(ま、間に合あったけど…!! バ、バスも頑張って停めたのにっ!! ぁ、ああーんっ、いや、いやぁあ!! こ、これじゃ、わたし、オシッコできないじゃないっ……!! トイレ、おトイレぇ……おトイレ、どおすればいいのよぉ……んぁあっ、ぁ、あっあ、ああーーんっ、もうオシッコ出ちゃう、出ちゃうのぉぉ…っ!!)
バスと中央分離帯の間にできたわずかなスペースに、躊躇いながらも分け入り、可愛らしいお尻を並べて顔を赤くしながらしゃがみ込む生徒達。
そんな光景の前で、蓉子は内心で困惑の声を上げていた。
まさに天恵とも思えた佳奈の『先生、おしっこ!』発言。まさに渡りに船、地獄で仏、空からの蜘蛛の糸。千載一遇の大チャンスを大歓迎で迎えたはずが、ふたを開けてみればなんと10人近い生徒達がバスを停車させ、集団オシッコをするという大事になってしまったのだ。
まさかこんなに大勢の生徒が、もう我慢できないほどトイレを切望しているとは、蓉子は思ってもいなかったのである。
(あーんっ、ど、どうしよう……どうしよぉっ、こんなに大勢いるなんて聞いてないわよぉっ……!! あぁーーんっ!!)
もじもじクネクネと激しく身をよじりたくなるのを、オトナのプライドで懸命に堪え、右のかかとに体重を乗せてぐりぐりとアスファルトに押し付ける。スカートの下でぴったりと寄せ合わされた太腿は小刻みに擦り合わされ、何度も迸りかけた熱い奔流の先走りでしっとりと湿った下着を内腿に貼り付かせている。
一人二人なら、口止めをして誤魔化せる自信もあった。けれど、実に9人、クラスの3分の1の生徒がここにいるのだ。その前で自分も一緒にオシッコだなんて言い出せるほど自分は図太くない。この期に及んでなお、蓉子は自分自身の――否、クラス担任としての建前に固執していたのである。
(み、みんな、キモチ良さそうだわっ……ああっ、はぁああ、わたしもオシッコ、オシッコしたい……一緒に、ぷしゃああーってオシッコしたいぃ……!! ずるいぃい、ずるいわよぉ、みんな、どうして私だけ我慢しなきゃいけないのっ……んぁぁあっ)
蓉子の成熟した大人の肢体がぶるぶると揺すられる。少女達のつつましやかなそれとは違う、一揺れごとにたぷんたぷんと震える、スーツの記事を撓ませるほどに大きくせり出した下腹部。
オシッコの出口にぎゅうっと蓋をして、蓉子は焦燥にひり付く喉に唾を飲み込んだ。
ショウガ紅茶の利尿作用はなお激しく、猛烈な排泄衝動となって女教師の股間を襲う。
ふと気を緩めれば、じゅじゅぅっと下着にはしたない水音を響かせてしまうであろう下卑た欲望が、隙あらば取り繕うクラス担任から倫理の仮面を引き剥がそうとしていた。
(ああーーんっ!! あ、あっああっ駄目、出ちゃう、オシッコ!! オシッコ出ちゃうう……!!)
今すぐにストッキングと下着を足元まで引きずり下ろして、沸騰する尿意をアスファルトの上にぶちまけてしまいたい。許されない想像が蓉子を誘惑する。剥き出しのアスファルトが、まるでトイレと同じように彼女を招いているようだ。
(ぃ、いっそ、どさくさにまぎれて、わ、私もっ、一緒にしちゃえば……、そ、そうよ、非常事態だものっ、せ、先生だって、オンナノコなんだものっ……が、我慢できなくったって、しょうがないじゃないっ……!!)
頭をもたげるいけない欲求にあわせ、こぽこぽと尿意が湧き起こる。下腹部の底、オシッコの出口の内側をひっかくような強烈な刺激が、じんじんと恥骨を伝い背骨を這い上がる。
ぶるるっ、とスーツ姿の背中が震え、わなわなと握り締めた拳が揺れ動く。
(しょ、しょうが、ないっ、ないの、っ、……ない、けどっ……!! ないけどぉっ……!!)
意志に反してオシッコの準備を始めようとする下半身を、蓉子は辛うじて残った理性で無理やりねじ伏せた。鼻息も荒くきつく腕を組んで、仁王立ちになってオシッコの出口を締め付ける。
タイトなスカートの布地を膨らませるオシッコは、蓉子を聖職者と一人の女性の間で激しく揺さぶる。
(だ、駄目よ!! ダメ、絶対ダメ!! 私、せ、先生なんだから、生徒の前でそんなはしたないことっ……!! オトナなんだから、こんなところでオシッコなんて、絶対、ぜっっったい、だめ、そんなみっとこないこと、できないもんっ!! お、女の子なのに、お外でオシッコなんか……!! していいわけ、ないじゃないのぉっ……!!)
教師として、オトナとして、してはならない事だった。
あろうことか蓉子は、教え子たちが追い込まれた極限状況の中、勇気を振り絞っての決断を無惨に踏みにじってまで、ちっぽけな『オトナの女性』の虚栄に縋ったのである。
「だ、大丈夫よ、みんな。外からは見えないし、誰も見てないから、安心して!! ……ね?」
迫りくる尿意は刻一刻と限界に近づき、蓉子に決断を迫っている。それでもなお、『清水先生』としてクラス担任として。生徒の前で恥ずかしい格好はできないというプライドが、蓉子を衝き動かす。
「ほ、ほら、ぜんぜん平気よ。大丈夫!! ……誰も見てないわ! ここなら回りにも聞こえないし、先生も秘密にするから、ね?」
生徒達の前で、教師である自分がオシッコをしてしまうなんて――絶対に許されない。
「だ、大丈夫よ、みんな、気にしないでいいのよ? ね? ほら、もう、おトイレ、我慢しなくったってもいいんだから……!! 恥ずかしがらないで、ね?」
(だっ、だからぁ、みんな、早くオシッコ、済ませてよおぉお……っ!!!)
蓉子はスカートの下腹部をぎゅうっと押さえ付けながら、生徒達に声をかける。
クラス担任の仮面の下に、あまりにも傍若無人なオンナの欲望を潜ませながら。
社会見学バスの話・25 教師と女性の狭間で
