季節ネタ。しかもダジャレ。
石造りのワインセラーは、11月半ばの季節にあってもなおひんやりと肌寒い。
普段は人の立ち入りを制限されている一角に、この日ばかりはざわめきが満ちる。まもなく訪れる『解禁日』を前に集まった人々の中、壁の真新しいデジタル時計が点滅を繰り返し、一秒ごとに刻まれるカウントダウンを示す。
時刻は夜の11時半過ぎ。まもなく日付をまたぐことになる液晶で明滅する数字を見上げ、詰め掛けた観衆はいまかいまかと期待に目を輝かせてその時を待ちわびる。
彼らの熱を帯びた視線は、ワインセラーの一角に儲けられた木造のステージの上へと注がれていた。
ステージはちょうど腰の高さほど。その壇上――文字通りの『お立ち台』の位置に立たされているのが今日のイベントの主役たる少女達であった。
ひどく冷え切ったワインセラー。口元に手を当てて白い息を堪えながら、少女達はしきりに身体をもじつかせ、言葉少なに身を寄せ合う。
その周囲には、どこか猟奇的な要素も感じさせる木製の枠。少女達は太い革ベルトで、この枠に腰と肩とを固定されていた。
きし、きぃ、とステージが軋む音は、静まり返ったワインセラーの中で、いっそう少女達の困惑を強調していた。
彼女たちの表情は一様に暗い。皆、整った顔立ちの可愛らしい少女ばかりであるが、その可憐な容貌も戸惑いとその時を前にした躊躇と焦燥、そして強い羞恥に彩られていた。
壇上に上がる少女たちの装いは学校指定のものとよく似た紺色の水着だった。申し訳程度にブラウスを羽織っているが、丈の短い上着の裾からは紺の布地の股部分や、可愛らしいおしりが丸見えである。ぴったりと肌を包み込むように張り付き、身体の線をあらわにする布地は、透けこそしないもののその内側に隠された乙女の柔肌を想像させて余りある。ある種、下着よりも扇情的に欲情を煽るものですらあった。
思春期に差し掛かり、嫌でも他者の視線が気になる年頃の彼女達にとって、壇上で衆目にさらされるにはあまりにも頼りない。
しかも、ワインセラーに詰め掛けた観客の大半が、少女達よりも年長の男性なのである。
俯き加減の頬は赤く、なおもじもじと身体を隠すように身を寄せ合うのは、当然のことと言えた。
そして。その頬の赤さは、羞恥ばかりが理由ではなかった。
しんと冷え切ったワインセラー内の気温もまた、少女達を苦しめる要素の一つである。詰め掛けた観客たちは冬の装いに身を包んで万全の防寒対策をしているのに対し、少女たちは水着と薄布一枚だけだ。冷たい壇上、剥き出しの素足を足踏みし、まぶしい太腿を擦り合わせてひと時もじっとしていることができないのだ。
そして。そんな少女達に逃げる事を赦さぬとばかり、彼女達の周囲には木製の固定具が立ちふさがる。革ベルトは固く少女達の身体を固定し、わずかな身じろぎを除いて、この場から逃げる事を禁じているのだった。
壁のデジタル時計が23:40の表示を点滅させ、10分刻みのささやかなアラームを鳴らした。日付をまたぐ深夜零時まで、残りはあとわずか20分。予告めいた電子音に少女たちの表情が強張る。擦り合わされる太腿の動きが、ねじり付けるように地面に押し当てられる踵が、ぎゅっと前屈みになった姿勢が、激しさを増す。
刻一刻と刻まれていく、『解禁日』までのカウントダウン。
午前零時――明日を刻むその瞬間を、ワインセラーに詰め掛けた観客達は、さらなる興奮と共に待ち焦がれ続ける。
かちり。残り時間を確認したスタッフの一人が合図を出し、ステージの下にあった白布に手をかけた。ばさり、保護用の枠と一緒に払いのけられる白布の下から姿を見せた「それ」を見て、少女達は一斉に顔を赤らめた。
ステージ下に用意されていたのは、4段重ねのグラスである。
曇り一つなく磨き抜かれたガラス容器が、まるでシャンパンタワーのような構造に組まれ、少女達の足元に聳えているのだ。その趣向に、観客達から溜め息が漏れる。
顔をそむけ、唇を噛む少女達に、しかしスタッフは無情にも淡々と作業を続けてゆく。壇上に登ったスタッフたちが、儚い抵抗を試みる少女達を、しかし軽々と抱え上げ、右足、そして左足の順で木枠に固定してゆく。ベルトによって大きく割広げられた少女達は、水着の股間を大股開きにして拘束された格好だ。膝を閉じる自由もなく大股開きを衆目にさらす姿勢を強制され、少女達はなお激しく、下腹部をぎゅうぎゅうと押し動かす。
露わになった少女達の股間――そこには、通常の学校指定の水着には見られないものが用意されていた。ちょうど、足と足の付け根、乙女の小さなスリットをなぞるように、小さなファスナーが設えているのである。大きく脚を広げさせられ、無防備になった股間――そのファスナーを押し開けられれば、少女達の乙女の園は、何も遮ることなく、人々の目に晒されることだろう。
「…………っ」
諦念と、羞恥と。少女達の微かな喘ぎが、ワインセラーに響く。
目前に迫った『解禁日』を前に、まさに準備は万全、整いつつある。
まもなく少女達は、今年の『出来栄え』を確かめんとする大勢の見物客の前で、固く封じられた『注ぎ口』の栓を解放し、仕込まれた新鮮な開け立ての『中身』を、あのグラスタワーへと注がされるのである。
待ちきれないと期待を込めて注がれる観客の視線の中、少女達の緊張はなお高まるばかり。
――“ボジョボボレー・ジョボボー”。
解禁日を間近にしたこの催しの中で、少女達はそう呼ばれている。
まさにその名があらわす通り、噴き出した芳醇な香りと弾ける液体のきらめきは、重ねられたグラスを吹き飛ばさんばかりに迸り、激しく溢れ出してテーブルを汚してしまうことだろう。あんな小さなグラスひとつにはとても収まるはずのない、少女達の辛く苦しい努力の結晶である。
噴き出す水流は、4段に重ねられたグラスを滝のように溢れおち、なみなみと中身を満たすに違いなかった。
少女たちの纏う水着の胸には、それぞれに所属を明らかにするクラスと名前、そしていくつかの数字が記されていた。数字の一番上は彼女たちの『仕込み』の時刻。その次に並ぶのが『容器の全容量』。そして『産地』『原料摂取量』などと続く。
これらはすべて、彼女たちの身元を示し、“ボジョボボレー・ジョボボー”の品質を保証するラベルなのである。
再びアラームが鳴り響く。電子音が反響するワインセラーに、微かなざわめきが広がる。
時刻は11:50。
あと、わずか10分。解禁日までは600秒を切った。もうまもなく、少女たちはこのステージの上、固定具に全身を固定されたまま、水着の下腹部を覆うファスナーを思い切り開け放たれ『開栓』されて、その身体の内側にぎゅっと凝縮された『中身』をグラスへと注ぐことになる。
あの小さなグラスにはとても収まらないであろう勢いと量とでほとばしる水流は、冷えきったワインセラーの中で、ホカホカと生命の湯気を立て、みっともない姿を晒すに違いない。
耐えがたいほどに迫る強い、下腹部の欲求。その瞬間の光景を、嫌でも脳裏に思い描きながら、少女達は苦痛からの解放への期待と、それを上回る羞恥に、息を荒げ激しく身悶えを繰り返す。
紺色に装う少女達の下腹部をなみなみと満たし、なお膨らみ続ける液体。
“ボジョボボレー・ジョボボー”じゃ『解禁日』までの残るわずか数分にあっても、少女が懸命にさすり続ける下腹部の中身は、限界を超えてなお増え続ける。
『天使の分け前』などとどこ吹く風。
羞恥と、吐息と、かすかな喘ぎ声と、絞り出すような悲鳴の中。
ワインセラーには渦巻く欲望と『解禁日』の瞬間への期待に、一層の興奮を増していた。
(了)