久々に。
もう少し丁寧にお嬢様感をちゃんと出すべきかなという反省があります。
「見て、龍ヶ﨑様よ」
「今日もステキ……あぁ、どうしたらあんなにお淑やかになれるのかしら」
「ご、ごきげんよう、絵梨さま!」
「ええ、ごきげんよう」
ぴんと背筋を伸ばし、顎を引いて。身体の軸をぶらさずに、歩幅も均一に校舎を颯爽と歩く。多くの下級生たちが思わず見惚れるのも無理はない。龍ヶ崎絵梨はこの生え抜きのお嬢様が集う鶺鴒女学院でも一目置かれるお嬢様である。
幼少の頃から徹底した礼儀作法を躾けられたその立ち居振る舞いは、いついかなる時も余裕を持ち気品に溢れ、洗練された一挙手一投足には常に感嘆が漏れる。
そんな彼女であるからこそ、当然のように学院では風紀委員を務め、多くの生徒の模範となるように日々を過ごしていた。
「ごきげんよう、絵梨さま。今日はもうお帰りですの?」
「ええ、少し先約がありますの。……申し訳ありません」
「そんな、お気になさらないでください!」
いつもと同じように慎ましやかに受け応える絵梨の、しかしほんのわずかに口元を歪ませるその『要因』に思いを巡らせる者は誰もいなかった。
常に学院生徒の模範となるべく率先して振る舞う彼女が、いつもより態度に焦りを滲ませ、足取りも心なし先を急いでいる――そのことを感じ取れるものは、絵梨に憧れを抱く下級生の中にもいなかったのだ。
(………っ)
その仕草をおくびにも出さず、穏やかな笑顔を見せる少女の下腹部では――はち切れんばかりの尿意が、今にも限界と暴れ回っていたのである。
女性にとっての洗練された振る舞いの中に、『それ』が求められる以上、絵梨は当然のように、排泄の不自由を克服するための訓練も受けていた。常に衆目の中にあって、醜態をさらすことが無いように。幼少時から、みだりにトイレの欲求を顕わにすることの無いよう、徹底した躾けを受けているのである。
絵梨の下腹部のダムの貯水量は、平均的な成人女性の許容量を軽々と数倍上回る千数百ミリリットルにまでに至り、括約筋と排泄孔周辺のその強靭なコントロールは、まさに中世の淑女が謳われた『貴婦人の膀胱』と呼ばれるに相応しいものになっていた。
だが、それをもってしてもなお、この時の絵梨の感じている尿意は、耐えがたいほどに強烈なものだったのである。さまざまな巡り合わせによって、昨晩から一度も解放を赦されなかった乙女の水門は、刻一刻と水位を増すダムの水圧に懸命に耐え続けている。
無論、絵梨はそのような窮地にあっても決して取り乱すことなく、猛烈な排泄欲求を飲み込んで平然と振舞う術を身に着けていた。しかしそうやって洗練された振る舞いを続ければ続けるほど、少女の下腹部に溜まり続ける羞恥の熱水はなお膨らむ一方であり、抑えつけた排泄欲求はなお激しい衝動となって少女を襲うのであった。
出来る限りのさりげなさを装って、そっと制服の上から下腹部をさする。本来ならばこれすら、赦されぬ振る舞いであるが――既にそのことを気にしているほどの余裕は、深窓の令嬢からは失われつつあった。
制服のスカートを幾分きつく張り詰めさせる下腹部。むろん、1リットル半にも及ぶ尿意を堪えたところで、絵梨の下腹部はみっともなく身体のラインを崩すことはない。鍛えられた腹筋によって、膀胱は体外に膨らむことなく、少女のおなかの内側へとその容積を拡大している。
だが、そうやって足の付け根の水門から大きく遠ざけるように、じんと熱く重い水風船を『抱え上げ』続けた少女の身体も、徐々に強烈な生理現象に音を上げつつあった。
先を急がんと急ぐ足元がわずかに乱れ、歩道のタイルを踏む震動が、身体のうちに溜め込んだ黄色い水面を揺らす。たぷんっ、たぷんっと音を立てそうな猛烈な水量が、きゅっと閉じ合わされた乙女の水門にぐっと圧し掛かる。
少しでも気を抜くと、脚の付け根の奥で下品にひくひくと綻びそうになる乙女の花弁を、意識してぎゅっとすぼめ閉じて――こうして意識することすら、絵梨の身に着けた淑女の規範と照らし合わせればはしたないと咎められるべきものだが――少女は学院からの帰途を急ぐ。
孫娘を世間知らずの箱入りお嬢様にしたくはないという祖父の意向もあり、社会勉強という建前で、絵梨は自家用車の送迎を断り、自宅からの通学にバスと電車で行っていた。どちらも片道5分ほどの短い距離ではあるが、常ならば学友や下級生と共に歩く道を、絵梨は足早に急ぐ。
(っ……、はやく、しないと……)
こわばった表情の下、自然に歯が噛み締められる。
切羽詰まった欲求は、鍛え抜かれた絵梨の制御をして、もはや一刻の猶予もないところにまで達していたのである。
不幸な巡り合わせは続き、学院の化粧室は下水のトラブルが起き、急遽工事が行われていたのである。本校舎のトイレが軒並み使えなくなったため、下級生たちが押しかけて列を作っていた旧校舎は大混雑となっていた。それを押しのけるようなことは、絵梨にはできなかったのだ。
と言って、帰途の途中にある公園の公衆トイレや、コンビニのトイレなどは、当初から絵梨にとって使用を許されるようなものではなかった。仮にも学院の制服を身に着け、その振る舞いを求められる立場にあって、深窓の令嬢たる彼女が駆け込んで良いものではないのだ。
せめて、送迎用の車があれば、自宅に急ぐ方法もあったろうが――
じんじんと、足の付け根に響く、下品にして抗いがたい誘惑。ずっと拒絶し続けてきた欲求が、いよいよ弱り始めた絵梨の心を籠絡せんと暴れている。ぎゅっと引き結んだ唇、汗ばむ手のひらを握り締め、絵梨は急ぐ。
この時間、バスのやってくるのは15分おき。普段なら大した時間ではないが、一分一秒を争う今の絵梨には永遠にも等しいものだ。それに、生徒たちが並ぶバス停の前でじっと立ったまま、彼女たちの視線に晒されながら、悟られないように表面を取り繕うのは、今の絵梨には難しいだろう。
ならばせめて先を急ぎ、足を動かしている方が、いくらかでも気分がまぎれる。
落ち着い佇まいの商店街。優良な学院の子女に悪影響を与えるような誘惑はない。
絵梨が、点滅する赤信号に募る焦りを抱えながらも足を止めたその時だ。
きゅうん、と、脚の付け根を深く貫く感覚――抱え込んだ羞恥の熱水を揺さぶり動かす、猛烈な尿意の『波』。それに絵梨はぞくりと背中を震わせる。
(んぅ、はぁ……ぅっ!?)
たちまち、抱え込んだ水圧に耐えかねるように、ひく、ひくと閉じ合わせた敏感な花弁が震え始める。知らず開きそうになる乙女の秘所を、咄嗟に気を引き締めてぎゅうっと抑えつけ、絵梨は大きく息を吐いた。
暢気に音楽を鳴らす信号の点滅を見つめながら、令嬢の足元は落ち着きなく、数度地面を叩く。もはや絵梨が身につけた淑女の振る舞い落第の、落ち着きない有様。
だが――執拗に少女の水門を攻め嬲る尿意はいや増す一方。一方的に注ぎ込まれてゆく下腹部の恥水は、乙女のダムの危険水域を突破し、なお増える一方である。1リットル半もの貯水量がもたらす尿意は、想像を絶する苦痛となって、絵梨を脅かしていた。清楚な乙女の肢体を包む下着、ぴったりと身体に寄り添った布地の奥で、乙女の秘書がいやらしく蠢いてしまうのを、絵梨はもはや抑えられない。
だめ、
でちゃう。
本能の上げる警告に、絵梨は戦慄した。乙女の理性を消し飛ばす、原始的で下品な欲求が、限界を訴えている。もはや家までなんてもちそうもない。それどころか、あらゆる羞恥をかなぐり捨てて、駅のトイレを使うことを許容したとしても、そこまで粗相をせずに辿り付けるかも、怪しい。
一瞬でも気を抜けばそのまま排泄をはじめてしまわんとする下半身の切なる訴えに、絵梨は一気にパニックに陥った。
(っ、だ、だめ、このまま、じゃ……っ)
細く震えた喉がひゅっと音を立てる。絵梨は突き動かされるように辺りに視線を巡らせ――交差点のすぐ向こうにある、落ち着いた佇まいの喫茶店に目を止めた。
煉瓦造りに蔦を這わせた外観に、ガス灯を模した装飾。メニュを丁寧に記した黒板。質素ながら洒落た佇まいの外観は、駅前の喧騒とは無縁にも思える。その穏やかな雰囲気は、絵梨の突発的なワガママでも、優しく許容してくれるような印章を与えた。
もはや、形振り構っている時間はない。絵梨は焦れるように信号が変わるのを見届けるや否や、足早に交差点を渡り切り、真っ直ぐにその玄関をくぐった。
「いらっしゃいませ」
落ち着いた受け答えの、初老の店員に、内心の焦りを押し殺して――躊躇に震える唇を小さく開く。大丈夫。ちゃんと、落ち着いて。恥ずかしがればそれだけ、醜態を晒すことになる。
「も、申し訳ありません、不躾なお願いなのですが、あの、――お手洗い、を」
「ああ。……どうぞ。奥にありますよ」
貸してくださいませんか、と最後まで口にするよりも早く、店員は絵梨の意図を察し、汲み取ってくれた。示された先をはっと振り仰ぎ、じっと注視してしまってから――絵梨は慌てて我に返り、頭を下げる。
「あ、ありがとうございます、スミマセンっ」
声が震える。頬が紅くなる。いくら限界寸前だからと言って、人前でこんなに、あからさまに自分の欲求を曝け出して――乙女の羞恥が、刻み込まれた淑女の躾が、みっともない己を責め苛む。
顔を伏せるように足早に、店の奥へと小走りに急ぐ絵梨。
言い終わるよりも先に要件を把握されたということは、今の絵梨は傍から見ていてもはっきりとわかるほど、『その欲求』に支配されている有様で、それをまったく隠せていないということになる。
そのことを改めて把握させられ、少女の頬は羞恥に染まり、鼓動が激しくなる。
――いちど正規の客として、なにかお店に注文をすればよかった――
――訴えるにせよ、いきなり口にするべきではなかった――
――せめて、入る前に一回立ち止まって、深呼吸するくらいしていれば――
赤点塗れの自分の振る舞いに、無数の後悔が押し寄せる。かあっと耳の後ろ、首筋まで熱くなるのを感じながら、絵梨は示された店の奥へと走り込んだ。
店の奥の少し奥まった通路を右に曲がった先、小さな喫茶店のトイレは、店内の装いに恥じぬ落ち着いた佇まい。利用者もそう多くないからか、意匠を施された男女共用を示すプレートが掛けられている。本来、男性も使うことのあるトイレに入るなど許されないが――緊急避難で駆け込んだ今、そんなことは言っていられない。
潔癖な心が騒ぐ忌避感、嫌悪感を非常事態だとねじ伏せて、絵梨はドアノブへと手を伸ばした。同時に返ってくる、がちゃんという固い手ごたえ。
「え、っ」
余りにも間抜けなことに、その事態は絵梨にまったくの想像の埒外であった。それだけ彼女の余裕がなかったということでもある。
絵梨にとって、入り口で店員に声をかけた瞬間から、この可能性はすっぽりと頭から抜け落ちていた。いや、あるいは無意識のうちに、限界を訴える原始的な欲求に耐えかねるように、この可能性を排除してしまっていたのかもしれない。
トイレが使用できない状態にあることなど、想像もしていなかったのだ。がちゃんと重い手ごたえを返すドアノブ。
開かないはずはない。
この事態にあって、絵梨が最初に向いた意識は、あろうことは其れだった。他の可能性を全く無視し、不具合を訴えるドアノブを反射的に両手で掴み、何度も動かしてしまう。噛み合ったような重い手応えと、ドアを揺らす激しい金属音。
だが、無情にもドアは開かない。開くはずがないのだ。
見下ろしたドアノブの下には、『使用中』を示す、赤い表示が見えていた。
「ひぁ……ッ」
そのことを理解して、絵梨の頭は瞬時に沸騰した。
誰かがトイレを使っている――そんな可能性ぐらい、想定しておくべきだった。そうでなくとも、せめてドアノブの下の表示を確認するぐらいのこと、いくらなんでもできるはずだった。
絵梨はそれらを怠って、もう、完全に個室に入れる者だと決めつけ、ドアノブを押し開こうとしたのだ。――もし、中にいる相手が、万が一にも施錠を忘れていたりしたら、開け放ったドアの向こうにその様を暴き立ててしまう可能性すらあったというのに。
「っ…………」
しかし、絵梨はそのことにも思い至らず、開かないドアをつい反射的に、ガチャガチャと鳴らしてしまった。はっとしながら、絵梨は手を離すが――もう遅い。中にいる誰かには、いま個室の向こうに居る絵梨の存在と、彼女がどれだけ切羽詰まっているか――使用中の表示を確認する余裕もなく、ドアノブを激しく鳴らすほどの追い詰められているかを、思い切り宣言してしまったに等しいのである。
一気に混乱のさなかに陥った絵梨に、容赦なく下腹部の欲求が襲い掛かる。ドア一枚を隔てた先に、この苦痛から解放してくれる場所があるのだと知った排泄欲求が、少女に激しく訴えかけた。
「んぅッ!? ぅく、はぁあぁッ……」
思わず口元を抑えた手のひらから、なおも抑えきれぬ喘ぎがこぼれる。ぎゅうっと内股のみっともない姿勢を強いられ、押し寄せる尿意の大波に抗した。緊張に敏感さを増した膀胱が、伸びきった組織を急速に収縮させんとする。水風船の出口を塞いだ水門へと、猛烈な水圧がのしかかった。
がく、がくと腰を動かしつつ、絵梨は大きく足を踏み鳴らす。
トイレの個室のドア前で、ついにご令嬢は脚の付け根を制服のスカートの上からぎゅうっと押さえ込んでしまった。皺の寄ったプリーツスカートの間に、少女の手のひらが挟み込まれ、もじもじと下半身がよじり合わされる。
人前では決して――いや、たとえ誰も見ていなくとも、絶対にしてはならないはしたない姿。しかし、今の絵梨はそうでもしなければ、1リットル半にも及ぶ猛烈な尿意を押さえ込むことすらできない。
待望のトイレを前にして、少女の排泄器官は絵梨の意志を無視して歓喜を上げていた。堪えてきた、抱え込んできた羞恥の熱水を、一気に出口へと向けて押し動かそうとしている。
ぶるぶると震える下腹部奥のダムの衝動に怖気を走らせながら、絵梨は必死になって足の奥の衝動を押しとどめ、耐えようとする。だが――
じんっ、じぃんっ、じんっ、じゅっ……
懸命にい押しとどめる脚の付け根の奥。ぎゅうっと挟み込まれた下着の間に、不穏な感覚。直後に広がるじわりと熱い湿り気は、錯覚ではなかった。
「っ、だ、駄目……っ」
じわり、ぴったりと脚に圧しつけられた下着の股布に広がる、熱い感触。決してあってはならないもの――おチビリの、感触。
自分のしてしまった「お粗相」に、身体を慄かせて、絵梨は蒼白になった。
ありえない、してはならない、やってはならない。
こんな歳になって――? まさか、本当に――!?
だが、少女は驚愕にうち震えている暇などなかった。間をおかず再度の猛烈な波が、少女の股間を炙るように責め苛む。ぎゅうっと抑えつけた奥で、乙女の花弁が内部からの水圧に耐えかねたようひくひくと緩み、押し開かれようとする。
女の子の部位を懸命に閉じすぼめようとする絵梨と、それを無視してこじ開けようとする羞恥の熱水。必死の綱引きが、少女の心を弄ぶ。
「あ、ぁ、あぅ……ッ」
ぱくぱくと口を開閉させながら、絵梨はとっさに、目の前のドアを見た。
ノブの上の表示は相変わらず赤色――使用中。
切羽詰まった衝動に突き動かされるまま、絵梨は拳を固め、ドアを激しくノックした。二度、三度。硬い響きが狭い個室の前の空間に響きわたる。
コンコン、
コンコンッ!
――もう一度。再度、硬いドアを叩いて、絵梨は訴える。
だめなんです。おトイレ、オシッコ、我慢できないんです。
早くしてください。おトイレ入れてください。
切なる訴えはしかし、なんの反応もないままだった。焦りと共に叩かれたドアのノックとは対照的に、返ってくるのは無機質な静寂。絵梨の焦燥を無視するかのように、個室の反応は静まり返っている。
はあぅっ、と息を引き攣らせながら、絵梨はその場で足踏みを繰り返した。もし学院の生徒が通りかかったならば、あまりのことに目を疑う格好だ。不恰好におしりを突き出し、左右に激しく揺り動かしながら、もじもじと身をよじり、太腿を擦り合わせ、交互に足踏みを繰り返す。お嬢様の模範たる姿とはとても呼べはしない。
手のひらの一方は、ぎゅうっと脚の付け根に挟みこまれ、スカートの上からき付く股間の布地を掴み。
もう片方の手のひらは、通路の壁紙に爪を立て、体重を預けるように壁に伸ばされ、かと思えば制服の下腹部を懸命に撫でさする。身体の内側に抱え込んだ、下品な衝動に支配されて、猛烈な我慢を繰り広げる――学院の誰もが憧れ見惚れる先輩の姿である。
半開きになった唇からは、はっ、はっと熱い吐息がこぼれ、かと思えばぎゅうっときつく引き結ばれて、きつく歯が立てられる。激しく悶え動き回ったかと思えば、突然ぴくんと背筋を反り返らせてその場に静止する。
その時、猛烈な排泄衝動の波が、乙女の水門をこじ開けようとしているのを、懸命のおんなのこの大事なところ――乙女の恥ずかしい花びらを閉じ合わせて抵抗しているのを、詳らかにしている。
激しい身悶えと苦悶の最中、絵梨は目元に涙すら滲ませてドアを睨む。
一向に開く様子のない目の前の個室。今の絵梨にとって何夜も重要な、大切な場所、待ち焦がれたトイレ。おんなのこの欲望を解消するための場所と、いっこうに解放してくれる気配の見えない、意地悪な先客。
「っ……」
形振り構っている余裕などなかった。絵梨は再度、きつく拳を握り、ドアを叩く。さっきよりも強く――何度も。
ゴン、ゴンッ、どんどんッ!
それは、余裕を失った少女の切なる訴え。今まさに下腹部を占領しつつあるみっともない欲望を、そのまま形にしたかのような叫び。
繰り返されるドアの連打は、そのまま、少女の股間で閉ざされた水門を執拗に叩き続ける排泄衝動、尿意の波の衝撃そのものだった。
「んぅッ、くっ――!!」
いまや全身が余すところなく、せり上がる切実な尿意を押さえ込むのに手一杯。他の事をしている余裕などないのに――ノックのためには、どうしても手のどちらかを離さなければならない。
喉の奥に呻きを堪え、はげしくぎゅうぎゅうと身をよじりながら、絵梨は込み上げる羞恥の中、激しくドアを叩いた。
どんどんっ、どん! どんっ!
それでもなお、個室の中からは何の応答もない。ここに駆け込んでから――恥を忍んでトイレを貸して欲しいと訴え、まっしぐらにここに駆けつけてから、どれくらい時間が過ぎたのだろう。これだったら、まっすぐに駅を目指していた方がまだよかったのでは? こんな寄り道をせず、あの、駅の奥にある公衆トイレを使う決断をしていれば、もうオシッコを済ませていられたのでは? いや、今からだって遅くないかもしれない――
ひく、ひくっ、きゅうううぅんッ、じぃいんッ……
「んぁあああッ…!?」
堂々巡りを始めた少女の懊悩を打ち砕くように、強烈な尿意の塊がおなかの奥からせり上がってくる。とっさに両手を使って脚の付け根を握り締め、絵梨はその場に身を硬直させてぶるぶると背中を仰け反らせた。
じわ、じわと脚の付け根に広がる感触が、じっとりと少女の内腿に広がる。激しい水圧の高まりを懸命に『出口』から遠のけながら、絵梨ははあはあと息を荒げた。気のせい、汗に決まっている、お粗相なんかしていない――そう自分に言い聞かせようとしても、込み上げてくる尿意は、閉じ合わせた花弁の内側に渦巻き、ぷくりと排泄孔を盛り上げる恥ずかしい熱水の感覚が、少女の感傷を叩き壊す。
「っ、は、っ、あっ、……くうぅうッ」
熱水の欲求を体内に押し止めながら、ぎゅうっと唇を引き絞り、絵梨はきつくドアを睨みつけた。
相変わらず無反応なドア――固く施錠され、赤い『使用中』をふてぶてしく示し続ける個室の境界。
もう一刻の余裕もない。本当にもう、間に合わない。
(つ、次に、今みたいな、波が来ちゃったら……っ)
いや増す下腹部の水量、限界水量の1リットル半を超えつつある、下腹部の熱水が、羞恥の熱にぐらぐらと湧き立ち、激しく出口を求めて噴きこぼれんとしている。疲弊した下腹部の水門が耐え切れないことは想像に難くなかった。
ぞっとする背筋に怖気を感じつつ、絵梨はもう一度、きつく拳を固め――
睨むようにしてドアを見るよりも先。予想よりもはるかに早く尿意の波は突然に押し寄せた。
「っあぁああっ!?」
ぞくぞくと下半身が震え、内股になった脚が大きく上下する。ぎゅっと閉ざしていたはずの水門、その細い水路にたちまち通水が行われ、出口に向けてぴゅっ、ぷしゅっと熱い雫を噴き上げた。
「い、いや……ァアッ」
喉を引き攣らせ、絵梨はそのまま個室のドアにしがみ付いた。
お粗相――オモラシの恐怖に我を忘れ、ご令嬢は激しくドアノブを握り締め、がちゃがちゃと乱暴に動かし揺さぶった。
固いドアを鳴らし揺らす振動に、施錠されたノブがぎしぎしと金属音を軋ませる。
「っあ、っ、あ、っ、あああっ!! っダメ、っ、はやくっ、はやくしてぇ……!!」
今まさに、下腹部を襲う猛烈な尿意の大津波。少女は体内からの衝動に突き動かされ、衝動のままにドアに拳を叩き付ける。
どんどんッ、がんがんっ、どんっ、どどどんッ!!
ガチャッ、ガチャガチャガチャンッ! どんどんどんッ!!
「あ、開けて、ッ、ねえ、ドア、開けてっ……おねがい、開けてくださいっ、こ、ここ、おねがい、おねがいしますッ……!!」
哀れな懇願が絵梨の喉から絞り出される。嗚咽塗れの叫びと共に、少女の脚は激しく床を踏み鳴らした。揺さぶり動かされる、閉ざされたドアノブのガチャ音と、扉を叩く激しいノック、そして床を踏み鳴らす足音。三つのビートは、空前絶後の尿意に晒された少女の魂の叫び。
そして、それに重なる、必死の懇願。
「ねえっ、おねがいします、開けて、っ、開けてくださいっ、と、トイレ、っ、トイレ、間に、あわなっ、ッあぁああっ……お、おねがいっ」
がんがんっ、がんがんがんっ!!
ガチャガチャッ、ガチャンッ!!
「お、おねがいします、お、っ、お、わたし、と、トイレ、っ、お、おしっこ…っはあああっ、……オシッコ、がまん、できないんですっ……」
ああ。なんとしたことだろう。
少女はついに、その下品な欲望を露わに、その可憐な唇を震わせてまで個室の中に訴えかけたのだ。
開かないドア、待たされ続けた時間、限界を訴える下半身。もはや外面を取り繕う余裕など一切ないまま、己の心のうちまで詳らかにして、叫ばねばならないほどに、迫り来る尿意に絵梨は追い込まれていたのだ。
どんどんっ、どんどんどんっ、ガチャ、ガチャガチャっ!!
「お、おねがいします、おねがい……ッ、と、トイレ、オシッコっ……、わたし、も、もうっ、オシッコが、漏れちゃいそう、なんです……ッ」
あらん限りの声を振り絞り、必死になって訴える。固く閉ざされたドアの向こう側に広がるであろう楽園を思い描き、排泄の予兆にゆっくりと開き始めた女の子の花弁を懸命に押さえ込んで、叫ぶ。
じわり、じわり、脚の付け根で下着が湿り、透けるように張り付いて、乙女の肌にぴったりと濡れ透けさせてゆく。
「っはあ、はあっ、おねがいします、代わってくださいっ、おねがいしますっ……トイレ、おしっこ……ガマン、出来な……ぁああっ、くうぅう……っ!!!」
1リットル半もの痛切な尿意に急かされた訴えに――しかし個室は依然沈黙を守り――否。
こん、こん。
これまで頑なに、静寂を保っていた個室の中から、それは確かに聞こえた。
絵梨の熱のこもった切望とは、正反対の、無機質なまでの、静かなノック。
己の尿意を開示し、その程度や状況まで、羞恥身に塗れたプレゼンまでして訴えた少女の恥辱に関してはまるで取り合わない、ただ単に、確認事項だけを示す、事務的な反応。
すなわち――
『中に居ます』
というだけの、反応。絵梨の訴えなどまるで別次元、ドアノブの赤い『使用中』となんら変わらない、この個室が現在、使われていることだけを示す。一方的な通告。
だが――それは、絵梨にとっては、無慈悲なまでの対話の拒否に近かった。
全身を戦かせながら、少女は再度、ドアにもたれかかるように身を寄せた。下半身を擦り合わせ、足踏みを繰り返しながら、
「っ、あ、あのっ、あのうぅっ!! す、スミマセンッ、ぁ、あのっ……っ、ぉ、おねがいします……っ!!」
再度、痛切なノックを伴って、少女の熱を帯びた声が返る。体をくねらせ、腰を揺すり、喉を震わせて。
内部からの応答は、ある意味での希望でもあったのだ。このドアが故障や何かの事情で施錠されているのではなく、きちんとトイレとして使用することのできる場所であることの証明であった。つまり、自分の順番が来れば、中に入ることができれば、おしっこができる。
「お、おねがいします、っ、なっ、中に、入れてくださいっ、おねがいしま、すっ……、わ、わたしっ、もう、ガマン、っ、我慢できないんですっ……!!」
こんこんっ、コンコンっ!!
「も、もう、本当に、げ、ッ、限界で、っ、っくぅう……ガマン、できな、っ、ああああっ、はあ、はあっ、お、おねがいします、おねがいします……で、出ちゃう……本当に、お、オシッコ、ッ、オシッコが、、でちゃんですうううっ!!!」
見るも無残に、深窓のご令嬢がそのプライドをかなぐり捨てて、みっともない欲望を叫ぶ。固めた拳をドアに叩きつけ、施錠されたドアノブを必死に揺り動かして。お嬢様の慎ましやかな姿などもはや影も形もない。力づくでドアを押し破ってでも、そのまま個室の中に飛び込んで、己の欲望のままに下品な衝動を解消すると言わんばかり。
そこまで我を失うほどに、たまりに溜まった1リットル半もの尿意は、激しく少女の下腹部で煮詰められ、絵梨を追い詰めていた。
「ッ、ゥ、はぁあああああンッ……だ、め、でちゃう、ッも、もれちゃ、ゥ、ッお、おしっこ、オシッコ、おしっこォおっ!!!! ト、トイレ、トイレ、させてくださいっ、おねがい、開けて、トイレ、おといれぇえええ!!」
堰を切った絵梨の欲望は、剥き出しのままドアへと叩きつけられる。このドアの一枚奥に、理想郷が、おトイレをしても良い場所があるのだ。だから、入らせてください、排泄を許可してください。それを訴え、強請ろうとする。
分からずやの先客に、理解を促すために。もうどうしようもないのだと、分かってもらうために。恥も欲望も全開にして、自らかなぐりすてたお嬢様のプライドを、自分自身で踏みにじりながら、もっと恐るべき恥辱を、絶望を回避するために――叫ぶ。
そんな、必死にも切実な叫びの合間。
がちゃがちゃとドアノブを激しく動かした絵梨が、息を荒げて、もう一度拳を力の限り、拳を叩き付けんとしたとその時だった。
「――ゴホンっ」
咳払い。
はっきりと、騒乱の空白に聞こえたそれは、間違いなく個室の奥からのもの。
ノックの他に示された新たな意志表示。それはつまり、騒ぐドア向こうの絵梨をたしなめる性格をもつもので――しかし、それ以上に、遥かに明瞭に伝わるのは、つまり。
その咳払いが、あきらかに男性の、それも幼い少年のものではないとわかる、――もっと言えば年配の男性の発したものであるということ。
地位も立場もあるであろう異性の相手から、はっきりと、絵梨に対して不快を示したものであるということ。
(ぇ、っ…………)
少女の頭が真っ白になる。
そう、まったく迂闊な事にも、この瞬間まで。
絵梨は、この個室を占領している相手が誰であるかをまるで考えずにいた。いや、そのこと自体は責められるべきことではないかもしれない。切羽詰まった尿意に苦しめられ、その衝動に抗うことに精いっぱいだった。
なによりも、絵梨はもともと箱入りのお嬢様である。幼稚舎から筋金入りの女子校に通い続けた深窓のご令嬢にとって、男女共用のトイレというものは、存在としての知識はあっても、実際に経験のない設備だった。
普段から乙女の学び舎、異性の姿のない清らかな温室で育てられた生え抜きのご令嬢は、この個室の前に辿り付いたときから、無意識のうちに閉ざされたドアの向こうにいる相手の可能性から異性の存在を除外してしまっていた。
こうしていま自分が、ドアの前に待たされ、今から中に入ろうとしているのだから、当然のようにいま個室の中に居る『先客』も自分と同じ、女性であるのだと。そう思い込んでしまっていたのだ。
「ぁ……ッ」
だからこそ、ああもはしたなく限界を訴え、必死にドアを叩いた。同じ性別の相手になら、切実な状況を理解してもらえると思ったから。許容こそなくとも共感はあるのだと、そう思い込んでいた。切羽詰まった頭ではそうとしか考えられなかったのである。
ひゅ、と少女の喉が細い音を漏らす。
困惑と、混乱と、羞恥と――あらゆる衝撃が綯い交ぜになって、乙女の思考を塗り潰す。
ああも、必死に、大胆に――恥もなく己の尿意を叫び、トイレに入れて欲しいと叫び続けた絵梨の心は、いまや冷や水を被せられたように萎縮を始めていた。
あろうことか、
見ず知らずの相手に、
それも、男性に対して、
はしたなくも、全力で、足を踏み鳴らしスカートを握り締め、ドアを叩きノブを揺さぶって、オシッコ漏れちゃう、出ちゃう、我慢できない、とと連呼していた事実を、
絵梨は改めて眼前に突きつけられたのである。
「ぁ、あうぁ、っあ」
その衝撃もはや、限界寸前の少女にとって受け入れることのできないものであり。最後に堪えていた乙女の一線を打ち破るに十分なもの。
すべきを論ずるならば、絵梨は今すぐにでもこの場を離れ、できることならば喫茶店も辞して、他のトイレを探すべきであったろう。
こん、こん。
再度、落ち着き払ったノックの音。お行儀の悪いことはせず、大人しく次の順番を待てと、教え、諭すような――ドアの前の絵梨の礼儀をたしなめ、叱責するように。
「あ、う、ご、ごめ――すみま、せっ」
(ぁ、あっあぁああぁッ)
条件反射のように、謝意を口にしかける絵梨。だがもはや、尿意は少女に他の行動を許さなかった。
しゅるるる、しゅうぅっ、しゅううゥうううう―――ッ
1リットル半もの羞恥の熱水は、もはやひび割れたダムの水門で支え止めることは叶わなかった。
抑えつけたスカートの下、閉じ合わせた太腿の間。乱れることの無いプリーツの裾の奥に、ご令嬢に相応しい気品と、清楚なたたずまいを併せ持っていた上品な下着が、みるみるを色を変えてゆく。
屈辱の尿意と押さえ込む指でくしゃくしゃと握り締められ、湿り気を帯びていた下着に、乙女の水門を突き破った熱い水流が噴きつけられる。
股布にぶつかりぷしゅううっと禁忌の音を響かせたオモラシの先触れがは、瞬く間に白い下着を侵食し、熱い水流は布地の保水力を超えて白い肌を流れはじめる・
「ぁ、あああっ、だっだめっだめぇえっ!!」
ガクガクと膝を揺すり、前かがみになってドアに手をつき、くねくねと腰を揺する絵梨。しかし突き出されたおしりでは、ぷしゅっぷしゅうっと
断続的に熱水がスプレーのように噴射されては濡れぼそった下着にぶつかて、恥辱に染み濡れる面積を広げてゆく。
ぴったりと少女の股間に張り付き、濡れ透けた下着は、おチビりの解放感に上下に揺すられる少女の腰の動きに合わせ、じゅじゅっじゅじゅううっと下品な水音を響かせながら、足元に水滴を撒き散らした。
しゅうっ、しゅうううううぅっ、じゅじゅじゅうぅうぅっ。
もはや、おチビリでは済まされない大量の噴出。小さなおしりを包む布地は熱い液体にびしょびしょに浸されて、制服のスカートにまで大きく染みを広げてゆく。きつく握られた制服、プリーツの裾からもぴちゃぴちゃと雫が滴り始めた。
「ぁあああっ……ぁ、いや、いやぁああアアァ……ッ」
しゅううううっ、しゅるるるぅっ、しゅううっ、内股になって押さえた制服は、大量の水を吸って重さを増し、トイレの床に広がる水たまりからは、長時間の我慢が培った濃い臭いが立ち昇る。およそ――清楚なるお嬢様が人前でさせてはならないものだ。
ぶじゅじゅうぅつっつじゅじゅじゅじゅうぅうううっ……
びちゃびちゃびちびゃっ、ちゃぱぱぱっっぶじゅじゅぶぼぼぼっ……
狭い個室。ドアの一枚隔てたトイレを前に、『してはならない場所』での、ご令嬢のオモラシが、盛大に床に飛び散りはね返る。
「あ、あっあああぁ、あっ、あっ、…あぁーーッ…」
腰骨を貫き背筋を這い上がる、猛烈なまでの解放感。下半身を暖かなお湯にでも浸したような心地よさ。じゅうっしゅうっと色濃い熱水を噴出させながら、緊張の糸が切れたご令嬢の下半身は、理性のコントロールを失い、着衣のままの排泄を受容してしまう。
「はぁあ……ぁあああああっ」
熱い吐息と共に、閉ざされたままのドアにもたれかかった。
あたかも、ここが『そう』であるかのように。こうして、下着も下ろさずスカートもたくし上げず、下半身をびしょびしょに汚してオモラシをすることが正しい作法なのだと言わばんばかりに。
あまりにも見事な、風紀委員長の――ご令嬢のオモラシ。
がくがく震える膝が、堰を切ったように溢れ出す水流が、ばちゃばちゃと少女の革靴を濡らし、足元に大きく広がってゆく。お洒落なタイル張の床には排水溝などなく、色とりどりの模様は少女の下腹部に蓄えられていた特濃のオシッコの黄色に覆われ、なおその勢力を広げていた。
「ふぁ……ッ」
がくん。ついに力を失ってぺしゃんと崩れ落ちる少女の下半身。地面に落ちてばちゃんと飛沫を立てた少女の股間、捲れたスカートの隙間から、布地を貫通して、羞恥の熱水はなお激しく、いよいよ制御をうしなって激しく噴き出す。
自分の排出する水流の勢いの中、令嬢のプライドをも粉々に砕き流し去りながら、絵梨はオモラシを続け――
ようやく今になって、ドアの奥では水を流す音とともに、個室のカギを外す音が聞こえてきた。
(2018.2.25 書き下ろし)