「っ、は、ぁ、あっあ、っ」
途切れ途切れの声が、荒い吐息に混じって空気を揺らす。
(も、もぅ、ちょっとっ、だけ、出ない、でっ……っぁ、あっ!!)
いつ自分の番が回ってくるとも知れぬ、サービスエリア公衆トイレの順番待ち。恥ずかしくスカートを汚した制服姿の少女達――2年A組の生徒達が、そこらじゅうでオモラシの水音を響かせ、アスファルトに大きなオシッコの湖を広げてゆく。
誰もがぱんぱんに膨らんだ下腹部を抱え、必死に脚の付け根を押さえて限界ギリギリの我慢を繰り広げる中、『間に合わなかった』クラスメイトたちのオモラシを間近で見せつけられるのは、なおも我慢を続けようとする少女達にとって拷問にも等しい所業だった。
そんな、儚い抵抗を続ける『我慢組』の一人仁科秋穂。
彼女自身も既に制服のスカートをどう言い訳の使用もないほどにびしょびしょに湿らせてしまっていたが――それでもなお、秋穂は最後の最後まで望みを捨てまいと、トイレまで、トイレまで我慢、と懸命に自分を鼓舞していた。
そんな秋穂のすぐ隣で、目の前で、『ぁはぁああああ……ぁっ♪』と甘い声を上げ、と目元を潤ませ喉を震わせ、熱い吐息をこぼし肩を震わせて。同じクラスの友人たちが、すさまじいまでの勢いでオシッコを始めている。我慢限界のオモラシではなく、自分の意志でのオシッコ。服を着たまま、トイレの前で、自分からオシッコを始めている。
(だめっ……そんなの、だめ、駄目っ、だ、ぇ……)
目の前で見せつけられる、しゃがみ込んだ足元の地面めがけてぷじゅッぷじゅうぅううゥうッと直撃させる、オシッコの大噴射。股間の水門を全開にして、乙女のダムの放水をはじめる、クラスメイト達。
少女の痴態はそのまま秋穂の下腹部を直撃し、凄まじい尿意の大波を引き寄せる。ざわざわと恥骨を伝う刺激が自分のダムの水面にも大きく波立てる感覚に、秋穂は限界を悟っていた。
(だめ――、もぅ、――出ちゃう……ッ!!)
切羽詰まった視線が、救済を求めるようにトイレの入り口へと向けられた。しかし秋穂の願い空しく、『オシッコをする場所』を希求する思いは、女性用トイレの前を蛇行し、行く手を塞ぐ大行列に阻まれる。たとえ今からトイレの入り口に突進したところで、あの行列をかき分けて個室にまで飛び込む余裕は、無かった。
けれど、でも、でも、もう。いよいよ余裕を失くした下半身が、閉じ合わせた腿の奥にじわりと熱い雫を広げてゆく。
(…………ッッ!!)
ここはトイレの目の前だ。公衆トイレ、待望の、我慢し続けた、オシッコのできる場所のすぐ前だ。長い長い社会見学バスの中でお預けを食らい続け、執拗なほどに下腹部を、足の付け根をイジメ続けた尿意を、解放できる場所の、すぐ目の前だ。
けれど、けれど。
ここは今や、秋穂にとって地獄も同じだった。
こんな場所には、もう一秒だっていられない。
ここに居たら、私も、漏らしちゃう。
「ぁ、っ……ッ」
際限なく高まる尿意の呼び水となる光景に目を背け、永遠にも感じられる時間に耐えかね、秋穂は順番待ちの行列を飛び出していた。しかし。しかし。トイレを離れて。サービスエリア唯一の解放区を離れて、一体どこに行けばいい。いったいどこに、女の子が正しくオシッコのできる場所なんか残されているというのだろう。
「……ぁぅ……くぅ……ッ」
ふらふらと覚束ない脚を無理矢理に動かしてまっしぐらに駆けだすその先は――女性用トイレの入り口とは正反対。トイレの建物の裏側であった。
秋穂の意図を察したか、そのすぐ後を追うように行列の後ろに居た4、5人の少女たちも走り出した。
男女のトイレを形作る建物の裏側には、すぐにアスファルトの舗装が途切れ、むき出しの地面に植え込みの林が拡がっていた。高速道路の景観を保ち、交通量の飽和による排気ガスなどを緩和するためのものだろう。建物を迂回するように走り込んだ秋穂は、まっすぐにその一角――周囲から死角となるトイレ裏手の茂みの中へと走り込む。
「ぁ……っ」
万が一の賭けに出た秋穂の視線の先には、思い描いた通りの――それ以上に期待通りの光景が広がっていたのだ。少女の表情は、年甲斐もなく幼い喜色に染まる。
そう。
まったくもって実に具合良く、まるで誂えたかのように、そこには丁度良い高さの茂みが繁っていた。外から視線を遮るには十分であり、また同時に中に踏み込むのも難しくない。
混雑しがちな公衆トイレのすぐ裏手という立地も鑑みれば、まるで『そういう用途』のために作られたのではないかと疑ってしまいたくなるほどの、格好の場所であったのだ。
「ッ…………」
何千回と繰り返して練習したかのように、流れるような動作だった。茂みの中に踏み込み、十分に背の高い植え込みに囲まれて周囲の視線を遮るその場所を瞬時に見つけ出した秋穂は、しっかり地面が見える場所に踏み込むと、同時にスカートをたくし上げ下着を膝まで引き下ろす。
既に、少女の下半身は完全に『オシッコの準備』を終えていた。肩幅に開いた脚をそのまま、腰をかがめ、頑なに閉ざしていた股間にきつく込めていた力をふっと抜く。
少女が完全にしゃがみ込んで、女の子のオシッコの体勢を整えるよりも早く。
解放された水門から激しい水流が迸った。
ぷじゅばぁあああぁああああああああッ!!
じゅっじゅぶぶぶじゅじゅぶぶじゅぶぼぼぼぼぼぼっ……!!
茂みは瞬時に、我慢の限界を迎えた少女の臨時野外トイレと化した。脚の付け根、濡れた股間の中心から、野太い水流が噴き出して激しく地面を直撃する。膨らみ切った水風船は、ぱんぱんに詰まった中身を一気に絞り出していた。飛沫によって白く染まる奔流は、普段のトイレのようなのんびりした放水アーチとはまるで違う、猛烈な勢いと深い角度で、地面に向けて一直線に水流を叩きつける。
まさに、噴射と呼んで差し支えない勢いのオシッコ。トイレの中でも滅多に見ることのできない限界我慢からの解放だった。地面を深く掘り進み、泥と泡の混じった沼に変えていくオシッコの大噴射。
耐えに耐えてきたオシッコ我慢からの放尿――まるで天にも昇る心地で、ふわふわと蕩けた視線をさまよわせる秋穂。その耳に突然、別の音が飛び込んでくる。
「ご、ごめん、秋ちゃん、隣――、つ、使わせてっ……!!」
言うが早いか――斜め前に走り込んできた佐奈が、秋穂のすぐ目の前にしゃがみ込んで、そのまま放水を始めたのだ。
おチビリで濡れた下着を脱ぐ暇もなかったのだろうか。秋穂は股間を覆う下着の股布に指をひっかけ、真横に大きく引っ張って、露わになった排水口から秋穂に負けず劣らずの野太い水流を地面に吹き付けている。秋穂よりも幾分角度は上向いていて、しゃがみ込んだ少女の股間から噴き上がる激しい水流は、佐奈の脚の前から随分前の方にまで激しく飛んでいた。
「っ……」
俯いた顔を、肩上までの髪がさらりと流れる。耳まで染めてきつく唇を噛み、佐奈はまるで湯気を上げそうなほどに顔を紅くして、トイレではない場所でのオシッコを続けている。
俯いた足元を激しく叩きつけ、地面をえぐらんばかりに勢いよくじゅぶじゅぶと泥をかき混ぜるクラスメイトのオシッコに、秋穂は言葉を失っていた。
社会見学バスの話・78 仁科秋穂
