社会見学バスの話・10 戸塚智代

 切羽詰まっているのは二人だけではない。
 戸塚智代もまた、シートの上で腰をよじり、押し寄せる尿意と戦っている一人だった。
 否、その危機的状況だけを切り取れば、彼女ほど追い詰められている少女は、バスの中にもほとんど居ないと言っていい。
(ん、んっ、ん……っ、あ、ま、また…っ)
 ぴきゅん、と脚の付け根にイケナイ感触。
 慌てて押さえようとした手のひらの内側で、じゅじゅっ、じゅうぅうとかすかな水音が響く。制服のスカートの下の大切な場所の、女の子の水門を押し破って噴き上がる雫が、濡れぼそった下着にじわあっと温かい感触を広げてゆく。
(ま、また出ちゃった……っ)
 さっき、これが最後と決めたばかりなのに。
 智代の身体は度重なるオモラシの誘惑に耐えられず、またもおチビりを繰り返してしまう。それは決して小規模なものではなく、既に下着を股布部分以上に大きくぐっしょりと湿らせてしまうほどの大失態だ。
 ぷくりと膨らむ排泄孔は、懸命の努力にも関わらず、ぷしゅっと飛沫を上げて恥ずかしい雫を噴き出し、漏らしたてのオシッコがじわりと足の付け根を広がり、太腿から膝裏を伝ってゆく。
 スカートにきつく挟み込んだ手のひらにも、制服の布地越しに、じわあっと暖かい湿り気が広がってゆく。はしたない水流を迸らせた排泄器官がきゅんきゅんと、排泄の解放感を訴え、じんじんと熱い痺れを下半身全体へと伝播させる。
(んぅ、はあぅ……)
 ぴきゅんっ、と跳ねるように少女の排泄器官が身悶えし、下腹部に収まりきらない羞恥の水風船が、まただらしなく出口を緩めてしまう。断続的に響き渡る黄色い稲妻が、恥骨から背骨を這い上がり、頭の中で炸裂した。
(だめ、もうだめ……だめなのにぃ……っ)
 じゅじゅぅ、じゅっ、じゅうううっ……
 必死に食い止めようとする努力もむなしく、羞恥に引きつった内腿を、再度の決壊が襲う。たった今たっぷりとオシッコを吸いこませた下着と座席シートに、さらに熱い水流が噴き出してゆく。
 排泄孔を括約筋を締め付け、内腿の筋肉を強張らせて、水門を塞ぐ――そんな事すらままならない。オシッコを我慢する、という命令系統は完全に蔑ろにされていた。
 限界を訴える下腹部の水風船の欲望は、そのまま智代の女の子の出口を直撃する。
「んぁあ……っ」
 じゅっ、じゅじゅじゅっ!!
 濡れぼそってぴたりと肌に張り付いた下着の股布部分が、噴き上がる恥水にわずかに膨らむ。既にその布地の保水力を超え、吸収しきれないオシッコは、智代の座る座席シートに、乗り出した足を伝って床上にと零れてゆく。
 おチビりの度にぴきゅんぴきゅんと疼く尿意はいよいよ激しく牙を剥き、本来の命令系統をまったく無視して、いい加減に諦めて女の子の水門を完全に開いてしまえと智代に命令してくるのだ。智代はもはや、荒れ狂う下半身を支配する尿意の奴隷といっても過言ではない。
(はあ、はあっ……あ、やだ、ま、またぁ……っ)
 たった今、少なくない量をチビらせた股間が、またも熱い雫を噴き上げる。
 スカートの上から揃えた両手を腿の間に挟み、前屈みになって身体を強張らせる智代の不審な姿は、周囲のクラスメイトからも注目を集めていた。
 智代はとてもトイレが近い。クラスの中でも背の順が前の方であることも含めて、十分に発育しているとはとても言えない排泄器官は、十分な貯水量の膀胱も、強烈な尿意に耐えて水門を閉じるだけの括約筋の力も持っていないのである。
 とりわけ、同年代の少女に比べてもその容量の小さな乙女のダムは、一晩の間オシッコを蓄えていることもできず、眠っている間に尿意を訴えることもよくあった。流石に学校を上がってからは、オネショはもうめったに(月に2回くらいしか)しないが、夜中に飛び起きてトイレに駆け込むことはほとんど毎夜のことだ。
 そんな智代が、トイレ無しでこの険しい道程を耐えきれるはずがない。
 利尿作用たっぷりの紅茶を飲まされた上、3時間もバスの中に閉じ込められている時点で、この致命的状況は確実だったのだ。ただでさえ貯水量の少ない智代の恥骨上のダムは、とっくに我慢の限界を迎えていて、これまでにも、大規模なもので4回、小さなものを含めれば20回近くも、パンツの中におしっこをチビっていた。
 それもはっきりと『漏らした』と数えられるのがそれだけというだけで、数滴ずつ出てしまった分まで含めれば数えきれないほどだ。
 既に下着は股布部分どころかおしりの方までびっしょりと濡れ、断続的に漏らし続けたオシッコは座席シートの深い部分まで染み込んでしまっている。
(と、トイレ……おトイレ……っ、おトイレ行きたいっ……!!)
 智代は、バスの中でも数少ない、公園出発前にトイレに行った少女の一人だった。もともと排泄には悩みを持っている少女だ。いくら使うことの躊躇われる不潔な汲み取り式の公衆トイレとはいえ、オシッコを済ませないままバスに乗るなんてことはありえなかったのである。
 清水先生の注意がなくとも、智代は出発を控えたバスからいち早く下りて自主的にトイレに並んでいた。他のクラスメイト達が、改めて汲み取り式トイレの汚さに驚き、躊躇い、ついには使うことを諦めてバスに戻ってゆく中、智代は恥ずかしさと不快感をを堪えて個室に駆け込んだのだ。
『……ねえ、本当にこんなトイレでするの?』
『あんなとこ使うくらいなら、我慢するよ……』
『うーん、我慢できないのは分かるけど、ちょっと、必死すぎって言うか……』
『なんか女の子として終わってる感じ、しちゃうよねえ。あはは』
 そんな雰囲気の中、智代は赤い顔を俯かせて汲み取り式の便器を跨ぎ、ポケットティッシュを握り締めて、おなかに溜まったオシッコを、しっかり、勢いよく、一滴残らず絞り出してきたはずだった。
 それなのに、智代の我慢は既に限界のカウントダウンを刻み続けているのである。
(あ、あっあ、あっ、だめ、またぁ……)
 じゅ、じゅじゅじゅぅ、っじゅうぅっ。
 またもはっきりと周囲に聞こえるほどの水音を響かせて、尿意に屈してしまう、だらしない下半身。じゅわあ、と新鮮な漏らしたてのオシッコが、スカートの間に押し付けた手のひらにまで染み込んでくる。
 だが、智代の排泄孔をなぶり続ける尿意は、収まるどころかむしろ激しいものに変わっていた。
 そう。いくらおチビりで少しずつ排泄を続けているとは言っても、智代の尿意が和らいでいる訳では決してない。見学の間に摂取した水分は智代の我慢できるトイレの限界を遥かに超えており、現状は容量の小さな排泄器官に収まりきらない分が溢れだしているだけである。
 むしろ、利尿作用にも敏感な智代の身体は乙女のダムに注ぎ込まれる恥ずかしい液体の量をいや増す一方であり、延々と我慢させられているのと全く同じことだった。
 きちんとしたトイレでちゃんとオシッコを済ませているわけではないのだ。30分近くをかけて続くオモラシは、少しずつ排泄を先延ばしにしているようなもので、おチビりを繰り返し、過敏になった排泄器官はわずかな刺激にも反応してオシッコを漏らしてしまう。水門の弱い場所を覚えたオシッコは、ちくちくとした尿意をますます激しく暴れさせ、執拗に智代の出口の敏感な部分を刺激する。
(ぁ、あ、ああっ、だめ、もう出ちゃだめ、なのっ……)
 出かける前にトイレに行ったのに、もう限界を訴え恥ずかしいおチビりを繰り返す自分の身体を呪いながら、智代は必死に歯を食いしばる。
 くねくねと擦り合わせる脚の間に、またもじわあっと温かい雫を噴き上げながら、智代は懸命に足の付け根を握り締め、ダムの本格的な決壊だけは回避しようと身を強張らせる。これもまた、他のクラスメイトには理解されないかもしれない、少女の孤独な戦いだった。

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