小説 夏祭りのお話・前編 「ほら千佳、もうお姉ちゃんたち出かけるわよ。着替えなさい」「あ、待ってよおかあさんっ」 うだるような暑さが、夕焼け空とともにわずかに弱まり、入れ替わりに蝉の声が強くなって、それに重なるように小さな花火の音。 ベッドに寝そべってお財布をひっく... 2009.08.16 小説
小説 雨の日のバスの話 降り続く雨は、このまま夜まで止みそうにない。 薄黄色のレインコートの裾を揺らし、長靴がちゃぷ、と脚元の水たまりを跳ねさせ、結局憂鬱なお天気のまま終わってしまった日曜日に、茜は小さく口を尖らせる。手にぶら下がった傘はデパートを出てきたときのま... 2009.08.02 小説
小説 買い物帰りの話。 賑やかな大通りから一本、道を入ると、たちまち喧騒は遠ざかってゆく。 植え込みと赤レンガで舗装された歩道は途切れ、真新しいアスファルトが規則正しく碁盤目のように続く清潔な佇まいの一角は、まだ開発の続く新興の住宅地だ。 昨今の不景気で開発が遅れ... 2009.07.27 小説
小説 プールと水着の話。 梅雨明けの青空、燦々と降り注ぐ陽射しをいっぱいに浴びて、賑やかな声が揺れる水面に響き、歓声とともに水飛沫が上がる。夏休みを目前にして最後のプールの授業は、2時間続きの大盤振る舞いとなっていた。 騒がしいクラスメイトたちの笑顔につられて、残念... 2009.07.27 小説
小説 車の後部座席の話。 どこまでも続く終わらない渋滞の中、車内にはけだるい空気が満ちていた。3回目のリピートを繰り返すCDアルバムの歌声は、初めの頃に比べてかなり色あせて聞えてしまう。 連休最終日の帰郷ラッシュによって、高架の上の3車線を何十キロ先までも続くテール... 2009.06.13 小説
小説 ビアホール?のお話 某特区の「今日の○○」の“おかわりのジョッキ3杯ぐらいならもう溜まってる”というフレーズに触発されて書いたもの。「ねー、もうこっち空っぽだよー、はやく追加おねがーい」 空になったジョッキを掲げて、8番テーブルから声が上がる。とはいえそれに答... 2009.05.09 小説
小説 テストのお話・6 『――以上で リスニングの 問題の 放送を 終わります』 ぷつ、と切れるスピーカー。 それと同時に、サツキは震える手を上げていた。オシッコに濡れた手のひらは、スカートにぐりぐりとねじつけて拭いている。 『おんなのこ』を覆うじゅぅんと湿った下... 2009.05.07 小説
小説 テストのお話・5 答案用紙が配られ、チャイムと共に一斉に問題用紙をめくる音が響く。クラスメイトたちが悩みながら解答欄を埋めてゆく中、サツキはひとり、問題用紙を伏せたままだった。 やや前傾になった上半身は机の上にかぶさり、放り出されたままのシャープペンシルと消... 2009.05.07 小説
小説 テストのお話・4 無常にも時計の針は、それまでと変わらない速度で進み、淡々と時刻を刻む。 2時間目の試験終了を告げるチャイムが鳴り響き、監督の教師が重々しく宣言すると、クラスの何人かから大きな溜息や悲鳴が上がった。 予想よりも問題は難しく、最後まできちんと問... 2009.05.07 小説
小説 テストのお話・3 (ほーんと、ちゃんと全部飲んでるなんて、馬鹿ねぇサツキってば) 立ち尽くしていたところを教師に注意され、のろのろと自分の席に戻るサツキの背中を見ながら、チエリはほくそ笑む。 あんなにごくごく飲んだら、あっというまにおなかの中はたぷたぷだろう... 2009.04.04 小説