梅雨明けの青空、燦々と降り注ぐ陽射しをいっぱいに浴びて、賑やかな声が揺れる水面に響き、歓声とともに水飛沫が上がる。夏休みを目前にして最後のプールの授業は、2時間続きの大盤振る舞いとなっていた。
騒がしいクラスメイトたちの笑顔につられて、残念ながら見学をしていなければならないプールサイドの数名も、我慢できなかったか制服の裾が濡れるのにも構わずに一緒になって騒いでいる。
そんな中、喧騒から少し外れて、所在なげに金網に寄りかかる少女の姿がある。
凹凸の控えめな身体を慎ましく覆う紺色の水着から、剥きたての卵のような白い手足が覗く。肩上ほどの髪は、水に湿ってもなお分かる程度の癖っ毛。脱いだキャップは後ろ手に組んだ指に引っかかって、雫をぽたぽたと垂らしている。
「んっ、ふ……んぅっ……」
小さく鼻にかかった声で、久賀智里は小さく唇を開け、荒い息を飲み込んだ。
できるだけ『なんでもないですよ』という顔をしているつもりのようだが、一度注目すれば無視できないほどに、少女の様子は目に付いた。
眉は困惑に歯の字に垂れ、視線もそっと周りを窺うように控えめ。水泳キャップを掴む身体の後ろに回した指で金網を握り、そこを支点に身体を左右に揺すっている。
細い鎖骨からは水滴と汗の雫がつう、とこぼれて、内股の膝の上では細い太腿がもじもじと寄せ合わされる。
「っ、ふぁ……くぅ…んっ……」
プールの喧騒に紛れ、そんな小さな声は辛うじて教師たちの耳には届いていない。
あまり日焼けしていない細い喉が小さく震え、硬く握り締められた手のひらが、一番行きたい場所を避けて、ためらいがちに身体の前を行き来する。
熱く灼けたプールサイドの上では、小さな裸足の足が交互に体重を支え、寄せ合わされる太腿が水着のクロッチをきゅうと挟む。いっそ腰を下ろしてしまったほうが楽だろうか。そんなそぶりこそ見せるものの、同じように見学しているクラスメイトをちらりと窺い、智里は結局そのまま動けないままだった。
と、その時だ。
左右に小さく揺すられていた、紺色の水着に包まれた細い腰が、不意にぴくんと上に跳ねて硬直する。
「ふぁ……っ!?」
恥骨を響かせぞくぞくと背筋を這い登る感覚に、さっきまでよりも切実な悲鳴が、少女の唇を飛び出した。
たまらずに、きつく交差させた膝がぷるぷると震え、よじられた腰がくねくねと円を描いて揺すり動かされる。
細い体の小さなおなかの中、脚の付け根にできた逆三角形の隙間の真上。
少女の小さな膀胱を、ぱんぱんに満たす恥ずかしい液体が、ますますその存在感をあらわにしている。くつくつと煮えたぎる尿意はなお激しく、智里の下腹部に昂ぶっていた。
(と…トイレ……っ、行きたいよぅ……っ)
きゅんきゅんと排泄の欲求を訴え、閉じ込められた恥ずかしい液体の解放をせっつく正直な下半身に対し、極度の恥ずかしがり屋の智里の心は、手を上げて『先生、トイレ』の一言がいつまでも言い出せずにいた。
教卓ので発表どころか、授業で手を上げることもできない智里の繊細な心は、更衣室のすぐ脇にあるトイレまでのほんのわずかな距離を、地平の果てまでもに等しいほどに遠ざけているのだった。
そのすぐ側では、そんな智里の心中など知る由もなく、高く水飛沫を跳ねさせて、クラスメイトたちが楽しげに騒いでいる。
プールサイドに上がっての十分間の休憩で、再び元気をチャージしたみんなは、強い夏の日差しの下で時間を忘れて遊んでいた。これからあと40分の4時間目も、あっという間に過ぎ去ってしまうだろう。
「ふ……ぅっ……」
けれど、智里にとってその40分は果てしない時の果てに近いように思われた。
3時間目の授業は、智里もクラスの皆に混じって、一緒にプールに入っていた。しかし、その頃から――正確には2時間目の途中あたりから、智里の身体は激しくトイレを要求していたのだ。
しかし、他の子ならばいざ知らず、着替えて教室から移動するだけで休み時間のほとんどを使ってしまう智里には、途中でおしっこのためにトイレに立ち寄る、という選択肢はない。
つまり、その時点で智里は4時間目が終わるまでトイレに行けない可能性が大、だったのである。
(……おしっこ……っ)
みんなのすぐ側でじっとおしっこを我慢することの恥ずかしさに、紅くなった頬を小さく震わせ、智里はもう一度、更衣室の向こうへと意識を飛ばす。
無論、プール授業中の唯一のチャンスだった十分間の休憩時間――そのわずかな自由に、智里が黙っていたわけではない。しかしもともと身体を動かすのが苦手な智里には、教師の号令も届かずはしゃぐクラスメイトを掻き分けてプールから出て、さらに大混雑のトイレ前の行列を跳ね飛ばし、奥に並ぶ個室まで駆け込むなど、到底叶いはしなかったのだ。
結局、順番が回ってくる前に並ぶだけで休憩時間は終わりとなり、智里は下腹部に張り詰めた膀胱を抱えたまま、プールに戻ることになった。
しかし、その頃には水面に爪先を付けるだけで水着の奥のダムが決壊しそうな有様だった。
『さとちゃん、大丈夫?』
プールサイドで立ち往生していたところを、少し気分が悪くなったのでは、と察してくれた友人のおかげで、少し見学となったものの、授業中ということもありプールサイドを出ることはできない。
まるで背中の金網は、智里を閉じ込める牢獄の象徴のようにすら思えてしまう。背中を預けてじっと立ち尽くす智里は、焼けるような日差しの下で濡れた水着に包まれた下腹部の緊張をさらに高め、小さな膀胱を満たす液体の圧力にひとり必死に耐えていた。
(……だめ、……おしっこ……がまんっ……)
体温と日差しで熱された水着は、身じろぎするたびに吸った水を滲ませ、股間を包む内当て布の感触を意識させる。
じわ、と汗の溜まった水着の背中から、重力に引かれて湿った水がおしりの方へと流れ落ちる。そのくすぐったさに思わず両脚を捻ると、水を含んだ水着が絞られて、じわ、と滲んだ水が溢れては内腿を伝って膝裏からふくらはぎへと滑り落ちてゆく。
たまらず、智里の手は背中からおしりの上を回り込んで、脚の付け根の水着の股布部分を背中のほうへぐいっと引っ張り、脆くも震える出口を押さえ込もうとする。
緊張して強張る内腿の隙間から、ぽた、ぽた、とタイルの上にこぼれてゆく水滴そは、ますます智里の我慢をきつくさせた。
(で、でちゃう……)
ふるる、と小さく震えた身体の訴えは、より切実なものになっていた。困惑に及ぶ視線は、頼りなく周囲をさまよい、濡れぼそった前髪の下でますます眉は垂れ下がる。
本当は、こちらもぎゅっと水着の前を押さえてしまいたいもう一方の手は、智里の身体の前で折りたたまれて、肘でさりげなくおヘソの上を押さえ、曲げられた指先が閉じられた唇に当てられる。
「っ、あ、っ……んんっ……ふっ」
(と、トイレ……はやく、トイレ……っ、おしっこ……っ)
そこまでしても、尿意がおさまる気配はなかった。
水着のクロッチの下でぷくりと膨れ上がる尿意を必死に押さえつけ、智里は浅く、荒く息を繰り返して、寄せては返す波をやりすごす。
本来の容積を遥かにオーバーして、我慢し続けたおしっこでずっしりと重くなったダムを下腹部に抱え、智里は少しでも楽な姿勢を探そうと、ぐいぐいと裸足のかかとをタイルに押し付け、もう一方の足を絡めるようにして身体をねじった。
ぎゅうっと、水着の股布を引っ張る指に力が篭もり、伸びた指先が肌に張り付く布地をぐいと押し上げて、むず痒い感覚が集中する出口を直接抑え込んだ。
じん、と痺れるように敏感に反応するそこに、意識を集中する。
「……ふぅっ……はぁっ……」
荒い息をこぼす智里の頬は紅く染まり、鼻の頭にもしっとりと汗が浮いていた。
いくら波を乗り越えても、下腹部でくつくつと煮えたぎる尿意は引かず、それどころか増す一方だ。もはやそんなレベルではないことを、智里は身体で理解する。
(っ、と、トイレ……っ)
心の中では必死に訴えるその言葉は、しかし誰にも届かない。水遊びに夢中のクラスメイトも、それを監督するので精一杯の教師たちも、その傍らで今にも漏れそうなおしっこを、誰にも言い出すことができず、その場で必死に我慢している智里がいるなどということは、思いもしていないのだ。
紺色の布地を押し破り、激しい水流が吹き出して、脚の付け根の隙間を満たし、両脚を伝ってぱちゃぱちゃと滴り落ちる――そんな結末は、そう遠くないものと思えてしまうほどだ。
「っ……」
また、横目でちらり、とプールの出口を見、けれど智里はその場から動けない。声を上げたり動いたりすれば、クラスメイトの注目を浴びてしまうことは避けようがなく、その緊張が智里を縛りつける。
先生を呼ぼうとする声が喉に張り付いて、手足が強張り、足は地面に縫い止められたよう。ほんのわずか、身動ぎするので精一杯だ。
そうこうしているうちに、きゅうんっ、と敏感な膀胱が反応する。
少しだけ気を緩めていた瞬間を狙い済ましたかのように、大きな尿意の津波が智里に叩きつけられた。押さえつけていた出口がじわっと緩み、一番脆い場所めがけて熱い水流が押し寄せてくる。
「ぁ、あ、あっ」
かくかくと唇を震わせ、智里はきつく歯を食いしばった。
とっさに空いている手で、太腿の上部分の水着を掴み、さらには股布のクロッチを掴み上げて、ぐいっとねじるように引っ張り上げる。引き伸ばされた布地の隙間からは太腿を越えて、足のその付け根から恥丘のすぐ側まで、ふっくらとした白い肌があらわになった。
智里は引っ張り上げた布地をねじり、脚の付け根の合わせ目に食い込ませて、滲み出す熱い雫を塞き止めようとする。同時に両脚がきつく交差し、智里はその場で準備運動のように身体をねじり、くねらせる。
じわ、ぢょっ、じゅぅっ……、ぱた、ぽたたっ、
(だ、だめっ、出ちゃだめ……っ)
半分剥き出しになった少女の股間は、緊張に震え、けれど間断的に先走りを吹き出させていた。がくがくと震える膝の上で、引っ張り上げられる水着の布地に包まれた股間の先端から、熱い雫が滴り落ちる。
顔中を真っ赤にして、歯を噛み締め、涙を滲ませ、智里は背中を波打たせ、ぎゅうぎゅうと股間にくいこませた水着をねじった。
「っ、ぁ、あっ」
(が、ガマン……できないっ。…ぉ、おトイレぇ……っ!!)
必死の抵抗も空しく、小さな出口がぷしゅうと水流を吹き上げた、さっきよりも多くの水流が、閉じあわされた太腿の間を伝ってゆく。じわ、じゅわ、と水着のクロッチがたっぷり含んだ水分を溢れさせ、股間の先端にびりびりと走る甘い痺れが、智里がありったけの力で張り詰めさせている緊張の糸を断ち切らんと誘惑する。
「ぁ、っ……~~っ……!!」
身体の中心を押さえ込む両手と、細い肩がぶるぶると震え、痙攣して力の抜ける両足は智里の体重を支えきれず、がくがくと揺れる腰がずり落ちてゆく。
後ろに反り返った身体が、弓のようにしなり、金網に預けられた背中が左右に揺れ絵動く。ぎゅううぅ、と渾身の力で水着を引っ張り上げる手も、限界を訴えるようにぷるる、と震えていた。
さらに、押さえ込まれたダムの決壊の余波を感じさせるごとく、じわ、と少女の目元が潤み、あふれ出した涙が、智里の頬へとこぼれてゆく。
(だ、っ、あ、で、でちゃう……っ!!)
プールの片隅で、人知れず繰り広げられていた孤独な戦いは、ひっそりと終焉を迎えようとしていた。
じゅぅう、という、チャックを開けるときのような音に続いて、ぽた、ぱちゃ、と小さな水の音。それはたちまち連続し、智里の我慢が押し破られる。堰を切って吹き出した熱く色濃い水流は、食い込ませ押し付けられた水着の股布にぶつかり、そのまま飛沫を撒き散らした。
ちょろ、ちょぽぽ……ぱちゃぱちゃぱちゃっ……
もともと通水性のいい布地はあっさりとその保水力の限界を超え、股間をささやかに遮る布地にぶつかる水流は、どこに染み込むこともない。智里の身体の内側から勢いよくはじき出された水流は、水風船が中身をほとばしらせるように、大きな放物線を描いてプール脇のタイルの上に飛び散ってゆく。
「や、やだぁ……っ、ぁ……っ」
じょじょ、じょぉぉっ、じょぼぼぼぼおぉ……
我慢に我慢を重ねたせいで、小さな膀胱に限界まで注ぎ込まれ、煮詰まった智里のおしっこはその小さな身体にはまるで似合わない、猛烈なものとなっていた。漏らすまいと必死になった分だけ、吹き出す勢いは強く激しく、まるで成人男性のそれに近い勢いと量だった。
女の子のものとは思えないおしっこの水流は、寄せ合わされた智里の足を伝い落ち、下半身を包み込む熱い感触をともなって、智里の足元に特大の特設おしっこプールをひろげてゆく。
冷たいプールの水よりもずっと熱く深く、煮詰まった恥ずかしい液体は、いつまでも激しい水流となって足元にこぼれ、智里の裸足の指の間を通じて、プールサイドに広がり続けるのだった。
(初出:書き下ろし)
プールと水着の話。
