四月を迎えたある日の話

 4月に更新するつもりだった話。来年まで待つのもどうかと思うので。


 春。
 つい先日までは寒々しく枝ばかりだった表通りの桜並木も、今は美しく咲き誇り、舞い散る薄紅の花片の下、糊の効いた真新しい制服に身を包んだ生徒達は連れ立って駅へと歩いて行く。
 ちらほらと振り積む花片の中では、新学期を迎えた彼女たちの歩みも自然と緩み、朗らかな笑い声は訪れた新しい出会いの季節を彩るかのよう。穏やかな陽射しのなかでも、まだブロック塀の下隅を吹き抜ける風は幾分冷たく、ほんのわずか、まだそこには冬のカケラが残っているようにも思える。
 そんな季節の巡りを感じさせる風情を感じる暇もなく、私は一人、だだっぴろい自宅にて週の真ん中にとる羽目になった代休を持て余していた。
 前年度から続いていた休日出勤がようやく一段落となったことでようやく暇はできたものの、平日にどこかに出かける気力も残っておらず、だらだらと朝寝をして、1時間ほど前にようやく起き出して遅い朝食を取ったばかりだ。
 まもなく正午に差しかかろうかという時計の針を見上げ、手持ち無沙汰に、興味もないワイドショーのチャンネルを回していた時のことだった。
 不意に、来客を告げるインターホンが響く。
 普段は仕事で家を空けているはずの今日、賓客の予定などあるはずもない。訪問販売か宗教の勧誘かなにかかと、やや興を削がれた気分で立ち上がる。退屈がまぎれるのは結構な事だが、出来れば建設的なことであって欲しいものだった。
 姿身を確認して、ひとまず人前に出るにはそれほど問題のない格好であることを確かめ、玄関へと向かう。
 サンダルに足をつっかけて、一応警戒をしながらどこの誰だろうとドアミラーを覗くと、
「……………っ」
 そこにあったのは私の従前の予想を完璧に裏切る、真新しい紺色の制服に袖を通した、小さな少女の姿だった。
 どこか不安げに視線をさまよわせ、落ち着きなく身体を動かしながら。長めの袖からちょこんと伸びた指をインターホンに押し当てた姿勢のまま、頬を緊張に引きつらせ、切羽詰った表情で、少女はドア向こうに立っている。
 肩上で綺麗に切り揃えられた髪は、最近は珍しい深い黒。ドア向こうの少女は最近の少女達が当然のようにしている大人びた装飾品や化粧気などとは一線を隠した、おとなしめの容貌でありながら、十分に魅力的な顔立ちをしていた。
 無論、私にはまるで見覚えがない。
 いや、思わず見蕩れてしまうほどに保護欲をかき立てるその姿は、親戚にでもいれば自慢して回りたくなるくらいには魅力的であったが、残念ながら、その少女は私の面識のない相手であることは間違いなかった。
 糊の効いた真新しい紺色の制服と、胸元には白の一本線の緑のタイ。鞄も靴も汚れひとつなく、今日下ろしたばかりの新品であることが手に取るように分かる。
 襟元に、礼儀に煩い事で有名な近所にある進学校の校章のピンバッジを揺らし、まだサイズの合っていない靴のかかとを浮かせるように背伸びして、少女は再度、インターホンに指を伸ばす。
 チャイムが間の抜けた呼び出し音を響かせる中、少女は小さく『ぁ』の形に口を開き、鞄を握る手をそのままスカートの前に押し付けた。
 思わず、私は息を飲む。
 まさか、ドアミラーのすぐ奥で私がそれを見ているとは思っていないらしい。少女は耐えかねたように、身をよじり、気ぜわしく足を動かし始めていた。
 浮かんだかかとが交互に上下し、革靴が小刻みなステップを刻む。それに合わせて膝下のソックスに包まれたふくらはぎが内股に寄せられ、上半身は前に、腰は背後へと突き出される。
 誰がどう見ても明白な、トイレを我慢している仕草。
 大胆な我慢の様子は、いまにも清楚な少女が人前でするにはどうにも憚られるものであった。彼女もまさか私に見せつけるつもりはないのだろうが、目の前の特等席で披露されるその官能的な仕草に、私は目を離せなくなってしまっていた。
 我が家の玄関は、面した道路からも少し奥まった場所にある。ちょうど道行く人々の視線からも遮られ、公道の喧騒も遠い。そんな具合だからこそ、彼女もつい気が緩んでしまったのだろう。
 ドアミラー越しに覗く私の前で、少女はしきりにスカートの前を握りしめ、もじもじと腰を揺すり続ける。
「っ、……ふっ……ぁ、」
 くねくねと腰をよじり、必死に息を殺しながら、少女は鞄を持った手でスカートの前をきつく握り締める。その仕草にも恥じらいを覗かせ、顔を赤くするその様はなんとも美しく、艶めかしい。しばし私は身じろぎも忘れて、ドア前で繰り広げられる少女の我慢ダンスに見入っていた。
「…………」
 そうこうしているうち、応答のないことに焦れたのか、少女は再び困惑の視線を持ち上げ、三度インターホンに指を伸ばす。電子の呼び出し音が鳴り響くのに合わせ、少女はそのまま小さく拳を作り、とんとんとドアをノックし始めた。
「あ、あの、っ」
 少女の我慢はどうも限界に近いようだった。身悶えし、足を細かく踏み鳴らしながら掠れた声を飲み込む少女の表情には、余裕がほとんど残されていない。
「す、すみません、ど、どなたか、い、いらっしゃませんかっ」
 発生もおぼつかないか、緊張のせいか。呼びかける声も噛んでいる。確かに面識のない少女ではあったが、そのただならぬ様子は無視を決め込むには憚られるものだった。
 しばしの逡巡を挟み、私はとりあえず話だけでも聞こうと鍵に手をかけた。
 がちゃん、と閉じていたロックを上げると、ドアミラーの向こうで少女がびく! と身体を竦ませた。彼女にしてみれば不意打ちでいきなり鍵が空いたようなものだろう。少々意地悪な体面になってしまったことを心の中で詫びつつ、ドアを押し開ける。
 チェーン越しに見下ろす少女の姿は、ドアミラー越しに受けた印象よりもよほど幼く見えた。この紺色の制服を着ているということは近くの学校の生徒なのだろうが、袖から指先だけが覗くほどに大きな制服に着られてしまっているのが、余計に少女のあどけなを強調しているようだった。
 真新しい服に着られているぎこちなさも相まって、新入生なのだとしたら、つい最近まで下の学校に通っていたのだろうか。
「ぁ……あのっ」
 腰を大きく後ろに引いた、滑稽なほどの前傾姿勢。もう彼女はその体勢を崩すことも難しいのだろう。まるで羞恥にそのまま泣き出してしまうのではないかと思えるほどに、鼻先を赤く紅潮させて、少女はおずおずと切り出してきた。
 少女はそれでも精一杯、揺れ動く下半身を押さえ込もうと努力しているようだったが、寄せ合わされた脚は、ひとときも治まる様子がない。すでに余裕の微塵もない必死の形相で、ぎゅうっと脚の付け根に手を当てている。
「す、すみません、突然……、えっと、そのっ」
 忙しなく脚を交差させ、膝を重ね合わせての要求は、もう何を求めているのか言葉にせずとも明白すぎるくらいに明白だった。鞄の下、何も持っていないもう片方の手のひらは、遠慮なくスカートの前を掴み、ぎゅうっと下腹部を圧迫している。
「と……、ぉ、お手洗い、か、貸してクダサイ……っ」
 ともすれば聞き逃してしまいそうになるほどの、小さな声。
 最初のつっかかりは、『トイレ』という単語を口に仕掛け、慌てて言いなおしたのだろう。人前で排泄行為を口にすることを避けたい年頃ならではの、繊細な羞恥心の表れか、あるいは躾の良さを感じさせる態度だ。
「すみまセン、っ、い、いきなり、こんなお願いっ……で、でも、っ」
 言葉を切るように、ぷるぷると小さな身体が震える。
「ご、ごめんなサイっ、も、もう、その……が、がまん、できないんデス……っ」
 顔を真っ赤にしつつも、少女ははっきりと尿意の限界であることを口にした。
 少女がその張りつめた気を解くのに、私のラフな外見もいくらか良い方向に作用していたらしい。仮に私が異性であったり、普段の仕事着のような格好をしていたら、彼女は委縮してしまってとても、この『お願い』を口にすることはできなかっただろうから。
「お、お願い、しマス……っ」
 上目遣いで懇願する少女のまなじりは不意安定に揺れ、今にも泣き出してしまいそうな有様だ。まだ年端もいかない少女とは言え、見知らぬ相手を気安く家に上げてよいものか――私はしばし躊躇する。
 時間にしてほんの数秒といったところだろうが、彼女にとっては永遠にも長く、まるで審判を下される直前のようにすら感じられたことだろう。
「っ…………」
 少女の表情が不安と緊張に揺れる。身をかがめ、耐え難い尿意にじっとしている事もできず、掠れた語尾や背中を丸めたままの姿勢からも、彼女の我慢がもはや限界であることはありありと窺い知れる。
 わざわざ、面識のない他人の家でトイレを借りようとしていることからもそれは明らかだ。その事実が、彼女にはここのほかにもう縋る場所などないのだと――つまり、もう他のトイレを探している余裕など微塵も残されていないのだと、暗に語っていた。
 おそらく、様々な事情で用を足すことができず、トイレに入りそびれ、延々と我慢を強いられて――ついにどうにもならなくなって、他に縋る場所もなく駆け込むように私の家を訪ねて来たのだろう。
 そんな少女を無碍にする理由はない。そこまで考え、私は彼女にトイレの許可を与えることにする。
 それを聞いて彼女はぱぁっと顔を輝かせ、大きく頭を下げた。
「ぁ、ありがとうございマスっ……」
 心からの感謝、地獄で仏に会ったかのような喜びよう。やはり本当に切羽詰っていたのだろう。彼女くらいの年頃の少女なら、人一倍羞恥心も強いものだ。まったく知らない相手の家にトイレの使用許可を申し出るなど、よほどの事がない限りできないはずだった。
 感謝と謝罪を口にしながら、少女は、前傾姿勢のまま玄関に踏み入れる。ローファーのかかとを突っかからせながら、後ろ向きになって靴を脱ごうとし――
「ぁ、あっ、ま、待って、ダメっ……!!」
 小さく声を上げながら、びくりと硬直した。
 大きく開いた口から可愛い八重歯を覗かせて、視線を宙空に据えたまま、少女の両手はぎゅうっとスカートの上に押し当てられる。
 ソックスに包まれた脚がその場で激しくよじりあわされ、こちらに突き出された小さなお尻が左右に揺れる。
「ぁ、あっ、あっ」
 喘ぎにも似た甘い声。
 床を擦る靴音と、掠れて響く少女の吐息が、玄関に広がる。
 トイレの使用許可を得たことで、少女の身体のほうが先走ってしまったのだ。脚の上にあるダムの中、危険水域を遥かに超えて注ぎ込まれた乙女の恥水が、今にも堰をあふれ出しそうにヒビを広げている。
 がくがくと膝が揺れ、少女はそのままぺたん、と玄関のうえに尻餅をついてしまった。
「あッ……!!」
 一際音程の高い、かすれた声が上がる。
 咄嗟に動いた少女の手は、スカートの上から股間を床上に押し付けた。プリーツの裾から覗く太腿がぎゅっと寄せ合わされ、少女は玄関マットの上に小さなおしりをねじつけるようにして身を揺すり始めてしまう。
 幼さを残した表情が緊張に強張り、噛み締められた奥歯が小さく震える。
 まさに今、少女のダムは崩壊の危機に直面していた。思春期の少女がなりふり構わず脚の付け根を押さえ込むという光景を目の当たりにして、私は驚きと同時に、強い感動すら覚えていた。
 押し寄せる未曽有の危機にも決して諦めず、なおも耐え続けようとする健気な少女の気高さに、心打たれていたのである。
「は……っく……ぅ…っ」
 上半身がやや前傾になり、スカートを押さえる手に力が篭もる。真新しい制服に大きく皺が寄せられる。
 革靴の爪先が玄関の石畳を擦り、紺色の布地に包まれた腰は玄関マットの上で前後に揺すられ続ける。押し寄せる尿意の大波をなんとかやり過ごそうと、必死に我慢を続ける少女の戦いは、なお数十秒にわたって続く。
 きつく閉じられた目と共に鞄が床に落ち、スカートの裾が次第にめくれてゆくのにも気付かず、小さな手指は必死になって脚の付け根をさすり続けていた。
「っは、あっ……」
 やがて、どうにか危機を乗り切ったのか、少女は大きく息をついてわずかに身体の緊張を緩めた。乙女のダムがいまだ危機的状況にあり、予断を許さない中での小康状態ではあるようだが、ひとまず決壊の危険は遠のいたらしい。
 息を整えようと小さな唇がわずかな深呼吸を繰り返し、少女はようやく、自分が繰り広げていた恥態に気付いたようだった。
「あ……っ!」
 みるみるうちに、その顔が朱に染まる。
 見ず知らずの他人の家の、それも玄関で、はしたなくも股間を握り締めてトイレを我慢していた自分――しかも、ついさっきトイレを借りる許可を得たその直後に、である。
 我慢の限界である事をおのずから叫んでしまっているのに等しい行為だった。
 少女は大きくめくれていたスカートの裾を引き下ろし、ただちに鞄を拾い上げて靴を脱ぎにかかる。
「ごっ、ごめんなさいっ!! す、すぐに済ませマスからっ」
 しかし、羞恥と動揺の中では慣れない革靴を脱ぐにも思うように手足が動かないようだった。もどかしいばかりの手つきで紐をほどき、交互に足を動かす間にも何度も身体を竦ませる。ひっきりになしにぶり返す尿意の波が彼女を絶え間なく苦しめているのは明白だった。
 しかし、いくらなんでも酷過ぎる。これほどになるとは、いったいどれくらい我慢を続けているのだろう。今朝から――あるいは昨夜から? 可憐な少女の身体を占領する下品な恥水の量、温度、色合いに思いを馳せ、私はいつしか高鳴る胸を押さえられなかった。
 真新しいスカートの奥、ちらりと覗いた白くかわいらしい下着に包まれた柔らかな下腹部は、いまや石のように硬く張り詰め、乙女の水風船に溜まりに溜まった熱い奔流を溢れさせようとしているのだ。
 そんな危機的状況で、身動ぎしている少女の無防備な姿勢を、意地悪な尿意が見逃すはずもない。
 片方の靴を脱ぎ終えたところで、また少女の身体が硬直する。
「ふあぁっ」
 今度ははっきりと小さな悲鳴を上げ、少女は歯を食いしばった。
 靴紐を掴んでいた右手の代わりに、自由にな左手だけが、脚の付け根、大切なトコロをぎゅっと直接、押さえつける。
 スカートを細い太腿の間に挟み込み、華奢な少女の肢体、その身体の線が制服の上にまではっきりと露わになる。きつく股間に押し当てられた手のひらの上、引っ張られて身体に密着したスカート越しに、少女の我慢の証である乙女の水風船の膨らみ――ぷっくりとせり出すように、緩やかに弧を描く可愛らしい下腹部の様子が見て取れた。
「あ、あっあっ、っ!!」
 ほっそりとした肢体をも恥ずかしく歪ませるほどの、意地悪な乙女の恥水――なみなみと蓄えられた羞恥の現前は、先程よりもさらに切羽詰った、熱い呻き声と共にたぷん、たぷんと左右に揺れ動く。
 半脱ぎの靴を爪先に引っ掛けたまま、擦り合わされる脹脛が何度も緊張し、ぷるぷると震えていた。
「あぁ……っ」
 絞り出すようなかすかな悲鳴をあげ、少女は俯いた頬を震わせた。
 ぶるるっ……、ひときわ強い震えと共に、少女の細い腰がかくかくと前後に揺すられる。きつく前を押さえ込む手のひらに、身体の方からも脚の付け根を擦り付けるような、淫靡な動作だった。
 同時に、少女の白い肌が首筋までうす赤く染まってゆく。
「ぃや……だめぇ……っ」
 大きく首を振りながら、少女は熱に浮かされたうわごとのようにだめ、だめと拒絶の言葉をくりかえした。
 かすかに、鼻をかすめる少女特有の甘い香り。少女は太腿をなんどもすりすりと擦り合せて、『そこ』を持ち上げるような動作を繰り返す。
 少女の内腿を伝い、わずかにこぼれた水滴がぽた、ぽたっと玄関のタイルに散った。
「いや、ぁ……っ!!!」
 間違いない。少女は、とうとう我慢の限界を超えて、乙女の恥水を蓄えたダムの水門を緩ませ、下着に熱い雫をしゅるしゅると染み出させてしまったのだ。
 直接、その放水の瞬間を目にすることこそできなかったが、その様子はありありと想像できた。
 ま白い下着にじわぁと広がる羞恥の染みを想像し、私はなお高鳴る胸を鼓動が、少女に聞こえているのではないかと不安さえ抱く。美しく幼い少女――まさに思春期のただなかにある、今日制服に袖を通したばかりの最も可憐で繊細な年代の少女が、まさに目の前で繰り広げる『おもらし』の衝撃。これからの人生でもう一度巡り合えることなどまずないであろう幸運だった。
「ぁっ、あ……す、すみ、ま、っせんっ……」
 それでも、彼女は懸命に残る力を振り絞り、白い喉から言葉を絞り出した。
 足元に滲みだす羞恥の雫に屈し、その場に膝を折ってしゃがみ込みんでしまい――玄関を恥ずかしい噴水の迸りで濡らすようなことはせずに、ぶるぶると震える太腿をきつく閉じ合わせながら、ダムの崩壊を押しとどめる。
 その白い下着に、湿って暖かな薄黄色い染みを広げながらも、少女はなお諦めていなかったのだ。
 私が再度、トイレの場所を告げると、少女は俯いたまま、小さく首を縦に振った。
 うなじからのぞく耳はその先端までが朱に染まっている。晴れの門出の日に下着を濡らしてしまった『失敗』と、これから見ず知らずの家になりふり構わずにあがりこんでトイレを済ませることの恥ずかしさ――もはや少女の思考は恥辱で沸騰しているに違いなかった。
 どうにか玄関に靴を脱ぎ終えた少女は、そこでなお育ちの良さを知らせるかのように、苦労してその場に腰をかがめ、脱ぎ散らかした靴を揃えようとする。
 いまなお下着を濡らし続けているこの状態、一刻も早くトイレに駆け込んでしまいたいだろう。そんな余計な事をしている余裕などは露ほどもないだろうに、少女はこの上眉をしかめ、唇をかみしめて『ぁんっ……』と悩ましげな喘ぎを呑みこみながら、下腹部を庇うようにして革靴に手を伸ばした。
 が――私に背中を向けたことで、少女は無防備にも自分の『失敗』の証を晒してしまう結果となった。
 ぱんぱんに膨らんだ下腹部になるたけ刺激を与えないようにしているためか、少女の膝はほとんど曲がらず、前靴をしているような姿勢になる。
 無論、それは仕方のないことだ。いまにもはち切れそうな水風船を抱えたまま、しゃがんだりすればそれこそ、すぐさま乙女のダムの水門は水圧に負けて、すさまじい勢いの放水を始めてしまいかねない。少女としても妥協できるぎりぎりのところだったのだろうが、そんな姿勢で身をかがめるものだから、スカートの裾が大きく動き、膝裏が覗くほどにまでせり上がってしまう。
 すると、少女の内腿に、幾筋か伝い落ちる水滴の跡がはっきり見て取れた。
 少女の失敗の決定的な証拠、まさに『おもらし』の証を目の当たりにして、私の鼓動はさらに高鳴る。
 だが――自分がそんな姿をさらしているとはまだ気付いていないのだろう。はあはあと小さな唇を喘がせて、少女は苦労して再度向き直り、顔を真っ赤にしたまま大きくぺこりと頭を下げた。
「す、スミマせんっ……お、お手洗い、お借りしマス……っ」
 ああ、今――少女の足元を、濡れた染みを広げるスカートを指摘してやればどうなるだろう。どう控えめに評しても、少女の我慢は限界ぎりぎりの綱引きの只中だ。羞恥に少女のプライド、渾身の我慢、ありったけを載せてようやくつり合う天秤の反対側には、もはや耐えがたいほどの尿意がなお膨らみ続けているのだ。
 それを詳らかに言葉にして、抗う細い手を押さえつけ、あの無垢な耳元で囁いてやりたい。そんな衝動が強く、わたしの胸を打つ。
 嗜虐心と庇護欲がせめぎ合い、ついに私の口を突いて出たのは、
「大丈夫?」
 の一言だった。
 心から少女の身を案じる、親身な言葉――まあ、言葉の上辺、形だけをなぞればそう取れないこともないかもしれない。だがその意図は、当の少女にもはっきりと伝わるほどに明らかだった。どう見ても大丈夫ではない彼女に、敢えてそう訊ねる意図は、一つしかない。
 ――『オシッコ、そんなに我慢してるの?』
 ありありと羞恥をえぐる一言だ。
「っ…………」
 目に見えるほど激しく少女は動揺し、その場に硬直してしまった。顔をさらに俯かせ、赤くさせる。漫画であればぼんと頭から蒸気でも噴き上げていることだろう。きつく唇を噛み締め、小さく呻きを漏らし、内腿をぷるぷると震わせながら、ほんの少し、小さく、俯いたままの頭を上下させた。
 ついに。私は少女自身にそのことを、はっきりと言葉にして認めさせたのだ。
 その事実に、溢れる感動を噛み締めていると――再び信じられないタイミングで、少女がまた、激しく腰を揺すり始めた。尿意を認めたことで、さらに限界が近づいたらしい。もう隠す余裕もないのか、スカートの上から手のひらを挟みこむように股間を握り締め、あ、あ、と可憐な声をこぼす。
 少女はそうして恥も外聞もかなぐり捨て、襲い来る怒涛の尿意を少しでも和らげようとしている。
 私にトイレを借りる許可を取り付け、目的地まではほんの数メートル。
 もはや彼女を妨げるものなど何一つないというのに。彼女はいま、まさにこの場で、なおそれで激しく恥ずかしいほどの身悶えを繰り返さなければ耐えきれないほどの、猛烈な尿意を催しているのだ。
「ご、ごめんなさいっ!!」
 少女は私を押しのけるように前にふらふらと進むと、そのまま突きあたりの壁に手を突き、自身を苦しみから解放するためのドアへと、ゆっくりと進み始める。
 少女は身体を半分前に倒したお辞儀のような姿勢で、おしりを不格好に後ろに突き出した、まるでアヒルのような姿のよちよち歩き。既にソックスの半分近くが色を変え、不完全な少女の、湿った足跡が廊下に続いて行く。
「あ、あっあ、だめ、だめっ、……!!」
 しかし。わずか数十センチも進まぬうちに、切羽詰まって叫ぶ少女の声が廊下に響いた。
 びく、と大きく身体を硬直させ、蒼白になって、真新しいスカートの前を思い切り握りしめる。今日初めて身につけたのであろう制服は、すでに見るも無惨なばかりに皺くちゃだった。
「んぁあ……っ」
 顔を赤くしながら、左右の手で身体を前後から挟みこむようにして、はしたない場所を押さえ込む少女。
 そうしてまた、なんとか尿意の波を押さえ込もうと――或いは、乗り越えようとしたのだろう。しかし、限界を迎えている排泄衝動を押さえ込むのに、そうそういつまでも同じ手段が使える訳がない。
「っ、ぅ、あ、っ」
 爪先立ちになって、砕けそうになる腰を無理やり持ち上げ、ぐいいっ、と、スカートごとはしたなく掴んだ下着の股布を上に向けて引っ張り上げる。
 それでも前に進もうとしてた少女の足は、完全にその場に止まってしまった。
 湧き上がる尿意が内側から少女の身体を支配し、圧倒してしまったのだ。脚は歩くための機能を失い、ぎゅうっと閉じあわされてダムの決壊を押しとどめるためのものに。手は支えになる機能を失い、水門がこじ開けられないよう介添えするためのものに。
 さらにそれだけでは耐えきれないのか、少女はなんと小刻みに腰を上下させ始める。
 かくかくと腰を振る姿は、まるで盛りのついた犬のよう。清楚な外見にはあまりにもふさわしくない、羞恥極まる、下品なまでもの我慢の仕草――それは、少女の尿意がそれだけ切羽詰まった、途方もないものであることを知らせていた。
「は、っ、んぅ、あ、く、ぅうっ……」
 ギュッと目をつぶり、歯を食いしばって。
 だらしなくぷくりぷくりと膨らみそうになる、恥ずかしい乙女の水門を懸命に握りつぶす。
 だが、そうしている間にも紺色の制服、真新しいスカートの奥ではじゅ、じゅうと禁忌の水音が響き、少女の内腿にはつう、と水流がこぼれる。
 トイレまでの距離はあと4mと少し。
 既に少女の排泄は始まっていた。
「ぁ、あっ、あ!! だめ、だめぇえ!!」
 だらしなく緩み始めた乙女の水門が恥ずかしい音を響かせる。切なげな声を絞り出し、少女はついにその場にしゃがみ込んでしまった。もはや手の押さえ込みだけでは足りないと見えて、少女は立てたソックスのかかとに股間部分をぐりぐりとこすり付け、身体を揺する。
 スカートを挟みこむようにしてぐっぐっと体重をかけて股間をかかとに押し当て、少女はなんども首を振りながら、荒れ狂う尿意に必死に耐えようとする。不安定な股間を押し付けることで、荒れ狂う尿意をやり過ごそうとする最終手段。だが、地面にしゃがみ込んでのその体勢は、もっとも無防備に、排泄孔を地面に向けて晒すことにもなる。トイレ以外でするにはあまりにも無謀な姿だ。
「っ、あ……!!」
 少女の顔がみるみる羞恥に染まってゆく。立てたソックスのかかとの上に、こすりつけられる少女の股間――その紺色のスカートに、じわりじわりと染みが広がったのだ。トイレを目前にして、少女はまたも大きなおチビリを披露してしまったのである。
 はしたなく擦りつけられる足の付け根から、しゅるしゅると響く水音はもうはっきりと私の耳にも聞こえるほどで、たちまち少女のスカートは色濃く大きな染みを広げてゆく。
 ついに制服にまでオモラシの証を広げてしまい、さらにそれを見ていた私と視線が合ったことで、少女はとうとうパニックに陥った。
「っあ、あっあ、ち、ちが、違いマス、違うん、デス、これ、ぁっあ、ああっ」
 無理に立ち上がろうとして、持ち上げかけた腰から、じゅじゅぅっと熱い水流が噴きつけられる激しい音が響く。動転した彼女は、足をもつれさせ――そのまま大きく前方に倒れこんでしまった。
「んひゃぁッ!?」
 倒れこむように床に手をついた少女の濡れたソックスは床を滑り、足は左右に大きく割り開かれる。強く前に引っ張られていたスカートは、前傾姿勢を伴って腰上までめくれ上がった。
 うつ伏せになって腰を高く上げたような、恥ずかしい格好。曲がった膝の上、太腿の隙間に覗く下着の股布部分は、はっきりと恥ずかしい薄黄色に染まっていた
 転倒の衝撃に、一瞬、びくりと少女の身体が震える。
 同時、暴れ回る体内の尿意に振り回されるように、少女の下腹部が左右にくねった。
「う、うぁ、ぁっ」
 崩壊は一瞬にして始まった。
 恥ずかしいオモラシでたっぷりと水分を吸い、身体にぴったりと張り付くように足の付け根を覆う下着の、ちょうど股間の先端の部位。何度もきつく引っ張り上げられ、乙女の恥ずかしい孔にきゅっと食い込んで、細いたてすじの形や、羞恥の雫をにじませるはしたない水門の形すらを浮かび上がらせたその部位が、ぷくりと膨らむ。
 内側からの放水の圧力で、股布が盛り上がり、そこから激しい勢いの水流が床上に向けて迸った。
「いやぁあああ……ッッ!?」
 拒絶とも、悲鳴ともつかぬ少女の悲鳴。
 下着がみるみる色を濃く染め、その領域が膨らんでゆく。
 腰を小刻みに上下させ、懸命に閉じ込めようとするのをあざ笑うかのように、少女の下着を通り抜け、羞恥の噴水は激しく床へと叩きつけられてゆく。
「……ぁ、あぁ、ああっ……ッ」
 喉を震わせて、少女は身体の前から回した手で下着ごと股間を握りしめようとするが――少女の小さな手のひらに収まりきることなく、噴きだすオシッコが手のひらにぶつかり、激しく飛び散った。ぱくぱくと唇を開閉させ、小刻みに震える下半身から、なおも激しく噴水は続く。
 足元には見る間に、少女自身が作ってしまった黄色い水たまりが出来上がり、湯気を立てんばかりにして水面を揺らし、それが噴き出す羞恥の迸りを受けとめて、じゅじゅじゅと恥ずかしい音を響かせる。
 どれほどの間我慢を強いられていたのだろう。本当ならあと数メートル先のドアの奥、他者の視線を遮りひとりきりになれるトイレの個室の中で、きちんと正しい場所に排泄されるはずだったオシッコが、私の家の廊下に叩きつけられてゆく。
「はぁ、ぁ、あぅ……ぁ……ッ」
 下着に覆われていて直接は見えないと言っても、噴き出す恥水の水圧でわずかに膨らむ股布越しのオモラシは、はしたなくも黄色い濁流を噴き出させるいやらしい排水孔の存在をむしろ強調しているかのようだった。
 腿から膝裏にかけてを伝うように、大量の薄い黄色の熱水が噴き出し、廊下には見る間に大きな水たまりが広がってゆく中、少女は健気にもなお放水を堰き止めんとしていた。
 しかし本当の勢いで解放されてしまった乙女のダムを、いまさら塞ぐことなどできようはずもない。水門を閉ざそうと下腹部を震わせる少女だが、噴き出す水流は強弱を変え、断続的にぱしゃぱしゃと噴き出して水たまりを叩くばかり。
「ぁ……ぁ……いや、ぁ……っ」
 トイレを目の前にしての、オモラシ。折角ここまで我慢し、必死に羞恥を堪えて見ず知らずの他人の家のトイレを借りた、その矢先。苦痛から解放してくれる楽園のドアを目の前にして、ついに少女は尿意に屈してしまったのだ。
 はたしてどれほどの羞恥と屈辱であっただろう。
 見知らぬ家のトイレを借りるためにあがりこんで――あろうことかその家の廊下をオモラシで汚してしまう。たとえようもないほどの恥辱が少女を襲い、そして責め苛んでいた。
「ふぁ……っ」
 ぶるる、と小さく腰を震わせ、股布の合わせ目からまた、ぷしゅるると細い水流を迸らせた。
 下腹部に残っていたおしっこを噴出させ、床上に散らす少女は、足の付け根から迸らせる恥ずかしい熱水で、下半身をずぶ濡れにして――びしゃびしゃに濡らしたスカートを腰に張り付かせ、なおも足元に大きな水たまりを広げてゆく。
 排泄の解放感にぼんやりと視線を緩ませ、小さな唇を浅く開いて、荒い息を繰り返す――
 無防備で背徳感溢れる少女の姿に、私は目を反らすことなく、じっとその挙動の全てを目に焼き付けていた。
 (初出:書き下ろし)

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