(やっぱり、こっちの方にはないのかなぁ……)
梅雨の合間に覗く青空の下。河川敷沿いの歩道の外れで、小上孝乃は途方に暮れていた。
肩までの髪を短くまとめ、足元はソックスに履き慣れたスニーカー。袖には所属チームを示す水色のリボン。
学校指定のスパッツに体操服という軽装も、ひと足早い初夏の日差しの下では軽く汗ばむほど。誰の視線もないのをいいことに、体操服の裾をつまんでぱたぱたと涼を取りながら、孝乃は河川敷沿いに広がる市営のグラウンドを振り返る。
遠く響くのは、グラウンドを囲む観客たちの歓声と、実況のアナウンス。
町内会対抗の運動会は、午後を過ぎていよいよ白熱しているようだった。
「ん……」
いつのまにかかなりの距離を歩いてきてしまったことに気付いて、孝乃は足を止める。
『次の競技は二人三脚です。参加選手の方は、入場門の前に集合してください――』
アナウンスに耳を澄ませば、プログラムはあと少しで孝乃の参加する障害物競走だ。準備も考えるとそろそろ戻らなければならない時間だった。
「……どうしよう……」
後ろ髪を引かれる思いで、孝乃はぐるりとあたりを見回す。
わずかな期待を込めてここまで歩いてきたものの、めぼしい場所は見つからない。河川敷はただ広大で、清掃用具などを片付ける小さな小屋の他には、数キロ先にある私鉄の鉄橋くらいしか目につく建造物はなかった。
アスファルトで舗装された歩道の真ん中で、孝乃の足がとんとんとリズムを刻む。
困惑と躊躇が彩る少女の表情は、なにかを堪えているように陰を帯びていた。
わあっ、と遠くのグラウンドで歓声が上がる。どうやらリレーの最終走者がバトンを受け取ったらしい。実況が力強く、ゴール前のデッドヒートを応援する。
知らず、孝乃の手はきゅうっ、と体操服の裾を握り締めていた。
「……やっぱり、戻らなきゃだめ……かな」
気の進まない様子で、少女は来た道を戻り始める。しかし、その足取りは足枷でも嵌められたように重かった。
――誤解のないように補足しておくと、孝乃は別段、運動が苦手という訳ではなかった。
均整のとれた手足や、良く使いこまれたスニーカーを見ても分かるように、むしろ身体を動かすのは得意だった。断じて、競技に出ることが億劫なわけではない。
そもそもこの運動会自体が町内会の主催であり、学校行事のように参加が義務付けられている訳でもないのだ。
それでもなお孝乃が躊躇っているのは、別の事情による。
「っ……」
不意に孝乃は背中を丸め、きゅ、と息をのむように小さく口を噤む。のろのろとではあるが進んでいた足がピタリと止まり、スパッツの内腿が寄せられて、不自然なほどの内股になってゆく。
(…………トイレ……っ)
女の子の秘密のダムにたっぷりと蓄えられ、下腹部を硬く張り詰めさせる恥ずかしい液体。それのもたらす尿意こそが、孝乃を切羽詰まらせている切実な事情だった。
毎年恒例の町内会対抗の大運動会は、孝乃にとっても幼い頃からなじみのあるものである。市内の子供たちは小学校低学年くらいまでは慣例として参加することが多く、市内に住んでいるのならば一度は足を運んだことがあるという地域密着型のイベントだ。
だが、今年は少々事情が違っていた。昨年まで使われていた市立の中学校のグラウンドが、改装工事によって使えなくなり、急遽開催場所が変更されることになったのだ。
代替場所に選ばれたのは、市内の中心部からもやや離れた場所にある河川敷のグラウンドだった。
当日は参加選手、その応援含めて千人単位での人出が見込まれるため、他に替えがなかったという事情もある。交通の便は臨時駐車場や送迎用のバスを用意することで何とか解決したものの、最寄りのコンビニまで歩いても15分もかかるという立地は、予想外の不便をいくつも引き起こしていた。
その最たるものが、トイレである。
もともと大人数が利用することが想定されていなかった河川敷のグラウンドでは、施設の端にある管理棟に小さな公衆トイレがひとつ設けられているのみだった。
当然ながらそれだけで数千人規模のトイレを賄える訳もなく、開催者側も仮設トイレを用意するなどして対策をしていたのだが――その数が圧倒的に足りなかったのである。
男性用のトイレは辛うじて混雑程度で済んでいたが、女性用のトイレは利用者に対する設備が足りず、順番待ちの大行列を作る結果となってしまったのである。
以上のような経緯により、会場には多くの少女達がトイレの順番待ちに並び、その上更に多くの少女達が『順番待ち予備軍』として、もう少しトイレが空くまで密かに我慢し続けるという異常事態が発生しつつあった。競技に参加している選手も、外で応援している観客たちも、実にその6割近くが尿意を覚えていたのだから、どれほどの状況なのかは推して知るべしであろう。
また、参加者の半数が若い女性――特に思春期の女生徒が多く、どうしても不衛生になる仮設トイレの利用を避けようとする心理が働いてしまったことも理由の一因といえた。
……かくして。
河川敷のグラウンドには潜在的に、数百人に及ぶ体操服トイレ我慢少女を抱え、空いているトイレを求めて放浪する多くのトイレ難民少女が生まれていたのである。
孝乃もまた、トイレを求め河川敷をあちこちを歩き回っている『おトイレ難民』の一人だった。9時半の開会式直後から感じていた尿意は、4時間を経てすでに下腹部に鈍い痛みを感じるほどに限界近くになりつつある。
「んっ……ぁ……」
もはや尿意は耐えがたいもので、じっとしているだけで腰が揺れ出してしまうほどだった孝乃は。周囲に視線がないのをいいことに、スパッツの上から体操服の裾を足の間に挟み込むようにして、ぎゅっと股間を押さえ込むという大胆な格好まで始めてしまっている。
それでもなお波のように押し寄せる尿意は、おさまることなくじわじわとその勢力を高めつつあった。
(オシッコ……!!)
身体の奥から込み上げてくる欲求に、少女の身体はぶるると身悶えする。
孝乃は最初、大混雑の仮設トイレと管理棟のトイレを避け、グラウンドを出て、近くのコンビニのトイレを借りに行くことを考えていた。同じことを考えていた優花と一緒に、しかしいそいそとコンビニへ向かう途中の道で、そちらから戻ってきた学校のクラスメイト達に、
『あっちもダメだよ。すっごい混んでて……私達も、おトイレてきなかったから……』
と、衝撃の事実を告げられて、浅はかな思考を後悔することとなったのである。
それでも念のためにと様子を見に行った優花と別れ、孝乃は仕方なしにグラウンドの周りを探すことにしたのだ。
別になにか、具体的な解決策の心当たりがあったわけではない。
だが管理棟と仮設トイレ、他に使えそうなトイレがない今、わずかでも残った希望に縋りたいというのは自然な心境だったと言えるだろう。普段は野球やサッカーのクラブが利用している場所だけに、誰か知らないような場所にトイレがあるのではないかと、そんなささやかな願いを込めてここまで歩いてきたのだ。
しかしそんな探索行もただ貴重な時間を無駄にしただけに終わり、孝乃は再び大混雑のトイレしかないグラウンドに戻らねばならなかった。
(……ううぅ……どうしよう、やっぱり優花ちゃんと一緒にコンビニまで行けばよかったのかなあ……でも、それだと次の競技に間に合わなかったかもしれないし……)
競技に参加する選手は、形だけとはいえ町内会の選抜として選ばれている以上、不参加となるのは避けたかった。孝乃の場合、参加枠に立候補しているだけの責任も感じているのだ。
歩いてきた道を半分ほど戻ってきたあたりで、孝乃は丸まっていた背中を伸ばし、皺になっていた体操服を引っ張り直す。
本音を言えばいまもぎゅっとあそこを押さえておきたいくらいだが、そろそろ恥ずかしい格好も出来なくなってきたのだ。じんじんと疼く下腹部は、膨らみ切った膀胱でまるで妊婦のようだ。なだらかに膨らんだおなかをそっと撫でながら、孝乃は気の進まない足をグランドの方へと向ける。
こんな状況で競技に出場できるのだろうか。緊張にまた膀胱が疼き、尿意と共に不安が込み上げてくる。
と、その時だ。
不意に目の前でがさりと茂みが揺れ、そこから一人の少女が顔を出した。
孝乃と同年代と思われる、三つ編みの少女は、孝乃とは違うデザインの体操服を着、袖にピンクのリボンを付けていた。彼女とばっちり視線が合い、孝乃は軽い驚きに言葉を失う。
「っ……!?」
その一方で、少女のほうは更に慌てている様子だった。まるで熊と出くわしたように目を見開いた少女は、孝乃と数秒見つめ合い、それからはっとしたように、自分が出てきた背後の茂みの方へと視線を向ける。
直後、まるで湯気を噴いたように三つ編みの少女の顔が赤く染まる。
「え、っと……」
孝乃が困惑のつぶやきを洩らした直後。少女は弾かれたように顔を伏せ、グラウンドの方へ一目散に走り出した。
みるみるうちに小さくなる背中を、孝乃は呆然と見送るばかりだ。
「……?」
訳が分からずしばし呆気にとられていた孝乃だが、不意にその答えを知ることになる。
川沿いを緩やかに吹き抜ける風が、かすかな匂いを運んで来たのだ。
(…………!!)
それは、あまりにも予想外のものだった。
孝乃は思わず、三つ編みの少女が顔を出した茂みの方へと視線を向ける。ふらふらと引き寄せられるように数歩を歩み出し、茂みを踏み分けたその先にあるものを見て、声を上げそうになった。
河原の隅、背の高い茂みの奥には、古びたコンクリートのたたきが設けられていた。
その一角が、たった今水を撒いたかのように黒く湿り、濡れていたのだ。
先程の匂いからも、それがただの水ではないことは容易に知れた。見ればすぐ近くにも丸めたティッシュが捨てられている。
「こ、これって……」
もはや疑うべくもなかった。ここはついさっきまで、あの三つ編みの少女によって“おしっこの場所”にされていたのである。
(さっきの子……ここで、済ませてたんだ……)
あの態度にもようやく得心がいって、孝乃の胸を罪悪感がよぎる。
よほど切羽詰まっていたのだろう。女の子なら屋外の――こんな茂みでのオシッコなんて、本当の本当に限界でなければまず実行しない。もっと小さな子であればともかく、トイレ以外でのおしっこなんて、孝乃の年代の少女たちにとっては“禁じ手”である。確かにオモラシに比べればマシには違いないが、誰かに済ませた跡でも見られようものなら、自殺したくなるほどの羞恥に違いなかった。
あの三つ編みの子も、誰にも見られないようにと必死に願いながら、不安に胸を高鳴らせての決意だっただろうに――ようやくオシッコを済ませたその直後に、孝乃と出くわしてしまったのである。しかも孝乃にそのことを気付かれてしまったのだ。その驚き、その羞恥はいったいどれほどのものだっただろうか。
(私と、同じくらいの子だったのに……そんなに我慢してたのかな……)
胸の奥にちくりと痛みが走る。同時に、孝乃の手のひらは自然、足の付け根へと伸びていた。自分以外の子がここでオシッコをしていたという事実に、現在進行形で膀胱を張り詰めさせた少女の身体は敏感に反応してしまう。
しかもさらにとんでもないことに、よく見ればコンクリートのあちこちには、同じように黒く湿った染みが見えた。ぱっと目に留まるだけでも4つ、中にはあきらかに泡立った水たまりとなっている場所まであった。
「うわ……っ」
思わず声が出ていた。
全く予想外の場所に、まったくの偶然で、孝乃は秘密の特設臨時緊急野外女子専用トイレを発見しまったのだ。
いくつもの女の子たちの『オシッコの痕跡』を目の前に、孝乃は耳が熱くなるのを感じる。
確かに、あのトイレの大行列は並んでいるのが苦痛になるほどの大混雑だ。どうしても間に合わない子がでてきてしまうのも頷ける。おそらくここは、そんな子達の最後の手段のスポットとなっているのだろう。
恐らくは誰が申し合わせたわけでもない。最初に限界を迎え、恥を偲んでの“はじめてのお外でのオシッコ”の場所に、ここを選んでしまった子がいたというだけだ。その子だって別にここをみんなの秘密のおトイレにするつもりなどなかっただろう。
しかし、最初の一歩さえあれば、あとは抵抗もずっと少なくなる。私のほかにも誰かがしてるんだし――という共同心理が羞恥心のブロックを和らげ、いつしかここをオシッコの場所にするという暗黙の了解をつくったのだ。
ひょっとしたら、こんな場所が他にもあるのかもしれない。思わぬ場所に思わぬ形の『おトイレ』を見つけてしまい、孝乃は困惑してしまう。
(んっ……ぁ、あっ、だめ……、ま、また、したくなっちゃった……っ)
こぽりと下腹部のティーポットに、尿意が沸き起こる。沸騰を続ける恥ずかしい液体がその勢いを増し、少女の下半身からわずかに残っていた余裕を奪い去ってゆく。
不自然に伸びた背の高い茂み、整地された地面のコンクリート。確かにここなら周りの視線も遮れるし、出て行くところを見られなければ誰にも気付かれない。ある意味、この極限状態では絶好の用足しスポットとも言える。
禁断の場所を前に、孝乃の下腹部は切羽詰まった現状に強い抗議を訴え、反応をはじめていた。思わず腰をゆすってしまい、孝乃はじいんと足の付け根の奥、恥骨から背骨へと響くむず痒い感覚に身をよじる。 これまで堪えていた我慢が、ぷっつりと途切れてしまったようだった。
「だ……だめ、だめだよ……っ」
熱い視線が、コンクリートの一角を見据える。まるで恋する乙女のように、孝乃の視線はそこから離れなかった。
もともと、いつ限界を迎えてもおかしくない状況だったのだ。一度きっかけを与えられてしまった少女の排泄器官は、歓喜を叫びながら“ここ”での解放を訴えかけてくる。
――どうせもどっても、おトイレ使えないんだよ?
――我慢したままで本当にちゃんと走れるの?
――終わってから、またずっと並ばなきゃダメなんだよ?
三大欲求と並び示される排泄を訴える本能が、いくつもの誘惑となって孝乃を惑わせる。
「はぁっ………ぅ」
ぐらりと揺れる心を抑え、孝乃はぎゅうっと交差させた脚に力を込め、きつく唇を噛んだ。
……どれくらい、そこでそうしていただろうか。
忙しく茂みを掻き分ける足音に、孝乃ははっと我に返った。
両手を足の付け根に重ね当て、もじもじと腰を揺する恥ずかしい格好のまま見上げた先、茂みの反対側から、小さな女の子が姿を見せていた。
白のハーフパンツの股間部分を右手でぎゅっと引っ張り上げるようにして、激しく足踏みを繰り返す女の子は、孝乃よりもずっと年少だ。学校指定のものらしい体操服には、『前原(瞳)』という名札が縫い付けられていた。
「あ、、あっ、あ……」
もはや我慢の限界というように、その場足踏みを繰り返す。女の子――恐らく瞳という名前――は困惑の極致にあった。切羽詰まって駆け込んできた先に、まさか孝乃がいるとは思っていなかったらしい。
小さな手にポケットティッシュが握り締め、ぴょんぴょんと飛び跳ねながら羞恥と混乱に表情を震わせる。
まさに、『いまからここでオシッコします』と宣言しているようなものだった。
とっさのことに、孝乃は呆然となっていた。まさかこんな短時間に2回も、ここで他の女の子と遭遇するとは思っていなかったのだ。
順番で言うならば孝乃の方が先にここに居たことになる。つまり『ここ』を使う優先権は孝乃にあるのだ。その孝乃が何も言わずにいるものだから、やってきた少女もどうしていいのか分からない。
「あっ、あっ、ぁ……ッ」
喉を引きつらせ、引き絞るような悲鳴をを上げる少女は、かわいそうになるくらいに腰を前後に激しく揺すり出してしまう。
恐らく彼女も、孝乃と同じようにトイレ難民になり、形振り構わずにオシッコを済ませられる場所を探していたのだろう。あるいはその最中にクラスメイトにでも『ここ』の話を聞いてきたのかもしれない。
そうしてやっとの思いで辿り着いたこの場所、特設臨時野外トイレが、『使用中』だったのである。その絶望感はいかほどのものだろうか。
「……ぃ、……ぁ……」
くしゃり、と歪んだ少女の身体がピタリと静止する。小刻みに膝が震え、肩が強張り、両の手のひらが我を忘れたように強くハーフパンツの股間を握り包む。「あ、え、っと……」
何か声をかけなければ――そう思う孝乃だが、とっさのことに思考が空回りし、言葉が喉に引っかかって、うまく出てこない。
「っ……」
少女の下腹部で、じゅじゅうぅっ、とはっきり激しい水音が響いた。
ひ、と小さく掠れたような吐息と共に、少女の肩がびくんと跳ね上がる。握り押さえたハーフパンツの指の間がみるみる色を変えてゆく。
最後の最後で入った邪魔を、少女の身体は待ってくれなかった。
酷使され続け、限界を迎えた少女の水門は、とうとう水圧に押し負けて、下着の中に激しく熱い奔流を吹き上げてしまったのだ。
じゅ、じゅうっ、じゅじゅじゅうぅぅうっ!!
一度決壊を赦してしまった水門が、崩壊を食い止められるはずもない。ありったけの力を込めて締め付けていたはずの小さな孔がぷくりと膨らみ、体操服の中に耐えに耐え続けたオシッコを撒き散らしてゆく。
じゅじゅっ、じゅうっ、じょぱっ、と断続的に途切れる水音が、彼女の最後の抵抗の証だった。
「っ…ぁ、…」
少女は目に涙を浮かべ、くしゃっと顔をゆがませると、じわじわと薄黄色の部分を広げているハーフパンツを押さえたまま、きつく目をつぶって、コンクリートの一角へと走り込んだ。
孝乃にお尻を向ける格好で、大胆に『がばっ』と下着とハーフパンツをまとめて足首までずりおろし、しゃがみ込む。
途端、可愛らしい足首の間に凄まじい水音が跳ね上がった。
じゅっ、じゅぱっ、ぶじゅじゅじゅううぅううーーーっ!!
まるで風化したコンクリートの表面を削って穴をあけてしまいそうな、超高水圧のオシッコ。よっぽど我慢していたのを窺わせるかのように、色も濃く激しい水流が、コンクリートを穿ってじゅぶじゅぶと泡を立てる。
「っう、ぁ……、っ……っくうぅ……っ」
肺の中の空気を絞り出すような、掠れた声。
握り締めていた指の間から、くちゃくちゃゃのポケットティッシュが包みごと地面に落ち、そこにも少女自身が股間から迸らせるはしたない水流が直撃する。オシッコまみれになったティッシュは、猛烈な水圧によって水たまりの中央へと押し流されていく。
「は、ぁ……ぁ……っ」
地獄から天国へ――耐え続けた苦痛からの解放に、思わずもれた熱い吐息が少女の唇を震わせる。
ずぶ濡れの下着の股布やハーフパンツからもびちゃびちゃと飛び散る雫がコンクリートを派手に汚してゆく。まだ出始めたばかりのオシッコが撒き散らされた地面の水たまりは、すでにこれまでのどの『痕跡』よりも遥かに大規模なものになっていた。
「っ……ぁ……っ」
ぶるる、とふるえた小さく白いお尻の下、途切れることのないオシッコは左右にくねり、前後に震えながらコンクリートのたたききを流れ出していた。
うずくまる少女の俯いたうなじや耳の先までが真っ赤に染まり、なおも止まる様子のないオシッコは、コンクリートを叩き続ける。
(……すごい……)
自分よりもずっと小さな子が、あまりにも大胆に繰り広げる、激しくも長いオシッコ姿。待望の排泄を目の当たりにして、孝乃の尿意もなお激しさを増す。
コンクリートを色濃く染める、大きな水たまりの上に。
やがて、もう一つの激しい水音が響き始めるのは時間の問題だった。
(初出:書き下ろし)
河川敷の運動会・2
