社会見学バスの話・70 トイレ我慢巡礼路

 解放されたバスの扉から、多くの女子生徒がパーキングエリアのトイレに向かって進んでいた。
 脚の付け根を押さえ、太腿をすりすりと擦り合わせ、お尻を突き出してくねくねと揺すり、前かがみのつま先立ち。走るなんてもってのほか、これ以上スカートの奥に被害を広げないよう、慎重に慎重を期した擦り足が精々の、走っているなんてとても言えないのろのろ歩き。
 それでも彼女達にとっては激しいオシッコ我慢を続けながらの『全速力』である。公衆トイレまでの最短距離300mはあまりにも遠く、果ての無い道のりだった。
 わずかな段差をまたぐだけで下着を押さえた指の間からぷしゅるると雫が噴き出し、白い腿を伝いふくらはぎを流れ落ちる。アスファルトの舗装を小さく躓くつま先が、じゅじゅと濡れた足跡を引きずる。
 急激な尿意の波によって舗装の上で立ち止まってしまった少女が、新しくサービスエリアに入ってきたクラクションに急かされ、突きだしたスカートのお尻から、押さえた下着越しに激しくぱしゃぱしゃと水流を噴き出させてしまう。
 そこかしこで我慢の限界を迎えた2年A組の生徒たちがしゃがみ込み、立ち止まり、我慢の限界に漏らしチビったオシッコで駐車場を濡らして中九。
 それを指差し、あるいは蔑むような視線を向けて、多くの人々が囁きかわす。
 彼等は少女たちの姿を見ては、憐憫や同情の、あるいは軽蔑や嫌悪の――そしてなによりも、滅多に見られない奇異な光景への好奇心と興味に満ちた視線を寄せていた。
「あのお姉ちゃんたち、オモラシしてるよ!!」
「やだ、間に合わなかったの……? ……可哀想……」
「ちょっと、あの子もよ? ねえ、ほら、あの制服……同じ学校なんじゃない?」
「ほら、○○学院の……結構いいところの学校じゃない。みんなオモラシしちゃってるの? やあねえ……」
 人ごみの中には、事情の良く解らない他の乗客に、経緯を説明している観光客の姿まである。途方もない時間の限界我慢を強いられたうえで、さらに無慈悲にも恥辱を烙印を押されるようなものだ。
 オモラシ、オシッコ、トイレ。みっともない、恥ずかしい、我慢できないの? 容赦ない単語の羅列に少女たちの繊細な羞恥心は無惨に切り刻まれていった。
 悲壮な表情は辛い我慢の汗に湿り、涙に濡れ、食いしばった歯が羞恥に震える。
 並ぶ2年A組の生徒達は、みな同じ制服姿である。ソックスやタイツを変えたり、ジャケットの代わりにブラウスの上にベストを着ている生徒もいるが、その大半は同じ学校の、同じ学年の生徒であることは一目瞭然だろう。
 その彼女達が一人の例外もなく、はっきりと『オシッコを我慢してます!』と宣言しているに等しい姿で、サービスエリアの端の駐車場から、公衆トイレへの道のりを、苦悶と喘ぎに表情を歪めながら、ゆっくりと進んでゆく。
 脚をきつく交差させて、擦り足のその歩みはもどかしいくらいに遅く、そこかしこで立ち止まっては激しいおチビリを恥ずかしい下腹部の中心から噴き出させ、じゅじゅうと下着から勢いよく黄色いオシッコを染み出させては地面に水たまりを作ってゆく。
 アスファルトに点々と並ぶ水たまりは、恥ずかしいオシッコ巡礼路の案内図のようなものだった。
 一度しゃがみ込んでしまい、激しいおチビりをほとばしらせて地面に大きな水たまりを広げては、それでもなんとか心を取り戻してまた歩き出す。そんな少女も多くいた。
 公衆トイレまでの300mは、バスからトイレに向かう最短コース。必然的に生徒たちは皆そこをなぞるように歩くしかない、少女たちのトイレ我慢巡礼路だ。
 先を行くクラスメイトが地面に噴きこぼしたオシッコの痕跡は、その後を通る少女達に、その色に、匂いに、『ここがオシッコをしてもいい場所ですよ』と囁いているかのよう。むろんそんな事実はないのだが、限界寸前まで溢れそうになっている乙女のダムは、誤認のままに放水命令を連発し、股間の水門を解放せよと叫ぶのだ。
 2年A組の恥ずかしいオシッコ我慢巡礼路を示すいくつもの水溜りをさかのぼれば、それは駐車場の端に止められたバスへと繋がっている。
 バスの前には、思いつめた悲壮な表情で、あるいは羞恥と屈辱に顔を歪め、しゃがみ込み、動けなくなったままぱちゃぱちゃと足下に恥ずかしい水流をほとばしらせる少女達の姿があった。バスを降りたはいいものの、もうそれ以上動けなかった生徒たちは、深く身体を曲げたりしゃがみ込んで動けなくなったまま、乙女の恥ずかしい水流で地面を濡らしている。中にはとうとう開き直ったか、恥を忍んで下着を下ろし、バスの前で勢いよくオシッコを始めてしまう少女もいた。
 社会見学バスを思う様マーキングし、勢いよく流れおちる少女たちのオシッコ。
 この貸切バスが、たったいまおなかの中をオシッコでぱんぱんにした2年A組の女生徒28人を満載にしてサービスエリアに到着したばかりだということまで、白昼の元に晒していた。

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