社会見学バスの話・50 開かれた密室の扉

 市民公園を出発してから延べ4時間半。高速道路の路肩での『休憩』から1時間余りを経て、社会見学バスの扉が開かれた。
 2年A組28+1人を乗せていた動く密室はサービスエリアの駐車場にの一角に停車して、その出口を開け放ったのだ。それはまさに、少女達の恥ずかしいオシッコをぱんぱんに詰め込んだ密室の水門が開け放たれたに等しかった。
 途端に、それまで聞こえるものと言えば精々が呻き声や荒い吐息、うわごとの様なつぶやきがせいぜいだった車内に、激しいざわめきが湧き起こる。
「んぁ…っ着いた、オシッコ、おしっこできるよぉ……♪」
「も、もぉガマン、我慢できないっ……オシッコ……トイレぇ!!」
「は、はやく、はやくはやくはやくぅう!!」
 もはや待ち切れない生徒達が一気に席を立ち、バス前方の乗降口へと殺到しはじめた。だんだんと強く床を踏み鳴らす足踏みが地鳴りのように響き、両手を股間に当てがい激しく腰を揺り動かすもじもじクネクネ我慢ダンスがバスの床を軋ませる。
 焦らしに焦らされ、耐えに耐え続けた激烈な尿意――それを解消できる場所、『トイレ』。サービスエリアでのトイレ休憩はまさにその待望の瞬間の到来を告げるものであり、バスが停車しドアが開くということは、2年A組の生徒達にとって『もうオシッコしてもいい』という合図とほぼ同じものであったのだ。これまで辛うじてオシッコ我慢の外面を繕ってきた少女達も、待望のトイレを目の前にして恥ずかしい欲望を露わにしてしまったのである。
「み、みなさんっ、いっ、いいですか!? んぁ、っはぁ……い、いまからっ、と、とととっ、んぁあ……トイっ、おトイレ休憩にしますっ!!」
 そんな『清水先生』の注意などまるで聞こえていない。車内の少女達は、みな同じように、女の子の出口からの解放を求める猛烈な尿意の限界を迎えていたのだ。2年A組の少女達は震える膝、ふらつく足を引きずって、決死の形相で乗降口に押し寄せる。
 ただでざえ狭いバスの通路に、車内の生徒の大半、20人以上にも及ぶ生徒が詰めかけたのだからその混雑は尋常なものではなかった。
「ちょっと……静かに、落ち着いて!! 押さないで、気をつけて降りてください!!」
 見かねた運転手が声をかけるが、そんな注意は乗降口に押し寄せた生徒達の喧騒にかき消されてしまう。バスの前方にはたちまち十人以上の生徒が押し合う混雑が発生し、我先にとバスを飛び出そうと混乱が起きていた。2年A組の少女達は、ほぼ全員が例外なく一刻の猶予もないくらいの猛烈な尿意を我慢していた。制服のスカートをくしゃくしゃにして股間を握り締め、激しい足踏みを繰り返し、他の生徒を押しのけてでも外に飛び出そうとしている。
「ちょっと、どいて!! 邪魔しないで!!」
「伊織ちゃん、ごめんっ!!」
 乗降口にへたりこんでいた伊織は、オモラシの始末もできずに両手を掴まれ、まるで政府の工作員に捕まった宇宙人みたいな格好で、びしゃびしゃのスカートを隠すこともできずに駐車場へと押し出されてしまった。
 いくら狭い乗降口とはいえ、20人そこそこの混雑だ。きちんと順番を守ればものの数秒で降車できる筈なのだが、それぞれが身体を揺すり、一秒もじっとしていないまま激しく脚を踏みならしているため、それも難しい。
「んぅう……はっ、はやく、早く降ろしてよぉ!!」
「で、ちゃう、でちゃうでちゃっぅ……っ」
「なにしてるの……!? は、はやく降りてよお!! 後ろにもまだいっぱい、人居るんだから……!!」
 我先にと細い通路に殺到し、狭い出口に詰めかけ、他の生徒を押しのけんと押し合う状況では、スムースな秩序など生まれようはずもなかった。
 ――そして。
「んぁあああああっ……オシッコ、オシッコオシッコ、オシッコでるう!! トイレトイレトイレ!! 出るでるでちゃうう、皆どいてぇ!! 先っ、私が先よお!! せ、っ、先生もう駄目なの、も、もうっ、もうもうおトイレ我慢できないのぉぉぉお!!」
 本来ならばそんな生徒達を誘導し、叱責する役目を負うべき指導者――クラス担任の蓉子は、バスの停車と共に貞淑な女教師の仮面を脱ぎ棄て、生徒すら押しのけてバスを飛び出そうとしていた。
 そこにはクラス担任の『清水先生』のあるべき姿はどこにもない。恥も外聞のない格好でガニ股でタイトスカートの股間を握り締め、激しく地団太を踏みならし、一人の女となった女教師は、あろうことか生徒達を押しのけていち早くバスを飛び出そうとしていた。
「じゃ、邪魔しないでっ、出ちゃうの、出ちゃうのお!! せっ、先生、みんなよりずっとずっと我慢してるのよぉ……!! んあ、っ、はぁ、っ、……ぉ、お願い、ね、通して、先に降ろしてぇ!! わ、わたし、んっ……はあはあ……み、皆と違って大人なんだから、お、オモラシなんか、っ、くぅう……ぜ、絶対に、できないのよぉぉ!! はやく、はやくぅう!! 先に、先にトイレ行かせてよぉ……!!」
 教え子たちを押しのけ、あろうことか蔑ろにしてさえ自分の欲望を優先する、あまりにもはしたない要求だった。大人だから――と体面を気にするその台詞は、翻せば生徒達を犠牲にしても構わないという言い分である。クラス担任の思わぬ変貌は、車内の混乱にますます拍車をかけ、ただでさえ余裕のない少女達のトイレ我慢の限界を覚らせてしまったのだ。
「んぁあああああぅっくぅうううんんはぁああ!? どいて、どいてどきなさぃ、っ、トイレ、トイレェええええ!!! でるっ、でるぅ、でるでる漏っちゃう漏っちゃうう!! もるぅう!! トイレオシッコ、オシッコでるのぉお!! とっ、トイレぇえええええええ!!」
 今日一番の『大波』が蓉子を襲う。
 叩きつけられる『オンナ』の欲望。呆れるほどお代わりしたデトックス効果満載の、ショウガ紅茶。それらがもたらした1リットル半ものオシッコが『清水先生』の仮面を粉砕する。
 もはや蓉子に聖職者としてのプライドなど残されていなかった。はしたない絶叫と共に鬼の形相になって破裂しそうな股間を思い切り握り締め、乗降口に押し合う教え子たちを突き飛ばす。クラス担任の責務を完全放棄し、蓉子はバスを飛び降りた。ガニ股になって走るその姿は、みるみる小さくなってゆく。

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