大滝あさがお園のしおりせんせい

2017年11月のしーむす!で頒布した同人誌を公開します。
現在DL版の販売もしておりますが、それと同じ内容です。
pdf版が欲しい方、気に入ったのでせっかくだから買ってやるぜ! という方、DL版のほうもよろしくお願いします。


 ▼ 1
「ねーねーおねえちゃんせんせい、はやく、はやくっ!!」
「ちがうよ、しおりせんせぇ、こっちが先ー!」
「ちょ、ちょっと待ってってば……!」
「ねー! こっちー! はやくってば! みんなさっきから待ってるんだぞ!」
「だめ! 今日ね、しおり先生はわたしたちと遊ぶの! つれてっちゃダメなの!」
「ちげーよこっちが先だし! おねえちゃん先生、あっち行っちゃダメだからな!」
「あー、ずるっこだ! いけないんだよ! 勝手にそんなこと言って、しおり先生困ってるじゃない! ひとりじめしちゃいけないんだよ!」
「うるせー! おまえらはあっちいけよー!」
「あんたたちこそ、そっちいきなさいよ!」
「わ、わ、待ってみんな、そんなに引っ張ったら……っ」
「こっちだよ!」
「ちげー! こっちだっての!」
「わ、わわっ、――きゃぁあああ!?」
「うわぁっ!?」
「きゃあ!?」
 ――べしゃん。
   ◆ ◆ ◆
「……災難だったわねぇ」
「あ、あはは……みんな、元気いいですから」
「ごめんなさいねぇ詩織ちゃん。こんな毎日付き合わせちゃって」
「そんな、気を使わないでください。わたしがお願いしたことですから」
 椅子の上でびしょ濡れの髪を拭きながら、少女――前原詩織は笑顔を浮かべて答えた。
 大滝あさがお園の庭では今日も子供達が元気いっぱいに遊んでいる。洗面所まで聞こえる子供達の声に、園長先生は頬に手を当てて少しだけ苦笑い。
「みんな、本当にあなたのことが大好きなのねえ」
「あ、あははは……」
 詩織は、未来の保育士さんを目指して目下勉強中である。今年の春に進学したばかりの彼女は、叔母の経営する私立のこのあさがお園で『先生』の見習いをしていた。
 毎日学校が終わると、まっすぐにここに顔を出し、他の先生達に交じって子供達のお世話をする。
 もちろん、まだ学生の詩織が正式に働くことはできないので、他の先生達の指導のもと、あくまでお手伝いという形だ。苦しいことも、辛いこともたくさんあったけれど、めげずに毎日一生懸命頑張った。
 詩織はどうしても、夢を諦めきれなかったのだ。
 そんな詩織の頑張りが通じたのだろう、あさがお園の子供達はすっかり詩織になつき、他の先生達よりもちょっとだけ年下のお姉ちゃんを『しおり先生』と読んで慕っていた。
 元気いっぱいの子供達は、お姉ちゃんである『しおり先生』を取り合うように、毎日あちこちへ遊びに引っ張ってゆく。
 きちんとした設備のあるあさがお園での仕事は初めてのことばかりで、最初は戸惑い、他の先生達に迷惑をかけてばかりだったが、三ヶ月が過ぎていまではすっかり溶け込んでいた。
「でも、平気? 風邪ひかないようにね」
「あはは……はい、気をつけます」
 大滝あさがお園のモットーは、毎日よく遊び、元気に過ごすこと。
 ようやく慣れてきたとは言え、元気いっぱいの子供たちのパワフルさに、詩織は舌を巻くばかりだった。
 今日もまた、大人気の『しおり先生』は子供達にこっちで遊ぼう違うこっちだよと取り合いっこにされ、大勢に左右から引っ張り回されてしまった。危ないよとやめさせようとしたところでつい足を滑らせ、庭の隅にあった水たまりの上に転んでしまったのだった。
(みんなが転ばなかったのは、良かったけど……)
 馴染まない着替えに袖を通しながら、詩織はそっと溜め息を吐く。
 防寒・汚れ対策として身につけていたジャージはおろか、下着まで泥水でびしょ濡れ。着ていたものはすっかり壊滅状態だ。どうにか頭だけはシャワーを浴びて泥を流したが、服はこのままクリーニング行きで決定だった。
「…………」
 汚れた服、濡れた下着。冷たく肌に張り付く布地の感触が、詩織の表情に一瞬だけ暗い影を落とす。
(……大丈夫、もう、平気だもん)
 蘇りかけたかつて悪夢を振り払うように、詩織は強くかぶりを振った。もう、あんなことは起こさない。そのために一生懸命、頑張ってきたのだ。
 だから、大丈夫。
「詩織ちゃん?」
「あ、はいっ」
 ふと物思いに沈んでいた詩織は、園長先生の声で現実的に引き戻される。濡れたジャージの裾をつまんでいた指を放し、慌てて顔を上げた。
「今日なんだけど、どれくらいまで大丈夫そう?」
「えっと……8時くらいまでなら平気です。門限も延ばしてもらいましたし」
「そんな、無理しなくていいのよ? いつもお世話になってるのに」
「大丈夫ですよ。好きでやってることですし、それに、たくさん勉強になりますから」
 昨今の少子化問題などもあり、園の経営もいろいろ大変らしい。詩織はいまや貴重な戦力として、大滝あさがお園になくてはならない存在である。
 園長である叔母はいろいろと気を揉んでくれているものの、詩織は自分が無理に頼んだことだからと、支援の大半を断っていた。
 と。
「せんせぇ、まだー?」
「しおり先生、はやくー!」
 教室の方が騒がしくなる。奥に引っ込んでいつまでもやってこない『しおり先生』に痺れを切らし、子供達が呼びに来たのだ。
「……あら、またお呼ばれね。人気者は大変ねえ」
「あはは……」
 湿った髪をタオルで拭い、詩織は腰を上げた。あまり待たせていると、それこそ子供達が続々とここまで押しかけて来かねない。
「そうそう、詩織ちゃん、あたしこのあとちょっと外すんだけど、しばらく頼んでいいかしら?」
「え? 園長先生もおでかけなんですか?」
「あら。ひょっとして大崎先生もなの? 困ったわねぇ」
 今日の担当は、園長先生、大崎先生、鈴森先生、詩織の4人。鈴森先生が急な予定でお休みになり、3人で子供達の相手をすることになったのだが――
 30分ほど前に大崎先生あてに電話がかかってきたこと、急な用事で外出しなければならなくなったのでお願い、と伝言を頼まれたことを説明すると、園長先生はむぅ、と眉を寄せて考え込んでしまう。
 どうやらこちらも、相当に大切な要件のようだった。
「そうなの……。どうしようかしら……」
「……あの、もしお急ぎのご用事でしたら、行ってきてください。ちょっとくらいならわたし一人でも平気ですから」
「ええ……? でも、流石に悪いわよ、詩織ちゃんに任せっきりなんて」
「そんな、遠慮なんかしないでください。私にできることなら、やらせてもらいたいです」
 そうやって切り出した詩織に、園長先生はしばらくためらった後、申し訳なさそうに答えた。
「……ごめんなさいね……、本当に悪いんだけれど、詩織ちゃんにお願いしてもいい? すぐに戻ってくるわ」
「はい、任せてください!!」
 ぐっと胸を張り、詩織は答える。それを見て園長先生はふっと表情を緩め、席を立った。
「あなたも、もう立派にこのあさがお園の『先生』なのねえ。うふふ、なんだかとっても頼もしいわ」
「あ……」
 園長先生の言葉に、詩織の胸がそっと高鳴る。褒めてもらえる、頼ってもらえる。それは詩織にとって何よりも嬉しいことだ。
 ちゃんと、一人の――『先生』として。その信頼を得るため、失ってしまったものを取り戻すため、詩織は懸命に頑張ってきた。
「あ……ご、ごめんなさい! ちょっと言いすぎました。まだまだ半人前なのに」
「いいのよ。そんなに謙遜しないで。あなたのおかげで本当に助かってるわ。みんなもあなたのことを慕ってくれているしね。……じゃあ、お願いしてもいいかしら」
「――はい!!」
 しっかりと、笑顔を浮かべて頷いて。
 詩織は部屋を出てゆく園長先生を見送り、そっと椅子から立ち上がる。
「さあ、早くしなきゃ……みんな待ってるしね」
 いつまでも大崎先生ひとりだけに任せておくわけにはいかない。詩織は急ぎ足で更衣室へと向かい、自分のロッカーを開ける。
 あさがお園での日々は思わぬ汚れとの戦いだ。元気いっぱいの子供達はまるで怪獣。付き合っていると、一日に何回服を汚され、着替える羽目になるかわからない。そのために先生達には共用の制服が用意されているし、詩織もたくさん着替えを用意していた。
 はず、だったのだが――
「えっと……あれ?」
 ロッカーの中は妙にがらんとしていた。
 内部を探る手に物足りなさを感じ、詩織は慌ててロッカーの中を覗きこむ。そこにぎっしり詰まっていたはずの着替えはほとんど底をつき、ジャージの上着と替えのエプロンだけしか残っていなかった。
「あ……そっか…」
 昨日の夕方、別の子供達と一緒に泥遊びで汚してしまい、上下着替えたばかりだったのだ。
 その前に教室の中でお遊戯をしていた時に元気のいい男の子に袖を引っ張られ、カーディガンがほつれてしまった。あと一式あると思っていた着替えは、もうその一部だけしか残っていない。
(……えっと……)
 塗れた下半身を無意識にさすりながら、詩織はその場に立ち尽くす。着替えようにも服はなく、かといって下半身は水浸しの泥だらけ。
 冷たく湿って肌に張り付く布地はお世辞にも快適とは言えないし、子供達の相手をするのにこのまま不衛生な格好でい続けている訳にもいかない。
(ど、どうしよう……)
 先生達の留守をひとりで与ることになった新米見習いの『しおり先生』は、突如訪れた予想外の事態に直面し、ロッカーの前で困惑を隠せなかった。
   ◆ ◆ ◆
(……ううぅっ……なんか、すかすかするよぉ……)
 結局。詩織は完全に着替えることを諦めるしかなかった。被害が壊滅的だったジャージと下着だけを脱いで洗濯機に放り込み、先生達の共用の私服である丈の長いスカートを身につける。
 自分のものではないスカートは、先生たちの古着のひとつらしく、あまり活動的とは言えないものだ。
 どうにも足元が落ち着かないが、贅沢は言っていられなかった。エプロンを上から付けて、なけなしの補強とする。
 替えの下着は見つからず、下着は脱いだまま――つまり、詩織のスカートの下は生まれたままのすっぽんぽんである。スカートの裏地が直接下腹部に触れるたび、ひやりと風が脚の間を通り抜け、妙な不安感がどうしても拭えない。
(……はぁ……)
 ガチャリ、ロッカーを締めて更衣室を施錠し、詩織は歩き出した。
 胸の中で大きく溜め息。落ち着かない足元を庇うように、そっとスカートのお尻を押さえる。
 普段、あさがお園での仕事のためを考えて詩織は下着に活動的なショーツを選んでいる。しっかりした布地の感触は子供達と一緒に走り回る時にも心強さを与えてくれていた。それがなくなってしまったことで、急に自信まで失われてしまったかのような錯覚まで覚える。
 しかし、いくらなんでもあんな泥まみれになったショーツを穿いたままでいる気にはなれなかったし、かといってほかに穿くものはない。
 頼りない足もとの感触に、なんとなく地面までもがふわふわとしているような違和感まで覚えてしまう。長いスカートが覆い隠しているとは言え、その内側では大切なところがすっかり丸出しという状況は、女の子にとって危急存亡の秋といっても過言ではないのだが――
(たぶん、お洗濯なら2時間くらいで乾くし……それまで我慢しよ……)
 幸いと言うべきか、不幸にもと言うべきか。理由あってまだあまり異性というものを意識していない詩織にとって、それが重大事であるという認識は薄かった。小さな頃から子供達と触れ合う毎日であり、純真な彼らに囲まれていたこともその理由のひとつかもしれない。
 ここには子供達しかおらず、少しくらいならきっと平気だろう、という甘えもあったことも否めない。
 それがどんな結末をもたらすか、考えを巡らせることもせずに。詩織はこの事実をあまりにも軽く捉えすぎていたのだ。
 ――そして。
 詩織を見舞う災禍、その予兆となるべきものは、前触れもなく唐突に訪れる。
 ぶるるるっ……
「あ……っ」
 不意に、足元から込み上げてきた感触に、詩織は軽く身をよじった。きゅんと下腹部を伝播する甘く鈍い痺れ。脚の付け根に響く切ない感触。
(うぅ……。濡れたままでいたからかな……そういえば、さっき結構お茶も飲んじゃったし……)
 恥骨をじんと震わせるくすぐったいような痺れに、詩織はその場で腰を揺すった。
 水たまりの上に転んだあと、詩織は子供たちの世話を優先していたせいですぐに着替えることができなかった。きっとあれで腰を冷やしてしまったのだ。休憩時間に大崎先生の差し入れてくれたお茶が美味しくて、何倍もお代わりをしてしまったことも思いだされる。
(……トイレ……っ)
 長いスカートが揺れ、さらりと剥き出しの腿を撫でる。その下で何も身につけていない少女の下半身が、敏感に反応を拡大した。
 高まりはじめた尿意に、詩織はわずかに顔を赤くした。
(……まだ、大丈夫だと思うけど……)
 下腹部をじいんと伝う『お手洗いの欲求』の具合を確かめつつ、詩織はそそくさと方向転換した。子供達の呼び声を背に歩き出す。
「でも、やっぱり今のうちに行っておいたほうがいいよね……」
 このまま表に出たら、また子供達の取り合いにあって動けなくなってしまいかねない。先に用を済ませておくに越したことはないと、詩織は洗面所横の共用トイレへと足を向ける。
 が。
 まるでそれを見咎めるようなタイミングで、廊下に子供達の声が響いた。
「あーっ、お姉ちゃんいたー!!」
「なー、どこ行ってたんだよー! はやくはやく!!」
 リョウタとアカネ。ついさっき、詩織の手を引っ張っていたふたりだった。
 まっすぐに走ってきたふたりは、右と左、図ったように同じタイミングで詩織の身体にぴょんと飛び付く。
「ちょ、廊下は走っちゃ……きゃんっ!?」
「ねえ、おねえちゃん行こうよ、はやく、ねえはやく!!」
「わ、わあ!? ひ、引っ張らないでってば!! す、スカート握っちゃダメ!!」
 同時に左右から、かなりの力で両手を引かれ、詩織は倒れるのをこらえるので精一杯だ。
 どうやらアカネもリョウタも、詩織がいちど事務室に引っ込んでいるあいだもだいぶあちこちを探しまわっていたらしい。二人はすっかり待ちきれない様子で詩織をせかすように玄関の方へとぐいぐいと手を引っ張る。
 その下には何も身につけていないスカートの裾を掴まれ、さすがに焦った詩織は慌ててエプロンの上から布地を掴む。
「え、ええと、リョウタくん、アカネちゃん、ちょっと待って……!」
 ちらり。わずかに脳裏を掠める不穏な気配。このままじゃまずい、わけもない強い予感と共に、詩織はぐっとその場に脚を踏ん張り、二人を呼び止めるように声をかけた。
「ねえ、まって! 先生ね、ちょっと先に、お手洗いに行きたいの……!」
 振り返った二人に視線を合わせ、言い含めるようにゆっくりと。
 真摯にその目を見つめて、口にしたその言葉は――
「そんなのいいから!!」
「そうよ、お姉ちゃんなんだからガマンしてよ!! ねえ早く!!」
 想像以上にあっさりと無視された。彼らにとって、詩織の都合など気にしている場合ではないらしい。
「い、いいからって……きゃあっ!?」
 あまりに勢いよく遮られ、呆気に取られてしまった詩織を、二人は力を合わせて玄関へと引きずってゆく。
「ひっ、引っ張らないでってば、危ないからっ!」
「先生、こっちこっち!」
 たとえまだ小さな子供でも、なにかに夢中になっている時のエネルギーはすさまじい。
 まして両手を掴んで二人がかりなのだ。詩織はずりずりと引きずられるまま、広間から続くベランダへと引っ張り出されてしまう。
 庭に面したベランダは、すでにたくさんの子供達が騒がしくも楽しげに遊んでいた。
「ほらおねえちゃん先生、これ、これ見て! ねえ、こっちだよ!! もう、遅いってば!!」
「わぁ!? あ、アカネちゃん、引っ張ったら危ないんだから……っ!」
「ちがうのー! ほら、おねえちゃんはやく!! 早くしてよぉ!!」
「あ、あのね、だからリョウタくんもちょっと待って……きゃぁっ!?」
 躓きかけた爪先がサンダルを履くやいなや、二人は見事なコンビネーションで詩織の両手を掴み、そのまま表へ走りだす。バランスを崩しかけながらも、詩織はどうにか転ぶのをこらえて二人に付いてゆくしかない。
(うぅ……しょうがないや、ちょっとの我慢だもん……)
 あまりに強引な様子の二人に、とうとう詩織も諦めざるを得なかった。それに、こうまでしてふたりが『しおり先生』を急がせ、一緒に過ごしたがっているのを無視するのはなんとなく気が引けてしまう。
 じん、と、じわじわ重みを増していくように感じられる下腹部に、後ろ髪を引かれながらも。
 詩織はリョウタとアカネに引っ張られるまま、あさがお園の庭へと出た。
 ▼ 2
「ね、ねえ……リョウタくん、ちょっといいかな……」
「あー!! しおり先生立っちゃだめ!! ほら、ちゃんと持ってて!!」
「え、えっと、その……」
 あれから30分あまり。詩織は子供達に囲まれたまま身動きが取れずにいた。
 園内の庭にあるすべり台付きの砂場では、リョウタたちのグループと、アカネたちのグループがそれぞれに大好きな『しおり先生』の取り合いっこをはじめている。
「次、次こっちだからね! しおり先生っ!」
「まってよ、まだ終わってないんだぞー!」
「んっ……わ、わかったから、順番ね。ふたりとも、順番をきちんと守ってね……?」
(うぅ……っ)
 元気いっぱいに走り回る子供達の間、前屈みになった姿勢に、エプロンとスカートの端を折り込んで。ぎゅっと寄せ合わされた詩織の膝は、落ち着きなく左右に擦り合わされていた。
 リョウタとアカネの二人が詩織に見せたがっていたものは、あさがお園のみんなで協力して築き上げた砂のお城だった。普段のお遊戯の時間にできるものとはひと味もふた味も違い、砂場の砂を全部かき集めて作られたお城は威風堂々の6階建て。一番上の屋根のてっぺんは詩織の腰近くまである大きさだ。
 子供達にしてみればそれこそまるで見上げるような高さなのだろう。みんなはお城のあちこちにミニカーを走らせ、お人形を並べて楽しそうに遊んでいる。
 どうやらリョウタとアカネはこのお城の建造の発案者らしかった。『しおり先生』のやってくる日を楽しみにして、一緒に遊ぶためにみんなが力を合わせて作り上げた大きなお城。子供達はすっかり夢中になって詩織の服の裾を引いては声をかける。
「はい、お姉ちゃんっ、これっ!!」
「あ、ありがとう……」
 おままごとをしている子供から泥団子を受け取り、詩織はお礼を返す。ちゃんと『もぐもぐ』と食べるフリをしてあげなければいけないが、下半身を襲う切羽詰まったざわめきのせいで、少女の返事はどこか上の空だ。
(や……ま、また、来ちゃうっ……!)
 ごぽり、湧き上がるイケナイ感覚が少女の下腹部へ押し寄せる。脚の間に巻き込んだスカートのお尻が、ぎゅうっと強くかかとに押しつけられた。
 そわそわと落ち着きなく揺すられる腰。小刻みに足踏みを繰り返す爪先。何度となく、建物の方を窺う視線。
(っ……どうしようっ……)
 端から見れば詩織の様子は明らかにおかしい。不幸な偶然によってスカートの下に下着を身につけていない事の不安ももちろんあるが、それ以上に詩織を困惑させていることがあった。それは――
(と、トイレ、トイレ行きたい……っ!)
 下腹部を執拗に刺激する、強い尿意。
 あれからわずか数十分。見る間にその存在感を増した排泄欲求は、少女の下半身を執拗に責め苛んでいた。
「ん……っふぅ……」
 自然と荒くなる息を抑え込み、詩織の唇がぎゅっと噛み締められる。
 砂場の上にしゃがみこんだスカートのおしりは、落ち着きなくもじもじと揺すられ、左右にくねる腰の動きは徐々に大きくなってゆく。
(だ、だいぶ、辛くなって、きちゃった……っ)
 脚の付け根にぐっと力を入れてみたり、さりげなく肘のあたりでおなかをさすってみたり。
 少しでも下腹部に負担をかけないよう、詩織はしゃがみ込んだ姿勢の微調整を繰り返しながら、断続的に押し寄せる尿意の波を懸命にやり過ごしていた。
「っ、んぅ……っ」
 きゅうん、下腹部に膨らむ水圧が増し、刺激は閉じ合わされた脚の付け根の奥にまで伝播する。おんなのこの出口を内側からノックするイケナイ刺激に、詩織は思わず喘ぎ声を漏らしかけた。
 すでにかなりの水量を蓄えつつある少女の恥骨上のダムへ、また恥ずかしい液体がこぽこぽと音を立てて注ぎ込まれてゆく。
(な、なんで、ッ、はぁぅっ……こんな、急にぃ……っ)
 庭に出る前から、軽く尿意を覚えていたことは確かだ。しかし、こんなにも急速にそれが強まるなんて予想もしていなかったのだ。
 いつもなら、まだこれくらい、全然、大丈夫なはずなのに。戸惑う心とは裏腹に、下腹部に膨らむ水圧は、加速度的にその存在感を増してゆく。
「っ、はぁあっ……」
 もぞりと揺すった腰の動きに合わせ、詩織のおなかの中でたぷんっ、と大量の熱湯が揺れ動く。
 まるで、おなかの中におしっこのポンプができてしまったかのよう。
 ダムに地下水を吸い上げるがごとく、詩織のおなかのなかでは、汲み上げられた羞恥の熱湯が刻一刻と水量を増し続けていた。
「……ね、ねえ、アカネちゃん? あのね、先生、ちょっとご用事があるんだけど……」
「せんせぇ! ねー! ほら、今度はしおりせんせぇの番だよっ!! ほらあ、はやくー!」
 席を外そうとして詩織が腰を浮かしかけるたび、リョウタとアカネは目ざとくそれを見つけて大きな声でそれを制した。大好きな先生がどこかに行ってしまわないように、子供たちは口々に声をかけ、次はボク、次はわたしとその周りに集まってくる。
「じゃあ次ね、次!!」
「まって、あたしのが先よぉ!!」
「ちがう、ボクだよぉ!!」
「ずるいよ、わたしもー!」
 園長先生をはじめ他の先生達がいないこともあって、子供達は全員詩織の元に詰めかけるばかりだ。大勢の子供達に囲まれて、無理矢理その場にしゃがみ込まされてしまい、詩織は思うように身体を動かすこともできなかった。
「じゅ、順番だよ、順番っ……! ね、ねえ、そんなに押さないで……んあぅ……っ!」
 女性保育士の大きな悩みにしてトラブルの原因となるひとつに、トイレの問題があることをご存じだろうか。
 預かる子供達の――ではない。それらも勿論大切なことではあるが、この場合は保育士自身のトイレについての話だ。
 排泄にまつわる問題は、この職業に関わる女性達の大きな悩みである。人手不足のこの業界、少ない人数で多くの子供達の面倒を見ねばならない。忙しなく走り回る子供達からはひとときも目を離すことはできず、ただでさえ山積みの仕事は忙しさを増す。
 わずかな休憩時間すら自由になることは稀で、当たり前のように半日、ひどい時は十数時間、トイレに立つ暇も与えられないことも多いという。
 彼女達の職業病のひとつに、膀胱炎があるというのも当然と言えよう。それほどに、この職業にあってトイレ我慢というのは切実な問題なのである。
 詩織もまた、未来の保育士のタマゴとして、その苦難に直面していた。
「んぅ……っ」
 スカートの下、なにも穿いていない剥き出しの下半身。その閉じ合わされた脚の付け根の奥、女の子の部位が、高まる尿意に連動するようにきゅんと疼いて、ひくひくと震えはじめる。
「っ……だ、っ」
(ダメぇ……ッ!!)
 スカートの裏地に押しつけられる剥き出しの素肌、何も覆うもののない股間。そこが敏感に反応するのを感じ、詩織はぎゅっときつく腿を寄せ合い、懸命に膝を擦り合わせる。抑えきれない尿意の波が振動になって、少女の腰を左右にクネらせた。
「はぁ……っ、ふぅ……っ! ……ぅくっ……うぅっ、はぁ、ぁあ……っ」
 エプロンの裾を押さえて、さりげなく脚の付け根をしゃがんだかかとに押し当てながら。ぐりぐりとそこに体重を乗せ、詩織は口元を押さえた手のひらの下で熱い息をこぼす。額にはわずかに汗が滲み、口の中はカラカラだ。
 まるで全身の水分が絞り取られて、身体の一か所に集まっていくかのよう。
「っ……」
 そんな少女のスカートの奥では。ぎゅうっと寄せ合わされた太腿が、なんども強く押し付け合い、擦り合わされている。
 そっとエプロン越しに確かめた下腹部の感触は、砂を詰め込んだかのように硬く、張り詰めた水風船は身体の外側へとせり出しはじめている。
(や、やだ。っ……こんな、なんで……っ、なんで……こんな、急に、おトイレ……っ)
 それでも。切っても切れない悩みであるからこそ、詩織は今日のこの日まで、そのための備えを欠かしたことはなかった。
 3年前のあの日、バス遠足で衆目に晒してしまった屈辱の姿、地獄のような羞恥。詩織はそれを二度と繰り返さないように、懸命に努力を重ね、厳しい特訓をしてきたのだ。
(へ、変だよ、っ、これくらい、いつもなら、まだ全然、がまん、できる、はず、なのにっ……)
 もう、トイレのことで、おしっこのことで、決して恥ずかしい目に遭わないように。詩織は徹底的に排泄のトレーニングを続けてきた。
 辛く苦しい日々の中、少女は並々ならぬ努力で『そこ』を鍛え抜き、ついには一日中トイレに行かなかったとしても平気でいられるほどになった。
 いまや詩織は、並の成人女性の平均値と比較しても、遥かに大きな保水量を誇るダムと――鉄壁の防御を誇る強靭な水門を身につけていた。
 だから。ほんのついさっき――学校を出る前にきちんとトイレに入ったはずなのに。こんなにもすぐに脚の付け根のダムが『限界』を訴えるなんて、詩織には想像もつかないことだったのだ。
「んぅう……っくぅっ」
(だ、だめ……っ、ど、どんどん、辛くなってきちゃう……ッ)
 気のせいではないか、勘違いではないか。何度もそう思おうとする詩織だが、高まる尿意は一向に収まる様子がない。
 普通なら、ある程度の欲求の『波』――“したい”と“そうでもない”の振れ幅があるはずなのに、いま詩織の下腹部を襲う尿意は、まったく休みなく際限なく高まり続けているのだ。
(ど、どうして、っ、こんな……っ)
 詩織の想像を遙かに超える速度で、急激に高まり続ける尿意。まったくの予想外のこの状況を生み出した原因は、詩織が数時間前に口にしたお茶であった。
 大崎先生が家から持ってきた、美容にいいという触れ込みの健康茶――体内の老廃物の代謝を促すというこのお茶は、その実、健康食品として扱うことが怪しいほどに猛烈な利尿作用を備えたものであったのだ。
 通常、一般的な女性であれば、コップに半分もこれを口にすると、わずか数十分後にはたちまちトイレに駆け込む羽目になる。それも、一度ではなく何度も。
 『しおり先生』のお仕事のため、学校帰りの道を急いでやってきた詩織は、これを喉が渇きに任せて何杯もがぶ飲みしてしまったのだ。
 健康茶の利用作用は、思春期の少女の身体に覿面に効果をもたらし、摂取からわずか1時間で詩織の下腹部のダムは危険水域を迎えつつあった。
(……で、でちゃう……っ、そんな、うそ……っ、っくうぅ……っ、こ、これくらい、がっ、我慢っ、できるはず、なのにぃ……っ!)
 きつく噛み締められた奥歯が震える。
 スカートを挟むように激しく擦り合わされる内腿。しかしその閉じ合わされた奥底で、少女の『おんなのこ』の部位――乙女の花弁がぴくんと震え、際限なく高まり続ける内側からの水圧に、ぷくっと押し上げられてゆく。
(あ、っ、だめ、だめぇ……っ、で、出ちゃダメ、だめぇ……っ!! っっ、くううぅう……っ!)
 まるで、ぐらぐらと中身を沸き立たせるティーポットを、なおコンロの火にかけているかのような、もどかしくも激しく切ない尿意。ポットの口ぎりぎりまで注がれた羞恥のレモンティーは激しく沸騰し、いまにも『注ぎ口』から吹きこぼれてしまいそうだ。
「んぅうぅうう…っ!」
 きつく唇を噛み締め、詩織は自分の意志とは無関係にヒクつきはじめる排泄孔を、エプロンの布地の上からぎゅっと押さえつけた。
 スカートの奥で膨らむおしっこの出口を押さえ、水圧でぱんぱんに張り詰めた下腹をそっと優しく擦るようにしてなだめる。
 砂場の上、しゃがみ込んだ姿勢のままわずかに前屈みとなり、後ろに突き出したおしりをクネクネと左右に揺すって、詩織は浅く息を繰り返し、危険水位を突破しつつあるダムの決壊を懸命に防いだ。
「はぁ……っ」
 そうして、しばし。
 我慢の綱引きののち、なんとか小康状態を取り戻した下半身に、安堵の息をこぼす詩織。
 この事態を解決するためには、とれる手段はひとつだけ。とにかく一刻も早くトイレまで戻ることである。それ以外に助かる方法はないのは明白だった。
(っ……だ、だめ、トイレ……っ……お手洗い、っ、早く、……、はやく、しないとっ……!)
 詩織の脳裏を、かつての惨劇の記憶がよぎる。足元を濡らす雫、迸る水流、たっぷり水を吸って肌に張り付く布地、噴き出す熱湯、びしょ濡れになる下半身。
 もう二度と、二度と、あんなコトはあってはならないのだ。……絶対に、絶対に繰り返してはいけない。
「ご、ごめんなさい、みんな、ちょっと待って――」
「しおり先生! なにやってるの!?、ほらぁ、早く!!」
「ねえせんせい、そんなのよりこっち来て! こっちだってば!!」
 しかし、目を輝かせる子供達が四方から詩織を奪い合うようにエプロンを掴み、放さない。みんな大好きな『しおり先生』と一緒に遊びたくてたまらないのだ。リョウタなどは詩織の腕を掴み、そのままぐいぐいと引きずっていこうとする。下手に拒絶すれば、大騒ぎに発展しかねない。
(っ……ま、まだ、先生、戻ってこないの……?)
 せめてもう一人、先生が遊びに参加してくれれば抜けだすチャンスもあるというのに。何度も正門の方を窺う詩織だが、しかし少女の絶体絶命の窮地にも関わらず、助けが駆け付けてきてくれる様子はなかった。
(だめ、しっかりしなきゃ、わたし一人でも、ちゃ、ちゃんと留守番できるって、言ったんだし……っ……んぁあぁあ……っ!)
 救援の様子が無いことに酷く落胆しながらも、努めて、尿意のことは考えないように使用とする詩織だが――
 膀胱をパンパンに膨らませ、腰の上のダムの中でたぷんっ、たぷんっ、と揺れ動くおしっこの存在感はあまりに重く、忘れてしまえるはずがない。
 何度考えまいとしても、腰骨に響く甘い痺れは、避けられない決壊の瞬間を思い起こさせるばかりだった。
(んっ、んんぅ……っ、はぁあっ……)
 遠くない爆発の瞬間をせめて少しでも先延ばしにしようと、詩織はサンダルのかかとでぐりぐりと地面に押し付ける。
 軽く腕をつねって痛みでごまかそうとしても、おなかの底、たった一つの出口である水門へとにずっしりとかかるおしっこの重みは消えてくれない。
「ね、ねえっ、まって、わたし……っい、先生ね、お、おトイレが――」
 焦る心と共に。詩織が語気を強めて、尿意を口にしようとした、その時だった。
 庭に面したあさがお園の建物。開け放たれていたベランダのガラス戸の向こうから、来客を告げるチャイムが響く。
「っ……、」
 詩織の脳裏を、電流のように思考がひらめいた。左右を取り囲む子供たちを押しのけるようにして、少女はその場に立ち上がる。
「ご、ごめんね! ちょっとどいて! お、お客さんが、来たみたいだからっ!」
(っ、や、やった……っ!)
 まさに、千載一遇のチャンス。この場を離れて、用事を済ませに行くための格好の口実。
 これで、これでおトイレに行ける。おしっこできる。もう我慢しなくても大丈夫だ。
(おトイレ、おしっこ……っ!)
「せ、先生、行ってこなくちゃ! みんな、しばらくここで遊んでてね……! 外に出たり、ケンカしちゃダメだよ!? いいね!?」
 子供たちに短く言い聞かせ、詩織は踵を返して建物の中へと走り出した。
 くねくね、もじもじ、はっきりわかるくらいに膝を震わせ、腰を揺すり、突き出したおしりを左右によじりながら。
 ――先生、これからおトイレに行って来るね!
 ――先生、オシッコしてくるからね!
 来客なんて口実だ。ご用事なんて嘘だ。足早に立ち去る詩織の背中は、もはや少女のオシッコ我慢が限界であることを力いっぱい主張していた。
   ◆ ◆ ◆
 来客は、園の生徒の一人であるシズカの保護者だった。銀縁の尖った眼鏡に濃い化粧をした彼女はシズカの大叔母に当たるという。確か、ここしばらくシズカは家の事情であさがお園をお休みしていたはずだが――
「……ねえ、あなた?」
「は、はいっ」
 明らかに『おばさん』然とした彼女は、玄関にかけつけた詩織を見るなり、露骨に不審そうな線を向ける。じろじろと遠慮なく睨みつけ、初対面でなお不満を隠そうともしない態度は、詩織が苦手にする類の相手だった。
「あなた、どなた?」
「あ、あの、私、前原と、いって……、こ、ここの、お仕事のお手伝いを……っ」
「ふうん。……見たところ随分とお若いようだけど、ここの先生なのかしら?」
「い、いえっ、あの、私は、お手伝いをさせてもらっているだけで……っ」
 応対をしながらも、詩織の意識はすでにこの場にはなく、背後の通路の突き当たりにある洗面台、その脇のトイレの個室の中へと飛んでいた。少女の本能は白い清潔な洋式便器に腰を下ろし、思うさま黄色い水流を噴射する光景を思い描く。
(っ、トイレ……ッ、早く、トイレ……っ)
 一刻も早く用事を済ませて、今すぐにもトイレに駆け込みたい。おしっこをしたい。おしっこがしたい。
 そう思い、足踏みを堪えながら訊ねる詩織だが――
「あ、あの、どんなご用事で――」
「それよりも。先生はいらっしゃらないの? あなた、お手伝いなんでしょう? わたくし、うちのシズカちゃんのことでこちらの先生にご用事がありますの」
「え、ええとっ……」
 きゅうんと下腹部で尿意が膨らむ。強烈な利尿作用が、恥骨の上のダムに恥ずかしい熱湯を汲み上げ続ける。
 伸びきった膀胱が猛烈な水圧で脚の付け根へ吹き出しそうになる水流を、鍛えた括約筋で辛うじて押し留め、詩織は口の中につばを飲み込んだ。
「あ、あの、今、ちょうど園長先生も、みんな、ちょっと留守にしていて……」
「……なあに? それ」
 説明しかけた詩織を制するように、女性の低い声がそれを遮る。ぎろり。細い銀縁のレンズの向こうで、女性の視線が険しさを増した。
「ちょっと、どういうことかしら? ねえ、ここってあさがお園でしょう? あなた、ただのお手伝いなのよね? 先生が誰もいないのに、よそ様のお子さんをお預かりしていていいの?」
「え、いえ、そのっ、違います! いつもは居るんですけど、今日はたまたま――」
「なによそれ、ちょっと、無責任じゃないの! どうなってるのかしら!? たまたまで済むとおもってるの?! どうして先生が誰もいないのかしら!? ここの先生たちって、子供たちを放り出して遊びに行ってるってこと!? あなたみたいな何もわからない子に押し付けて!? どうなってるのよ、一体!」
 女性は激しくまくしたてながら、自分の大声でさらに興奮していく。誤解を勝手に補強し、さらに推測を重ねてそこに勝手に怒る一方的な様子に、詩織は首を振るので精一杯だ。
「ち、違いますっ、わ、私、いつもここで――」
「いつも!? ねえ、なによそれ、いつもあなたに任せっぱなしってこと!? ちょっと……なんなの!? どういうこと!? ねえ、これって大問題よ!? あなたみたいな子じゃ話にならないわ! はやく先生を呼んできて頂戴! ……ほら、はやく!」
「そ、そうじゃないです、園長先生、大事なご用事があって、お出かけしている間、私が――」
「ねえ、あなた、じゃああなた! 私の用事がわかるのかしら? どうなの!?」
「ひぅっ……」
 いきなりすごい剣幕で怒鳴りつけられ、詩織はたまらず身を縮めた。喉の奥がひゅっと息を吸い込む。ぞくり、緊張に強張る脚の付け根が不安定に揺れる。
 大きなため息とともに、女性はいらいらとその場に腕を組む。
「……ちょっと、どういうことなの? こんな酷いあさがお園に、うちのシズカちゃんを預けてるなんて……!」
「で、ですからっ……」
 震える唇を湿らせ、どうにか説明を始める詩織。だが一度ヒートアップした女性は全く聞く耳を持たなかった。詩織の言葉を一方的に遮っては、理不尽な言いがかりとしか思えないことを次々まくしたてる。
「じゃあ、なあに!? 正式な資格もないのに、あなたが子供たちのお世話をしてるってこと!? ちょっと……どういうことなの、なんなの、このあさがお園……!!」
「い、いえ、だからそれは……っ」
「何が違うの! あなたまだ学生でしょう!? それを無理矢理働かせてるの? ねえ、それって犯罪じゃないの!? ちょっと……どうなってるのよ!」
「だ、だからっ……」
「なによ! ねえ、あなた! 口答えできる立場だと思ってるの?!」
「っ、あ……ぅ……」
 加えて、下腹部に切羽詰まった尿意を抱えた詩織では、思うように思考がまとまらず、言葉も出てこない。
 強烈な言葉に晒されて、委縮した少女の下半身は、先程にもまして猛烈な尿意に晒されていた。
(あ、っ、あ、だ、だめ、っ、だめぇ……っ)
 皺の寄せられたエプロンの下、ひっきりなしに太腿が擦り合わされ、覚束ない手のひらが、さすさすとお股をさする。
 異常なほどの速度で高まり続ける尿意と共に、もう一つの事実が詩織を戸惑わせていた。
(っで、でちゃ……っ、でちゃ、ぅ……ッ)
 でちゃう。でる。おしっこが、でる。
(と、トイレっ、トイレ、といれ、はやく、おしっこっ、トイレ、だめっ、トイレ、といれぇ……ッ!)
 下着を穿いていない、ということ。
 ――それが、どれほど尿意の、排泄の呼び水となるのかということだ。
 股間を覆い包むたった一枚の布きれ。大した締め付けも圧迫感もない、柔らかく清潔な布地。しかし、それが無いというだけで、少女の下半身はこうも容易く尿意に屈し、しゅるしゅると水門を緩めて熱い雫をほとばしらせそうになってしまう。
 汚れてしまったソックスやタイツを脱いでいたのも災いした。無防備なスカートの中、素裸と同じ状態の詩織の下腹部は、わずかな外気が触れるだけでぞくぞくと震え、ますます生理現象を加速させていく。
「ちょっと! 聞いてるのかしら!?」
「は、はぃぃ……ッ」
 あさがお園の建物を震わせるほどのキンキン声。大声で怒鳴りつけられ、詩織はその場に伸び上がった。
「なあに……? ちょっと、なんなの? ねえ、本当に、どういう教育をしているの、この園は……? あなた、人と話す時はちゃんとこっちの顔をみなさいッ!」
「っ……あ、あのっ」
「勘弁して頂戴……こんなみっともない子に、うちのシズカちゃんが教わってるの? ねえ、なんなのあんた、さっきからそわそわして……そんなにあたしの話が聞きたくないのかしら!?」
「そ、っ、そう、じゃっ」
 そうじゃない。そうではない。
 詩織はただ、オシッコがしたいだけだ。健康茶の凄まじい利尿作用によって猛烈に膨らみ続けるおなかの中の水風船を空っぽにしたい、それだけだ。
 出口を閉ざされた乙女のダム、そこに一方的に注ぎ込まれる羞恥の熱湯。膨らみきった膀胱はさらに膨らみ、少女のおなかの中には収まりきらずに身体の外へとみっともなくせり出してゆく。
 内臓を圧迫してせり上がる水風船は、呼吸にすら反応して尿意の呼び水とした。ぜいぜいと荒げる息に連動してスカートの下、剥き出しの脚の付け根に響くイケナイ誘惑。じんじんと疼く甘いむず痒さ。
 おしっこ、トイレ。オモラシ。それ以外のことが、考えられなくなっていく。
「っぅう……っく、はああっ……」
「ねえ、さっきから一体なんなの? 全然わからないわよ! 声も小さいし聞こえないし! あなた、それでもここの先生なの? ねえ、違うの? はっきりしなさいよ! あなたがそんなだから、うちのシズカちゃんが園に行きたくないなんて言い出したんじゃないの? ちょっと、聞いてるのかしら!?」
 機関銃みたいに次々にぶつけられる一方的な言葉。
 今すぐこのおばさんをドアの外に締め出して、背後のトイレに駆け込み、白く暖かな保温便座に思いっきり腰かけて、ぶじゅぁあああああっと溜まりに溜まったおしっこを噴射させたい。
 スカートの裏地に擦れる剥き出しの股間、下着を身につけていない下半身は、今にもぷくりと乙女の花弁を押し開き、『ぶしゅうっ』と熱い雫を迸らせそうになる。
 中腰になり、後ろへ向けておしりを突き出し、くねくねと激しく揺すりながら、詩織は懸命に、排泄の誘惑に抗う。
(ぉ、おしっこ、トイレ、っ、おしっこっ、おしっこ、でる、でちゃう、でちゃううぅっ…ッ)
 おしっこがしたい。トイレがしたい。
 もう、我慢できない。漏れちゃう。出ちゃう。熱く疼く股間の先端がひくひくと震え、閉じ合わされた『おんなのこの部位』がだらしなく緩みそうになる。グラグラ湧き立つ羞恥のホットレモンティー、今にも噴きこぼれそうな恥ずかしい水圧に負けて、脚の付け根の水門が押し破られそうになる。
 でも。詩織は、園長先生たちの留守を任されたのだ。ちゃんとその仕事を果たさなければいけない。
 みっともない格好を晒すことなく、きちんと自分の仕事をしなければいけない。
 あまりに一方的で、身勝手な、理不尽な言い分とは言え。大滝あさがお園が誤解されたまま、大きな問題にさせてしまうわけにはいかない。そこで先生としてお手伝いする詩織のせいで、そんなことがあってはいけない。
 だから、詩織は――玄関の前、小刻みに足踏みを繰り返しながら、すりすりとお股をさすりたくなるのを懸命に堪え、左右に譲られる身体を押さえ込んで。
(だ、大丈夫、が、がまんっ……がまんしなきゃ……っ、お、おしっこ、大丈夫っ……ま、まだ、ガマン、出来るから……ッ!)
 一人前の保育士さんになるために。あんな恥ずかしい思いは、もう二度と繰り返さないように。
 トイレのことで、オシッコのことで困らないように、詩織は必死に特訓したのだ。そのために、どれだけオシッコがしたくっても平気になるように訓練した。
 恥ずかしい格好なんかしない。みっともないことはしない。まだ大丈夫。ちゃんと我慢できる。おトイレ、行かなくても平気。
 そうやって、自分に言い聞かせながら。
「あ、あの、私は……っ」
 火の付いたように怒り叫ぶおばさんの誤解を解き、訳を説明し、きちんと納得してもらうまで。
 詩織は、喉の奥に悲鳴を飲み込んで、オシッコを我慢し続ける。
 ▼ 3
「じゃあ、これで帰るけど……くれぐれも、園長先生が帰ってきたらすぐに連絡してもらうようにしなさいね! わかったわね!?」
 結局。その怒りのほとんどは収めてもらうことはできなかったが――とにもかくにも一応の理解を得られ、最悪の誤解は解くことができた。
 帰ってゆくおばさんを見送り――詩織はそのまま壁にもたれかかるように倒れ込む。
「はぁああっ……ぁくうぅ…っ」
 おばさんの前ではできなかった、猛烈な足踏み――エプロンの根元をきつく握りしめ、さすさすとお股をさすりながら、押し寄せる猛烈な尿意の波を押さえ込む。
(っぁあああッ、と、トイレっ、トイレトイレおしっこ! 
おしっこ出ちゃう、でちゃううぅッ! ……ひぐっ、んぅ、んうぅううぅあぁああッ……!!)
 激しく身悶えしながら、詩織は玄関を施錠し、ふらふらと通路のほうへと向き直った。
 とりあえず、どうにか迫る事態は過ぎた。これで――これで、トイレに入れる。おしっこができる。
 もう、誰も邪魔をしない。おしっこをしてもいいのだ。
「と、い、れ、ぇっ……!」
 両手でエプロンの前を握り締め、だだだっと廊下を駆け抜けて。汗ばむ詩織の手がトイレのドアノブに掛かった、その時。
「きゃぁあーーっ!?」
 絹を裂くような悲鳴が、庭の方から響いた。
「――ッ!?」
 考えるよりも先に、少女の身体は動いていた。
 悲鳴、危険を知らせる合図。何かが起きたことを示すサイン。助けを求める声。
 その瞬間、詩織の意識は尿意に苦しむ少女から、大滝あさがお園で子供達を預かる『先生』へと切り替わった。
 目の前のトイレにきっぱりと背と向け、聞こえた叫び声――外の庭へと全速力で走る。脚の付け根に響く振動も、スカートの奥の感覚も、もう気にならない。
「どうしたの!?」
 サンダルも履かずに庭へと飛び出した詩織――その、目の前で。服を泥だらけにしたアカネが、大きな声で泣いていた。
「しおり、せんせぇ……っ」
 顔を涙と鼻水でぐしゃぐしゃにしたアカネは、泥だらけのワンピースで、詩織の方へと駆け寄ってくる。小さな身体がどしんとぶつかり、その衝撃に詩織の足元がふらりと揺れた。
「んぁ…ッ!? っ、だ、大丈夫? アカネちゃん、痛いところとかない?」
「うん……平気……」
 ともればパニックになりそうになる思考を、深呼吸で冷静に保ち。
 詩織は小さな身体を抱きかかえ、改めてアカネの様子を確認する。いったい何事かと身構えていたが――どうやら本当に、ただ転んでしまっただけらしい。万一のことがなくてよかった、とほっと胸を撫で下ろす。
 その、瞬間だった。
「おーねーえーちゃーんーーっ!?」
「ふあぁああぁッ!?」
 まったくの油断、詩織が意識もしていなかった背後の死角から、リョウタが思い切り抱き付いてきたのだ。
 『しおり先生』が自分たちを放り出していなくなってしまったことへの不満をそのままに、リョウタの文字通りの『不意打ち』の衝撃が、詩織の腰を激しく揺さぶる。
 まさに最悪のタイミングだった。
 ちょうど、抱きかかえていたアカネと、背中から飛びついてきたリョウタ。二人の身体に挟まれて、詩織の下腹部が猛烈に圧迫される。
 目の前のアカネに対しては、幾分の身構えや心の準備があったものの、背後からのリョウタには全くの無警戒だった。
 詩織が我慢を続ける猛烈な尿意、危険水域を超えてなお膨らみ続ける、乙女のダムの『裏口』ともいうべき場所を、思い切りこじ開けられたのだ。
(ひぐ、っ、ぁ……ぁあああッ!?)
 じんっ、じいんっ、びりびりびりっ……!!
 脚の付け根に、黄色い稲妻が迸る。
 おなかのなかで暴れるおしっこに対する備えのため、少女の身体が緊張し、ぐっと縮こまっていたのも状況を悪化させた。ぐらりと揺れた詩織の身体は、たたらを踏みバランスを崩す。
 詩織の身体が、アカネとリョウタ、二人に引きずられるように――砂場の方へと倒れ込もうとする。
 反射的に、少女の脚は前に出ていた。
 サンダルもないままの素足が、砂場の上を滑り、体重を支えようと踏ん張って大きく広がってしまう。
 程良く開いた脚の幅は、スカートの奥で剥き出しの排泄孔を刺激し、その奥の膀胱をきゅぅと絞り上げた。
 ピクンと震えた詩織の女の子の部位が、またも水圧にこじ開けられるように広がりはじめる。
(い、嫌ぁ……っ!?)
 砂場の上。二人の子供にしがみ付かれたまま、詩織が取った格好は。
 屈伸運動の途中のように脚を折り曲げしゃがみ込んだ姿勢。それも肩幅ほどに脚を開いて、深く腰を落とし、おしりを――無防備な脚の付け根、おなかの一番底に開いた排泄孔を地面へと向けたポーズ。
 これはまさしく、和式便器を使うための排泄の体勢に他ならない。
 しかも、いま詩織のスカートの中は、下着など身につけていないのだ。これは文字通り、あさがお園の庭の砂場の上で『おしっこの準備』を完全に終えた状態だった。
「んぁあ……っ、っふ、ぁ、ぅ……ッ、ッ!!」
 
 ひく、ひくんっ、ぷくっ、ぷくくっ。
(や、やだっ、っ……っ、で、でちゃ…ぁっ!!)
 排泄孔が内側から高まる尿意の圧力に耐えかね、慎ましやかに閉じ合わされていた花弁が、収縮から弛緩へと膨らむ。
 下着を脱いでしゃがむという行為は、おしっこのための準備とまったく同じもの。本来、トイレの中でしか取ることのない姿勢は、少女の下腹部に際限なく高まる尿意を一層強く膨れ上がらせ、詩織の排泄器官を強烈な排泄欲求で責め苛む。
「あ、あっあ、あぁああッ……」
 がくがくと膝を震わせ、腰をその場に上下させ、詩織は背筋を戦かせた。続々と背骨と伝わる甘い痺れ、身体の芯を貫く熱い衝動。
 それらのすべてが、これがただの『地面にしゃがんでいるだけのポーズ』ではなく、『ここでおしっこをするためのポーズ』だと、少女に訴える。
 懸命な我慢と、鋼鉄の自制心をも溶かし崩して。少女の本能が、この場での排泄を要求した。
「ねーえーっ!! せんせえ! しーおーりー先生!! だからこっちだってばぁ!!」
「なによ、せんせぇはあたしとあそんでるんだよ!? 邪魔しないで!!」
「違うもん、もっと前からボクとだもんねっ!! そっちこそじゃまするなよ!!」
「うーそーだー!! ちがうもんっ!!」
 いままさに、一世一代の我慢のまっただ中。猛烈な尿意に懸命に抗う詩織。その左右に陣取ったリョウタとアカネは、しゃがみ込む詩織の肩越しにとうとうケンカをはじめてしまった。
「ちがうよね、しおり先生、ボクとだよね! 約束したもんね!」
「約束っていつー? あたしの方が先だよね! リョウタじゃないよね!」
 二人はそれぞれに詩織の手をつかみ、乱暴にぐいぐいと引っ張りはじめる。まるで詩織を使った綱引きのよう。腕を引っこ抜いてしまわんばかりの剣幕に、詩織は思わず声を上げる。
「や……だめ、やめてぇ……!!」
「はなせよー!! おねえちゃんがかわいそうだろー!!」
「リョウタがいじわるしてるんじゃない!! あんたこそどっかで遊べばいいのよ!!」
 詩織の声も、二人の耳にはとどかない。
 ――いや、詩織は決して喧嘩の仲裁のために声を上げたのではなかった。
(っ、ぁああっ、だ、だめ、だめえ!! でちゃう、でちゃうっ、でちゃうぅ!! お、押さえてなかったら、もれ、っ、でちゃ、おしっこっ、と、トイレっ、トイレ出ちゃううぅうッ!!)
 今にも羞恥の噴水を吹き上げそうな脚の付け根。そこを一刻も早く押さえ握り締め救援に向かうべき左右の手を、子供達に捕まれて。
 まったくの無防備な剥き出しの股間が、砂場の上で激しく上下し、ひくひくと震え出す。
 せめて、下半身だけでも堪えようと、砂場の上、懸命に身体をよじろうとする詩織。
 だが、それは逆効果だった。身じろぎによって脚の間に巻き込んでいたスカートが乱れ、挟んでいた足の隙間から滑り落ちてしまった。一気に少女の股間は剥き出しになり、無防備に外気に触れる。
「んゅぅあ……ッ!?」
 些細な姿勢の変化は、しかし爆発的に詩織の尿意を爆発させる。
 砂場の上での危険な『オシッコポーズ』。そこに追い討ちをかけるように、股の間を包んでいたスカートが無くなったことで、閉じ合わせていた内腿に外気が触れ、ぞくぞくとイケナイ感覚を加速させた。
「は、ぅ、っ、くぅぅ、うぁ……ッ」
 スカートをたくし上げ、脚を広げて、深く腰を落としてしゃがみ込み、下着を脱いで脚の付け根を外気に晒し。
 もはや、砂場の一角で詩織の姿勢は、完全におしっこをする時のそれだ。
 無防備に、遮るものなく外気に晒されてしまった、おんなのこの部位。ほのかに色づき湿り気を帯びた乙女の花弁が震え、その奥にひっそりとすぼまるおしっこの出口が、激しく収縮を繰り返す。
 ごぽり、ごぽっ。健康茶のもたらす驚異的な利尿作用は、容赦なく少女の下腹部のダムに羞恥の熱水を汲み上げ続けている。
 水門にはヒビが入り、崩壊寸前。やさしく諭すべき言葉は押し寄せる尿意の津波に掻き消され、詩織はただただ、脚の付け根に懸命に力を込め、括約筋をありったけの力で引き絞って、漏れそうなおしっこを塞き止めることに全力を割かねばならなかった。
(だ、だめっ、だめえ、こっ、このままじゃ……オモラシ……、いや、みんなの前で、おしっこなんか……ダメっ、ぜったいだめぇ……っ!!)
 必死の抵抗むなしく、猛烈な尿意が詩織の下半身を占領してゆく。ぶるぶると震える膝で爪先を地面にねじつけ、前後に揺れる腰がひく、ひくと持ちあがる。不自然に力の入ったふくらはぎと内腿が痙攣し、詩織が唇を噛むたびに小刻みに跳ねる。
 我慢。トイレ、おしっこ、だめ、がまん。
 ぼやけた思考が、女の子のプライドが、はかなくも最後の抵抗を試みる。
 だが、いまにも爆発しそうな股間へ応援に駆けつけるべき両手は、それぞれリョウタとアカネにしっかりと掴まれている。いくら緊急事態、火事場の馬鹿力をもってしても、子供一人が体重をありったけ預けてぶら下がるのを持ち上げるだけの力は詩織にはない。
 なりふり構わず股間を握り締めることも許されず、エプロンの下で詩織の脚は激しく擦り合わされ、ヒビの入り始めた恥骨の上のダムの決壊を必死に押さえ込もうとする。
「ねー、せんせい、しおり先生はボクとあそんでたほうがいいよね!?」
「ちがうもん、おねえちゃん先生はあたしと遊ぶの!!」
 そんな、限界寸前で苦悶のうめきを漏らす詩織にはまるで気付かず、ふたりは口々に憧れの『しおり先生』に問いかけた。
 大好きなお姉ちゃん先生を奪われたくない一心で、アカネもリョウタも、自分の方に詩織を引き寄せようと、地面に足を踏ん張ってその手を引く。
 左右から思い切り、ぐいっと手を引っ張られ。
 倒れないようにと反射的に緊張した下半身が、さらに刺激を伝播し括約筋を緩めてしまう。
「あ、あ、ぁッ……ッだめ、っで、でちゃ、ぁ……あ、ぁ、っあっ…ぁっ!!」
 か細い声が、少女の喉を震わせ、限界を告げる。
 激しく足を踏み鳴らした反動で、スカートはいつしか膝上近くまで捲れ上がり、エプロンと一緒に足元に大きな隙間を空けている。しゃがみ込んだ少女の真下には一面の砂場が広がり、いつでも『臨時仮設野外トイレ』となって詩織のおしっこを受けとめられる状態にあった。
 あのね、先生ね、すごく、すっごくオシッコしたいの!
 先生、もう、オシッコ我慢できないの!
 本来ならば、トイレの中、鍵をかけた個室の中でだけ許される排泄の準備。
 ひく、ひく、ぷくっ、ぷくぅっ。乙女の花弁がほころぶように震え、オシッコの出口が膨らむ。
(ぁ、っあ、っ、は……く……ぅッ……)
 恥辱に顔を染める詩織の意志を無視して。あさがお園の庭、会のみんなが遊ぶお砂場の上、おしっこの準備は少女の本能、排泄欲求のまま着実に進められていく。
 10、9、8、解放のカウントダウンが無慈悲に刻まれ、脚の付け根の短い放水路に熱いおしっこが注水されてゆく。詩織は左右の手をばたつかせ、いやいやをするように叫んだ。
「お、お願い、っ、おねがぃぃっ、手、放して……はなしてぇ……っ!!」
「えー? なんで? せんせえ、どうしたの?」
「っ、だめ、でちゃ、うのっ……! もれっ、もれ、ちゃうっ、……おしっこ、おしっこが、でちゃっ、んぅっぁ、ぉ、おしっこでちゃうぅううッ!!」
 とうとう。堪えきれない尿意をはっきりと口にして。
 押し寄せる尿意に耐えかねて、詩織はとうとう、感情のままに叫び、二人の手を力任せに振りほどいた。
 これまでじっと黙っていた『しおり先生』の豹変と突然の大声に、リョウタとアカネはびっくりして目を丸くする。
 だが、次の瞬間、さらに事態は急変する。
「あーーーーっ!! おねえちゃんっ!!」
「ああああーーっ!!」
 ぐらり傾いだ身体を支えようと、反射的に伸びた詩織の両手が砂のお城に突っ込んだのだ。
 過去最大の規模と大きさを誇っていたお城でも、さすがに詩織の体重を支えるには不十分だった。お城は文字通りの砂上の楼閣となって、詩織が手をついた場所から大きく崩れてしまう。
「あーーあーーーーっ!!」
 大好きな『しおり先生』が、あろうことかみんなのお城を崩してしまったことに、子供達がいっせいに大きな声を上げた。いけないんだー、なにやってるんだよー、お姉ちゃん先生がこわしちゃったー、と口々に非難の声があがる。
 だが、そんな声ももはや、詩織の耳には届かない。
(っ、ダメ、でちゃう、……もぅ、げんか…い……っ……しちゃう……おしっこ、ここでしちゃうっ……で、でるとこ、いっぱいでるとこ、見られちゃうぅ……!!)
「ぁあっ……やだっ、だめっ、だめええっ!! と、トイレ、おトイレぇ……っ」
 懸命にその場を立ち上がり、トイレへと駆け出そうとする詩織。だが――無理な体勢でしゃがみ込まされていたせいで足はしびれ、思うように体重を支えてくれなかった。猛烈な尿意に震える膝は言うことを聞かず、砂山のお城に両手で体重を預けたまま、詩織はもはや一歩も動けない。
 それでも辛うじて脚の付け根の筋肉だけで、少女はじわじわと漏れ出すおしっこを塞き止めようとする。
「は、っ……ぐぅ……ッ」
 みんなのおねえちゃんである自分が、『しおり先生』が。
 園のみんなが楽しく遊ぶ場所である、お砂場で。遊具の真ん前で、こんなところでおしっこをするわけにはいかないのだ。あの時のような失敗は、もう繰り返してはいけない――
「ねえ、しおり先生?」
 ふいに、小さな声がすぐ側で聞こえた。
「せんせぇ、おトイレ行きたいの? おしっこしたいの? ……さっきおトイレしてきたんじゃないの?」
 ここにきて、ようやく詩織の様子がおかしいことに気付いたのだろう。アカネは詩織の顔をのぞき込むようにして、きょとんと聞き返す。すぐとなりには、リョウタの驚いた顔もあった。
(いやぁ……っ、だめ、だめ、だめぇえええっ!)
 喉が引きつり、かすれた声がわずかに漏れ出す。
 同時、
 ぷしゅっ! ぴしゅうっ、じゅじゅじゅぅ!!
 少女の閉じ合わせた内腿の間にあたたかい雫が広がる。ぎゅっと締め付けていたはずの排泄孔の隙間から勝手におしっこが漏れ出していた。
 ついに、崩壊が始まってしまったのだ。
「い、いや、いやぁああ……っ!!」
 脚の付け根の『おんなのこの部位』が、水圧に負けたように押し広げられる。噴き出した激しい水流は、断続的に飛沫を迸らせながら、慌てて腰をよじる詩織の股間でびちゃびちゃと跳ね回った。
 ぷしゅるっ、ぱた、ぱちゃぱちゃっ、ぷじゅじゅっ!!
 懸命に水門を閉ざそうとする詩織だが、もはや緩んだ括約筋を引き絞ることは不可能だった。
 羞恥のダムに入ったヒビはみるみる深く大きくなり、断続的に噴き出す黄色いおしっこが、砂場の地面を激しく打つ。
 ぶじゅっ、ぶじゅじゅうううっ!!
 ぶしゅううううっ、びちゃびちゃぶじゅじゅううぅ!!
 いちど押し破られてしまった水門は脆かった。皮肉なことに、詩織が必死にオシッコの出口を締め付けよう股間に力を込めるたび、手押しポンプを握り締めるように、激しい水流がびゅうっ、ぶしゅうっと迸る。
「ぁ、あああっ、だめ、だめ、ぇ、だめえっ…!」
 水門を再び閉ざすことは叶わなかった。詩織の脚の付け根から噴出した水流は、たちまちすさまじい勢いを得て、のたうつ蛇のように砂場の上に叩き付けられる。
 ばちゃばちゃと撒き散らされる水流は見る間に野太いものへと変わり、ぶじゅぶじょぼぼぼと注ぎ込まれる黄色い濁流によって砂場は激しく掻き混ぜられ、泥と泡の浮かぶ水たまりを広げ始めた。
「ああっ、おねえちゃんオシッコしてるっ! オシッコしてるよっ!!」
「おねえちゃんおしっこだ、オモラシだよ!!」
 アカネとリョウタが揃って気付き、子供達は声を上げながら砂場から飛び出した。
「ち、ちが、っ、ちがうのっ、ちがうのぉっ!! こ、これ、おしっこじゃな、っ、おしっこ、なんか、してな……ぁあああぅぅうっ!! だ、だって、っちゃんと、が、がまん、でき……っ、と、トイレまで、がま、んんっ、あぁ……だめえ、とまって、とまってぇ……っ!!」
 詩織ははげしく腰を振っておしっこを塞き止めようとしたが、女の子が一度始めてしまったおしっこを止められるわけがない。
 その上、痺れた脚で無理に動こうとしたせいで詩織はさらにバランスを崩し、お城の上半分を押し倒してしまった。
「ああああーーっ!?」
 子供達が再び不満をあらわに大きく叫ぶ。
 そして、露わになった詩織の――『しおり先生』の脚の付け根。色づいた『おんなのこの部位』がぷくりと大きくうねり、一気に押し開かれる。
 肩を大きく震わせて、詩織が腰を上下させると。
 押し広げられた『オシッコの出口』から、一層激しく噴き出した黄色い奔流が、少女の足の間から猛烈な勢いで迸る。
 ぶじゅばっばばばばばぁあぁあああーーッッ!!
「「「わぁあああああああーーーッ!?」」」
 子供達が一斉に叫んだ。
 凄まじいオシッコの噴射が、辛うじて形の残っていた砂のお城の土台、根元の部分を勢い良く直撃した。
 ぶじゅじゅうううと激しく音を響かせる猛烈な黄色い噴水は砂山のお城をみるみるうちに押し崩し、トンネルの城門をえぐり、壁をまっぷたつにして崩し去っていく。

 ひまわり園のみんなが力を合わせ、築き上げた大きな大きな砂山のお城も、『しおり先生』の水攻めにはまったくの無力だった。
「あーっ、しおり先生! なにやってるの! おしっこしちゃダメー!!」
「こんなところでおしっこしないでよぉ! お城、崩れちゃうよお!!」
「しおりせんせい! ねえっ、ここ、おトイレじゃないよー! おしっこしたらダメ!!」
 口々に詩織を非難する子供達。みんなの憧れの『しおり先生』が、大好きな『おねえちゃん先生』が、まるで怪獣のように大きな声を上げ、噴き出すおしっこで砂山のお城を押し流していく。
 しゃがみ込んだ『しおり先生』がお股から凄まじい勢いで噴射させる水流は、まるでホースの先端を押し潰して水を砂場一面に撒いているかのようだ。
 その猛烈な噴水の水圧も、激しくも野太い水流も、圧倒的な水量も。そのどれもが、詩織が二度とこんな痴態を晒すまいと、懸命に努力し、鍛えた結果だった。
 あの日のバスの悲劇を繰り返さないように。もう二度と、トイレのことで失敗なんかしないように。
 懸命に繰り返した特訓。おしっこ我慢の秘密訓練。
 子供達に囲まれて立ち上がることができなくても。特別製の健康茶がもたらす、想像を絶する利尿作用に責め苛まれても。意地悪なおばさんに捕まり離してもらえなくても。トイレに行かずに、我慢して、ちゃんと大丈夫なようにいられるための、懸命の特訓。
 そうやって鍛えられた少女の排泄器官が可能にした、成人女性の平均を大きく上回る膀胱許容量。水門の閉鎖を可能にする括約筋。
 その、途方もない水量が、勢いが。
 ぶじゃあああああっと、恥ずかしい音を響かせ、少女の脚の付け根から噴き出している。
 あろうことか詩織は、自分自身の努力の結果で、園のみんなが作ったお城を台無しにしてしまっている。
 おしっこ我慢の特訓の成果をそのまま、残らず全部そのまま、ありったけの勢いで、砂場のお城へと直撃させ続けているのだ。
「やだ、やだぁあっ、とまって、止まってぇ……!!」
 ぶっじゅうううううぅうっぶじゅっじゅううっぶぶじゅじゅじゅぼぼぼぼぼぼぼーーーッ!!
(おトイレ……、だめ、……み、みんなのお砂場、おトイレにしちゃうぅうっ……!!)
 あまりにも盛大で、圧倒的で、猛烈な、『しおり先生』の、お外でのおしっこ。
 みんなが遊ぶお砂場をトイレにして、お尻を突き出し、猛烈なおしっこを噴射させ続ける『しおり先生』。
 詩織のオシッコによって砂のお城は無残に崩れ去り、砂場に広がる水たまりは、いつしか泡立つ泥の海に変わりつつあった。
 大きなお城を、ものすごい勢いのオシッコで粉々にしてしまった、『オシッコ怪獣しおり先生』。
 子供達はそれを、非難した砂場の縁から、ただ遠巻きに眺めるばかりだ。黄色く濁った羞恥の海が徐々に水位を増してゆく砂場の中、しゃがみこんだ詩織は、そこから動くことも叶わない。
「ねえ、しおり先生、どうしておトイレいかなかったの? おトイレじゃないところでおしっこしたらいけないんだよー?」
「そうだよー! ねえ、なんでオシッコいきたいですって言えなかったの? ダメだよ? あたしだってちゃんと言えるのにー!!」
 彼らの先頭に立ち、リョウタとアカネが子供達の心を代弁するように、詩織を責め続ける。
 ふたりにとっては悪気のない一言が、詩織の羞恥心を無残なまでにえぐってゆく。
「っ…………」
 詩織は耳まで真っ赤になって俯き、それでもなおその場を動くことができなかった。おんなのこの部位を震わせ、足元の水面に向けて、黄色い水流を激しく打ち付けながら。
 ぶじゅじゅぶぶぼぼぼぼじゅぼぼぼぼぶじゅううう!
 じょぼじょじょじょじゅぶぼぼぼぼぼぼぼぼぼ……
「ぐすっ……終わって、はやく終わってよぉ……っ!! やだ、もうやだぁ……!!」
 少女の股間から噴き出す水流は一向に弱まる様子を見せない。噴き出すその側から、身体の奥から汲み上げられた新しい新鮮な熱水がおなかの中に注ぎ込まれているかのよう。
 なお激しく噴き出し続け、砂場を泥だまりに変えていく『しおり先生』のオモラシ。そのおしっこは一向に途切れる様子を見せなかった。
「やだあ……ッ、やだ、よぉ……ッ」
 それは――まるで、これまで詩織が続けてきた特訓の成果と言わんばかり。
 あの日から。ずっとずっと『おしっこ』を言いだせなかった、詩織の。おトイレのしつけもなっていないことの証明のようで、詩織は泣きじゃくりながら腰を振りたてる。
 見事にそびえていたお城は見る影もなく崩れ、詩織の作り出した大きな大きなおしっこの海の中に沈んでゆく。
 水面を打ち付ける水流はいつまでも、白い泡を立てながら、大きな海へと注ぎ込まれていくばかりだった。
 (了)

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