サイクリングロードが遠い。普段ならほんの何十秒かで進める距離が、今の未果には何十倍にも遠く感じられる。
道端の標識には『あと1.6km』の文字があった。
1600m、つまりグラウンド8周分だ。
「うぅうっ……ふぅうっ……」
ぎゅうぎゅうと下腹部を押し、スカートの上からせわしなく股間をこね回す。行進みたいに足を上げ下げして、くねくねと腰を揺すりながらの歩みは遅々として進まない。
気ばかり焦る未果の背筋を、つぅんと尿意が駆け昇る。
「はぅうっ……っ」
強烈な尿意は心臓の鼓動のようにさざめいて、少女の内腿を細かく痙攣させた。一歩進むたびに脚の付け根にじんじんと痺れが走り、膀胱に蓄えられたおしっこの重みがダイレクトに頭まで届く。
(あぅうっ……おトイレ、おトイレいきたいよぉっ……)
全身の水分が一点に搾り取られてゆく。膀胱はたまりにたまったおしっこでぱんぱんに膨れ上がって、ほんの少しの刺激で今にも破裂してしまいそうだ。
「だめ、だめ、だめっ、でちゃだめっ……ダメえぇ……っ」
襲い来る尿意の大波に、中腰になって全身を硬直させ、キュロットの前をぐいぐいと引っ張り上げる。初めこそおしっこを我慢しているのを隠し、取り繕おうとしていた未果だが、もうすでにそんな余裕はなくなっていた。
海岸沿いのサイクリングロードは見通しもよく、身を隠すどころかしゃがみ込むような草むらも見つからない。向かいから走ってくる家族連れが、不審げな顔をして道端に立ち尽くす未果の隣を通りすぎてゆく。
激しい注視に、未果の耳が先端まで真っ赤に染まる。
いまの彼女は、全身で“おしっこがしたいですっ!!”と叫んでいるようなものだった。
「うくっ……あぅ、ふぁぅぅっ……っ!!」
(やだっ……やだよぉ……っ、おトイレまだなのに……もじもじしちゃうっ……おしっこガマンしてるの、みんなに気付かれちゃうっ……)
じくんっ。じん、じんっ。
またも強烈な尿意が恥骨に伝播する。未果の小さなおしりはぴくぴくと震えて、腹腔内を蹂躙する恥ずかしいレモンティーを押さえこもうとしていた。
今の状況の未果にとって、排泄行為とは「おしっこをする」ことであり、それ以外のなにも考えられない。少女の小さな身体の全ては、おしっこを我慢するためにあるのと同じだった。
腹部の不随意筋の動きに合わせきゅぅんっ、と膀胱が収縮し、脚の間のダムに溜まったおしっこの重みが増してゆく。
「っ、ぅああぅっっ……」
びく、と未果の背中がのけぞった。
(だめっ、きちゃうっ、きちゃうっ、次の……きちゃううっ)
サイクリングロードに入って4度目となる尿意の大津波の予兆に、少女は硬く身体を緊張させた。だが先刻の激しい攻防の末に未果の括約筋はすっかり疲弊してしまい、その尿意を押さえこむための防波堤は全くの不完全な状況だ。
(だめっ、まだこないでぇ、おしっこきちゃだめえ・・…っ、……がまんの準備、できてないのにっ……もじもじってしちゃううっ、しゃがんじゃううっ!!)
声なき絶叫に続いて、猛烈な尿意の衝撃が無防備な少女の股間を直撃した。
「ぁう……っ、ぅぁああああっ!!」
膀胱が絞り上げられ、腹腔内部で内臓がぎゅるぎゅると蠕動する。溜まりに溜まった不要な水分を排出しようと、身体は自然の摂理を受け入れるよう強制してくる。
ついに未果は耐え切れず、がくんと膝を落としてしまった。サイクリングロードを遮る防砂柵に爪を立てて、閉じ合わせた膝の間に手のひらを押しこんで腰を揺する。
(ダメぇええっ、ダメなのっ、立たなきゃ……しゃがんじゃダメなのっ……ぁうううっ……もうおしっこでそうっ……したぃい……おしっこしたいぃっ……あ、はぁぅ…っ…ダメぇっ……おしっこするカッコしちゃうっ……おトイレの中のカッコしちゃううっ……!!)
拒絶の心とは裏腹に、未果の身体は脚を肩幅に開き、深くしゃがみ込む『おしっこの格好』を取り始めてしまう。
この状況で、排泄のための体勢をとってしまったらどうなるのか。想像するだけでも怖気が震った。仮に最悪の事態だけは回避できたとしても、爆発寸前の膀胱を抱えたままもう一度立ちあがるのにどれだけ時間がかかることか。
「ダメ……ダメ…っ……」
ぎゅうっと握り締められたスカートの下では、少女の排泄孔を覆う白い布地に皺が寄せられる。汗に滲んだ下着の奥で、熱い雫の予兆が小さく蠢いた。
女の子の大切なところを覆う布地は、あまりに脆く頼りなく、未果の我慢の役には立ってくれそうになかった。今まさに崩壊してもおかしくないぎりぎの均衡の上で、未果は必死の我慢を続ける。
(だめ……がまんしなきゃ……っ、おトイレまで……おしっこガマンしなきゃっ……こんなところでしちゃうなんて、ぜったいぜったいダメっ……おトイレ、おトイレぇっ……)
心の底からトイレを、“おしっこのできる場所”を切望し、ぎゅうぎゅうと身をよじる未果。
しかし、少女の股間で今まさに爆発しそうな尿意を訴えているのは、身体に溜まった不要な水分を排出するための器官なのだ。どれだけ強固な女の子のプライドをもってしても、自然の摂理が備えたその本来の機能を停止することなど不可能である。
「ぁ、ぅふぁう、っ、はぅうう…っ!!」
(いやぁっ……い、いきなりっ……ダメっ……ま、またっ、またおしっこしたいのが、きちゃったぁあっ……っ!! ぁあっ、ダメっ、ゆるんじゃうっ、おしっこの出るところひくひくってしちゃうっっ!! やぁ、やだぁっ……漏れちゃうっ、もれちゃうううっ!!!)
足の付け根をつぅんと走る鋭い疼きに、未果は腰を抱え込んで身体を折り曲げる。
ひくひくと震える排泄孔を覆う股布の内側、きつく閉じられた脚の間に、じゅんっ、と熱い雫が滲み出してゆく。
しゅるっ、しゅしゅしゅっ。
布地にぶつかるくぐもった水の音が少女の股間から響く。とっさに下着を掴む未果だが、じわじわと溢れ出すおしっこを止めることはできなかった。じんじんと尿意に疼き、小刻みに震える膝の間を、つぅっと我慢できなくなったおしっこが伝って落ちてゆく。
ソックスにじんわりと染み広がるおチビりの温かさに、未果の頭は一気にパニックになった。
(おトイレしちゃうっ、こんなところでおトイレ、おトイレしちゃううっ!! だめ、でないでおしっこでないででないでっおしっこおしっこおしっこでちゃだめおしっこでちゃだめっ、おトイレちがうの、おトイレないのっ!! ここっ……おトイレじゃ……ないんだからぁあっ!!)
じゅじゅじゅ、しゅるるっ、ぶしゅぅっ
じわりと染み出したおしっこは、未果の下着をどんどんと侵食してゆく。それに合わせて閉ざされていた括約筋が無理矢理こじ開けられ、じんじんと恥骨を衝撃が走り抜ける。
「ぁ……ひぁあうっ……ぅあうぅ……っ!!」
排泄の快感に腰が砕けそうになる。はぁはぁと荒くなる息を必死に抑え、未果は渾身の力で緩み始めた排泄孔を締め付ける。
「うくっ、、くぅ、ぅうううぅっ、あああぁっ!!」
(おもらし、おもらしなんてダメぇっ……がまん、おトイレ、トイレ、といれといれといれっ……ふぁああぅっ……おトイレまでがまんっ、がまんっ、がまんんっ……くううぅっ!! おしっこだめえっ、おといれまでっといれといれおトイレまでえっ、はぁあっ、……ちゃんと、おしっこおといれでするの、おといれ、といれといれといれっ……ああああっ、しちゃだめえ……っ!!!)
膀胱で煮えたぎる尿意に、まともな思考能力が消え失せてゆく。未果は顔を真っ赤にして、アヒルみたいにお尻を突き出した。へっぴり腰のままもじもじと太腿をくねらせ、腰を指先に擦り付ける。
その隣を、不審げな表情で自転車の男が通り過ぎてゆく。
「ぁ……ぁあっ……!! っ、くぅぅっ……」
ゆっくり振り返った未果は、サイクリングロードの上に拡がる光景を目にして絶句した。灼けたアスファルトの上、未果の股間から次々溢れ出すおしっこは太股に何本も細い川をつくって伝い落ち、革靴の周りに地面に小さな水たまりを作っている。
そして、未果の後ろにはもう何十メートルと、黒い染みが点々と続いていた。
ぽた、ぽた、と滴る雫。それが未果がいままで歩き続けてきたおしっこ我慢の道だった。
「い、ぃやぁっ……」
信じられない光景が未果の羞恥心をずたずたに引き裂く。ひぅっと震える喉を悲鳴が埋める。同時、また吹き出したおしっこが未果の指の間をすり抜けて地面にぱしゃぱしゃと滴り落ちる。
くねくねと続く黒いお漏らしの跡。
未果が今、どれだけおしっこを我慢していて、どれだけおなかの中に恥ずかしいおしっこを溜め込んでいて、もうとっくの昔に我慢の限界で、排泄孔はぷしゅぷしゅとオモラシを繰り返すほど緩み始めていて、だからたぷんたぷんになったおしっこをどんな風に漏らしてしまったのか――そんなことまで一目瞭然に解る。
通り過ぎていった人々は、みんなこれを見ていたのだ。
今までの我慢がまったくの無駄だったことが、未果の羞恥心にとどめを刺した。
きゅうきゅうと収縮を始めた膀胱が、5度目になる尿意の大津波に変わる。
「いゃ……っ!! うぐっ、ふぅっ、ふううっ、がまん、ガマンっ、がまんんんんっ!!!」
(で、ちゃううっ……!! でちゃう、おといれっ、おといれっ……おしっこしたいの来ちゃった、またおしっこしたのくるっ、おしっこしたのきちゃうよおぉっ!! おしっこのでるとこふくらんじゃうっ、……だめ、したいしたいおしっこしたいしたいおしっこおしっこっ!! おしっこもっといっぱいっ、いっぱいでちゃうっ!! おしっこ……ぜんぶでちゃううっ、おしっこぜんぶだしちゃうううううっ!!)
じゅじゅじゅじゅっ、じゅぉぉっ!!
柔らかな布地に包まれた聖域に、ついに限界が訪れた。
爆発するひときわ大きな尿意の波にがくがくと震えた膝が折れ、未果はサイクリングロードの真ん中でしゃがみ込んでしまう。排泄孔がぐにゃりと裏返り、その本来の役目を果たそうと水門を開く。下着の中でぶじゅじゅじゅじゅっとくぐもった水音が響く。
(やだぁあっ、やだやだやだぁあああっ!! ちがうのっ……ちがうのっ!! ……おしっこしないの……おしっこなんてでないのっ!! ……おといれまだなのにっ……おといれじゃないのにおしっこのカッコしちゃだめっ、でちゃうからぁっ、ほんとうに……ぜんぶ、おしっこでちゃうからぁああっ!!)
もはや役立たずになった括約筋を必死に叱咤しながら、すっかり引けた腰をくねくねとクネらせて、最後の抵抗を試みる未果。
だがそれもむなしく、ひくひくと引きつった未果の股間からはじゅわっとおしっこがあふれ出し、ガクガクと震える脚の付け根からは太い水流が何本も太腿を伝って靴下を濡らし、靴にまで染み渡ってゆく。
「ぅぐっ……ふうぅっ……ああぁっ……ああぁああぁぁああああっ……っ!!!」
(ダメっ、こんなっ……こんなトコでぇっ……!! おトイレ……まだなのに……っ、おといれでちゃう、おしっこしちゃうぅうっ……ぱんつのなかにおしっこでちゃううっ……おもらししちゃうっ……おもらしっ、おもらしやだっ……!!! )
じゅじゅじゅうううっ、しゅるしゅるしゅるるっ!!
ぐねぐねと揺すられる少女の股間から、本当の排泄の音を立てておしっこが吹き出す。下着の中にぶつかったおしっこは股布を直撃し、白い布地を汚して跳ね返り、未果の股間全体を熱く濡らしてゆく。
とうとう始まってしまった本当の排泄。それも視線を遮るものもない屋外のアスファルトの上だ。どう言い訳しても誤魔化しようはない。未果の足元の水たまりは見る間に広がってゆく。
「ぁあっ、あああああっ、いや、いやあああっ!!」
それでも未果は、遠く離れたトイレを渇望して足を動かし続けた。
一度始まってしまったおしっこは止まらない。くねる腰の動きにあわせて、少女の足元で恥ずかしい大洪水が滝のようにに流れ落ち、じゃばじゃばと地面を叩く。
ふらついた足がおしっこの水たまりに突っ込んで、ぱしゃりと跳ねた。
ずず、ずず、と足を引きずって進む未果の後には、広大なおしっこの川が残されていく。少女のおもらしの、隠しようもない証拠として。
(初出:おもらし千夜一夜 871-875 2005/09/03)
サイクリングロードの我慢
