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トイレの多い子の話。

事故による渋滞に巻き込まれ、高速の料金所の前でうごけなくなったワンボックスの中。羽田霧香は、3人の友人達と共にかつてない窮地に立たされていた。 ワンボックスには霧香の友人である4人のクラスメイトと、運転手兼保護者役の親友の姉、三佳子が乗って...
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サンタクロースの話。

「っ、つ、次は……っ」 白くて大きな袋が、雪の積もった煙突からにゅいっと突き出した。深い夜空の下に、白い息がほうっと吐き出され、続いてほんのり赤く染まったほっぺたの少女が屋根の上に姿を現す。 屋根の上の新雪を踏みながら、赤と白の衣装をまとっ...
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みんなのお手洗い:バケツ編

「……っ、その、ごめん、私、……トイレっ!!」 少女の小さな、けれど我慢の限界をまざまざと知らせる切羽詰った叫びは、締めきられたバスの中に響く。 足元を庇うようなふらふらとおぼつかない足取りで、バスの後部座席を覆うカーテンへと向かう彼女を、...
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公爵令嬢のお話・1

森深き街道を馬車が行く。 1頭立ての貧相な乗り合い馬車ではない。4頭立ての馬は全て毛並みのいい白馬、操る御者も正装の従僕服である。車体を飾る豪勢な装飾の中央には鷲と獅子を組み合わせた紋章が押され、この地を治めるジルベレット方伯の名に連なる高...
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水音のある風景・1

たたん、たたん。単調なリズムで車内が揺れる。 都心からやや離れた私鉄沿線の各駅停車の列車で、『私』はじっと彼女を観察していた。 指定の制服であろう紺色のブレザーを、崩すことなくしっかりと身につけ、やはり校則で定められたものであろう肩上で切り...
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夏休みの我慢の話。(塾帰り編)

8月の陽射しは、正午を回ってよりいっそう鋭い。肌を差すようにかあっと照りつけるぎらぎらの太陽に、焼けたアスファルトからはうっすらと陽炎が立ち昇っている。 まるで、鉄板焼きの具になった気分。 塾の玄関を出た途端、ぶわっと汗が吹き出てくる。とた...
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夏休みの我慢の話。(図書館編)

「……暑い……」 言ってみたところで仕方がないが、それでも口にせずにはいられない。図書館を出てほんの数分で、冷房に慣れていた身体はあっという間に悲鳴を上げていた。 夏休みに入ったばかりの通学路は、いつものような賑わいとは無縁に、通りがかる人...
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なかなかできない料理店

雲よりも高い山の上、険しい山道。 ひんやりと霧の深くたちこめた岩だらけの道を、ふたり連れの女の子が歩いていました。ふんわりとしたつややかな髪に、曇りのない目をした、整った顔立ちの女の子たちでした。透けるように白い肌や柔らかそうな手のひら、ふ...
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携帯を買う話。

従姉妹のお姉さんであるエリさんと、その話になったのは単なる偶然みたいなものだった。テレビのニュースで、最近の若者のマナーを問う内容が放送され、その中で往来での携帯端末を使うことの問題が取り上げられていた。 私がたまたま、携帯を持っていないこ...
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冬の電車の話。

寒風の吹く1月末。コートにマフラー、手袋と防寒対策に身を包んだ人々が、一様に階段を昇り改札をくぐる。都心から電車で1時間という郊外の立地にふさわしく、朝の7時半過ぎともなれば、駅には雑踏が絶えない。(はやく、はやくっ……) そんなせわしない...