「ふぁ……ぅっ……ッ」
きゅんっ……と脚の付け根、股間の先端を走る強い刺激に、佳奈は身体を竦ませた。飲み込んだ吐息がぷくりと小鼻をふくらませ、きつく噛み締めた奥歯が震える。
スカートの上からきつく押さえた下着の奥、硬く張り詰めた下腹部を引っ張るような感覚と共に、背筋をじんじんとイケナイ刺激が這い上がる。緩み始めたオシッコの孔が、膨らみ切った膀胱の水圧に負けてじりじりと押し開けられてゆく。
(っ……ぁ……、で、ちゃ、う………ッ)
前屈みになった腰骨を刺激する、断続的で強烈な排泄衝動。もっとも原始的な本能のひとつ――先延ばしにしていた『おトイレ』の誘惑が佳奈に決断を迫っていた。
(あ、あっあ、だ、ダメ……)
許容量をはるかに超えて満水となった乙女のダムが、佳奈の下半身に水門を開けと緊急放水信号を発する。
がくがくと震える膝が、体重を支えきれなくなるように――少女はその場に膝を折り曲げる。
(っ、………しょ、しょうがない……よ、ね……もぅ、…もう、ガマン、できない、もんっ……)
半ば自棄になって覚悟を決め、佳奈はついにスカートの下へと手を差し入れた。緊張に震える指で下着を引き下ろしながら、脚を肩幅に広げ、その場に深く腰を下ろしてゆく。
少女の大切なところを覆う布地が、汗ばんだ湿り気にくるくると丸まりながら、膝上にひっかかる。
飛び散った飛沫で汚れてしまわないように、スカートを腰の上あたりに捲るように大きく引き絞って、恥ずかしいオシッコの出口をアスファルトの上へと向ける。
大きく持ち上げたスカートの裾では、後ろからもお尻が丸見えになってしまう、みっともない格好だが――トイレではない場所でオシッコを済ませるためには仕方のないことだった。
「…………っ」
「佳奈ちゃん……」
お互いの様子を窺い、顔を見合わせるばかりだった少女達も、皆の先陣を切ってオシッコの準備を始めた佳奈に追従し、バスの陰に衣擦れの音が響き始める。
「んんぅ……、っ」
「くうぅ……だ、ダメ、まだダメっ……」
「ぅあ……っ…」
呆けていたのを我に返り、弾かれたようにしゃがみ込む者。
万が一にも、油断してこれ以上下着や制服を濡らさぬよう、慎重に慎重に準備を始める者。下着を下ろしてしゃがみ込む、それだけの動作でも、少女達の様子は千差万別だった。下着を下ろす暇もなく股布部分を真横に引っ張ってずらし、オシッコを始めようとする双葉や、しゃがむというよりはお尻を後ろに突き出した、馬跳びの馬のような姿勢で静止している芽衣。同じ少女の身体のつくりであっても、その排泄姿は千差万別であった。
さながら9人の少女達の、排泄の見本市ともいえる光景。
普段は個室の中で消して他人に見せることのない姿であるからこそ、オシッコするときのポーズなんて、他人と比べることなどまず無い。それを彼女達は、皆の視線の中で披露しなければならないのである。
(っ……やだ、あんな格好……ッ)
(うそ……朱里ちゃん、あんなふうにおしっこするんだ……)
(ちょ、ちょっと、そんな風にしてたら、服、汚れちゃわないのっ……!?)
物心付いて以降まじまじと目にすることなどまずない、同年代の友人たちのトイレの方法――その姿に、声には出さずとも皆が驚きを見せるばかりだった。
バスと中央分離帯に隔たれた狭い物陰では視線を反らすこともできず、右を向いても左を向いても、自分と同じように下腹部を露わにしゃがみ込んでいるクラスメイトの姿しかない。自分と違う『オシッコの姿勢』を見せ付けられ、佳奈達の羞恥は暴発寸前だった。
しかも、普段のトイレなら意識もせずに出来る動作であっても、こんな場所では思うようにいかない。
(ち、違うもん、こうしてないと、汚いから……っ)
(が、我慢できないのよ、分かるでしょっ!? ぱんつ、下ろしてる余裕なんか……ないのっ)
(こ、これ、汗だからね……オモラシじゃないんだからね……!!)
懸命の我慢にも関わらずシミの広がってしまった下着の股布や、くしゃくしゃに握りしめられたスカートの色の変わった部分まで見られ、しかもそれらの内側の、乙女の場所すら外気に晒す。
しかも、今回は特別。いつもより大きく広げた脚や、制服をおヘソの上まで引っ張り上げる姿は、アスファルトに飛び散る飛沫からの被害を減らすための、普段のトイレとは違う『特別仕様』のオシッコポーズなのだ。
制服や靴をできるだけ汚さないようにするためには、出来るだけ隠さなければならないオシッコの姿を、出来るだけ上手に済ませるためには大きく露わにしなければならないという矛盾である。
露出した下半身に初夏の熱気を孕んだ風が触れるたび、少女達の羞恥はなお増幅されてゆく。
「……………………っ」
さらに、まだ問題がある。オシッコをする『向き』だ。
つまり、どちらに向けてオシッコを噴射させるか、ということだった。仮設臨時屋外トイレの幅は狭く、二人が並ぶ余裕などない。9人の少女達は一列に並んでオシッコをしなければならなかった。畢竟、少女達はバスの方を向くか、中央分離帯の方を向くかを選ばなければならない。
これは単純に身体の向きを示すだけのものではない。
トイレではない野外排泄のコツのひとつして、足元に飛び散った激しい水流の被害を減らすためには、できるだけオシッコを身体の下から外側へ噴出させることが望ましい。けれどオシッコの出方には当然のように個人差があり、普通にしゃがんだだけでも前に勢いよく飛ぶ少女もいれば、ほぼ真下に向けてオシッコが噴き出す少女もいる。少女達は自分のオシッコの体制や排泄孔の位置を鑑みて、うまくオシッコを出す向きを決めなければならなかった。
バスの車体に向かうようにすれば、道路の渋滞のほうに向かっておしっこをすることになる。バスの車体の側からの視線は遮られているとはいえ、勢い良く噴き出した水流が予想以上に強く、バスに迸るオシッコを引っかけてしまう可能性は否定できなかった。
一方、中央分離帯に向かう場合は、車道に対して丸出しのお尻を向けることになる。これなら周りからの視線はある程度遮ることができるものの、その一方で、周りが見えなくなってしまうという不安感は増倍する。どちらを取っても一長一短、正解のない選択だった。
結果、佳奈を含めた5人が中央分離帯にお尻を向け、亜沙子ともう一人がバスの方にお尻を向け、残る2人は結局決めかねて、中途半端な斜め向きでしゃがみ込むことになった。
いよいよオシッコの噴射の準備を整え、高速道路の路肩に激しく水流が地面を叩く音が響く――
と、いう訳ではなかった。
「ぁ……ふ……ッ」
勿論限界に近い尿意は確かだが、羞恥を強調され緊張してしまった下腹部では、すぐに排水を始めることはできないのだ。恥ずかしさを乗り越えて下着を下ろしてしゃがみ込み、強張った尿道の緊張を解いて――普段はほとんど無意識のうちに出来ているはずの『オシッコの準備』を、はっきり意識しながらしなければならない。
路肩で裸の下半身を――それも、女の子のいちばん大切な場所をむき出しにしているのだ。およそ、思春期の少女にとってこれ以上の恥ずかしい姿があるだろうか?
沸騰しそうな理性と遠のきそうな意識を懸命に支え、9人の少女達は、不安と恥辱に押しつぶされそうになりながら、バスと中央分離帯の茂みに挟まれた狭い空間の中に一斉に身を寄せ合う。
空の見えるバスの陰。でそんな事をするのだから、よりはっきりと自分がこれから恥ずかしいことをするのだという意識は強くなり、緊張はますますオシッコの出口を強張らせてしまう。
けれど、もう我慢は限界なのだ。9人の少女達の下腹部には、ぐらぐらと湧きたつ尿意がいまにも噴きこぼれそうに沸騰している。
「んぅ……ッ」
じん、と強く響く尿意が、佳奈の出口をぷくりと膨らませる。短い放水孔に一気に注水され、しゅっ、と布で肌を擦るような音ば響く。お尻の骨にぴりっと甘い刺激が響き、身体の一番底でプールの栓が抜けたような感覚があった。
(お、オシッコ……しちゃうんだ……っ)
熱い刺激がジンと脚の付け根を走り、熱い雫がじゅうっ、と音を立て始める。
――その時だ。
「………あれっ、……?」
一瞬、目の前の光景が揺れ、佳奈は自分がめまいを起こしたのかと錯覚した。
しかしそれは考え違いだった。バスの白い車体が、ぐらりと揺れ、ペイントされた観光会社のロゴ文字が右に揺れる。
「え……」
道路に激しく鳴り響くクラクションと同時に、目の前に停まっているはずのバスが動き出していたのだ。
社会見学バスの話・26 2年A組女子9人、準備完了
