一方、バスの中でも悲劇は続いていた。
ついに高速道路の路肩での野ションは容認できずに、トイレを言い出せなかった生徒達の数名が、いまや我慢の限界を迎えようとしていた。
今から追いかけてゆく余裕すらないままに、モジモジと身体をよじり、大事なところを握り締める。
綿貫美緒の困惑はいよいよ絶頂に達しつつあった。
和泉先生から荷物の点検を頼まれ、つい出発前のトイレに行きそびれてしまった美緒の下腹部は、誰にも負けないほどに恥ずかしいオシッコでぱんぱんに膨らんでいる。
バスの中で尿意を催した子たちよりもずっと早く、バスが出発するころにはもうトイレに行きたかったのだ。
それでも、学校に着くまでと我慢した。
バスが渋滞に巻き込まれ、高速道路を毎分10mで動くような非常事態になっても、みっともないところを見せないように、小刻みに震える膝を隠して普段通りに振舞った。前押さえなどはせず、軽く前屈みになって足を閉じる程度の仕草しか見せなかった。
ほとんどのクラスメイトが、ガマンに腰を揺らせながら、美緒のことを羨ましがってすらいたのだ。
先生が、限界を訴えるクラスメイトを連れてバスを降りた時も、美緒は手をあげなかった。尿意はもう一刻の猶予もないレベルまで達していたが、バスの陰でオシッコなんて、厳しく躾けられて育った美緒にはとても許容できないことだったのだ。
女の子なんだから。恥ずかしいことはしちゃいけない。
オシッコはきちんとトイレで、誰にも気づかれないように済ませるもの。
「…………」
誰もかれもが自分のことで精一杯のバスの中には、流石に口数が減っている美緒を不審に思うクラスメイトはほとんどいなかった。
だが――そんな健気な我慢も、強烈を通り越して暴虐に暴れまわる尿意の前にいよいよ潰えようとしていた。
「あ……っ」
美緒は抱えていた350mlペットボトルを落とした振りをして、身体をかがめ、手のひらでぎゅっとオシッコのでるところを塞ぐ。いつ決壊してもおかしくない女の子の出口は、スカートの下で飾り気のない下着に包まれてひくひくと震えている。
(ま、まだ、動かないの…?)
外にトイレを済ませに行ったクラスメイト達のため、バスは路肩に停まっている。渋滞の中でならたとえわずかなりとも前に進み、少しでもトイレに近づいているという期待があった。しかし、停車中の今の時間はただただ無為に流れるだけ。トイレに行けるまでの距離が遠のいているのに等しい。
それが美緒には溜まらなく辛いことだった。
(お、お手洗い……したい……っ)
じんじんと、締め付けられ続けた括約筋が熱を持って悲鳴を上げている。すっかり伸び切ってはちきれんばかりに膨らんだ羞恥の水風船は、鈍い痛みすら伴って放水を叫ぶ。
ぎゅうっと身をよじり、スカートの位置を直すふりをして腰を持ち上げた時だ。
じゅっ……
不意打ちだった。前触れもなく、オシッコの出口に電流のような刺激がほとばしる。
あっと思う間もなくじわあっと足の付け根に熱いものが広がってゆく。
我慢し続けたオシッコが、下着の股布を湿らせ、大きな染みを広げていた。
「ぃ、いや……ぁっ」
辛うじて、悲鳴を喉の奥に押し込んで、美緒は矢も盾もたまらずに足の付け根を押さえこんでしまう。
ぎしぎし、少女の全身を使った我慢に、座席シートがギシギシと揺れる。
それでもなお、熱い湿り気は断続的に迸り、美緒の下着の股間部分の染みはじわじわと広がってゆくばかりだ。
じゅっ、じゅわ、ぷしゅぅっ……
強く圧迫された尿道から噴き出す熱い雫は、それに比例して水圧を高め、下着の上からでもぴゅうっと水流のように内腿を濡らす。
最終防衛ラインは陥落寸前。全身全霊の我慢をもってしても、もはや決壊は避けられない。
(どうしよう……もう出ちゃう、間に合わない……!!)
どれだけ控えめに見ても、いますぐバスが動き出して、渋滞が全部なくなって、途中で信号も全部青で、時速100kmを超えるノンストップでバスが学校まで突っ走ったとしても。
いや、今からバスが空を飛んで学校に着陸したとしても。そこからトイレに行くまでに間違いなく漏らしてしまう。それがはっきりとわかり、美緒はパニックに陥っていた。
「っあ……っ」
じゅぁっ、じゅっ、
追い打ちをかけるように滲みだす水流に、恥骨あたりにじんと広がる、とてつもなく心地よい開放感の予兆。このまま股間の緊張を全部解き放って、思い切りオシッコができればどれほど気持ちいだろうか。
「も、もう駄目……っ」
限界だった。
何度も何度も考えては打ち消し、否定していた行為。
美緒は、もう1時間も前から頭の隅にひっかかっていたその恥ずかしい行為を、ついに実行に移すことにした。隣の席の朱里がバスの外にいる今がチャンスなのだ。
ペットボトルの中にまだ半分ほど残っていた、生ぬるいお茶を一気に飲み干す。
新鮮な水分が一気に体内に供給されることに、もう限界の膀胱が敏感に反応し、激しい尿意となって出口に殺到する。
「んんんんぅぅ……っ」
美緒はバタバタを足をふみならし、じゅうっとはしたない音を響かせる股間を押さえこむ。
尿意の限界を訴える体で新しい水分を摂取するなんて、ただの自殺行為に等しいが――美緒は目に涙を浮かべ、なんとかお茶を飲みきった。
美緒は素早く慎重にあたりを見回し、みんなの視線がないことを確認すると、スカートの下に手を差し入れ濡れた下着を膝まで引き下ろす。同時に腰をシートから前に突き出し、漏らしたオシッコに濡れた下腹部がひんやりと外気に触れる。
ひくひくと震えているおしっこの出口。
小さなペットボトルの飲み口を、そこに押し付けた。
「っ…………!!」
しゅうぅううぃいいいいーーーーっっ!!
美緒が準備を整えると同時に、黄色い水流が一気に噴き出し、細い飲み口の中へとほとばしる。我慢し続けたオシッコは色も濃く、ペットボトルの底にぶつかってたちまちじょぼぼぼじょぼぼぼっと激しい泡を立て、みるみる水面を上げてゆく。
しかし堰を切って噴き出す猛烈な水流が、小さな飲み口に全部収まるはずもない。飛沫を上げてほとばしる水流は丸く小さな飲み口を溢れてぽたぽたとこぼれ出し、美緒の白いソックスや下着にまで飛び散ってゆく。
「いやぁあ…っ」
身をよじってそれを押さえこもうとした美緒だが、もはや放水の始まったダムは後戻りがきかない。
膨らみきった膀胱はその反動で猛烈な収縮を繰り返し、ペットボトルの中にあきれるほどの勢いで搾りたての乙女のホットレモンティーを注ぎ込んでゆく。
あっというまに、ペットボトルはいっぱいになってしまっていた。
もともと350ml程度の容量で、健康的な少女が4時間も我慢し続けたオシッコ全部が入りきるわけがないのだ。まして美緒の我慢はその倍以上にも及び、普段からの訓練によって乙女のダムの貯水量も標準的な少女達のものに比べれば段違いである。
わずか容量350mlの臨時携帯トイレでは、とても間に合うはずもなかった。
オシッコを半分も出しきらないうちに、ペットボトルは満水になってしまったのだ。
美緒は慌ててオシッコを止めようとするが、いよいよ本当の勢いで出始めたオシッコがそんなにあっさりと止まるはずもない。満水になったペットボトルから溢れだそうとするオシッコを、美緒は反射的に手のひらで押さえこんでしまう。
「くぁうぅう……っ」
ぶるぶると腰が震え、思い切り握りしめた指先が白くなる。
それでもじゅじゅぅ、じゅうじゅぅうぅぅっ、と断続的な放水音が、少女の手のひらを直接たたく音ははっきりと聞こえた。右手に黄色い熱水をいっぱいまで注ぎ込んだペットボトルを握り締め、左手でそれと同じくらいパンパンに膨らんだ下腹部のティーポットを握り締め、美緒は必死に息をつめ、出そうになるおしっこを押さえこみ続けていた。
社会見学バスの話・29 綿貫美緒
