携帯を買う話。

 従姉妹のお姉さんであるエリさんと、その話になったのは単なる偶然みたいなものだった。テレビのニュースで、最近の若者のマナーを問う内容が放送され、その中で往来での携帯端末を使うことの問題が取り上げられていた。
 私がたまたま、携帯を持っていないことを知ったエリさんは、目を丸くしてそれが本当か聞いてきたのだ。
「ホントに持ってないの? 携帯」
「う、うん……」
「それじゃ困らない? サエちゃんだってもうすぐ卒業でしょ?」
「……でも、これまでなかったし、持ってなくったって、そんなに困らなかったし……」
「そんなんじゃ駄目っ!!」
「ひゃぁ!?」
 エリさんは大学生で、私からみてもカッコ良くて素敵な大人だと思う。だから、エリさんみたいな人になりたい、と私はひそかに憧れていた。
 そのエリさんが、年頃の女の子として携帯は絶対に必要だと強く主張するのだから、やっぱり私にはなんとなく断わりづらいわけで。
 私はそのままエリさんに引っ張られて、駅近くのデパートまで連れてこられてしまっていた。
「さ、到着。どう、いっぱいあるでしょ?」
「う、うん……」
 エリさんが示す売り場には、たくさんのメーカーの携帯端末がずらぁーっと並んでいた。これまで立ち入ったことのないエリアで、私はなんとなく二の足を踏んでしまうが、エリさんはそんな私の手を引っ張ってぐんぐん中に進んでいってしまう。
「いっぱいありすぎて困るかもだけど、まあ結局基本的な使い方は一緒だしね。慣れてから買い換えたっていいわけだし。……さっきもやってたけどさ、最近は携帯も使う人のマナーが問題になっているのよね。電車の中とか、ところ構わずに使っちゃう人もいて、規制されるようになったんだけど。
 ……でもやっぱり、サエちゃんくらいの歳からこういうのは慣れておかないと、そのうち本当に大変になっちゃうと思うんだ」
 確かに、これまでは多くの人が公衆端末で用事を済ませてきたけれど、携帯端末が普及して一般化したせいで、最近ではどんどん公衆端末は撤去されてしまい、数はぐっと減ってしまった。今では見つけるのも一苦労なのは、その通りだ。
「でも、サエちゃん、公衆端末も無いときって本当に無いでしょ。どうしてたの? そういうとき」
「近くのおうちで貸してもらったり……諦めて使うの我慢したり、色々」
 でも、まだどうしようもない小さい時ならともかく、今はもう無理だと思う。家庭に据えつけの端末はその家固有の情報も多く持っている大切なモノだし、見ず知らずの人間がいきなり貸してというのもためらわれる。
 まして、相手の家の迷惑を考えたりすると、とても借りれるものじゃない。
「わかるわかる。辛いよねー」
 エリさんはうんうんと頷きながら、壁に並んだあるメーカーの携帯を手にとった。
「あ、これまた新しいモデルも出たんだ。……昔は携帯って言えば昔は重くて全然使えなくて大変だったって話だけど、こんなにコンパクトになってずっと使いやすくなってるんだから、いい時代よね」
「エリさん、なんかおばさんくさい」
「うっ……」
 私が指摘するとエリさんはいったん硬直し、ぎぎぎ、と音がするように錆びついた動作で手の中の携帯を棚に戻す。
「……はぁ。サエちゃんにおばさんて言われちゃった……ショック」
「ご、ごめんなさい……」
「あは、まあしょうがないけどねぇ。サエちゃん、ポケベルなんか知らないでしょ?」
 聞きなれない単語にコクンと頷くと、エリさんは頭をかきながら解説してくれた。
「なんか、自分で自分の首締めてるみたいだけど、携帯が一般化する前はそういうのがあったのよ。簡易的な装置で、どっちかっていうと公衆端末の補助みたいなものだったんだけどね」
「……コードレスみたいなもの?」
「えっと……なんて言えばいいのかな。ポケベルで一端受けておいてから、公衆端末がある所まで用事を済ませるって感じ? どうしても必要な緊急事態の時に、最低限の用が足せるようにした装置……かな。携帯よりもちっちゃくて、機能も限定されてるんだけどね」
「なんか……聞いてると不便そう、なんだけど」
 ちょっと見たことのない“ポケベル”を自分が使っているのを想像してしまい、思わず頬が熱くなるのを感じる。いくらエリさんでもそんな話をするのは恥ずかしくて、私はそっぽを向いてごまかした。
「うぅ、それでもそういうのが使われてる時代があったの!! その前は本当に家庭用の端末と公衆端末意外には無くて、みんな苦労したんだから!!」
 力説するエリさん。けれどそうやって力いっぱい説明されればされるほど、私はなんとも言えない気分で俯いてしまう。
 だって、つまり、そんなことまで知ってるってことは、エリさんもそういうのを使っていた頃があるって事だ。
「こほん。……えーと、まあ昔の話はこれくらいにしようね。で、サエちゃんの携帯だけど」
「うん……でもエリさん、どれ選んでいいのか解らないよ。いっぱいありすぎて」
「うーん……最初はもう、本当に見栄えとかだけで選んでもいいと思うな。最近のは機能も多いし、最初からぜんぶ使いこなすのは難しいだろうし」
 そんなことを言われるとますます迷ってしまう。
 それでも、ぴかぴかと照明に照らされるたくさんの携帯は、確かにどれも宝石箱みたいで、思わず手を伸ばしてしまいたくなる。
「新しい会社の参入も進んで、競走も激しいからどんどんすごいのが出てるのよねぇ」
「エリさんの、見せてもらってもいい?」
「あたしの? ……うー、ちょっと恥ずかしいなぁ。だいぶ古いし、使っちゃってるし。・・…はい」
「へぇ……こんな、なんだ」
 エリさんの携帯はピンクに少しだけメタリックカラーを溶かしたような色をしていた。最近流行の中折れ式。ストラップにはかなり昔に放映されて、最近またリメイクされると噂のアニメのキャラがぶら下がっている。
 容量は増設込みで512M。見た目よりもだいぶいじられているみたいだった。
「い、いいかな、その、あんまりじろじろ見られちゃうと……」
「うん。ごめんなさい、無理言って」
 エリさんに携帯を返して、私は再度壁に並んだ携帯を見た。
「それ買った頃、まだ512Mってのが一般的じゃなくてね。128Mとか、多くても256Mとかだったかな。中には64Mとか32Mとかいうのまであったんだよ? 信じられる?」
「そ、そんなに少なかったの……!?」
 それは、いくらなんでも、さすがに少なすぎる気がする。だって、いくら私でも……それよりは多く使っちゃう自信があった。
「ホント、容量ちっちゃくて使いづらかったよ。そんなに携帯も普及してなかったし、リサーチも進んでなかったからさ。まして女性人権団体の人とかが反対してね。外で携帯使うなんてみっともないとか、そんなに携帯に容量要らないって言ってたくらい。今考えるとヘンな時代だったよねー」
 いまは全然そんなこと無いけど、とエリさんは棚の携帯を見る。少なくても512Mか、あるいは256Mの2サイクルが主流だ。中にははじめから700M超えとか、1024Mなんて大容量のものまである。
 あんなのとても使いきれるとは思えないけど、売ってるって事は、その、つまり、使っちゃう人がいる……って事なんだろう。
「大は小を兼ねる、だよ。恥ずかしがらずに自分にあったものを選ぶのがいいと思うな」
「う、うん……」
 エリさんのアドバイスを受けながら、私はしばらく売り場を回り、目に止まったひとつを手にとった。
「これ?」
「……うん」
 私の選んだモデルは白のスタンダードなもの。昔から人気の機種を、様々な要望にこたえる形でバージョンアップしたモデルだ。
「うん、ちょっと子供っぽい感じもするけど……まあいいんじゃない? 初めてだしね。シンプルなほうがいいから、ぴったりかも。容量はどれくらいにするの?」
「えっと……基本で256Mの2サイクルだけど……」
 もっと少ないのが標準だったら、なんとなく選びづらかったけど、今はそれくらいが標準なのであんまりためらいなく選べた。これも時代が進んで携帯が普及したからなのかと思うと、なんか複雑な気分になる。
「折角だから多めにしておいた方がいいよ。ちょっと割増になっちゃうけど、何が起こるか解んないし、あとから増設したくてもすぐに出来なかったりするし。サエちゃん、学校上がったら電車通学でしょ? 多い方が困らないと思う」
 そう言いながら、エリさんは増設パックを幾つか棚から拾い上げる。
「ほら、これくらいで」
「ええっ……こ、こんなに使わないよぉ」
 思わず言い返してしまっていた。いくら憧れのエリさんのお勧めでも、ちょっとその、これは対応に困る。だって渡されたのは512Mの増設パックが二つ。もともとの容量と全部あわせると、なんと1500Mを越える大容量だった。
「そんなこと無いってば。若いんだし、たくさん使うよ? 意外とすぐいっぱいになっちゃうって」
「うぅ……そんなことないもんっ」
「……あたしも最初はそう思ったんだってば。300もあれば十分で、節操無くそんなにたくさい容量増やさなくても……ってね。でも本当、これは経験者としての忠告。
 用心するに越した事はないんだよ。さっきも言ったけど、大は小を兼ねるってホントなんだから。後で足りなくなっても、使ってる時にすぐに増設できないし。いざって時安心だよ?」
「う、うぅーっ」
 言われていることは正論なのでどうしても反論できないけど、いくらなんでも1500Mなんていうのはちょっと、あまりにも大きすぎる。とてもじゃないけど、全部使い切るとは思えなかった。
「と、とりあえず先に契約しちゃうよ。あ、あとで考えるっ!!
「……そう? 絶対後悔すると思うなぁ」
 エリさんはまだ気にしていたようだけど、私は構わずにカウンターへと向かうことにした。
「――ご購入ですね。こちらの機種でよろしいですか? どのようなプランがご希望でしょうか」
「えっと……」
 目の前にばらっと広げられたグラフと数字の山に、いっしゅん困惑してしまう。携帯はただ持ってるだけじゃ使うことができなくて、契約して月ごとにお金を払うことで端末としての用をなす。だから、この契約プランもとても重用なんだけど、なにしろいままで一回も使ったことがないから、どれくらいがちょうどいいのか解らない。
 カウンターのお姉さんがいろいろお得だったり特徴があったりというのを説明してくれたけど、はっきり言ってどれを選んでいいのかさっぱりだった。
「うーん。これもやっぱりちょっと余裕もたせておいた方がいいかもね。後で変更するのも手間だし」
 エリさんが腕組みをしながらグラフの一つを指差す。
 ……ううん、やっぱりそれもちょっと多すぎるような。さすがに一月合計しても、そんなに長い時間使うとは思えない。基本量だけですごいことになっちゃってるし。
「そうなのかな……」
「絶対そうだってば。サエちゃん、そろそろ私のこと信じてよぉ」
「……そのプランですと、こちらの家族割引などに加入していただくと、基本量はそのままでさらにメンテナンスなどがお得になっておりますが」
「えーと……それは、その、いいです……」
「え、いいの?」
 エリさんが不思議そうな顔。
「う、うん……お母さんにも、いいって言われたし」
「そっか。信用あるなぁ。さすが優等生」
 いいこいいこ、と頭を撫でられて、わたしは耳が赤くなるのを感じた。
 たとえ家族同士でも、プライバシーを尊重しよう、というのが我が家の基本方針だったりする。携帯にはどうしても他の人に知られたくないことも記録されてしまうので、それを巡ってはクラスの皆もよく家族とけんかになったりするらしい。
 中には恋人の携帯の使用履歴とかだまって見たことで大騒ぎになることもあるそうだ。確かに携帯の意味を考えると、できることならそういうのに煩わされたくない。
「じゃ、じゃあこれで……」
「ありがとうございます。それではお会計をさせて頂きますね。少々お待ち下さい」
「エリさん、ありがとう」
「いいっていいって。これくらいさせてよ、可愛い従姉妹のためなんだから。……それに、携帯本体の値段よりも、そのあとの使用金額の方が高いしね。エリちゃんはそのへんしっかりしてるから、ちゃんと使うだろうケドさ。くれぐれも使いすぎちゃダメだよ?」
「う、うん……」
 そんなことになったりするんだろうか、と思いながら、私はカウンターに手を置いた。
 やがて、お店のお姉さんが契約の済んだ携帯をもってきてくれる。
「お客様はご購入のご予定はありませんか? いまなら古い端末も引き取りサービスをしておりますが」
「もうだいぶ古いけど、使いごこちがよくて、慣れてるのが一番だしね……しばらく変える予定はないかな」
 エリさんはそう答えた。やっぱり長年使って馴染んだ方が使いやすいんだろうか。新しい機種が出るたびに買い換える人もいるみたいだけど、エリさんは違うらしい。
 なんとなく、さすがだなぁ、と思って誇らしかったり。
「どうする? さっそく使ってみる?」
「う、うん……」
 不意に聞かれて、私はとまどってしまった。
 でも、ちょうど、実はさっきから、そんな気分になってしまっていたところだったりする。せっかく買ったんだからっていう事なんだろうか。
 なんとなく、どうしようかなと思っていたところにエリさんに助け舟を出された感じだった。私は勧められるまま、コクンとうなずいた。
「え、えっと……」
「こちらに使用スペースが設けてありますので、どうぞ」
「あ、はい。サエちゃん、こっちだって」
 店員さんに案内されて、店の隅にあるカーテンの奥へ。携帯の使用マナーが問われる昨今、お店のまんなかで使うのは回りのヒトの迷惑にもなるし、とってもイケナイことだ。
 ……もっとも、言われるまでもなくそんな所で使う気にはなれなかった。とてもじゃないけど、想像するだけで恥ずかしい。死んじゃいそうなくらいだ。いったい往来とかお外で構わずに携帯を使える人は、どんなことを考えているんだろう? こんな人目の多いところじゃ、絶対に誰かに聞かれたり、見られたりしてしまうのに。
「使い方、わかる?」
「お手伝いいたしましょうか?」
「だ、大丈夫ですっ、わかりますからっ」
 ふたりを追いだすようにカーテンを閉めて、深呼吸。
 ふいにぶるっと背中が震えた。自分で思っていたよりもだいぶ緊張していたみたい。意外にもう、余裕は残されていなかった。私はちょっと焦りながら携帯を開く。
 スペースの壁には、大きな文字で使用方法が図解されている。結構直接的な使い方が描いてあって、なんだか恥ずかしくなってしまう。
 ロックを解いて携帯を開けた。一番最初の暗唱番号は、とりあえず誕生日の4桁。そのうち別の数字に変えたほうがいいかもしれない。誰かに拾われて使われちゃったりしたら最後だ。
 ぱかり、と開いた携帯の内側は、さらさらの高分子吸収帯。片方が処理部で、もう片方の文字盤が制御部になる。ボタンを順番に押して電源を入れ、使用モードをON。
「んっ……」
 思ったよりもさらいn余裕がない。慌てて私はスカートのホックを外した。最近の携帯は服を着けたまま使えるようになっているはずだけど、なんだか上手くいかないので、スカートは諦めて下着と一緒に足元まで下ろしてしまう。こんなところでハダカになるのはなんだかイケナイ事をしているみたいで、どきどきした。
 壁の使用方法にはスタイルは自由に、なんて描いてあるけど……立ったままで上手くできるんだろうか。それともしゃがんだ方が……
「ぁっ……ダメぇ……」
 思い悩んでるうちに、身体のほうが待ちきれなくなってしまった。きゅんとおなかの下のほうが疼き、我慢しようという気持ちを無視して勝手に始まってしまう。
 止めきれずに吹き出してしまった熱い雫が、ぶしゅうと脚の間に飛び散って。処理部に収まらずに床に散ってしまう。
 ぽたぽたとこぼれる雫が指を伝って、内腿をオシッコが汚してゆく。
 うまく携帯用の排泄端末――つまりは携帯トイレを使えず、いい歳をして“失敗”してしまったことに、顔が真っ赤になった。
 慌てて脚を開き、処理部に股間を押しつけるが、動揺していてうまくオシッコの穴をおさえきれず、吹き出すオシッコが縁から溢れ出してしまう。
「ぁあっ……や、やだっ、うまく入んないよぉっ……」
 身体をよじって一回オシッコを止めようとしたが、もうそれは無理だった。ぎゅっと前を押さえても勝手に出てしまうオシッコは、携帯の入り口から外れて床にぱちゃぱちゃとこぼれ、どんどん薄黄色の水たまりを大きくしてゆく。
 さらに困ったことが続いた。
「う、うそ? も、もう一杯なの!? ……や、ま、まだ出ちゃうよぉっ……」
 これまで、私は家に備え付けの排泄端末しか使ったことがなかったので、自分のオシッコの量がどれくらいかなんて気にしたこともなかった。いくらなんでもコップ1杯分、200MLを超えるなんて思ってなかったけど、携帯の容量をいっぱいまで使っても全然足りない。
 本当なら私のものになったばかりの携帯は256MLの容量がふたつあるタイプのものだったので、途中でもう一つのパックに切り返れば、まだ256ML、合計で512MLのオシッコを処理できるだけの余裕があったはずなのだが、焦って混乱した私はそれを思いつくことができなかった。もしできたとしても、操作法がわからずに結局同じ事だっただろう。
 結局、私はそのまま動くことができず、許容量を超えてぐちゃぐちゃになった携帯端末の処理部をぐっとあそこに押しつけたまま、あそこから吹き出して止まらないオシッコが、ぱちゃぱちゃとあふれ続けるのを感じていた。
 あったかいモノがたっぷり内腿とお尻を伝って床にこぼれてゆく。
 やがて、1分近く出続けたオシッコがやっと終わった。あふれたオシッコで脱ぎかけた下着とスカートはぐちゃぐちゃになってしまっていた。
 オシッコの……というよりは、オモラシの解放感と脱力感に下半身が弛緩して、代わりに大失敗の現実が押し寄せてくる。
 私はそのまま、我慢できずに泣き出してしまった。
「うう…っ…」
「ねえ、どしたの、サエちゃん、大丈夫?」
 カーテンの向こうで、エリさんが心配そうに声をかけてくれた。私はもうみっともなくて恥ずかしくて、泣きじゃくりながら答えるしかない。
「……エリさぁん……っ」
「ありゃ……失敗しちゃった?」
「ぅあ…ひっく……わ、わたし、も、もう、春から上の学校なのにっ……う、うまくできなくてっ……オシッコ……おもらし、しちゃ……っ、うぁーーんっ!!」
「あーもう、よしよし、泣かない泣かない。最初はけっこうよくあることなんだから。ね? 恥ずかしくなんかないよ」
 エリさんに頭を撫でながら慰めてもらっても、私はなかなか泣きやめなかった。
 みんなが当たり前のようにちゃんと使えてる携帯トイレを、私だけがうまく使えないなんて。そんなの。
「しょーがない、しばらく一緒に練習しようか。大丈夫、すぐに慣れるからさ」
「うん……ぐすっ……」
 ――20XX年。
 健康や倫理の観点から、女の子が携帯トイレを使って用を済ませるのが一般的となり、かつては街に必ず作られていた公衆トイレがすっかりみられなくなった時代のことである。
(初出:書き下ろし 2008/06/22)

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