久々の投稿。
照り付ける真夏の太陽は、ビルの反射と相まって路肩に影狼を立ち昇らせていた。大通りを走る車は、32度の気温よりも高温の熱気を吐き出して、歩道の街路樹を萎びさせる。
「はぁ、はぁッ、はぁ……ッ……!」
荒い吐息に赤く染まる頬、上下する肩。真夏の日差しに炙られたアスファルトの上を、サンダルが激しく踏み鳴らす。
髪は湿って汗ばむうなじに張り付き、左右の手は指先が白くなるほど力が込められていた。
ずれたワンピースの肩紐の下に、水着の日焼けあとが覗くのにも構わず、少女は懸命に走る。
「はぁ、はっ、あっ、あ……っ」
緊張に強張る頬が、こみ上げる吐息を飲み込み、くちびるを噛んで息を殺す。覚束ない足元が乱れ、もつれるようにしてたたらを踏んだサンダルが地面を擦った。
片道3車線の大通り。高速の出口に繋がる路線をまたぐ交差点へと辿りついた少女は、横断歩道脇の信号に飛びついて、歩行者優先の横断用ボタンを押し込んだ。
ちかちかと点灯する【おまちください】の文字。変わる様子のない六つ目信号を見上げ、少女の表情には焦燥感と絶望が広がっていく。
(はっ、はやく、はやく、はやくうっ……!!)
声にならない声を絞り出し、少女はさらに何度もボタンを連打した。それが何の意味ももたない行為だとしても、そうせざるを得なかったのだ。
(は、はやくっ、はやくして、……っ、と、トイレ……っ、トイレ、間に合わないぃい……っ!!)
激しい足踏みとともに身をよじり、少女は猛烈な尿意に耐える。その視線は横断歩道の向こう、夏の日差しの中にも涼しげな青葉を広げる公園を見据えている。正確には、その公園の中にある公衆トイレを。
少女のもう一方の手は、ワンピースの上から足の付け根をきつく掴み、もはや少女の我慢が限界に近いことをはっきりと示していた。
(お、おしっこ……、おしっこ、で、出ちゃう…、ううぅっっ!!)
少女の下腹部をぱんぱんに膨らませる尿意は、ずっしりと恥骨上のダムに圧し掛かり、その水門を力任せにこじ開けようとしていた。
「っ……~~ッ、!!」
びくん、と少女の丸まった背中が震える。スカートを握りしめる指に力がこもり、白い布地にくしゃくしゃと皺が寄る。股間を握りしめた手を、太腿がぎゅうっと挟み込んだ。
「っ……は、はっ、く、ぅう……っ」
波濤のように押し寄せる尿意。信号柱にもたれかかるようにして、少女はきつく唇を噛み締めた。耐え切れぬ喘ぎが熱い吐息となってこぼれ、突き出された小さなお尻がゆらゆらと上下左右に揺すられる。
ぎゅ、ぎゅう、ぎゅううっ、尿意の波の周期に合わせて断続的に足の付け根を押さえ込む手のひらが、乙女の恥ずかしい場所を何度も何度も握り込んだ。
「っ………」
切実な大自然の欲求を懸命にこらえながら、少女は切羽詰まった表情で頭上を振り仰ぐ。しかし、無情にも車両用の信号は燦然と輝く青。片側3車線の大通りを、大型のトラックが走り抜けてゆく。
「は……やく、してぇ……っ」
でちゃう。おしっこでちゃう。
か細い声を上げながら、少女は再度、横断用ボタンを連打した。かちかちとむなしい機械音が響く。が、やはり信号がすぐに切り替わる様子は見られない。
「だめ……だめえ……っ、と、とっ、トイレ…ぇっ」
切実な訴えが少女の唇を震わせる。
それは、堪え切れぬ内なる欲求が少女の自制心を押しのけて小さな形をとったものであったが――行き交う人々の間に、ささやかな注目を集めるには十分なものであった。
最初に足を止めたのは、少女のすぐ近くを歩いていた二人連れ。彼らは少女の言葉を聞きとがめ、その場に足を止めて怪訝そうに首を傾げる。
そうしてすぐ、切羽詰まった少女の様子に事態を察した。蒼白な顔、汗ばんだ首筋、前かがみの上半身、激しく足踏みを繰り返すサンダル。ぎゅうぎゅうと脚の付け根を握りしめる両手。少女が猛烈な尿意と戦っているのは、誰の目にも明らかだ。
「ね、ねえ、あの子……」
「しっ、見ちゃだめだよ。可哀想じゃん」
囁き交わされる会話は、少女の耳には届かない。彼女の意識はすでに公園の奥にある【約束の楽土】へと飛んでいた。自分を苦しめる猛烈な尿意から、解放される場所――お手洗い。白いコンクリートの建物の奥にある小さな個室と、その中央に鎮座する白い陶製の器。そこにまたがりありったけの尿意を迸らせる姿だけが、少女の頭の中を占めていた。
横断歩道のすぐ前で、道路の向こうを凝視する彼女には、背後に集まる好奇の視線など振り返っている余裕などなかった。
「っ、あ……んぅ、ぁ、っく……ぅう……」
喘ぐ口の中はからからに渇き切って、思うように声も出ない。全身から搾り取られた水分が羞恥のダムに注ぎ込まれ、はち切れんばかりに膨らんでいる。
交通量の多い交差点、ビジネス街にも近い立地とあって、周囲の人通りは少なくない。日傘を差した女性、汗をぬぐうサラリーマン、バス停へ急ぐ老人、公園に向かおうとしている親子連れ。台車を押して奔走する店舗のアルバイト、談笑する学生。
信号の前で激しく身悶えする少女に、交差点を通りかかる人々の視線が寄せられる。好奇と蔑視の入り混じった注視は、彼女の一挙手一投足を見逃すまいとしているかのようだった。
ちか、ちかっ。
光の点滅が視界を揺らす。交差するもう一方の歩行者信号が点滅を始めたのだ。少女は顔を輝かせ、小さく吐息を漏らした。
(あ……っ!!)
もう一つの歩行者信号が赤に変わる。それはつまり、もうすぐ目の前の信号が青になり、横断歩道を渡れることを意味していた。つまり、もうすぐトイレに行ける。おしっこができる。待ち焦がれたときがやってくるのだ。
ぶるりと背中を震わせ、少女はその瞬間を思い描く。あとちょっとでトイレ。あとほんのちょっとでおしっこ。固唾をのんで息を止める。気分は短距離走のスプリンター。横断歩道の信号が変わった瞬間に、走り出すのだ。
車道の信号が黄色に変わる。あと少し。ほんの少し。
(…………っ、あ)
その時だ。
切っ掛けは、ほんのわずかの気の緩み。我慢と限界の狭間、ぎりぎりのところで保たれていた緊張が、『もうすぐトイレ』という心の緩みとなって解けてしまった。それが全ての過ちだった。
ひくっ、ひくんっ、きゅうううんんっ。
下腹部に伝播する周波が、股間の先端にむけて走り抜ける。恥骨を震わせ、乙女のダムの水門を直撃する猛烈な刺激。イケナイ感覚をも呼び起こすほどに、甘い痺れにも似た黄色い稲妻。
「んきゅぅううッ!?」
ダムの底、一番脆い水門を揺るがす衝撃に、少女は背筋を強張らせた。びくんと上体を跳ねあげ、喉をそらして声を震わせる。
足の付け根、押さえ込んだ下着の奥でぷくんっと排泄孔が膨らむ。それは、先に限界を迎えた身体が、少女の意志を無視して勝手に水門を押し開こうとする動作。理性や羞恥の枷など無関係に、自然の摂理が猛烈な欲求となって少女に牙をむく。
このまま、ここで、おしっこをしろ――と。
もはや体力の限界を訴えた下半身は、大自然の摂理のまま、少女の体面も外聞もまるで無視して、強引な要求をねじ込んできたのだ。押し寄せる波濤のごとき尿意に、少女の力などか細く飲み込まれてしまう。
「んゅ、ぅ、…ぁ……ッ!?」
少女は戦慄して両足をきつくとじ合わせ、力づくで羞恥の水門を閉ざそうとする。しかし、
ぷしゅっ、しゅうっ、じゅううぅうッ!!!
下着とスカート越しに、押さえ込んだ手のひらにまではっきりと感じる、熱い雫の気配。股間を甘く伝播する途方もない開放感。
「ぁ、あっあ……ぁ……ッ!?」
がくがくと腰が震え、膝が笑う。我慢に我慢を重ねた末のおチビリは、とても少量とは言えず、夏の下着と薄いワンピースでは吸収しきれない。
つう、と腿の内側を伝う熱い水流に、少女はパニックに陥る。
車道の信号が黄から赤に変わる。注意、危険、危険。
「や……だ、だめっ、だめ、だめぇ……っ!!」
うつろに繰り返される拒否の言葉もむなしく、少女の身体は、大自然の摂理は、このままこの場所での排泄を欲求していた。まともに立っていることすらできず、少女はその場にしゃがみ込んでしまう。
じゅうっ、無防備になった姿勢を見逃さず、また下着の奥で羞恥の熱水が噴き上がり、くぐもった水音を響かせる。
(だめえ……っ!! お、お漏らしなんて……っ、だめ、っ、と、トイレ、すぐそこに、トイレあるんだからぁ……ッ!!)
少女は最後の抵抗とばかりに、サンダルの踵に股間を押し付けた。激しく身をよじりながらぐりぐりと股間を押し当て、全体重をかけてしゅるしゅるとだらしなく口を開く排泄孔を塞ごうとする。
ちかっ。
信号が点滅する。青。通って良し。進め。
待望の青信号。待ち焦がれたトイレへの道のスタートの合図。けれど少女は動けない。膝立ちになって股間をかかとにねじつける姿勢のまま、ピクリとも動けない。少しでも身を浮かせようものなら、少しでも余計なことをしようものなら、
(う、動いたら、でちゃう……っ!!)
極限の集中――全身全霊の我慢。青信号なのに、渡れない。そのもどかしさばかりが少女を焦らせる。けれどダメ。我慢、おもらしは駄目。
信号は青々と「GO」「すすめ」を示している。けれど、少女は猛烈に容易に晒され続ける自分の股間をきつく抑え込んで、全身全霊の赤信号、おしっこの「緊急停止」を叫び続けるしかなかった。
長い長い、永遠にも続く綱引きの果て――
ほんのわずか。少しだけ、尿意が遠のいた。じくん、と下腹部が重く熱く疼く。もうこれ以上引き伸ばすことができないと悶えていたパンパンの水風船が、少女の鉄の意志に耐えかねたように、さらにほんの少しだけ体の内側に広がって、尿意の限界を先延ばしにしたのだ。薄く薄く、限界の状態でさらに引き伸ばされ、乙女の水風船は不承不承それに応じたのである。そこに溜め込んだ反動、不満をやがて訪れる収縮のエネルギーへと変えて。
重苦しくのしかかる下腹部の鈍い痛みを感じながら、少女は汗の滲むうなじを震わせた。研ぎ澄まされた神経が、いっとき自由を取り戻す。
周囲の雑踏が帰ってくる。
ざわざわと聞こえる声。
遠慮なく少女を舐めまわす視線。
「え……っ」
少女はようやく気付いた。気づいてしまった。自分が、人通りのど真ん中で――車も歩行者でごったがえす交差点の真ん中で、片側3車線の大通りに面した横断歩道の最前列で、はしたなくも足を広げ、ぐりぐりと踵を脚の付け根に、股間に押し付けるみっともない姿を、見せつけんばかりに披露していたことに。
それだけではない。
女の子の恥ずかしい場所を握りしめ、激しく足踏みをする姿も。
信号柱にもたれ掛り、下腹部を懸命に押しもむ姿も。
足をとじ合わせ、太腿を擦り合わせて懸命に身をよじる姿も。
はしたなくも突き出したお尻を、左右に振りたてる姿も。
全部、全部、衆目の中に晒してしまったことも。
特に、横断歩道の反対側――こちらに渡ろうとしている人々にとっては、まさに見せつけるような格好だった。横断歩道の向かい、真正面で、恥ずかしいところをぎゅうぎゅうと握りしめ、押さえ込み、しまいには全体重を乗せてかかとを股間に押し当てる姿さえも。
「ぁ、う、や。やだ……ち、ちがう、の、ちがっ」
沸騰した羞恥が噴き上がる。瞬く間に耳まで赤く染まりながら、少女は言葉にならない言い訳を繰り返した。そんな彼女を見下ろしながら、行き交う人々が声を囁き交わす。明らかに混じる、蔑視と下卑た欲望の声。
「ねえ、ママ、あのおねえちゃん――」
「しっ、ダメ!! 指ささないの!!」
(っ…………~~!!)
煮えたぎらんばかりの羞恥に身もだえし、少女は手を放し、腰を浮かせかけた。
じいんと響く尿意に、たちまち耐え切れず、ぎゅうっとスカートを握りしめてしまう。
(っあ、だめ、あ、っ)
そうこうしているうちに、目の前の信号に変化が生じていた。
歩行者信号がちかちかと点滅を始めていたのだ。点滅。赤。
赤信号。止まれ。進むな。危険。
横断、禁止。
「やぁっ……んっ、んきゅううっ!?」
目指す先、尿意からの解放を約束された楽園――トイレへのか細い道は、無情に閉ざされようとしていた。
渡れない。
もう一度信号が青になるまで、またここで、待機。我慢。延長戦。
(そんなの、無理っ、だめ……!!)
下腹部がごぽりと不気味な脈動する。はち切れんばかりの尿意が鋭く恥骨を貫く。背筋に感じる寒気とともに、少女は横断歩道へ反射的に足を踏み出していた。しかし、しゃがみ込んでいたせいで脚は痺れかけ、ふらつく。股間をぎゅうっと握りしめたままではまっすぐ歩くのもおぼつかない。
じんっ、びりびりびりっ、
「んきゅぅうぅううう……っ!?」
靴底がアスファルトを擦るたび、振動が満水のダムに響き、猛烈な尿意の呼び水となって湖面を揺らす。黄色い波がダムを乗り越え、水門を押し崩さんばかりに荒れ回る。
じゅっ、じゅうっ、と圧迫された膀胱が、固く閉じたはずの水門から断続的に噴き出した。熱い水流が股布にぶつかり、新鮮なおチビリが握り締めた手のひらの奥で下着を湿らせていく。
恥骨をじんじんと痺れさせる甘い解放感。オモラシの誘惑が少女を揺さぶる。耐え続けた括約筋が限界を訴え、無駄な抵抗を放棄せんと少女に迫る。
(だめ、だめ、で、でちゃだめ、っ、と、トイレ、おトイレ、もうすぐそこ、なんだ、からぁあ……ッ)
「んきゅう…ッぁ、あっあ、だ、だめぇっ」
ふらふらと左右に揺れ動く身体。ほんの数歩で決意は揺らぎ、立ち止まって膝を懸命に擦り合わせ、腰を揺すって尿意に耐えなければならなくなる。急がなければいけないのに。もうすぐ目の前にトイレがあるのに。
もはや自分の意志ではどうにもならない、猛烈な尿意への懸命の反抗が、屈辱的な『おしっこ我慢ダンス』を乙女に強いる。
一秒、また一秒と削られていく残り時間。無情なるカウントダウンの中、震える脚を引きずるようにして横断歩道を急ぐ。
しかし。ここでも残酷な運命は、少女を翻弄し続けた。
(あ、あっ、あ……だめ……だめえ、ま、待って……っ)
鎮まることのない尿意に揺れる視界の向こう。無情にも点滅する歩行者用青信号。
片側3車線の大通り、閉じ合わせたままのすり足ではあまりにも長い横断歩道。少女の必死の抵抗をあざ笑うように、信号は無情にも点滅を終え、赤へと切り替わった。
止まれ。進むな。横断禁止。危険。
――時間切れ。
「ぁっ、あ、や、やだっ、だめ、っ、ま、待って、まだ、っ、まだぁ……っ……!! や、うあ……、んきゅぅ……っ!?」
気付いたのが遅すぎたのだ。決して短いとは言えない歩行者用の青信号だが、哀れにも少女は道路の半分も横断しきることができなかった。
絶体絶命の少女を追い立てるように、車道の信号が青へ。
パァン、パパパパァン。
交通ルールを守らない少女に対し、容赦なくクラクションが飛ぶ。無機質な車列は、異物を排除せんとエンジン音を唸らせて、か弱い少女を追い詰めてゆく。
「ぁ……ぅ……」
立て続けの大音量に追い立てられ、もはや少女に冷静な判断力など残されていない。呆然としたまま前かがみになったまま少女が追いやられたのは、横断歩道の中間点にある小さな中央分離帯であった。
片側3車線の大通りの中央に設けられた、ささやかな避難場所。そこは本来、横断の間に合わなかった歩行者が、一時避難をする場所であった。
しかし――前後を行きかう車に挟まれ、信号によって隔てられ。進むことも、戻ることもできないその区画は、まさに、増水する河中の小島に取り残されたごとし。
「んぁう……ぁ、あ……ぁっ……」
ぶるぶると肩を震わせ、身悶えし、脚を擦り合わせて懸命に尿意を堪え。横断歩道の信号待ちをしていた時から、少女は周囲からの注視を集めていた。それが今や、衆目のど真ん中、恥辱の舞台の上に放り出されたも同然なのである。雑踏の中にもざわめきが波紋のように広がり、少女の苦しげな様子を見て通行人たちが足を止め始める。
「あっおしっこ! オシッコ我慢してるよ!」
(…………ッ!?)
走り去る車の騒音にも負けない甲高い子供の声。先程横断歩道を渡った親子連れのグループだ。
母親たちに手を引かれた子供たちは、目ざとく少女の我慢ダンスを見つけ、残酷な無邪気さで叫ぶ。
「あーホントだ、お姉ちゃんなのにオシッコしたいんだ!」
「ほらねえママっ、あのお姉ちゃんおしっこ我慢してるよっ! おトイレ行きたいんだよ!」
少女を指さし口々に叫ぶ子供たち。隣の母親はそれを止めようとするが、まるで効き目がないばかりか、むしろ彼らの興奮はヒートアップするばかりだ。
「ねえ、お姉ちゃんなのに、ちゃんとおトイレ行かなかったのかな」
「ねー。おしっこしたいですって先生に言わなきゃだめなのにねー」
既に、先程のおチビりで、ワンピースのスカート部分にはごまかしようのない染みが広がっている。
お立ち台同然に道路の中央に取り残された少女の繰り広げるみっともないモジモジ我慢は、子供たちにとってまさに格好の注目先だった。
(や……やだ、見られ、っ……が、我慢してるとこ、見られ、てっ……ぁ、んきゅうぅうっ!?)
羞恥に染まり俯く少女の下腹部で、なお激しく尿意が暴れ回る。中央分離帯に取り残された少女は、文字通りの籠の中の鳥であった。
「あ……ぁぅ……っ、んきゅぅう……っ」
大きく足踏みを繰り返し、きつく太腿に挟んだ両手で股間をぎゅうっと押さえ込む、恥辱の極みの『おしっこ我慢』のポーズ。
身を隠すこともできない小さな分離帯の中央。横断歩道のどちら側からも視線を遮ることのない、広い広い道路のど真ん中。
「ぁ、あっあ……ぁっ……!!」
気の毒に、あるいは好奇のままに。そしてあるいは、下卑た感情を隠すこともなく。無数の視線が少女に突き刺さる。
一刻も休まらなない足踏みを繰り貸しながら、少女の視線は、横断歩道の向こう、公園のトイレへと向けられていた。
約束の楽土。この苦痛からの解放場所。おしっこのできる場所。
はやく。はやく。もう一度信号が変わって、そうなったら真っ直ぐに横断歩道を渡って、トイレまで一直線。並んだ個室のどれでも好きな場所を選んで、ドアを閉め、下着を下ろし、しゃがみ込んで、
そうすれば、おしっこが、おしっこができる。目いっぱい、ありったけ、思い切り、おしっこができる。
もう、ガマンしなくてもいい。
(はぁ、ぅ、ぁ、んゅうう……ッ!?)
暴走する想像が、一足先にトイレの中へと飛んでいた少女の股間を直撃した。先走った意識のままに、押さえた下着の奥、排泄孔がぷくっと膨らみ、緩む。
ぷしゅっ、じゅぶぶっ。
下着にみるみる広がる熱い感触。少女は反射的に股間を握り締めた。
(だ、だめ、だめぇ、で、出ちゃ、だめ……ッ、んきゅうう……ッ!!)
がくがくと腰が上下する。膝を強くこすり合わせる「X」の字型に足をくねらせ懸命に耐えようとする少女だが、スカートの下、押さえ込んだ下着の股布には、ぷしゅっ、じょわっ、じゅうぅ、と断続的に熱い雫が噴き出してゆく。もはやおチビリと誤魔化せない水流が、緩むダムの底穴を通り、少女の指を濡らし、ぽたぽたとアスファルトの地面に水滴をこぼす。
じょわっ、ぷしゅっ、しゅうっ、
ぷしぃぃいっ、じゅびびびっ、
下着の奥で饒舌に排泄音を響かせる、小さな乙女のダムの出口。みるみる白いワンピーススカートの黄色い染みがその勢力圏を拡大してゆく。まるで、レモン味のかき氷。時季外れのホットレモンティを堪え切れず、中央分離帯で羞恥のオモラシ姿を晒すことを強制される少女。
そんな少女の激しい我慢ダンスがぴたりと停止した。宙空を見つめ、赤らむ頬、汗ばむ首筋を拭うこともなく、ぎゅっと唇を引き結ぶ。
ぷるぷると小刻みに震え、縋るように見つめる先。歩行者用の信号はいまだ堅牢に停止の赤を輝かせている。停止。止まれ。進んでは駄目。
――トイレに行っては、いけません。
(んきゅううぅ、っ、だ、だめ……も、漏れっ、もれちゃ、ぅ、お、おもらし、……お、おトイレ、まだなのに、い、いろんな人に、みられ、てる、のにぃ……っ!! は、はやく、しんごう、はやく、かわって……ぇ)
羞恥と、尿意と。限界を訴える生理現象との極限の綱引きを続ける少女の、すぐ背後に。排気音を響かせて大型車両が停車する。
六つ目信号の右折車線に入ったのは、あろうことか満員の路線バスだった。もはや背後を振り向く余裕のない少女には預かり知らぬことであったが、バスの車内からはまさに、前かがみになり股間を握り締めた少女が後ろに突き出した腰の揺れ具合や、くねくねと揺すり続けられるお尻、しわくちゃに握り締められて真っ黄色に染まったスカートや、その奥でひときわ湿り気を滲ませ熱い雫を滴らせる下着の様子すら、至近距離のかぶりつきで見物することができる特等席だった。
そして。少女をこの日一番の不幸が襲う。
「んきゅうううううう……っ!?」
つい先ほど。青信号の中で、先延ばしにした尿意の大波――そのぶり返しが訪れたのだ。引き伸ばされ内圧を高めた水風船が、限界を迎えその反動とともに収縮を始めたのである。
その絶望的な『予兆』に、少女の目が大きく見開かれる。
パクパクと声もなく開閉される唇が、ぎゅうっときつく結ばれ――
「ぅう、んぅう、んゅ、っ……ぅうう……ッ!!!」
もはや、酷使された水門はその内圧を押し留めることができなかった。長時間の我慢の反動、不随意筋による猛烈な膀胱の収縮は、限界まで引き伸ばされていた乙女の水風船をすさまじい勢いで引き絞る。
乙女のダムの一番底にある、敏感な水門は一気にこじ開けられ。大きく前かがみになった少女の、脚の付け根から。
それまでのおチビリとは段違いの水流が一気にあふれ出した。
ぷしゅっ、しゅうう、しゅわああああ……
ぶしゅぅううううううっ!! じゅわあああああ!!!
「あっあっああ、っ、だめ、だめぇえ……!!」
悲痛な叫び声と共に。いじましくも、涙ぐましい努力で、少しでも外にこぼすまいと、両手を重ねた指の器。それを瞬く間にいっぱいにして、黄色い奔流が少女の足元へと噴き出してゆく。とじ合わせた太腿を伝うナイアガラの滝。
腿を、膝裏を、脛を伝って、黄色い濁流が一気に少女の足元へ駆け降りる。夏の日差しの中、繰り返した水分摂取と発汗を経て、少女の排泄器官で濃縮された特濃おしっこ。
ぶじゅうううううううっっじょわあああああああ!!!
びちゃびちゃびちゃびじゅじょじょわっぶじゅしゅうううう!!!
まるでさかさまの噴水だ。押さえた手のひらにぶつかる水流は、下着越しだというのにそれを貫通するかの如く猛烈な勢い。おもらしというよりは、噴出、噴射というに相応しい。
路肩に停車したバスの窓にまで、その飛沫が飛び散るほどだった。
「ねえっお姉ちゃんおもらししてるよ! おしっこ出ちゃったよ!!」
「お姉ちゃんなのにおトイレまでオシッコ我慢できなかったんだ……いーけないんだー!!」
囃し立てる子供たちの声。囁き交わされる通行人たちの声。
ぶしゅううじゅじゅじゅっじゅぶぶぶじゅうううう……
両手の中に水まきのホースを握り込んだような状態で、少女のおしっこはぶじゅうううう、と猛烈な音を響かせ、激しい水流が弾き出される。見る間に広がる足元の水たまりは、小さな中央分離帯を覆い、そのまま道路のほうまで流れ落ちてゆく。
「はあっ、あ……っ、あ、んぅ、んきゅうぅ……っ」
腰骨を伝う猛烈な開放感。身体の中心を貫く、甘い痺れ。がくがくと脚を震わせ、ついに膝から崩れ落ちた少女は、中央分離帯の中にへたりこんでしまう。自分の作った黄色い水たまりの中に、白いワンピーススカートはもはや半分以上が羞恥の黄色に染まる。
注意。注意。おしっこ注意。
「ぁ……んゅ、ぅ……っ」
しゃくりあげるように小さく肩を震わせ、半開きの口から、はあはあと荒い息を吐き。紅潮した頬に涙の筋を滲ませながら。羞恥と屈辱に歪みながら、どこか蕩けたように緩む少女が、虚空に視線を彷徨わせる。
横断歩道の向こう。届かなかった、公園のトイレ。
そこでするはずだった、おしっこ。
「で……ちゃっ、た……っ」
やがて。悲惨な姿となった少女を迂回するように、右折車が六つ目の交差点信号を去り、車列が整然と制止する。
歩行者用信号が緩やかに緑に色を変え、人々が遠巻きに、横断歩道を渡り始める中。
なおも押さえ込んだ両手の内側。少女の股間は、なおもじゅううじゅうっと熱い奔流を噴き出し続けていた。
(了)
(初出:書き下ろし)