小公女サラ【メイド見習い編】

 ある趣味@JBBSの往年の名スレよりネタを拝借。


「ほら、なにをぐずぐずしてるんだい!! 急ぎな!!」
「は、はいっ」
 イルマに急かされ、サラは継ぎ接ぎだらけの古びた使用人服に着替えさせられ、厨房へと連れてこられました。
 そう、今日からサラは使用人としてここで働かねばならないのです。
 厨房の流しには今朝、食堂で使われた食器が山のように積み上げられています。それを指差し、イルマは言いました。
「さあ、あんたはここの洗い物を全部片付けるんだよ。お昼までにすっかり綺麗にしておかないとならないんだからね!」
「こ、これを全部ですか……?」
「当たり前だよ! さあ、はやくとりかかるんだ。一枚でも割ったら承知しないよ! ほら、返事はどうしたんだい!」
「は、はい、すぐにやります」
「あたしはほかに用事があるからね。後で様子を見に来るから、サボるんじゃないよ!」
 慌てて姿勢を正して答えるサラに、ふんと鼻を鳴らしたイルマは、自分だけすたすたとどこかに行ってしまいました。アンのほかにもう一人、下働きのメイドが増えたのですから、忙しくなるなんてことはないはずなのですが。
(はあ……)
 見上げるようなお皿の山を前に途方に暮れてしまったサラでした。クレマス公爵家の令嬢として、どこに出しても恥ずかしくないお嬢様として礼儀を躾けられてきたサラですが、使用人の仕事なんてした事がありません。
 お掃除や洗濯も、メイド頭のエリザの働いているのを見てやり方こそ知ってはいましたが、こんなにもたくさんの量をいったいどうやって片付ければいいのでしょうか。
「……いいえサラ、しっかりなさい。こんなことで弱音を吐いていてどうするの!」
 そう、もうサラはプリンセスではないのです。学院で勉強するためには、使用人として暮らしていくしかないのでした。サラは心を奮い立たせて仕事にとりかかることにします。
 けれど。
「ひゃ!? つ、冷たいっ……」
 水を張った桶に指を付けた瞬間、その冷たさにサラは飛び上がってしまいそうになりました。まもなく冬がやってくる季節です。水道の水は恐ろしく冷たくて、まるで指先が切れてしまいそうでした。サラは引っ込めた手を抱え、はあ、と指先に息を吹きかけます。
 見上げるような数の食器、冷たい冷たい水。考えるだけでも嫌になってしまいそうです。
 でも、止めるわけにはいかないのでした。
「頑張るのよ、サラ」
 自分に言い聞かせるようにして、サラはぎゅっと口を閉じてお皿を洗い始めました。 
 山と積み上げられたお皿から一枚を取っては、スポンジを使ってごしごしとこびり付いた汚れを落としていきます。
「よいしょ、よいしょ……」
 一生懸命に力を入れるのですが、冷たい水だけでは石鹸の泡立ちも悪く、お皿の油汚れはなかなか綺麗になりません。なにしろ学院の寄宿舎にいる生徒たち全員ぶんの食器です。サラがいくら頑張ったところでそうそう終わるわけはありませんでした。
 やがて指先がかじかみ、痛みさえ覚えるようになってきます。
 白く冷たくなった指をぎゅっと握り締め、なんども息を吐きかけながら、サラは一生懸命お皿洗いを続けました。ぱしゃぱしゃと流れる水音が、冷たく冷え切った指先からじんじんと身体の芯まで響いてくるようです。
 どれくらい経ったでしょうか。洗っても洗っても減らないお皿の山の前で、やがてサラの様子が少しばかりおかしくなってきます。
「…………」
 そわそわと、どこか落ち着きなくサラの身体が揺れ、爪先が床を擦ります。
 なにか考え事をしているように洗い物の手も止まることが多くなり、そのたびにサラは小さく息を飲むのでした。
「はあっ……」
 溜め息のように熱い吐息を吐き出して、サラは古びたの使用人服の背中をよじらせます。
 何度も何度も洗って使い古されたごわごわしたスカートの下で、細い太腿がきゅっとすり合わされ、膝が落ち着きなくぶつかり合います。
 決して上等とは言えない下着を、きゅっと引っ張り上げて。サラは小さくこぼれそうになった声を、唇の奥に飲み込みました。
(や、やだ……)
 冬の寒さと、冷たい水に触れていたからでしょうか。
 サラの下腹部は、いつのまにか強くトイレを訴えていました。
(そういえば、朝からお手洗いにもいっていないわ……)
 まだ夜が明ける前からイルマに叩き起こされるなり、あれこれと雑用を押し付けられていたものですから、サラはすっかりそのことも忘れてしまっていました。
 昨日の夜からのぶんのおしっこが、おなかの奥に溜まったままになっているのです。むしろこれまで気にならなかったのがおかしいくらいでした。
「んっ……」
 いちど意識してしまうと、恥ずかしいところのむずむずはあっという間に強まり、サラは溜まらずスカートの上からおなかをさすってしまいます。
 ずっと我慢し続けたおしっこは、まるでおなかのなかでたぷんと音を立てて揺れていそうでした。
 そわそわと腰を揺すりながら、サラは厨房の中を見回します。
(どうしよう……)
 流しにはまだまだたくさんのお皿が残されています。急いで片付けなければ、お昼になっても終わりそうにありません。
 けれど。
 サラの手のひらが、ぎゅっと使用人服のエプロンを握り締めます。
 じんじんと響く尿意は、いつしか耐え難いものになっていました。
(……お手洗いくらい、行ったっていいはずよね……)
 確かにイルマからはここを離れないように言いつけられていましたが、まさかトイレにまで行っていけないということはないはずです。
 別にいけないことをしているわけではないはずなのですが、イルマに見つかったらまたうるさく怒鳴られるかもしれない、と思うとサラの足はなんとなくすくんでしまいます。
 けれど、朝からの水仕事で冷えてしまった身体は、廊下を歩いている間にもどんどん強く尿意を訴えてきます。
「ふぁ……っ」
 きゅうんっ、と下腹部で切なく疼く尿意に、思わずはしたない声を上げてしまい、サラは顔を赤くしました。やはり、このまま我慢しているのは難しそうです。
 自分の仕事を途中で放り出してしまうことに罪悪感はありましたが、サラはまず先にトイレに行くことにしました。
 けれど、そうしてサラが厨房の出口に向かったところで、なんとも間の悪い事に、イルマが戻ってきてしまったのです。
「なんだいサラ!! なにをしてるんだい!!」
 大きく腕組みをして、イルマはじろりとサラを睨みます。
「仕事をほっぽりだしてどこに行こうって言うんだい? まさか、さっそくサボろうっていうんじゃないだろうね」
「あっ、あの、違うわ、イルマ!!」
 慌てて弁解をしようとするサラですが、イルマはまるで聞く耳を持ちません。
「イルマじゃない、さんをつけな。……なんだい、全然終わってないじゃないか!! 本当にどうしようもない子だね、これっくらいも出来ないのかい!!」
「違うわ! そんなことないの、わたし……お手洗いに行きたくて……」
 もじもじと揺すってしまう腰を押さえ込めずに、サラの頬がかあッと熱くなります。こんな風に、おトイレのことを誰かに説明するなんて、いったいいつ以来のことでしょう。お屋敷では立派な淑女としての教育をされていたサラですから、人前で『お手洗いに』なんてことは滅多に口にしたことはありませんでした。
「ああん? 何言ってるんだい、よくそんな事が言えるね!! あんたはもう公女様じゃないんだよ!! 生意気な事をいうのはきちんと仕事終わらせてからにしな!!」
「そんな!? だ、だって……」
 まったく聞く耳を持たないイルマに、サラは耳を疑ってしまいます。
「口答えするんじゃないよ!! おおかた水仕事が嫌になって音をあげそうになったんだろう!? まったく、これだからお嬢様はだらしないね!! これっくらいのことで投げ出しちまうなんてさ!! あたしらはこれを毎日やってるんだよ!!」
 ふんぞり返って言うイルマですが、実際のところは、皿洗いも洗濯も、ほとんどは使用人見習いのアンの仕事です。イルマはアンに大変な仕事を押し付けて、自分はもっと楽で目立つ仕事ばかりをしているのですが――そんなことは勿論サラは知りません。
「ほら、ぐずぐずしてるんじゃない!! まだ仕事はたんまりあるんだよ!!」
「違うわ!! 私、そんなことしません!! 本当に、お手洗いに――」
「ああもう、うるっさいね!! 生意気言うんじゃないよ!!」
 言いかけたサラを遮って、イルマは大きな怒鳴り声を上げました。あまりの剣幕にサラは思わず目を閉じ、身体を竦ませてしまいます。
「ああそうかい、よっくわかったよサラ。あんたがどうしようもない嘘つきだってことがね!! 正直に認めれば許してやるつもりだったけど、あんたみたいな嘘つきにはそんな温情はつけあがらせるだけだね!! ああ、なんて浅ましい娘だろう。のろまで愚図な上にズルばかり考えてる嘘つきだなんてね!! ぞっとするよ!!」
「そんな、酷いわ……わたし、そんな嘘なんかつかないわ!!」
 嘘つき呼ばわりされたことが悲しくて、サラは必死になってイルマに訴えます。けれど頑固で疑り深いイルマは、そんなものに耳を貸すわけもありませんでした。
「まだ言うのかいこの嘘つき娘め!! さあ、はやく皿洗いを終わらせな!! 他にも山ほど仕事はあるんだよ!! 今日は罰として夕飯抜きだ!!」
「そ、そんな……」
 あまりにもひどい仕打ちに、とうとうサラも言葉を失ってしまいます。
 けれど、我に帰ったサラが何を言ってもイルマは聞こうとはしませんでした。サラは仕方なく、流しに戻って皿洗いを再開します。
 けれど、トイレに行きたいのを我慢しながらでは思うようにはかどるはずもありません。
 そんなサラの後ろに陣取って、イルマは次々に怒鳴り声をぶつけてきます。いえ、それどころかますますサラのことを嘘つき呼ばわりして、罰だと言っては自分の分の仕事までを押し付けるのでした。
「いいかい、それが終わったら部屋全部のシーツを取り換えて洗うんだよ。破いたりしたら承知しないからね!! それから水くみ、廊下の掃除、それが終わったら教室を片づけるんだ!! ほら、何をもたもたしてるんだいサラ!! 急がないと昼飯も抜きだよ!!」
「は、はいっ……」
 もはや何を言ってもイルマが聞く耳を持たない事を悟り、サラは少しでも早く仕事を終わらせることを考えるしかありませんでした。
(ぅう……お、お手洗いに……っ)
 サラは必死にトイレを我慢し続けていました。ぱんぱんに張り詰めた下腹部はずっしりと重く、下着の奥ではおしっこが今にも噴き出してしまいそうです。
 流しの前で落ち着きなく腰を揺らし、何度も足を組み替えて、粗末な靴の爪先を擦りつけます。そんな不安定な姿勢で洗い物がはかどるはずもなく、サラは手にしていたお皿を滑らせ、床に落としてしまいました。
 がちゃんと白いお皿が割れ、イルマはそれを見てますます眉を吊り上げます。
「サラ!! なにをやってんだい!! 本当にしょうがないねえこの娘は!!」
「す、すみませんっ……」
 イルマに怒鳴られ、サラの心は惨めな気持ちでいっぱいでした。
 ほんの数日前まで、公女として寄宿舎の一番立派な部屋で、何不自由なく過ごしていた女の子が、いまや使用人見習いとして下働きの毎日です。しかも、きちんと仕事をすることもできず、お手洗いにも行かせてもらえません。
「んぁ……っ」
 床に落ちたお皿の破片を拾い上げようと、しゃがみ込んだサラの脚の付け根で、じんじんと激しい尿意が湧き起こります。
 それもそのはず、さっきからトイレに行きそびれているのですから、サラのおなかには朝からずっと我慢し続けているおしっこが並々と注がれ、溢れそうになっているのです。もうじっとしているのも辛いほどで、ボロボロの使用人服のスカートの下では細い脚がくねらせ、すり合わさせて、一時も静かにしていることはありませんでした。
 こんな状況では、とてもではありませんがてきぱきと仕事を片づけるなんてことは無理でしょう。
 洗い物の水は冷たく、手を触れただけで背中がすくみ上がってしまいそうです。そのたびにびくん、びくんと強烈な尿意の波が押し寄せてきて、そのたびに手を止め、身体を固くして込み上げてくる衝動に耐えます。
(ぁああっ……だめぇ……)
 ぞわあ、と足の付け根に押し寄せるおしっこの波を、前かがみになって堪えるサラ。それを見るや否や、すかさずイルマの叱責が飛びます。この意地悪な寮母は、サラに自分の仕事を残らず押し付けた上で、サラがなにか大きな失敗をやらかさないかと、傍でじっと見張っているのでした。
 それは決してやさしさからなどではなく、サラをいじめるもっといい口実を探してのことでした。
「ぁあっ……」
 そうしているうちにも、サラはとうとう我慢しきれなくなって、ぎゅっとエプロンドレスの上から脚の付け根を押さえ込んでしまいます。
 女の子としては決してしてはいけない、はしたない姿。けれどもうそうやってでもいなければ、サラはおしっこが我慢できませんでした。
「あ、あの、……お願い、イルマさんっ……わたし…、も、もう……お手洗いにっ……」
 もはや我慢の限界です。いまにもぱちんと弾けてしまいそうに、ぱんぱんに膨らんだおなかを抱え、サラは泣きそうになりながらイルマに訴えます。
 けれど、イルマは頑として首を縦に振りはしませんでした。それどころか、ますます声を荒げてサラを怒鳴りつけるのです。
「甘えたことを言うんじゃないよサラ!! 一人前に仕事もできないくせに、サボることばっかり覚えちまって!! いいかい、全部仕事を終わらせるまで、そんなことはしてる暇なんかないんだよ!!」
 そう。いまや使用人に落ちぶれた、公女様をいじめるのが、この捻くれて意地悪なイルマの何よりの楽しみなのでした。
 サラが惨めに苦しんでいるのを見て、イルマは内心にやにやと笑っているのです。
「サラ。お前がぐずぐずしてるから、どんどん用事が溜まってるんだよっ。それなのにその程度の仕事にいつまでかかってるんだい!! いいかい、全部終わらせるまでトイレにゃ行かせないからね!!」
「そ、そんなっ……」
 とうとう、イルマにトイレ禁止をいいつかってしまい、サラは悲痛な悲鳴を上げてしまいます。腰の揺すり方はますます大きくなり、もじもじとその場で足踏みすら始まってしまいました。
 けれど、哀れな顔をして俯くサラは、のろのろと洗いかけのお皿を拾い上げ、洗い物を再開します。
「それが終わったら教室の掃除だよ!! サボるんじゃないよ!!」
 その足元には、いつしかじわじわと漏れ出した熱い雫が、何本も伝い落ちているのでした。
「っ……」
 サラが涙をこらえるたび、まるでその代わりというように、じゅじゅっ、じゅぅう、とスカートの奥ではしたない音が響き、下着を大きな染みが広がっていきます。
 いつ終わるとも思えない、食器の片付けを続けながら、サラの足元には、いつしかぱしゃぱしゃと、みっともない音を響かせるオシッコが大きな水溜りを作り、寒い厨房にほかほかと湯気を立ち上らせているのでした。
 (初出:書き下ろし)
 

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