ。出口を離せば、中身は空になるまで出続ける。
通常、一度排泄を始めてしまったオシッコは、中身を全部絞り出すまで収まらないそれは尿道が短く、排泄孔と膀胱までの距離が短く、括約筋も男性に比べれば未発達なことが多い少女であればなお顕著であった。
女の子が、限界まで膨らんだ尿意の中、出し始めたオシッコを途中で止めるなど、奇跡に近いのである。
しかし、秋穂は、まさに排泄が本格的に始まった、本当の勢いで噴き出し続けている奔流のごときオシッコを堰き止めるという荒業を、本当に実行したのだった。
「はあ、はあっ、はああっ……うぅうっ……」
ぜいぜいと肩を荒げ、大きく下腹部をうねらせる。ひく、ひくと赤く充血した乙女の部位が震え、排泄孔がヒク付く。股間はまだ小刻みに震え、ぐっしょりと湿ったクマさんパンツからは身動ぎのたびに新鮮なオシッコの雫が垂れ落ちる。
しかし。ぶじゅ、じゅうじゅっ、と断続的な噴出は続いているものの、先程までペットボトルの中にぶちまけられていた野太い水流は停まっていた。ダムの放水を力づくで押さえ込んだようなものだ。秋穂の下半身には凄まじい負担がかかり、力を使い果たしてがっくりとその場に膝をつく。
「ぅあ……はぅっ、くうぅ……ッ」
わずかな――ほんの十数秒といった時間で、秋穂の握り締めるペットボトルの内部は、6割方が少女のオシッコに占領されていた。単純計算で360ml。外にこぼしたり溢れた分を考えれば400ml強のオシッコがほんの10秒余りで噴射されたはずだが、なお秋穂の膀胱は硬く張りつめ、激しい排泄欲求を訴えていた。
むしろ、中途半端にオシッコをしてしまった分だけ、収縮を始めた膀胱は秋穂の状態などお構いなしにオシッコを出そうと激しく暴れ、身をよじって恥ずかしい熱湯を噴きだそうとする。
「ぁ、ああっあ……」
半分だけ膀胱が縮んだことで、中途半端な排泄欲求は最後まで欲望を吐き出させろとわめき、閉じ込められたオシッコはぐつぐつと濃い尿意を煮詰め、激しく沸騰する。今度こそ完全に行き場のなくなった尿意を抱え、秋穂は口をパクパクと開閉させ、熱い喘ぎを漏らした。
はしたなくも脚を擦り合わせる様子で一目瞭然。猛烈な尿意はほとんど収まっていないことは丸分かりだった。「わー、おねえちゃん、凄いのが撮れたよお? ほら、見てみて?」
ぱちぱちと手を叩き合わせ、秋穂が携帯の画面を示す。
小さな四角い画面の奥に、哀れで淫らな自分の姿があった。尿意に苦しみもだえ、悲鳴を上げて下半身を震わせ、恥ずかしいところに押し当てたペットボトルにオシッコを注ぎ込み――やめてやめてと懇願しながら、それを途中で止める。
もはや言い逃れのしようのない、自分自身の痴態だった。
茜はポケットからハンカチを(当然、秋穂から取り上げたものだ)取り出し、地面に置かれたペットボトルをひょいと持ち上げたきらきらと輝く黄金色の中身をうわあと声を上げながら眺め、取り出した蓋をしてちゃぽちゃぽと揺すって見せる。
「うふふ、お姉ちゃん特製のおしっこ入りペットボトル600ml……あは。おカネ出しても欲しいって言う人いるかなぁ? ひょっとして。オークションに動画付きで出したりしたら売れたりしてね」
「や、やめてっ!!」
あまりの恥ずかしい提案に、金切り声を上げてしまう秋穂。しかし奪い返そうにも、なお募る猛烈な尿意はそれ以上の自由を秋穂に許さない。
「ふふ、冗談だよお。それとも本当に売って欲しいの? お姉ちゃん、まだまだおしっこ出せそうだもんね」
「っ……」
「さ、じゃあオシッコも終わったし、帰ろっか、お姉ちゃん」
「え……、だ、だって……わ、わたし、まだっ……」
一秒ごとにじりじりとせりあがるような尿意の波。下腹部を占領していた膀胱が幾分縮んだせいで、これまで身体のなかに留まっていた水分が、一気に膀胱へと流れ込んでいるのだ。
乙女の健康な循環器を通り、作り立てほやほやの新鮮なオシッコがじゃぼじゃぼと膀胱に注がれているのが、秋穂にははっきりと感じられた。
見る間にぱんぱんに膨らみ直した膀胱が内臓を押し上げ、圧迫し、胃の法までせまっているような、身体の中で風船のように大きくなっているような感覚。さっき飲んだばかりのミネラルウォーターで膨らんだ胃もちゃぽちゃぽと動き、その反応が膀胱を刺激する。
「それっておかしいよね? お姉ちゃん、オシッコ終わったんでしょ? ちゃんと私、約束通りお姉ちゃんにオシッコさせてあげたのに、約束破るの?」
「っ……」
茜の指が、携帯のメール送信ボタンの上を滑る。あの動画を送ると言っているのだ。脅迫をちらつかされ、秋穂はそれ以上の抗弁を遮られてしまった。
「あ、茜ぇ……っ」
脚の付け根は酷使され続けてじんじんと熱く、オシッコの出口がなおぴくぴくと痙攣する。都合半リットル以上にもなる熱湯を塞き止めるには、オシッコの出口の括約筋だけではとても間に合わず、秋穂は汚れた下着を押さえこんでぎゅうぎゅうと腰をよじる。
ちょうど、両手を使ってたぷたぷに膨らんだ破裂寸前の水風船を持ち上げているようなもの。重さにこらえきれなくなると、水風船がすとんと落っこちて、そのまま中身の量に耐えきれずに破裂してしまうのだ。
せめて。
最後まで、あのペットボトルを一杯にしきるまで、オシッコを出せていれば――悔やむがもう遅い。今日最後のトイレは終わってしまった。もう、秋穂は明日まで、オシッコをすることを許されない。
「ねえ、ところでお姉ちゃん、言ったよねえ。こぼしたらもう一回『罰ゲーム』だって」
飛び散った雫で、黒く染まった地面を指差し、くすりと微笑む茜の言葉に――秋穂はもはや抗う術を持たなかった。
(初出:書き下ろし)