細かい設定変わってるけど昔書いた「お姉さまと一緒の話」と同じ世界観。
グラウンドに、部活の声がこだまする。チャイムが鳴り、一日の終わりを告げる放送が校舎に残る生徒たちの帰宅を促す。夕陽に染まる煉瓦作りの校舎を背負った中庭に、二人の少女の姿があった。
目を引くのはその片方、そわそわと落ち着きのない様子の少女である。
紺のブレザーに膝下のスカート。白二本線のリボンタイ。言わずと知れたこの学院の制服、優麟館学院のものだ。伝統あるお嬢様学校として有名な制服は、街中を歩いていても人目を引くもので、独特の通学鞄と合わせて近隣の少女達の憧れである。
芦原結衣――優麟館学院の二年生である。
落ち着かない様子で辺りを見回す少女の表情には明らかな焦りをみえた。まだあどけなさを残す顔は青ざめ、寄せられた眉は困惑によじられている。
厳しい礼儀作法に知られる学院の生徒は、学院の内外に関わらず常日頃、慎み深き良家の子女としての振る舞いを求められるものだが――あまりそんな印象は無い。左右に括った栗色の髪が余計に子供っぽさを強調しているせいもあるのだろう。紅色のリボンタイは既に彼女が上級生であることを示しているが、先輩らしい威厳は感じられない。
その隣、彼女にピタリと寄り添うのは、さらに小柄な少女である。
「どうなさいましたの、結衣おねーさま?」
結衣よりも頭半分は低い、小動物のようにくりくりと大きな目をした、サイドテールの少女だ。制服胸元の緑のリボンタイは結衣と呼ばれた娘の一年後輩であることを示している。
けれど、どこかおどおどと回りの様子を窺っている結衣に対して、少女の堂々たる振る舞いはむしろ学年を逆にしてみた方がしっくりとくるかもしれない。
それもそのはず、緑リボンの彼女――篠守裕乃は、優麟館幼稚舎からのエスカレーター組である。学院で過ごした年数で言えば結衣の数倍も上なのだ。
そわそわと足踏みをしながら、結衣はしきりに背中を気にしている。
彼女の意識が校舎の昇降口――正確に言えば『その奥』から離れないことににんまりと口元を緩め、裕乃は背伸びをして結衣の耳元に囁きかける。
「うふふ、結衣おねーさま? そんなにあちらが気になりますの?」
「そ、それは、その……っ、だって……っ」
みるみる挙動不審になる結衣。足元が落ち着かないように身を揺すり始めてしまう先輩のそばで、裕乃がくすくすを笑みを漏らす。
そう、まるで――小悪魔のような笑みを。
「あは、結衣おねーさま、恥ずかしい格好……」
「っ…!? ひ、裕乃ちゃん、おねがい――や、やめてっ」
先輩を気遣うように伸びた裕乃の手のひらに、結衣は反射的に身を竦ませる。裕乃の手が、はっきりと『そこ』を目指していたのに気付いたのだ。ますます落ち着きを失い、左右に揺れ出す少女の身体――その場にじっとしていることもできなくなった結衣の様子に、裕乃はもういちど笑みをこぼす。
「ダメですよ結衣おねーさま。わたしが許可するまで、おトイレは禁止です」
かあっと結衣の頬が紅くなる。
はっきりとその事実を指摘され――けれど、結衣は押し寄せてくる欲求に耐えられなかった。こんな場所で、誰の目があるかも分からないのに。してはいけないことだと、わかっているのに――。
意地悪な後輩の誘惑に負けて。ついに、少女の手のひらは、スカートの上から女の子の大事な部分を押さえこんでしまう。
「っ……ぁ……っ」
スカートの上から恥ずかしい場所を握り締め、前屈みになった結衣の耳元に、サイドテールを揺らして口元を寄せ、そっと囁く。
「うふふ、ねえ結衣おねーさま、どこを押さえてらっしゃいますの? くすくす……そんなに我慢できませんの? ねえ、どうしても、『オシッコ』、したいんですの?」
「っ……」
はっきりと尿意を囁かれ、結衣の顔が紅潮する。優麟館の生徒がこんな往来で、スカートの前を押さえて脚をモジつかせるなんて、断じてあってはならないことなのに。学院生徒どころか女の子として落第だ。
羞恥と屈辱に耐えかねて、結衣は黙って俯いてしまった。裕乃はますます嬉しそうに微笑んで、わがままを言う小さな子に言い聞かせるよう、身をかがめて結衣の顔を覗き込むんでくる。
「ねえ、黙ってちゃ分かりませんよぅ。ちゃんと分かるようにお返事、してください?」
裕乃はぴたりと寄り添うように必要以上に身体を押し付けてくる。
するりと伸びた裕乃の手のひらが、結衣の腕の隙間をすり抜け、制服のブラウスの上からやわやわと下腹部をさする。
「ふぁ!?」
硬く張りつめ敏感になった下腹部を撫でさすられて、結衣は大きな声をあげてしまう。じいんと腰骨に刺激が走り、甘い痺れとなって脚の付け根に押し寄せてくる。こみ上げてくる大きな尿意の『波』。結衣はたまらずぎゅうっと太腿を寄せ合わせ、小刻みに腰を揺すって耐えた。
前屈みの上半身はさらに前傾を増し、結衣は身体をよじって裕乃の手から下腹部を庇おうとする。しかし裕乃はふらつく足の結衣を支えるかのように身体を寄せたまま、恥ずかしい液体をぱんぱんに詰め込んで硬く張りつめた下腹部の感触を楽しむように、絶妙な力加減でそこを揉みほぐしてゆく。
「っ、んぁあああ……ッ」
たまらず喘ぎを上げてしまい、耳まで赤く染まる結衣の耳に唇を寄せて、裕乃はくすくすと笑いながら、
「ねえ、結衣おねーさま? ちゃんと教えてくださらなくちゃ、私、分かりませんよ。ほら、どうなさったんですか?」
「っ……ぁ……」
おヘソの下でぐらぐらと沸き立つ羞恥のティーポットを刺激され、ぐいぐいと押し揉まれるたび、激しさを増した水圧がダムの一番底にある脆い水門を押し開けようとする。びく、びく、と酷使された括約筋が悲鳴を上げ、短い水路がうねり、くねり、ぷくりと膨らんで熱い雫を滲ませる。
もはや、結衣に正常な判断力は残されていなかった。桜色の唇を震わせて、結衣はとうとう、後輩の前で自分から、恥ずかしい欲求の告白を始めてしまう。
「だ、だめ……なの、も、もっ、もうっ……が、っ、がまん、できなっ…できない、ぃっ」
「我慢? うふふ、なにが我慢できませんのかしら? 『なに』が、ですの? ねえ、ユイおねーさま?」
「っ……ぁ、っ、や、やだっ、やだぁあ……ひ、裕乃、ちゃんっ……いじ、わる、しない、でっ……」
「あら。だってわたし、ユイおねーさまがどうして苦しそうなのか、分からないんですもの。ちゃんと教えて下さらなくちゃ。ねえ? うふふ♪」
少女の手のひらが、悪魔じみた力加減で、巧みに結衣の下腹部を押しこねる。嬲るように繰り返される下腹部絵の刺激に、結衣は食いしばった唇の隙間から熱い吐息をこぼした、
「っ、あ、っあ、………っ、し、……っ、……」
ぱくぱくと唇が開閉する。恥骨に響く甘い痺れが、稲妻のように背筋を這いあがり、ぞくぞくと少女の身体を震えさせる。
かあと頬を染めて、結衣は半ば自棄になって叫ぶ。
「ぉ、……おしっこ……、おしっこが、がっ、がまん、できない……のぉっ! もっ、もう、で……、で、でちゃう……っぅっ!!」
絞り出すようなはしたない訴えが、けして小さいとは言えない声量で校庭に響く。誰かに聞かれてしまうかもしれない、そんな事に気が回らないほど、結衣は追い詰められていたのだ。
ほんの数時間前に出会ったばかりの新入生の前で、その模範となるべき上級生であるはずの自分が、まるで初等部の子のように腰を揺すり、足をモジ付かせ、懸命にトイレの限界を訴えてしまったのだ。堪えようのない羞恥に、結衣は耳まで赤くしてしまう。
その様子に満足したように、裕乃はにんまりと満面の笑みをみせながら、口元をぬぐう仕草をした。
「くすくす……よく出来ました。花マルを差し上げますわ、結衣おねーさま♪ でも、これからは恥ずかしがらずに、ちゃあんと自分から『おトイレ行きたいです』って言わなきゃ駄目ですよ? でないと――」
「んぁ…ッ!?」
ぐい、と心持ち強めに、結衣の下腹部が圧迫される。
小さなお腹をぱんぱんに膨らませた水風船が押し揉まれ、出口に強烈な水圧がかかった。強引に肌を掴まれる感覚に結衣は目を見開き、口をパクパクと開閉させる。
「ふ、ぁ、ぅ、あぁあっ……」
同時に凄まじい勢いで尿意の波が押し寄せてくる。結衣は反射的に足を交差させ、スカートの上から股間をきつく押さえつけた。全身の力を振り絞って、オシッコの出口、括約筋にありったけの力を込める。
それでもなお足の付け根にはじゅっ、じゅぅうっ、と熱い雫が吹き上がる感触と、じいんと腰を痺れさせるような甘い排泄の解放感が溢れだした。
「ぁっあ、あっ、あ……!!」
目に涙すら浮かべて、結衣は必死に、オモラシの誘惑に抗う。
ここは神聖なる学び舎の一角なのだ。慎み深く、貞淑であるべし――人前でトイレに立つ事すらはしたないとされる場所で、女の子としてのプライドも当然ながら、歴史ある優麟館の生徒として万が一にも、足元の地面に恥ずかしい水たまりを広げてしまうようなことなど、決して許されない。
「くすくす……ね? 意地を張りすぎて、そんなふうに我慢できなくなっちゃったら、どうするんですの?」
前屈みになり、言葉も失って、ただただ全身全霊の力を振り絞って尿意に抵抗する結衣。ぷるぷると腰を震わせ、きつく脚を交差させ、両手の力も借りて排水孔を締め付ける。
永遠にも思える地獄の時間は、しかしどうにか結衣の勝利で終わった。辛うじて乗り越えた尿意の大波の揺り戻しを押さえ込みながら、結衣は裕乃に縋りつくように、懇願の視線を向ける。
「わ、わかった、からっ……わかったからぁ……っ、と、トイレ……おねがい、裕乃ちゃんっ、と、っ、トイレ、行かせてっ……」
「くすくす……もぉ、恥ずかしいですねぇ、結衣おねーさま。そんなに大声出したら他の子にも聞こえちゃいますわよ? ふふ、そんなに必死になって……おしり、モジモジさせて、そんなに『オシッコ』したいんですか?」
「…………っ」
自分が認めた事ではあるが、ことさらに明け透けに、羞恥を煽るかのような裕乃の囁きに、結衣は真っ赤な顔を何度も小さく縦に振る。曖昧にしていては裕乃はまた『あら、違いますの? じゃあ平気ですわね』とでも言い出すに違いない。これまで何度も、そうやって結衣は恥を忍んで後輩に訴えたトイレの要求をうやむやにされてしまった。
「本当に? そんなに、オシッコしたいんですか?」
「っ、そ、そう、も、もうっ、我慢、できない……で、でちゃう……から、っ、だ、だから、早く…っ」
焦らすように執拗に確認してくる裕乃に、結衣は必死になって肯定し、トイレを訴える。上級生の尊厳など微塵も残らない無様な姿だが、もはやそうでもしなければ解放してもらえるとは思えなかった。
「くすくす。しょうがないですわねえ……結衣おねーさま、上級生なのにみっともなすぎですわよ。……ふふ、そんなにしたいんでしたら、『オシッコ』、してきてもいいですわよ♪」
そう言って、裕乃はぱっと結衣の手を離した。
それまでの拘束を突然緩められ、一瞬つんのめりそうになりながらも、結衣はすぐに我に帰った。これで自由だ、もう邪魔されない。その事を全身が理解するより早く、ばっと身を翻し、校舎へと走り出そうとする。
トイレ、トイレ、トイレ!!
もうそれ以外考えられない。執拗な尿意に嬲られた下腹部は悲鳴をあげて限界を訴えている。ようやく解放されたその足で、結衣は一目散に一番近い、昇降口のトイレに向かった――その、直後。
がしっと凄い力で、結衣の手首が掴まれた。
「あらあら。どこ行くんですかおねーさま?」
くすくす、といつもの笑顔で、裕乃は再び結衣の行く手を阻む。
「っ、ぅ、うそつきっ、な、なにするの!? ひ、裕乃ちゃんっ、裕乃ちゃんがぁ、も、もういいって言ったんじゃないっ……!! も、もうやめてよっ、もう意地わるしないでっ!! ぉ、おトイ…レ、いかせてよお!!」
結衣の様子と言ったら、まるで幼稚園の子が、駄々をこねているみたいな有様だった。我慢できずにじたばたとその場で足踏みまで始めて、結衣は全身をねじりながら抗議の声を上げた。しかし裕乃は退く気配はなく、至極真面目な顔をしている。
「ですからおねーさま? どこに行かれるんですか?」
「だ、だから、お……お手洗い……っ」
くねくねと腰を揺らしながら、トイレに行きたいと叫ぶ結衣の顔は、もう取り返しのつかないほどに真っ赤になっている。優麟館の生徒ならずとも、年頃の少女が口にしていい言葉ではないのだ。
しかし、裕乃はそうやって必死に羞恥の訴えを繰り返す結衣に、にんまりと笑みを返し、
「うふふ。おねーさま。わたくし、『オシッコ』はしてきてもいいって言いましたけど、おトイレに行ってもいいなんてい・ち・ど・も言ってませんわよ?」
「えっ……!?」
意味が分からず呆気に取られる結衣に、すっと歩み寄って、裕乃はその下腹部をつんっとつつく。
「うぁあ……っ!? や、やめ、てっ……裕乃ちゃんっ」
外からの刺激にさらにみっともない格好を披露して必死の我慢を続ける結衣。激しく腰を左右にクネらせてしまう結衣に、裕乃はうっすらと口元を緩め、
「うふふ、ですから。結衣おねーさまがどうしても『オシッコ』させて欲しいと仰いますから、その許可はさしあげましたの。でも、お手洗いに行く許可は差し上げていませんわ。ですから、結衣おねーさまが行くのはあちらですわよ?」
そう言って、裕乃が指差したのは――
学舎の一角に作られた、遊戯用のアスレチックの足元。幼稚舎の女の子達が使う、どんな学校にも必ず一つはある、砂場だった。
意味が分からず、結衣は眼を瞬かせる。
どうして、トイレとあのアスレチックが繋がるのか。あそこには別に、トイレも何もなかったはずで――
「あ、あの、裕乃ちゃん、よく、い、意味が……」
「で・す・か・ら? 結衣おねーさまのおトイレは。『オシッコ』をなさる場所は、あ・そ・こだと言っていますの」
もう一度。しっかりと、砂場を指差して。裕乃はくすくすと笑みを深くする。
「あのお砂場でなら、『オシッコ』、いくらでもなさってもよろしいですわよ。結衣おねーさま♪」
にっこりと――
最高の笑顔で、裕乃は言う。
犬みたいに――あの、砂場にしゃがみ込んで、おしっこを――大きな音を立て、地面の上を大きくえぐって激しく泡立ちながら足元を水浸しにする――
理解を超えた羞恥に、オーバーフローしかけた結衣の思考がヒートする。
「で、できるわけないでしょっ、そ、そんなのっ!! す、砂場って……っ、そ、そんなこと、絶対にっ……だ、だって、あそこは皆が遊ぶ場所で……そ、そんなところで、おトイレなんか――!!」
「うふふ、結衣おねーさまがなさりたくないのなら、それはそれで一向に構いませんわよ。わたくしは、結衣おねーさまがどーしてもおしっこを我慢できないと仰るから、そうしてはいかがですの、と提案しただけですもの。
構わないというなら、まだまぁだたぁーっぷり我慢できるってことですものね、結衣おねーさま?」
「ふぁああ!?」
言いながら、裕乃はさわさわとイヤらしく結衣の下腹部を撫でる。さっきまでの圧迫とは違う微妙な力加減の手つきは、けれどますます結衣の羞恥を炙る火力を上げ、恥ずかしいティーポットをぐらぐらと沸き立たせる。
脚の付け根で沸騰し、蓋を押し上げしゅんしゅんと噴きこぼれそうな、羞恥のホットレモンティ。ぴったり閉じ合わせた脚の付け根にじわっと熱いものを感じ、結衣はたまらず出口を懸命に押さえ込む。
「ぁあっ……ぁっあ…だ、だめ、裕乃、ちゃんっ……」
ちょこんと突き出したおしりが左右に揺すられる。恥ずかしくクネクネと腰を揺すり、モジモジと膝を擦り合わせ、結衣は一時もジッとしていられない。裕乃の意地悪な指によって揺さぶられるティーポットに、注ぎ口のぎりぎりまで注ぎ込まれた恥ずかしいレモンティを溢れさせないようにするので精一杯だ。
「ほら、どうしましたの? 宜しいんですか、結衣おねーさま? ふふ。『おしっこ』なさりたいんでしょう? そんな有様で、ちゃあんと夜までガマン出来ますの?」
くすくすと――裕乃が結衣の耳元で熱っぽく囁く。小悪魔めいた誘惑は、愛くるしい容貌と相まってぞくぞくするほどに蠱惑的だ。裕乃はこうやって、結衣の欲望を見抜き、ぎりぎりのところを煽るのが実に得意だった。
この理不尽な仕打ちに、上級生としてせめて何か言わねばならないと考え、結衣がなけなしの勇気を奮いたてて叱ってみても――
『そんなの決まってますわ、結衣おねーさまが可愛過ぎて、いじめたくなっちゃうのがいけないんですのよ?』
と、じゃれつくように言ってくるのだから性質が悪い。本当の悪意があればともかくも、慕ってくる相手まで無碍にできないのが結衣の性格である。
「うふふ、夜まで……いち、にい……5時間くらいですかしら。さっきいーっぱい、お茶を飲んで頂きましたから、結衣おねーさま、もっともぉーっと『おしっこ』したくなりますわね。きっともっと、もじもじ恥ずかしいカッコをなさるんですかしら。……ああ、楽しみですわ」
腕に抱きつかれ、ぎゅっと小さな胸を押しつけられる。はたから見れば年下の生徒が先輩にじゃれついているような光景だが、その実、結衣は片方の手を塞がれてしまっているのだ。本当なら、今すぐぎゅうっとスカートの上から、はしたなくも制服の股間を押さえてしまいたいくらいなのに。
「ぁ、あっあ…っ」
これも言外に、お姉様は人前でそんなはしたないことなさいませんよね? と言われているに等しい。裕乃の他にはだれもいない初等部の校庭だというのに、不安定な姿勢のまま結衣は太腿を擦り合わせるしかない。
「あ、そうそう。これ、内緒でしたけど――あのお茶、お味はいかがでしたかしら? きっとその様子だと、とっても気に入っていただけましたのよね、結衣おねーさま。……うふふ、あのお茶、とっても、とぉーっても、『美容に良い』って評判なんですのよ?」
「え?」
美容、健康茶――話の方向に不穏なものを覚え、結衣は思わず訊き返していた。その類のものには、以前に嫌な思い出がある。
「代謝を良くして、身体の中の余計なものをぜんぶ、ぜぇーんぶ、からだの外に出してくれるそうですの。うふふ、そのせいで、ほんのちょっとだけ、おトイレが近くなっちゃうんですけれどね」
「そ、それって……!?」
「……うふふ。彰子お姉様にあのお茶を差し上げたの、わたくしですのよ?」
とんでもないことをさらりと告白して、悪戯っぽくウインクする裕乃。
しかし、結衣は告げられた事実にがあまりにも衝撃的すぎて、ただぱくぱくと口を開閉させるしか出来ない。
(あ、あのお茶……なの、本当に!?)
結衣の手のひらは反射的に下腹部を擦っていた。
脳裏を、二度と思い出したくなかった記憶が閃光のようによぎる。
二月の連休の『お泊まり会』で彰子に飲まされた、あの忌まわしき「健康茶」のことは、忘れようったって忘れられない。ほんのわずか、たったティーカップに一杯口にしただけなのに――それから2時間もの間、結衣は20分おきにトイレに駆け込まねばならないようなものだった。言う事を聞かない『おんなのこ』をはしたなく押さえ込み、もじもじとみっともない足踏みをしながら彰子に懇願して許しを乞い、なんど、洗面器に向けて恥ずかしい水音を響かせてしまったかわからない。
それを、あろうことか、一度にあんなにたくさん!? いくら喉が渇いていたからと言って、500mlのペットボトルに1本分も?! あまりの事に結衣の思考はパニックに陥る。
「うふふ、ちょっと淹れる時の温度と、お湯を変えるとあんな感じに、冷やしてもすっきり飲めるようになりますのよ。これでもわたくし、以前は華道部の副部長をつとめておりましたのよ」
ウインクしながら恐ろしい事実を告げる裕乃。結衣の耳にはもうほとんどその言葉も入らない。
独特の苦みと渋みがないせいで油断していた。あの猛烈な利尿作用が、結衣を待ちうけているのだ――そう思った瞬間、下腹部の尿意が一気に強さを増した気がした。
気のせいだ――とは言い切れない。裕乃のお茶を飲んでからそろそろ1時間。あのすさまじい利尿効果が表れ始めてもおかしくないころだった。
「あっあ、あっ……」
ガクガクと膝を震わせ、結衣は激しく腰を揺すり始める。いよいよ煮詰まった尿意が限界を迎えつつある。
「うふふ、それじゃあ、おトイレでなければ我慢なさるんでしたわよね? 行きましょうか、結衣おねーさま。そろそろ戻らないと正門も閉まってしまいますし。先生にもに怒られてしまいますわ」
「…………」
言葉を失った結衣の手を抱きしめたまま、くすくすと笑い、裕乃はそのまま歩き出そうとする。もう駄目だ。もう無理だ。
全てが彼女の手のひらの上だと分かっていても、結衣にはもう無理だった。
――結衣は、顔を紅くして、小さく答える。
「……わ、わかった、から」
「はい? なんですの、おねーさま?」
「も、もう……だめ、ガマン、できないから……っ、も、漏れ、ちゃう……!! だ、だから、こ、っここ、で、……っ」
ちらり。砂場に視線を向け、結衣はこれから口にしようとするはしたない言葉で、先に耳まで赤くなってしまう。
ここは小さな後輩たちの大事な遊び場所なのに――限界の尿意が結衣を追い詰めてゆく。
「こ、ここで、オシッコ……する、からぁ…っ!!」
はしたない懇願が、最後は小さな、けれど切実な叫びとなって結衣の口をついた。実際に尿意は限界に近く、裕乃の巧みな言葉で責め嬲られた少女の小さな出口は、いまにも緩みそうに悲鳴を上げているのだ。
ぱんぱんに膨らみ、シクシクと鈍い痛みを訴え始めた下腹部を擦り、結衣は戦く。
(あ、あのお茶を飲んで、夜までなんて……絶対に、無理……だよぉっ!! 絶対に、絶対に我慢できない……ぉ、お、オモラシ……しちゃう……!!)
一度体験したからこそ、その恐ろしさは骨身に染みていた。彰子の手によって施された健康茶による体中の水分を絞り出されるような感覚と、なんど噴き出させてもまったく弱まらない猛烈な羞恥の水流。繰り返すたびに鋭敏になってゆく『おんなのこ』の中心から噴き出す水流の感覚――強力な利尿作用による強制的な排泄の連続は、結衣の心を完全に屈服させていたのである。
だから。
だから、ここで。
今すぐに。
トイレでなくったっていい。
ここで、オシッコをする、と――。
学院の生徒にあるまじき訴えを、結衣は口にする。
「あら。あらあらあら。あらぁ♪」
口元を押さえて笑顔を見せながら、裕乃は俯いた結衣の顔を覗き込む。殊更に、少女の羞恥を煽るように。
「うふふ、きちんとご自分で言えましたのね、結衣おねーさま。花マルですわ。……結衣おねーさまは、ここで、このお砂場で、『オシッコ』なさりたいんですのね? おうちに戻るまで我慢できないから、こんなお外で、誰がが見てるような、お外で、お尻を丸出しにして、『オシッコ』なさりたいんですのよね?」
「…………ッ」
こくり。羞恥に歯を噛み締め、悪魔の誘惑に従って、結衣は小さく頷く。きつく握り締められたスカートの奥で、今にも尿意が溢れそうだ。
「うふふ……それじゃあ今すぐ……あ!」
とてもいいことを思い付いた、とばかり。ぱん、と手を打ちあわせた裕乃は砂場の近くに転がっていた――恐らく幼稚舎の子達が片付け忘れたのだろう――砂遊び用のシャベルを手に取る。
「そうですわ♪ お砂場を使うのでしたら、これがありませんとね! 貸して差し上げますわ、はい、どうぞ、結衣おねーさま!」
「え……?」
にこりと、極上の笑顔でシャベルを結衣に押し付ける裕乃に、結衣は眉を潜めてしまう。
後輩の意図が掴めず、けれど彼女の笑顔に不穏な気配だけは感じ取って、結衣は困惑のまま瞬きする。
「うふふ、どうぞ? ほら、これ、使ってよろしいですわよ、結衣おねーさま」
さも『これはいいものだ』と言わんばかりに押し付けられる、砂遊び用のシャベル。ますます混乱する結衣に、裕乃はとんでもないことを言ってきた。
「あら、お分かりになりませんの? うふふ、結衣おねーさま? いけませんわよ? ねえ、うふふ、ま・さ・か、結衣おねーさま、そのままお砂場に、直接、そのままで、『オシッコ』なさってしまうおつもりでしたの?」
「…………っ!!」
まさかも何も、そう強いたのは裕乃であるはずなのに――あまりの言い分である。しかし切羽詰まった下腹部を抱え、それに従うしかない悔しさに、結衣は非難と懇願のの入り混じった視線を、縋るように裕乃に向けてしまう。
「うふふ、そんな困った顔なさらないでくださいまし。心外ですわ。私、ちゃあんと結衣おねーさまの事を思ってご忠告さしあげてますのよ。だって、猫さんや犬さんだって、おトイレの準備と、後始末はなさいますものね? 結衣おねーさまのココに、いぃーっぱいになってる恥ずかしいオンナノコの『オシッコ』。そのまま、このお砂場になさってしまったら、大事な大事なお砂場が、おねーさまの『オシッコ』で泥だらけの水たまりになってしまいますのよ? ねえ、『オシッコ』なさっている後で、そんなどろどろのぐちゃぐちゃになったお砂場を、幼稚舎の子達が見つけたら、いったいどうなさるおつもりでしたの?」
「っ、な、なに、言って……そ、そんなトコで、し、しろって、いったの……裕乃ちゃんじゃないっ……!!」
「で・す・か・ら! うふふ、はい、おねーさま。ちゃあんと『コレ』で、結衣おねーさまも、お砂場を汚さないように、おねーさまの『おトイレ』の準備をなさらないと。ねえ?」
裕乃の言いたいことは簡潔だった。
要するに。
このシャベルで砂場に穴を掘って、そこにおしっこをしろ――ということなのだ。
「ひ、裕乃ちゃんっ、そんな……っ」
「あらあら。おねーさま? まさかのまさかですわ。幼稚舎の子たち、毎日ここをお遊戯に使ってるんですのよ? 大事な大事な遊び場所ですのよ。そんなところをまさか、ただ、おトイレが我慢できないというだけの我儘で、『オシッコ』でびちゃびちゃにしてしまってもいいとおっしゃいますの、結衣おねーさま?」
裕乃がふいに、くいっと下腹部を押し揉んだ。結衣はたまらずその刺激に『ひゃうんっ』とはしたない悲鳴を上げてしまう。
「そ、そんな……っ」
有無を言わせぬ勢いで、裕乃は結衣の手にシャベルを握らせてきた。自由を奪われた結衣の背中に回り込み、そのまま砂場の方へと、足元のおぼつかない結衣を押しだす。
目の前に近づいてくる砂場――清潔に保たれた学舎の一角。あろうことかこんな場所で――改めて、自分のしようとしていることを意識させられ、結衣の思考は羞恥の炎に炙られてゆく。
「っ、あぁ、や、ひ、裕乃ちゃん、や、ぁ、っ、ま、待って、待って!! わたし、やっぱりこんなのっ……っぁ、んくぅ……ッ」
できない、と言いかけて。
じんと激しく押し寄せる尿意の波に、結衣は言葉を失った。思わず脚の付け根を押さえ込み、きつく唇を噛んで脚の付け根を閉じ合わせる。
早くもあの健康茶の利尿効果が表れてきたのか、更なる尿意が下腹部を膨らませていくのがはっきりと感じるかのようだ。全身をめぐる水分が、片っ端から絞り取られて下腹部の一点に注ぎ込まれるような――あの、抗いがたい感覚。脚の付け根の恥ずかしい排泄公が、壊れた蛇口のように火照り、何度も何度も猛烈な水流を噴射させる――トイレから一時も離れられなくなるような、あの感覚の予兆。
我慢――我慢しなければ。乙女のプライドは弱々しく抗議の声上げる。
(がまん、夜まで――我慢……っ……そ、そうよ、夜まで我慢すればいいだけ……なんだ、から……っ 、んぁあああ!?)
幽かな抵抗の意志は、しかしあっさりと、押し寄せる尿意に打ち砕かれた。
「……ん、ふ、ぁ……ぅ……ッ」
ダムの出口へ向けて押し寄せる水圧が増す。激しく身を揺すり、結衣ははしたなく声をあげてしまう。物理的に、もうこれ以上の我慢なんて――不可能だ。
(だ、ダメ!! あのお茶、飲まされて、そんなの――ぜ、絶対無理……!!)
「うふふ、どうしましたの、結衣おねーさま?」
しれっとした顔でよくわからない、という顔をしてみせる裕乃。もちろん演技であるのは結衣にだってわかる。こうなるように仕組んだのは、この可愛らしい後輩なのだ。
(あ、あと、5時間なんて……ぜったい、無理、だよぉ……っ)
今ですら、こうしてじっとしていることもできず、足踏みして、恥ずかしくスカートの上から股間を押さえていなければならないほどなのに。あのお茶を半リットルも飲まされて――夜まで我慢なんて、何をどうやっても、絶対に、絶対に不可能だと、結衣の身体は訴えている。
「っ……」
長い葛藤の末、結衣はついの自分の意志で砂場用のシャベルを手に取った。覚束ない足取りで砂場へと向かう。
「うふふ、ごゆっくり♪」
思わせぶりな裕乃の声援が飛ぶが、ゆっくりしている暇などない。結衣は下腹部を庇うように砂場に腰を下ろし、羞恥を堪えて顔を俯かせ、握ったシャベルを動かし始めた。
しかし。普通の地面に比べればいくら柔らかな砂場とは言え、プラスチックの小さなシャベルでは思うように掘ることは難しい。まして、恥ずかしい乙女のホットレモンティでぱんぱんに膨らんだ下腹部を抱えたまま、しゃがみ込んでの作業である。
「んっ、ぁ、う、ふ……ッ」
ふと気を抜けばスカートを握り締め、下着の股布にまでじゅうううぅと熱い迸りを滴らせてしまいそうな状況で、体重を左右の脚に載せ換え、膝を揃えてぐりぐりと動かし、時には、はしたなくも靴のかかとに下着を押しつけて。
我慢で精一杯の状況では、深い孔を掘るなど不可能に近い。結衣の額にはうっすらと汗も滲み、息も荒くなるばかりだ。
(も、もう、これで――)
中途半端にほじくり返した砂場の穴。――自分専用の『おトイレ』を見降ろし、結衣はわずか数十秒で結衣は音を上げかける。込み上げる猛烈な尿意に比べればはるかに小さく頼りない、とてもではないが排泄欲求を満足させるには不十分な砂場の穴、けれど、結衣の下半身はもう今すぐにでも下着を下ろしそこをまたいでしまいたいという切なる訴えを続けていた。
もう、いいよね――と、諦めようとするなり、見計らったように裕乃の声が飛んでくる。
「うふふ、結衣おねーさま? どうしましたの? お手てがお留守になってますわよ? ねえ、おねーさまの『おトイレ』、そんなに小さくてもよろしいんですの? あは、おねーさまの我慢してる恥ずかしい『オシッコ』、そんな小さな『おトイレ』じゃ溢れてしまいすわよねえ?」
「……そ、そんなこと、言わないでよぉっ」
まるで見透かすように、じっと結衣の下腹部を見つめて裕乃が言ってくる。
結衣だって、自分自身、どこかで理解していることだった。今の切羽詰まり具合を考えて、しゃがみ込んだ脚元に噴き出す水流がちょろちょろなどという生易しいものではないだろうことは、結衣だって分かっている。
音消しもない屋外で、近くでも聞こえるくらいに激しく、はしたない、ぶじゅじゅじゅうぅという水流音が地面を抉り、じょぼぼと辺りに恥ずかしい音を響き渡らせる決まっているのだ。
自分自身のことだ。結衣は、自分のオシッコが同年代の女の子に比べても極端に激しく猛烈で、量の多い体質だという事を、これ以上ないくらいはっきりと理解していた。何度も、何度も、彰子の前で恥ずかしい思いをさせられて、死ぬほど実体験として覚えこまされてきた。
結衣がひとたび我慢の限界を迎えた時、決壊したダムから噴き出すオンナノコの恥ずかしい水流は、500mlの計量カップを一杯にして溢れさせるくらいの途方もない量なのだ。
地面に開いた、わずか拳一つが隠れるくらいの小さな穴など、跨いでしゃがみ込んだ途端にあっという間に一杯になってしまうに違いない。
(ううぅ……っ)
自分のおしっこのために、自分自身で砂場に穴を掘るなんて――それだけでも死んでしまいたくなるほどの恥ずかしさだ。しかもここは、幼稚舎の子達が遊ぶ大事な場所だ。そんなところを、自分の欲望の為に使ってしまうなんて。『オシッコ』のために使うなんて。
理不尽に打ち震える心は、しかし裕乃の言葉によって巧みに操られている。
キャンプ等で山の中に行ったときは、こうしてトイレを作ることは、お嬢様の結衣でも知識として知っている。けれど仮にもお嬢様学校に通う結衣にそんな経験はまだなかったし、優麟館の制服を着たまま、学校の片隅に、オシッコを済ませるための穴を掘らされるなんて――ありえないことでしかなかった。
「っ……~~ッ!! も、もういいでしょっ!? も、もうっ、もう駄目……っ」
なおも乱暴にシャベルを動かし続けていた結衣だが、ついに掘りかけの孔をまえに、シャベルを投げ出して、結衣は限界を訴えた。
ちらりと裕乃を窺うが、これまであれこれと割り込んできた彼女は特に口を出してこない。いよいよ限界の結衣を見て、これ以上邪魔をすまいと思ったのか。
あるいは――これから結衣がしようとしている恥ずかしい行為を、一部始終しっかり見届けようとしているのか。優麟館の生徒が砂場の前でスカートをたくし上げ、しゃがみ込むなどと言うはしたない行いを続ける結衣から視線をそらすどころか、しっかりと見つめている後輩の姿に、結衣の羞恥はなお激しく沸騰する。
しかし、少女の身体はもはや言う事を聞かない。下腹部は完全に尿意に屈し、排泄欲求を全てに優先していた。結衣は砂場に掘った小さな穴――自分専用の『おトイレ』を跨いだ。
トイレ、おトイレ。
今は一刻も早く、おしっこをしたい。
ここがその場所だ。この砂場に掘られた小さな穴が、結衣のためのトイレなのだ。その為に恥も外聞もなく、後輩に訴えてきたのである。今更止めるなどあり得ない。たとえお外で、トイレではない場所であっても――下腹部をぱんぱんにふくらませ、くつくつと沸騰を続ける尿意はもう一刻の猶予もない。
砂場の穴を見降ろし、ほんのわずか、一瞬だけの躊躇のあと、結衣はすぐに行動に出た。慎重に周囲を見回して、他に誰も視線がないことを確認し、そっと腰をかがめ、スカートの下へと手を差し入れて、股間を覆う下着に手をかける。スカートをたくし上げ、下着を引き下ろし、砂場に掘ったばかりの穴を――結衣専用の『おトイレ』をまたいでしゃがみ込む――
その、瞬間。
「すとーっぷ。そこまでですわ。結衣おねーさま」
「え……っ」
割り込むように前に出た裕乃は、スカートへと伸びた結衣の手をしっかりと掴み、じっと結衣の顔を見上げてきた。そのまま、結衣の肩を掴んで無理矢理立たせ、下着をぐいっと引き上げる。
ぱちん、と下腹部を叩く下着のゴムに、結衣は『はぁんっ』と身をよじった。
手を押さえられて前押さえすらできないまま、結衣は恥ずかしく腰をよじり、モジモジと太腿を擦り合わせてしまう。
「ひ、裕乃、ちゃん、離してっ……と、トイレ……っ、お手洗い、させてっ……!!」
「あら、結衣おねーさま? 何をおっしゃってるんですの?」
「なに、って……っ、も、もう意地悪やめてよ!! も、もう我慢できないの、お、オシッコ……漏れ、ちゃう……っ!! ちゃ、ちゃんと、こ、ここで、裕乃ちゃんの言うとおりに、こ、ここで、お、オシッコ、する、からぁっ……!!」
降ろした途端に元に戻された下着を葦の付け根に食い込ませ、身をよじる。
だんだんだんっ、いまにも緩みそうな水門を引き締めるため、激しい足踏みを繰り返し、靴の爪先をぐりぐりと地面にねじ付ける。ほぼ準備を終えかけたところで急に邪魔されてしまったのだ。手を塞がれて、前押さえすら自由にならず、結衣は激しく身悶えして暴れる。
しかし、裕乃は明らかな失望の顔。
「結衣おねーさま。本当に、何をおっしゃってますの? さっきから、一体何の事ですの?」
「え……で、でもっ」
いきなりの裕乃の態度の豹変に、結衣は困惑する。さっきまであんなにも煽るような事を言っておいて――目の前には、激しい尿意と、羞恥を堪えて必死になってシャベルを動かし、せっかく作ったおトイレがあるのだ。
それなのになんで今になって邪魔をするのか――なおも誘惑を振り切れず、砂場と裕乃の顔を交互に見比べる結衣を、裕乃はピシと指差して。
裕乃は、たっぷりと悪意を含んだ笑顔を見せる。
「でも、っておねーさま。うふふ。ねえ、結衣おねーさま? おねーさまは、そこで、そんなところで、いったい、『ナニ』をなさるおつもりだったんですの? ねえ?」
「な、なに、って……っ」
決まっている、おしっこだ。我慢できない、漏れそうな、下腹部の乙女のダムをぱんぱんに膨らませているおしっこだ。いきなりの前言撤回。結衣の身体はもうおしっこの準備をすっかり整えており、いきなりの排水命令の緊急停止に、下腹部では乙女のホットレモンティが激しい抗議を上げている。
「で、でも、っあ、ぁっ」
「ねえ♪ 結衣おねーさま? そこは、幼稚舎の子たちが遊ぶ大事なお砂場なんですのよ? そこで、おねーさまはいったいなにを始めようとなさっていましたの? うふふ、差し支えなければ教えてくださいませ?」
砂場に掘った穴を指差し、くすくす。意地悪に口元を緩め、八重歯をのぞかせて。小悪魔めいた笑顔が結衣に近付いてくる。
「だ、だって、だってっ、ひ、裕乃ちゃんが、言ったんじゃない、こ……ここで、ぉ、おしっこ……しなさいってッ」
「あらあら。何をおっしゃいますの結衣おねーさま。ひどいですわ、心外ですわ……ううっ、ぐすっ」
あからさまな泣き真似まで始める裕乃に、結衣はもはや混乱の極みである。トイレを我慢することで精一杯の頭は、裕乃の態度の豹変についていけない。
「……わたくしは、本当にどうしても我慢できないなら、そこでおしっこしてもいいですよ、って言っただけですのよ。結衣おねーさまに命令なんて、そんな大それたことなんかしてませんわよ?
それにですねえ、結衣おねーさま。そんなの常識で考えて、冗談に決まってるじゃありませんの。ねえ?」
くすくす。目を細め、口元手を当てて。とても優雅に、上品に。
優麟館の生徒に相応しい態度で、裕乃は結衣を見て微笑む。
「……ふつうのオンナノコは、どんなに我慢できなくても、こんなお外で『オシッコ』なんか、絶っっっっ対にしませんわよ、ねぇ?」
「っ………そ、そんなっ……」
改めて羞恥を刺激され、結衣は耳まで赤くなってしまう。仕向けていたのは裕乃であるはずなのに、梯子を外される行為をされても結衣は反論できなかった。激しい尿意にそれだけの余裕がなかったのも事実だが、裕乃の言っていることは全く正しく、理にかなったものだからだった。
「それなのに結衣おねーさまったら、勝手に勘違いして、本当にパンツまで脱いで、しゃがんでしまいそうなんですもの。いったいどこで誰が見ているのかもわかりませんのに。ここは、幼稚舎の子達の、大事な遊び場所ですのよ? そこに、『オシッコ』なさろうとしてたんですのよ? ねえ、本当の本当に、本気でしたのかしら、結衣おねーさま? まさか本当に、『ここ』で『オシッコ』なさろうとしてましたの?」
くすくす……ことさらに結衣の羞恥をくすぐるような言い回しは、しかし覿面に効果を見せる。崩壊の危機を迎えたダムの水門を押さえこんで、膝を擦り合わせ、身体をくねくねと揺すりながら、じたばたとみっともない足踏みすら始めてしまった。
「で、でもっ、でも、も、もう我慢できないのっ、あ、あんなにお茶、飲まされちゃって、夜までなんて――」
「うふ、うふふふふ。ねぇ、おねーさまって、本っ当に可愛いんですのね♪ あーんなデタラメ、本気で信じちゃったんですの?」
「えっ……!?」
結衣の懇願を遮るようして、裕乃はちろりと舌を出してみせる。
小柄な身体をぴたりと結衣に押しつけて、無防備になっていた結衣の下腹部をさわさわと撫でさする。。絶妙の力加減でもたらされる刺激に耐えかねるように、結衣は「はぅぅっ」と呻いて身体を折り曲げてしまう。
「うふふ。ねえ結衣おねーさま? わたくし、一言もあのお茶が、彰子お姉様のお茶だなんて言ってませんわよ?」
「そ、そんな、だってっ……」
「ですから、結衣おねーさまがお飲みになったのは、ごくごく普通の、なんの変哲もない、ただのお茶ですのよ? 天地神明に誓ったってよろしいですわ。……うふふ、ねえ? それなのに、結衣おねーさまったら、そんなにみっともなく悶えて、前屈みになって、スカートの前を握り締めて……そんなになるまで我慢できないくらい、『オシッコ』がなさりたいんですのね?」
「え、ぁ……」
急転直下のネタばらしに、結衣の心が揺らぐ。いまにも下半身を突き抜けてしまいそうな衝動に、結衣はぱくぱくと口を開閉させるだけだ。
「その、普通のお茶を飲んだだけですのに――結衣おねーさまはなにをなさろうとしてらしたんですの? うふふ、この、幼稚舎の子達の大切なお砂場で、穴を掘って、『オシッコ』をなさろうとしてましたのよねぇ? わたくしより先輩ですのに、おトイレまで我慢できなくて――ううふ、ねえ? こんな見晴らしのいいお外で、スカートをたくし上げて、下着を下ろして、大事なところを丸見えにして、しゃがみこんで――」
「ぁ、やだ、……やだ、やめて……やめてよう……っ」
熱を持って囁かせる後輩の言葉は、まるで毒のように結衣の心に染み込んでゆく。限界を煽ると同時に、いかに結衣がはしたなくみっともない女の子であるのかと――優麟館の生徒にあるまじき、恥ずべき行為をしようとしていたのか、と。
「“ただの”お茶なのに……そんなになるまで我慢ができなくなるなんて――おねーさま、ここって、そんなにゆるゆるの、ガマン出来ないはしたないオンナノコなんですの? うふふ、結衣おねーさまって、本当に恥ずかしいオンナノコですのねぇ……♪ 下級生の皆さまがが知ったら、みーんな幻滅ですわよ? それとも結衣おねーさま、こんなところで『オシッコ』済ませてしまおうなんて……まだお手洗いのしつけもできてらしゃらないのですかしら? ……うふふ、幼稚舎の子達だってとっくに済ませていますのにね……?」
もはや言葉もない。俯いてしまう結衣のそばで、裕乃はにこりと笑顔。
心から、先輩を信頼し、思いやるかのように――悪魔の言葉を告げる。
「さ、ですから結衣おねーさま? ちゃんと、夜まで我慢、できますわよね?」
永遠にも等しい結衣の地獄は、まだ始まったばかりだった。
(了)