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保育園のお話。

「ねーねーおねえちゃん、はやく、はやくっ!!」「ちょ、ちょっと待ってってば……そんなに引っ張ったら……きゃぁあ!?」「うわぁっ!?」 ――べしゃんっ。「……災難だったわねぇ」「あ、あはは……みんな、元気いいですから」「ごめんなさいね、詩織ち...
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初詣と神社を巡るお話。

(うぅん……) 気付くと初音は、傘を差して大雨の中にいた。見慣れた庭に商店街、学校の校庭、見渡す限りの一面が水浸しで、見る見るうちに水かさが増してゆく。(に、逃げなきゃ) そう思うものの、道路も河のようになっていて、脚がずっしりと重い。思う...
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二人のヒミツ

おもらし百選スレの小説の一節、「わたしの分までおしっこしてきて?」と、永久我慢の輪舞曲スレに出てきた「おなかの中におしっこする」というシチュエーションに酷く感銘を受けて書いたもの。我慢特化。 美沙の様子がどうにもおかしい、と思ったのは午後4...
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シズク忍法帖・その参

「……シズク。やはり貴方は少しばかり修行が足りませんね。今日は少し、特訓をしなければいけないようです」「えっ……」 湯船から上がろうとした妹分を呼びとめて、カスミは厳かにそう告げた。 え、と首を傾げるシズクを捕まえ、岩の洗い場の上に腰を下ろ...
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初めてのデートのお話。

駅前の通りを、何人もの人達が通りすぎてゆく。 仲良さそうに肩を組んだり、手を繋いだり――僕よりもずっと大人の男の人と女の人が、楽しそうにお喋りしながら歩いてゆく。 いつもならなんてことなく見過ごしていた風景が、妙に気になって仕方がなかった。...
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イジメの話/美術室にて

絵の具を乗せた筆が、画用紙の白に鮮やかな青空を描いてゆく。 あと二週間に迫った美術コンクールに向けて、一之瀬マナは丁寧にデッサンした画用紙に向かい、一心不乱に筆を動かし続けていた。 今日は日曜日。本当なら学校もお休みなのだが、美術部を始めと...
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運動会のお話。

たっ、たっ、たっ、たっ、たっ…… 運動靴の底がリズムを刻む。わずかに荒くなった息と、汗で湿って首筋に張りついた短めの髪。体操服の胸には和泉小学校5年4組の所属を示すゼッケンと、3位入賞の緑のリボン。 見学の父兄と、応援席のクラスメイトでごっ...
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子供たちとバスの中のお話。

バスの中に元気な声がこだまする。綾瀬市雨音小学校、泉会の皆は今日も元気いっぱいだった。「ねえおねえちゃん、おねえちゃんのばんだよっ」「ほらほら、はやくはやくーっ」 薄い空色に、緑の縁取り。揃いのエプロンを付けた母親達は大忙しで子供達の世話を...
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シズク忍法帖・その弐

「まったく……もう少し辛抱しなさいと言ったでしょう」「ひゃんっ……す、すみません……カスミ姉さま……ゆ、許してくださいませ…」 湯気の立ちこめる風呂場に、少女達の声が響く。 綾瀬の里にある温泉街は、多くの旅人を泊める旅籠が多い。ここもまたそ...
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シズク忍法帖・その壱

陽は天頂に近付き、夏の陽射しで山の緑を照らしている。 綾瀬の国より篠付の国へ。ここから道は山を越え、これまでの平坦な道とは些か赴きを変えるものの、天下の険に大戸川の雄大な流れを越えて西海道を旅してきた者にはさほどの障害とは映らぬだろう。 と...