社会見学バスの話・12 清水蓉子その2

(あーんっ、もう、早く動いて……!! ……渋滞なんて聞いてないわよぉ!!)
 蓉子はもう何度目になるのか分からない、声にならない叫びを上げる。
 公園を出て高速道路に入った時点で、蓉子の膀胱に溜まったオシッコは危険水位を突破しており、既に尿意は我慢の限界と言ってもいいような状態だった。それから渋滞に巻き込まれてはや1時間半。もはや蓉子の下腹部のダム破裂寸前に近いほどまで、パンパンに張り詰めている。
 じんじんと断続的に襲いかかってくる尿意の波。いったい何度、形振り構わずギュウギュウとあそこを押さえてしまいそうになったことだろう。じっとしているのも辛いまま、蓉子はさっきから何度も席を立っては、落ち付きなくバスの通路をうろうろと歩きまわっていた。
「…ぅ、…んぁっ……」
 ずらりと並んだ車の列の中、思い出したように渋滞の列が数メートル進み、バスがのろのろとそれを追いかける。 まるでトイレを焦らされているような気分で、蓉子は座席の手すりを握り締めて、股間に力を込め、オシッコの出口の括約筋を締め付けた。タイトスカートのお尻がくねくねとよじられ、強張った表情が忙しなくバスの中を横切る。
(あぁーーんっ、いや、でちゃう、出ちゃうぅ!! と、トイレ、おしっこ……!! オシッコしたいぃ!! ああっ、もう、もうぅっ、い、意地悪しないでよぉお……!!)
 あまりにももどかしいバスの進みに、蓉子は胸中で何度も叫んでいた。
 脳裏をよぎる『オモラシ』の四文字が、蓉子を惑わす。今すぐここでオシッコを済ませられれば、それはどんなに気持ちのいいことだろう。耐えに耐え続けた尿意からの解放は、甘美な快感となって下半身を貫き、蓉子を天の頂まで押し上げるほどに満足させるに違いない。
 しかし仮にも聖職者であり、教え子たちとは違う、立派な大人の女性である自分が、生徒達の前で無様にオシッコを漏らしてしまうなんてことは、絶対にあってはならないことだ。
(はぁあ……ああんっ、もぉ……っ)
 顔を赤らめ、身をよじり、はあはあと悩ましげに息を荒げながら、蓉子はきつくスーツ姿の下腹部を撫でる。
 まるでタイヤのような手応えのそこを、今すぐにでもぐしゃぐしゃに押し揉んで握り締め、かくかくとはしたなく腰を上下させてしまいたくなるのを、理性の力で懸命に耐える。
 2-A担任である女教師の下腹部には、生徒たちよりも成熟した排泄器官が、朝からの我慢で濃縮された黄色い濁流でパンパンに張りつめて、限界寸前まで溜め込まれたおしっこはいまも沸騰しているかのようにぐらぐらと尿意を沸き立たせている。
 この上なく切羽詰まった状況だと言うのに、がぶ飲みしたショウガ紅茶の利尿作用も手伝って、オシッコはあとからあとから膀胱へと注ぎ込まれてくる。
 太腿はすりすりと擦り合わされ、背中にもじっとりと汗が浮かぶ。
(はあはあ……オシッコ、行かせてぇ……ぁあーーんっ、もうダメ、もう限界なのぉっ!! も、もっ、もう、漏っちゃうの!! おしっこ出ちゃうっ、が、っ、我慢、できないのよぉ……っ!! だ、から、はやく、はやくしてぇ……っ!!)
 睨むようにじっと運転席を見つめる蓉子。
 その思いを感じ取ったかのように、再びバスが動き始めた。
 今度はさっきよりも少し長く、車体が道路を進んでゆく。
「ぁあ……ッ」
 ゆっくりと進むバスに、蓉子は思わず口元をほころばせ、小さく歓喜の声を上げる。
 しかし、我慢終了までの距離がほんのわずか縮んだことに、蓉子の下半身は欲望に忠実に、だらしなく我慢を失くしかけていた、たちまち排泄孔を緩めそうになる下半身を咄嗟に足をクロスさせて腰を揺らしながらやり過ごし、担任教師は座席の手摺に体重を預ける。
「あぅ……、はあ、はあっ……」
 もうこの数時間、バスの中で蓉子はずっとそんな有様だった。
 だからこそ、蓉子は本来、担任として把握していなければならない生徒達の異常に気付くことができなかったのである。
 車内の生徒達のほとんどが、俯き、言葉も少なく、あるいは顔を赤くし、落ち着きなくそわそわと周りを見回し、腰を揺すり、脚をすり合わせ、蓉子と同じようにトイレを我慢していることを。
 いまやバスの中の乗員の多くが、自分と同じ窮地に追い込まれているのだなどとは、思いもせずに。
 蓉子はバスが少しでも前に進み、学校に辿り着くことだけを心待ちにしていた。
 葛藤に夢中の佳奈が知る由もないが、隣の祐美もまた同じく、切羽詰まった状態にあった。
 ――いや、バスの中の女子生徒達は多かれ少なかれ、同じ状況にあったのだ。
 思春期特有の高い羞恥心ゆえに、それを表に出すことはなく、28人の少女たちのほとんどが、それぞれ孤独な戦いを続けていた。
 ある少女は平然を装い、ある少女は俯いて、ある少女はこっそりと身をよじりながら、それぞれが下腹部をたぷんと揺らす恥ずかしい液体の水圧に屈しそうになる水門を閉じ合わせる。
 無垢な少女の排泄孔はぷくりと膨らみ、いまにも崩壊のカウントダウンを刻みながらも、バスはゆっくりと進んでゆく。

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