蓉子が女教師としての立場を全て失い、公衆トイレの前で屈辱の醜態を晒している頃――クラス担任に見捨てられた2年A組のバス周辺でも、ちょっとした騒ぎが起きていた。
4時間以上にも渡る密室から解放された制服姿の少女達は、バスの乗降口から飛び出し、きつく唇を噛み、制服のスカートの前を押さえた擦り足で公衆トイレへと急ぐ。
同じ制服を身に付けた少女達が、ぞろぞろと連れ立って、サービスエリアを縦断する300mの道のりを進む。
「ぁあっ……はあはあ……ぅっ……」
「ん、くぅう……っ」
「はぁはあ、だめ、だめ……っ」
ぞろぞろと進む行列は、切なげに甘い声を漏らしては脚を停め、或いは根負けしたかのようにその場にしゃがみ込んで突き出したおしりを左右に揺すり、きつく膝を交差させて爪先で地面を叩く。全身で尿意を訴え、オシッコがしたいと叫んでいるに等しい。
狭い下腹部に閉じ込められた羞恥の熱水が、激しく尿意を沸騰させる。湧き上がるように込み上げる尿意を必死に堪え、いまにも水圧に負けて外にぷくりと膨らみそうになる排泄口を『おんなのこ』の力できゅうっと締め付けて堪える。
「くぅうぅうんっ……」
ぞれぞれの羞恥と苦悶に、少女達の声が桃色に染まる。
突き出したスカートのおしりの奥、ぐうっと『恥ずかしい後ろの穴に力を込めて』やるのが、乙女の水門を閉ざすのに一番いい方法なのだ。おチビりに濡れぼそった下着の中では、力を込めた括約筋に連動して可愛らしいおしりの穴までがヒクヒクと震えるのをしっかりと感じ取ってしまい、数名の少女達がなお顔を紅くした。
「っ、は、っぁ……っ」
恥ずかしがって遠慮していたら、下腹部の水風船をぱんぱんに張り詰めさせたオシッコが漏れてしまう――分かってはいても、人前でするにはあまりにもはしたない姿。まだ恋も知らない少女達が強いられるには辛すぎる辱めである。少女達の羞恥は並みのものではない。それでもここまで必死に我慢したのだ、今から無駄になんてできるはずもなかった。
濡れる下着の羞恥に俯き、太腿を閉じ合わせた内股に頬を染めての行進は続く。その有様は混雑したサービスエリアの中でも人目を引いた。
バスを路肩に停めての野外排泄の時よりも、遥かに多い外からの視線が注ぐ。
「いやぁ……っ、見ないで、よぉ……」
「っ、と、トイレ、いきたい、だけ、なのにっ……」
晒しものとなってしまった2年A組の少女達は、ただただ顔を地面に向け、針の筵のような衆目から顔を反らすことでしか抵抗できない。
もっとも慎ましやかさを求められ、人一倍繊細な羞恥心をもつであろう思春期の最中にある少女達が、あろうことか人前で隠すことなく懸命にオシッコを我慢しながら身悶えし、トイレを目指してぞろぞろと進んでゆくのだ。その姿に、下卑た視線や軽蔑のまなざしを向ける人々は少なくなかった。
だが――少女たちはもはや、クラスメイトの一人も例外を許さず我慢の限界だ。衆目の中であっても、人目を憚ることなく激しいオシッコ我慢の仕草をしなければ、果たして公衆トイレにまで辿り着けるかも怪しい状態であった。
「ぁ……んぅ、あっ、だめ、ぇ……」
今もまた、バスの乗降口タラップに捕まりながら、くねくねと恥ずかしい我慢ダンスを始めてしまった生徒がいた。右手でぐぐぐぎゅううとスカートの上から脚の付け根を押さえ込み、その場に立ち止まり足踏みを始める。
「ちょ、ちょっと、先行ってよっ」
「あ、あっ、だめ、お、押さないで、っ、で、でちゃ、っああああっ」
まだバスの中には後がつかえているのだ。すぐ後ろの生徒が急かすが、我慢ダンスを始めてしまった生徒はタラップから前に進む事はできない。
「ぅ……ぁ……っ」
そして、彼女のすぐ前には、乗降口を出た直後にしゃがみこんだまま動けなくなってしまった生徒がいた。おしりのほうまで大きく色を変えた制服のスカートが、ぱちゃぱちゃと雫を噴き上げるのを見て、タラップ上の少女の腰のクネりはますます大きく激しくなる。
目の前にお手本のような『オシッコ我慢ダンス』と『オモラシ』を立て続けに見せつけられ、後ろに並ぶ少女達はたまったものではない。まるで自分達のこれからの結末を見せられているようなものだ。バスの中から次々とじゅじゅぅう、しゅるるうると恥ずかしいおチビりの音が響き、はしたない喘ぎ声や涙声が聞こえ始める。
サービスエリアの端から、トイレまで300m。その距離は今の少女達にとってあまりに遠くに絶望するに等しいものだ。
そしてなお、たとえそのトイレまで辿り付けたところで、そこには100人以上にも及ぶ順番待ちの大行列が待ち受けている。婦人用トイレの前では、個室利用順番待ちの大行列が蛇行して入り口を塞ぎ、2年A組の少女達オシッコをさせまいとばかりに阻んでいた。
また一人。タラップを降りたそこで、心折れた少女が足元に恥ずかしい水たまりを広げ始めていた。
社会見学バスの話・64 バスの前に広がる水たまり
